【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
幼稚園が休みの日――
朝から庭で元気いっぱい遊んでいたルビーだったが、お昼前にはすっかり飽きてしまっていた。
「はぁ……」
リビングのソファへ寝転がり、天井を見上げる。
すると、数日前にアクアから言われた言葉を思い出した。
**「お前も少しは勉強しろ。」**
「むぅ……」
少し癪だった。
「やってやろうじゃない!」
ルビーは立ち上がると、本棚を探し始めた。
しばらくすると、一冊のドリルを見つける。
『小学四年生 さんすう』
「これでいいや!」
机へ向かい、勢いよく問題を解き始めた。
足し算。
引き算。
掛け算。
割り算。
文章問題。
鉛筆は止まることなく進んでいく。
当然だった。
四歳児にしては天才だからではない。
**前世で退形成性星細胞腫と診断されてからは、ほとんど病院での生活だった。**
病室で過ごす時間は長く、勉強する時間だけはたくさんあった。
そのため、小学生レベルの算数なら十分に理解していた。
「よし、終わり!」
最後のページまで解き終えると、満足そうに大きく伸びをした。
その様子を、本を読んでいたアクアが横目で見る。
「終わったのか」
「うん!」
ルビーは得意そうに笑った。
「他に何かない?」
アクアは少し考えると立ち上がった。
「待ってろ」
そう言って二階の自分の部屋へ向かう。
数分後、一冊の問題集を持って戻ってきた。
「これでもやってみろ」
ルビーは表紙を見た瞬間、固まった。
『中学数学 基礎問題集』
「…………え?」
「中学?」
「基礎だから問題ない」
「いやいやいや!」
ルビーは慌てて首を横へ振る。
「小学生すっ飛ばして中学生なの!?」
「やってみれば分かる」
アクアは問題集を開き、一ページ目を指差した。
ルビーも恐る恐る覗き込む。
「…………」
「…………」
「全然分からない……」
文字式。
一次方程式。
見たこともない記号が並んでいる。
ルビーは困ったように頭をかいた。
「ほんとは……」
「ん?」
「私、中学行く前に死んじゃったんだよね」
「だから中学の勉強、一回もやったことないの」
アクアは一瞬だけ目を見開いた。
(中学へ行く前に亡くなった……)
その言葉で、一人の少女の姿が頭をよぎる。
病室で出会った、アイの大ファンだった少女――さりな。
彼女もまた、中学校へ進学することなく、この世を去った。
(……まさかな)
アクアはすぐにその考えを打ち消した。
転生者が二人いるだけでも十分あり得ない。
その上、前世で自分と関わりのあった人物まで転生しているなど、さすがに都合が良すぎる。
偶然だろう。
そう結論付けると、それ以上考えるのをやめた。
そして、少し呆れたようにルビーを見る。
「大人のレディじゃなかったのかよ」
「うっ……!」
ルビーは思わず言葉に詰まる。
「だ、だって!」
「中学校行く前に死んじゃったんだから仕方ないでしょ!」
「……それはそうだな」
アクアは苦笑しながら頷いた。
「じゃあ、一から教える」
「え?」
「文字式からだ」
アクアはノートを取り出し、鉛筆を走らせる。
「文字を難しく考えるな。数字の代わりだと思えばいい」
「例えば、この x が三だったら──」
ルビーは真剣な表情で耳を傾ける。
最初は何を言っているのかさっぱり分からなかった。
しかし、一つひとつ丁寧に説明されるうちに、少しずつ理解できるようになっていく。
「なるほど!」
「だからここは二を掛けるんだ!」
「そういうことだ」
さらに三十分。
「これなら解ける!」
ルビーは嬉しそうに問題を解いていく。
途中で何度も間違えながらも、自分で考え、答えへたどり着けるようになっていた。
その様子を見たアクアは、小さく頷く。
「飲み込みは早いな」
「ほんと?」
「ああ」
アクアは素直に評価した。
「地頭はそんなに悪くないんだな」
「……!」
ルビーの表情がぱっと明るくなる。
「えへへ」
思わず笑みがこぼれた。
「お兄ちゃんに褒められた!」
「調子には乗るな」
「はーい!」
返事をしながらも、その顔は嬉しさを隠しきれていなかった。
その頃、買い物から帰ってきたアイは、リビングへ入ろうとして足を止めた。
中から二人の声が聞こえてきたからだ。
(何してるんだろう?)
そっと覗いてみる。
すると、机には『中学数学 基礎問題集』が広げられていた。
「…………え?」
アイは目を丸くする。
ルビーがアクアの説明を聞きながら、一生懸命問題を解いている。
そして、少しずつではあるが理解し始めていた。
(うそ……)
(ルビーも……)
(中学数学を理解してるの!?)
普通の四歳児なら、小学生の算数すらまだ習っていない。
それなのに、ルビーは小学生レベルを終え、中学数学の基礎を理解し始めている。
アイは思わず口元を押さえた。
(ルビーもやっぱり天才だったの!?)
一人は大学数学を読み始め。
もう一人は中学数学を理解し始めている。
(……うちの双子、本当にどうなってるの?)
嬉しさと驚きが入り混じる中、アイは二人の邪魔をしないよう、静かにその場を後にするのだった。