【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
コンコン。
応接室のドアがゆっくりと開く。
「失礼します」
担任の先生に促され、アクアとルビーが部屋へ入ってきた。
しかし、いつもの二人とは様子がまるで違っていた。
アクアは普段と同じ無表情を保っているものの、どこか気まずそうに視線を落としている。
一方のルビーは、壱護とミヤコの姿を見た瞬間、肩をぴくりと震わせた。
(怒られる……)
そんな思いが頭をよぎっているのが、表情からも伝わってくる。
先ほどまで友達と笑いながら遊んでいたとは思えないほど、二人とも小さく萎縮していた。
「こっちへおいで」
先生に言われ、二人は壱護たちの前へ並ぶ。
ルビーは緊張のあまり、アクアの服の裾をぎゅっと握り締める。
その小さな手は少し震えていた。
アクアも静かに息を吐く。
(さすがにやり過ぎたか……)
幼稚園で芥川龍之介の小説を読んでいたこと。
ルビーへ中学数学を教えていたこと。
園児たちへ文字や算数を教えていたこと。
その結果、一つのクラス全体の学力を底上げしてしまったこと。
普通の四歳児なら、まず起こり得ない出来事だった。
部屋にはしばらく静かな空気が流れる。
園長も担任も、二人のあまりの萎縮ぶりにどう声を掛ければいいか迷っていた。
そんな空気を壊したのは壱護だった。
「アクア」
穏やかな声で名前を呼ぶ。
「……はい」
「ルビー」
「……はい」
返事はどちらも小さい。
特にルビーは今にも泣き出しそうな表情だった。
その姿を見た担任の先生は慌てて口を開く。
「あ、あの!」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「怒るために呼んだわけじゃないから」
「本当に心配しなくていいの」
優しく笑い掛けるが、それでもルビーは俯いたままだった。
ミヤコはその様子を見て苦笑する。
「完全に怒られると思ってるわね」
「みたいだな」
壱護も思わず笑ってしまう。
「そんなに俺、怖いか?」
アクアは首を横に振る。
「別に」
ルビーも小さく首を横に振った。
「……怖くない」
「じゃあ、どうしてそんなに縮こまってるんだ?」
その問い掛けに、ルビーは恐る恐る顔を上げる。
「……怒ってる?」
消え入りそうな声だった。
その一言で、部屋の空気が少しだけ和らぐ。
壱護は思わず吹き出した。
「ははは」
「怒ってないよ」
「……本当?」
「ああ、本当だ」
「むしろ先生たちも困ってるだけで、怒ってるわけじゃない」
その言葉を聞き、ルビーは少しだけ肩の力を抜いた。
それでもアクアの服は握ったままだった。
壱護はそんな二人を見て優しく微笑む。
「ただな」
「どうしてこんなことになったのか、それだけ教えてほしい」
「理由が分かれば、それで十分だ」
ルビーは隣のアクアを見上げる。
アクアも小さく頷き、一歩前へ出た。
「俺が説明する」
応接室の全員の視線がアクアへ集まる。
「全部、俺が原因だ」
その一言に、園長も担任も、壱護もミヤコも静かに耳を傾けた。
アクアは一度だけルビーの方を見る。
ルビーは不安そうな表情で見返してくる。
「ルビーは悪くない」
「全部、俺が始めたことだから」
そう言ってアクアはゆっくりと事情を話し始めた。