【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌日、午前十時。
斉藤壱護と斉藤ミヤコは幼稚園を訪れていた。
応接室へ案内されると、園長と担任の先生が席に着いている。
「本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
園長が頭を下げる。
「いえいえ」
壱護も軽く頭を下げ、ミヤコと並んで椅子へ腰掛けた。
「それで、お話というのは?」
壱護が尋ねると、園長は少し困ったように笑った。
「まず最初に申し上げますが……」
「アクアくんとルビーちゃんは、とても良い子です」
「友達思いで、先生の言うこともしっかり聞いてくれます」
担任も頷く。
「喧嘩もほとんどありません」
「むしろ、お友達を助けてくれることの方が多いです」
壱護とミヤコは顔を見合わせた。
(じゃあ何が問題なんだ?)
そんな疑問が頭をよぎる。
園長は一枚の紙を取り出した。
「問題というより……少し困っていることがありまして」
「実は最近、このクラスだけ学力が異常に高くなっているんです」
「……はい?」
壱護は思わず聞き返した。
「どういうことですか?」
担任が説明を始める。
「最初はアクアくんが本を読んでいるところを見つけました」
「本?」
「はい」
先生は苦笑する。
「芥川龍之介の小説でした」
「…………」
壱護もミヤコも固まった。
(あいつ……幼稚園にまで持って行ってたのか…てか、なんで芥川龍之介の小説が家にあるんだ…)
心の中で同時に思う。
「その後、ルビーちゃんも何か難しい計算をしていまして」
「後で確認すると、中学校レベルの数学だったようです」
「……中学?」
ミヤコが目を丸くする。
「はい」
「最初は私たちも見間違いかと思いました」
「ですが、そのあと園児たちが二人に興味を持ち始めまして」
担任は少し笑う。
「ルビーちゃんが算数を教え始めたんです」
「教えてと言われたので、楽しそうに」
壱護は頭を抱えた。
「なるほど……」
「それだけなら、まだ良かったのですが」
園長が続ける。
「アクアくんも文字を教え始めまして」
「分からない子が質問すると、一人一人丁寧に答えてくれるんです」
ミヤコは思わず吹き出しそうになる。
(家庭教師じゃないんだから……)
「結果として」
園長は苦笑いを浮かべた。
「今ではクラスの子どもたち全員が、ひらがなの読み書きができます」
「簡単な足し算、引き算もできます」
「簡単な漢字まで覚えてしまいました」
壱護は絶句した。
「全員……ですか?」
「はい」
「他のクラスとの差がかなり開いてしまいまして」
担任も苦笑する。
「保護者の方からも、『どうしてあのクラスだけこんなにできるんですか?』という質問が来るようになりました」
「もちろん、私たちは特別な教育はしていません」
「なので説明に困ってしまいまして……」
しばらく沈黙が流れる。
やがて壱護は大きくため息をついた。
「事情は分かりました」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いえ」
園長は慌てて首を横に振る。
「迷惑というわけではありません」
「むしろ子どもたちは楽しそうですし、学ぶこと自体は素晴らしいことです」
「ただ……」
「四歳児としては、あまりにも異例でして」
「このまま続くと、周囲への説明が難しくなります」
壱護は苦笑した。
「確かに、その通りですね」
隣ではミヤコも深く頷いていた。
(アイ……)
(あの子たちにちゃんと『普通にしてなさい』って言わなかったのね)
心の中でそう呟く。
その時だった。
コンコン。
応接室のドアがノックされる。
「失礼します」
担任の先生が一人の男の子と女の子を連れて入ってきた。
「アクアくんとルビーちゃんを連れてきました」
「保護者の方も来られていますので、一度お話ししていただければと」
壱護は二人を見るなり、小さく苦笑した。
「さて……」
「まずは事情を聞かせてもらおうか」