【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第三十二話「幼稚園で起きた異変」

 

アイは一つ、大事なことを忘れていた。

 

「外では普通の子どもらしくしてね」

 

その一言を、アクアとルビーへ伝え忘れていたのである。

 

そして、その弊害は予想以上の形で現れることになった。

 

数日後…幼稚園。

 

自由遊びの時間。

 

園庭では多くの園児が鬼ごっこや砂場遊びを楽しんでいた。

 

そんな中、アクアは園舎の隅、人目につかない場所へ座っていた。

 

周囲を確認する。

 

先生はいない。

 

園児たちもこちらを見ていない。

 

「今なら大丈夫か……」

 

そう呟くと、バッグの奥から一冊の文庫本を取り出した。

 

**『羅生門・鼻 芥川龍之介』**

 

誰にも見つからないよう、静かにページをめくる。

 

その少し離れた場所では、ルビーもバッグからノートを取り出していた。

 

そこには昨日アクアから出された宿題。

 

中学数学の問題だった。

 

「えっと……」

 

「ここは x を先に……」

 

小さな声で呟きながら、一生懸命解いていく。

 

二人とも周囲に見つからないよう気を付けていた。

 

……つもりだった。

 

「アクアくん?」

 

「ルビーちゃん?」

 

声を掛けられ、二人は同時に顔を上げる。

 

担任の先生だった。

 

「あら?」

 

先生はアクアの本を見て目を丸くする。

 

「それ……本?」

 

「はい」

 

「読めるの?」

 

「一応」

 

「……え?」

 

さらにルビーのノートを見る。

 

「これは……」

 

「数字?」

 

「お兄ちゃんにもらった問題です」

 

先生は苦笑いを浮かべた。

 

怒る気にはなれなかった。

 

むしろ、何と言えばいいのか分からない。

 

(四歳児が……)

 

(文学作品と中学数学?)

 

理解が追い付かない。

 

「ほどほどにね」

 

結局、それしか言えなかった。

 

「はい」

 

「はーい」

 

二人は素直に返事をした。

 

しかし、その様子を見ていた園児が何人かいた。

 

「アクアくん、本読めるの?」

 

「すごーい!」

 

「ルビーちゃん、それなあに?」

 

「算数!」

 

ルビーは笑顔で答えた。

 

「教えて!」

 

「いいよ!」

 

ルビーは椅子へ座る。

 

「じゃあ、まずは足し算からね!」

 

「うん!」

 

「五たす三は?」

 

「八!」

 

「正解!」

 

「すごーい!」

 

気付けば周りには何人もの園児が集まっていた。

 

ルビーは前世で長い入院生活を送っていたこともあり、人に教えることが意外と好きだった。

 

「じゃあ次!」

 

「十から四を引くと?」

 

「六!」

 

「正解!」

 

子どもたちは大喜びだった。

 

翌日も。

 

その翌日も。

 

「ルビー先生!」

 

「今日は何やるのー?」

 

そんな声が聞こえるようになる。

 

アクアは呆れながら本を閉じた。

 

「先生みたいになってるな」

 

「えへへ」

 

ルビーは照れ笑いを浮かべる。

 

「教えるの楽しい!」

 

「……そうか」

 

その一方で、アクアにも質問攻めが始まっていた。

 

「アクアくん!」

 

「この字どう読むの?」

 

「これは?」

 

最初は面倒そうにしていたアクアだったが、聞かれればきちんと答えた。

 

「これは『山』」

 

「これは『川』」

 

「これは『空』だ」

 

「わー!」

 

「読めた!」

 

そんな日々が続いた結果――。

 

幼稚園では異変が起きていた。

 

アクアとルビーのクラスだけ、学力が異常に高くなっていたのである。

 

ひらがなは、ほぼ全員が読み書きできる。

 

簡単な足し算、引き算もできる。

 

簡単な漢字まで読める園児が増え始めた。

 

他のクラスの先生たちは驚きを隠せない。

 

「どうしてあのクラスだけ……?」

 

「まだ四歳ですよね?」

 

「信じられない……」

 

職員会議でも話題になるほどだった。

 

そしてついに――。

 

園長は一つの決断を下す。

 

「保護者の方と一度お話ししましょう」

 

アイの代わりに保護者として登録されていた二人に連絡を取った。

 

斉藤壱護。

 

そして、斉藤ミヤコ。

 

一本の電話が鳴る。

 

『もしもし、斉藤です』

 

「○○幼稚園です」

 

『はい』

 

「一度、お時間をいただけないでしょうか」

 

「アクアくんとルビーちゃんについて、お話ししたいことがあります」

 

その言葉に、壱護は少しだけ表情を引き締めた。

 

「……分かりました」

 

「ミヤコと一緒に伺います」

 

こうして、双子をめぐる初めての保護者面談が開かれることになった。

 

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