【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
アイは一つ、大事なことを忘れていた。
「外では普通の子どもらしくしてね」
その一言を、アクアとルビーへ伝え忘れていたのである。
そして、その弊害は予想以上の形で現れることになった。
数日後…幼稚園。
自由遊びの時間。
園庭では多くの園児が鬼ごっこや砂場遊びを楽しんでいた。
そんな中、アクアは園舎の隅、人目につかない場所へ座っていた。
周囲を確認する。
先生はいない。
園児たちもこちらを見ていない。
「今なら大丈夫か……」
そう呟くと、バッグの奥から一冊の文庫本を取り出した。
**『羅生門・鼻 芥川龍之介』**
誰にも見つからないよう、静かにページをめくる。
その少し離れた場所では、ルビーもバッグからノートを取り出していた。
そこには昨日アクアから出された宿題。
中学数学の問題だった。
「えっと……」
「ここは x を先に……」
小さな声で呟きながら、一生懸命解いていく。
二人とも周囲に見つからないよう気を付けていた。
……つもりだった。
「アクアくん?」
「ルビーちゃん?」
声を掛けられ、二人は同時に顔を上げる。
担任の先生だった。
「あら?」
先生はアクアの本を見て目を丸くする。
「それ……本?」
「はい」
「読めるの?」
「一応」
「……え?」
さらにルビーのノートを見る。
「これは……」
「数字?」
「お兄ちゃんにもらった問題です」
先生は苦笑いを浮かべた。
怒る気にはなれなかった。
むしろ、何と言えばいいのか分からない。
(四歳児が……)
(文学作品と中学数学?)
理解が追い付かない。
「ほどほどにね」
結局、それしか言えなかった。
「はい」
「はーい」
二人は素直に返事をした。
しかし、その様子を見ていた園児が何人かいた。
「アクアくん、本読めるの?」
「すごーい!」
「ルビーちゃん、それなあに?」
「算数!」
ルビーは笑顔で答えた。
「教えて!」
「いいよ!」
ルビーは椅子へ座る。
「じゃあ、まずは足し算からね!」
「うん!」
「五たす三は?」
「八!」
「正解!」
「すごーい!」
気付けば周りには何人もの園児が集まっていた。
ルビーは前世で長い入院生活を送っていたこともあり、人に教えることが意外と好きだった。
「じゃあ次!」
「十から四を引くと?」
「六!」
「正解!」
子どもたちは大喜びだった。
翌日も。
その翌日も。
「ルビー先生!」
「今日は何やるのー?」
そんな声が聞こえるようになる。
アクアは呆れながら本を閉じた。
「先生みたいになってるな」
「えへへ」
ルビーは照れ笑いを浮かべる。
「教えるの楽しい!」
「……そうか」
その一方で、アクアにも質問攻めが始まっていた。
「アクアくん!」
「この字どう読むの?」
「これは?」
最初は面倒そうにしていたアクアだったが、聞かれればきちんと答えた。
「これは『山』」
「これは『川』」
「これは『空』だ」
「わー!」
「読めた!」
そんな日々が続いた結果――。
幼稚園では異変が起きていた。
アクアとルビーのクラスだけ、学力が異常に高くなっていたのである。
ひらがなは、ほぼ全員が読み書きできる。
簡単な足し算、引き算もできる。
簡単な漢字まで読める園児が増え始めた。
他のクラスの先生たちは驚きを隠せない。
「どうしてあのクラスだけ……?」
「まだ四歳ですよね?」
「信じられない……」
職員会議でも話題になるほどだった。
そしてついに――。
園長は一つの決断を下す。
「保護者の方と一度お話ししましょう」
アイの代わりに保護者として登録されていた二人に連絡を取った。
斉藤壱護。
そして、斉藤ミヤコ。
一本の電話が鳴る。
『もしもし、斉藤です』
「○○幼稚園です」
『はい』
「一度、お時間をいただけないでしょうか」
「アクアくんとルビーちゃんについて、お話ししたいことがあります」
その言葉に、壱護は少しだけ表情を引き締めた。
「……分かりました」
「ミヤコと一緒に伺います」
こうして、双子をめぐる初めての保護者面談が開かれることになった。