【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
その日の夕方、アクアとルビーが勉強を終えたあと、アイは自室へ入るとスマートフォンを手に取った。
どうしても、この驚きを誰かに伝えたかった。
相手はもちろん、苺プロダクション社長・斉藤壱護。
数回のコール音のあと、電話が繋がる。
『もしもし』
「社長!」
アイは開口一番、大きな声を上げた。
『おっ、どうした?』
「聞いて聞いて!」
「ルビーも天才だった!」
『……は?』
壱護は思わず聞き返した。
『今なんて言った?』
「だから、ルビーも天才だったの!」
『ちょっと待て』
『順番に話せ』
「今日ね、ルビーが家にあった小学生の算数ドリルやり始めたの。」
『ほう』
「そしたら、あっという間に全部終わらせちゃって!」
『四歳でか?』
「そう!」
「私もびっくりしたんだけど、それだけじゃないの!」
『まだあるのか……』
壱護は嫌な予感がした。
「ルビーが『他に何かない?』って言ったら、アクアが自分の部屋から中学数学の問題集持ってきたの!」
『……中学数学?』
「うん!」
『いや、何でそんなもん家にあるんだよ……』
壱護は思わず頭を抱えた。
アクアに大学数学の本を買った。
だが、中学数学の問題集まで部屋に置いているとは思わなかった。
「最初はルビーも全然分かんなかったんだけどね。」
『まあ、そりゃそうだ』
「でもアクアが一から教えたら、どんどん理解していって!」
『理解したのか?』
「うん!」
「まだ基礎だけど、自分で問題解けるようになってた!」
電話の向こうで壱護はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
『……あの双子、どうなってんだ』
アイは苦笑した。
「私も同じこと思った。」
「アクアだけでも十分すごいのに、ルビーまでだもん」
『アクアは大学数学を読んでる』
『ルビーは中学数学を理解し始める』
『普通じゃないな』
「うん……。」
アイも苦笑いする。
「普通の四歳児なら、まだ幼稚園で遊んでる年齢なのにね。」
『まあ、遊んでもいたんだろ?』
「それがね。」
アイは笑いながら答えた。
「庭で遊ぶのに飽きて、『勉強してやる!』って始めたの。」
『ははっ』
壱護は思わず笑った。
『そのきっかけも変わってるな』
「アクアに『少しは勉強しろ』って言われたのが悔しかったみたい。」
『なるほどな』
壱護は納得したように頷く。
『でも、それで勉強するのは偉いじゃないか』
「そうなの!」
「しかもアクアに『地頭はそんな悪くない』って褒められて、すっごく嬉しそうだった。」
『そうか』
壱護は少し笑みを浮かべる。
『兄妹で教え合えるのはいいことだ』
「うん。」
アイも優しく微笑んだ。
少しの沈黙のあと、壱護が真面目な声になる。
『でも一つだけ気を付けろ』
「うん?」
『あまり外では勉強させるな』
『家だからいいが、幼稚園や人前で同じことをしたら目立ちすぎる。』
アイの表情も引き締まる。
「……それは私も思った」
『アクアだけでも十分目立つ』
『ルビーまで目立ち始めたら、本当に騒ぎになるぞ』
「分かった。」
「そこはちゃんと気を付ける」
『頼むぞ』
「うん」
電話を切ると、アイは静かにリビングへ戻った。
机ではアクアが本を読み、その隣ではルビーが先ほど教わった文字式を何度もノートに書いている。
「お兄ちゃん、これ合ってる?」
「ああ、合ってる」
「やった!」
嬉しそうに笑うルビー。
そんな二人を見つめながら、アイは自然と笑みを浮かべた。
「ほんと……すごい双子なんだから」
その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。