【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第三十五話「理由」

 

「全部、俺が原因だ」

 

アクアがそう言うと、応接室は静まり返った。

 

四歳の子どもとは思えないほど落ち着いた口調だった。

 

壱護は腕を組みながら頷く。

 

「聞かせてくれ」

 

アクアは一度だけルビーを見る。

 

ルビーはまだ不安そうな表情を浮かべていた。

 

「まず、ルビーは悪くありません」

 

「勉強を教えてほしいと言ったのはルビーですが、教えたのは俺です」

 

「本を幼稚園へ持ってきたのも俺です」

 

「園児たちに文字を教えたのも俺です」

 

「だから、責任があるとすれば俺です」

 

園長と担任は顔を見合わせた。

 

四歳児が「責任」という言葉を自然に使っていることに驚きを隠せない。

 

壱護は静かに尋ねる。

 

「どうして幼稚園で本なんか読んでた?」

 

アクアは少しだけ考え、素直に答えた。

 

「暇だったから」

 

「……暇?」

 

「みんなが遊んでいるのは見ていて楽しかったです」

 

「でも、俺自身はあまり興味が持てませんでした」

 

「だったら本でも読もうと思って持ってきました」

 

あまりにも自然な理由だった。

 

「じゃあ、ルビーに勉強を教えたのは?」

 

「家で教えていました」

 

「宿題を出したら、幼稚園へ持っていって解いていただけです」

 

「幼稚園でやれとは言っていません」

 

ルビーは慌てて顔を上げた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「家で続きが気になっちゃって……」

 

「お兄ちゃんは悪くないよ」

 

「私が勝手に持っていったの」

 

「ルビー」

 

アクアが静かに名前を呼ぶ。

 

「でも、その宿題を出したのは俺だ」

 

「だから俺にも責任はある」

 

「でも……」

 

ルビーは俯いてしまう。

 

その様子を見たミヤコが優しく口を開いた。

 

「二人とも、自分が悪いって言い合わなくていいの」

 

「そうそう」

 

壱護も苦笑する。

 

「責任を押し付け合う兄妹はよくいるけど、お前たちは逆なんだな」

 

その言葉に、少しだけ部屋の空気が和らいだ。

 

園長も微笑みながら話し始める。

 

「実はですね」

 

「私たちが困っているのは、勉強を教えたことではないんです」

 

「え?」

 

ルビーが顔を上げる。

 

「子どもたちはみんな楽しそうなんです」

 

「『今日はルビー先生だ!』なんて言いながら集まってきますし」

 

担任も笑う。

 

「アクアくんも質問されると嫌な顔ひとつせず教えてくれます」

 

「おかげで、お友達同士で教え合う雰囲気ができています」

 

アクアは少し驚いた表情を浮かべた。

 

「じゃあ、何が問題なんですか?」

 

その質問に、園長は苦笑する。

 

「成長が早すぎることです」

 

「他のクラスとの差が大きくなってしまいました」

 

「保護者の方から『特別な授業をしているんですか?』という問い合わせまで来ています」

 

「もちろん、そんなことはしていません」

 

「だから説明に困ってしまいまして」

 

アクアは納得したように小さく頷く。

 

「……そういうことですか」

 

壱護はアクアを見る。

 

「分かったか?」

 

「うん」

 

「俺たちは、お前たちが勉強することを止めるつもりはない」

 

「ただ」

 

「幼稚園では普通の園児として過ごしてほしい」

 

「家なら好きなだけ勉強すればいい」

 

「でも、幼稚園は勉強する場所じゃなくて、友達と遊んだり、集団生活を学ぶ場所でもある」

 

アクアは静かに頷く。

 

「……分かりました」

 

壱護は続けてルビーを見る。

 

「ルビーもできるな?」

 

「うん……」

 

「ごめんなさい」

 

「次からは家で勉強する」

 

壱護は満足そうに頷いた。

 

「よし」

 

「それなら、この話は終わりだ」

 

そう言った瞬間、ルビーは安心したように大きく息を吐いた。

 

その表情を見て、応接室にいた全員が思わず笑みを浮かべるのだった。

 

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