【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「全部、俺が原因だ」
アクアがそう言うと、応接室は静まり返った。
四歳の子どもとは思えないほど落ち着いた口調だった。
壱護は腕を組みながら頷く。
「聞かせてくれ」
アクアは一度だけルビーを見る。
ルビーはまだ不安そうな表情を浮かべていた。
「まず、ルビーは悪くありません」
「勉強を教えてほしいと言ったのはルビーですが、教えたのは俺です」
「本を幼稚園へ持ってきたのも俺です」
「園児たちに文字を教えたのも俺です」
「だから、責任があるとすれば俺です」
園長と担任は顔を見合わせた。
四歳児が「責任」という言葉を自然に使っていることに驚きを隠せない。
壱護は静かに尋ねる。
「どうして幼稚園で本なんか読んでた?」
アクアは少しだけ考え、素直に答えた。
「暇だったから」
「……暇?」
「みんなが遊んでいるのは見ていて楽しかったです」
「でも、俺自身はあまり興味が持てませんでした」
「だったら本でも読もうと思って持ってきました」
あまりにも自然な理由だった。
「じゃあ、ルビーに勉強を教えたのは?」
「家で教えていました」
「宿題を出したら、幼稚園へ持っていって解いていただけです」
「幼稚園でやれとは言っていません」
ルビーは慌てて顔を上げた。
「ご、ごめんなさい」
「家で続きが気になっちゃって……」
「お兄ちゃんは悪くないよ」
「私が勝手に持っていったの」
「ルビー」
アクアが静かに名前を呼ぶ。
「でも、その宿題を出したのは俺だ」
「だから俺にも責任はある」
「でも……」
ルビーは俯いてしまう。
その様子を見たミヤコが優しく口を開いた。
「二人とも、自分が悪いって言い合わなくていいの」
「そうそう」
壱護も苦笑する。
「責任を押し付け合う兄妹はよくいるけど、お前たちは逆なんだな」
その言葉に、少しだけ部屋の空気が和らいだ。
園長も微笑みながら話し始める。
「実はですね」
「私たちが困っているのは、勉強を教えたことではないんです」
「え?」
ルビーが顔を上げる。
「子どもたちはみんな楽しそうなんです」
「『今日はルビー先生だ!』なんて言いながら集まってきますし」
担任も笑う。
「アクアくんも質問されると嫌な顔ひとつせず教えてくれます」
「おかげで、お友達同士で教え合う雰囲気ができています」
アクアは少し驚いた表情を浮かべた。
「じゃあ、何が問題なんですか?」
その質問に、園長は苦笑する。
「成長が早すぎることです」
「他のクラスとの差が大きくなってしまいました」
「保護者の方から『特別な授業をしているんですか?』という問い合わせまで来ています」
「もちろん、そんなことはしていません」
「だから説明に困ってしまいまして」
アクアは納得したように小さく頷く。
「……そういうことですか」
壱護はアクアを見る。
「分かったか?」
「うん」
「俺たちは、お前たちが勉強することを止めるつもりはない」
「ただ」
「幼稚園では普通の園児として過ごしてほしい」
「家なら好きなだけ勉強すればいい」
「でも、幼稚園は勉強する場所じゃなくて、友達と遊んだり、集団生活を学ぶ場所でもある」
アクアは静かに頷く。
「……分かりました」
壱護は続けてルビーを見る。
「ルビーもできるな?」
「うん……」
「ごめんなさい」
「次からは家で勉強する」
壱護は満足そうに頷いた。
「よし」
「それなら、この話は終わりだ」
そう言った瞬間、ルビーは安心したように大きく息を吐いた。
その表情を見て、応接室にいた全員が思わず笑みを浮かべるのだった。