【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第三十六話「言い忘れ」

 

その日の夕方。

 

幼稚園をあとにした壱護とミヤコは、そのまま星野家へ向かった。

 

インターホンを押すと、しばらくして玄関のドアが開く。

 

「社長! ミヤコさん!」

 

アイが笑顔で二人を迎えた。

 

「二人そろってどうしたの?」

 

「ちょっと話がある」

 

壱護は苦笑しながら靴を脱ぐ。

 

リビングへ案内されると、アイはお茶を用意した。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがと」

 

ミヤコはお茶を一口飲む。

 

アイは二人の表情を見て首を傾げた。

 

「何かあった?」

 

壱護はアイを見つめる。

 

「まず確認なんだが」

 

「お前、アクアとルビーに何か言い忘れてないか?」

 

「え?」

 

アイはきょとんとした。

 

「言い忘れたこと?」

 

「うん」

 

「何だろ……」

 

腕を組み、一生懸命考える。

 

しかし思い当たらない。

 

「分かんない」

 

壱護は額に手を当てた。

 

「やっぱり忘れてたか」

 

「え?」

 

「『外では普通の子どもらしくしろ』って言うのを忘れただろ」

 

「……あ」

 

アイの表情が固まる。

 

次の瞬間。

 

「あぁーーーっ!」

 

頭を抱えた。

 

「忘れてたーー!」

 

ミヤコは呆れたようにため息をつく。

 

「やっぱりね」

 

「家で大学数学や中学数学をやる分には誰も文句は言わないわ」

 

「でも幼稚園は別よ」

 

「ご、ごめん……」

 

アイはしゅんと肩を落とした。

 

「二人とも賢いから、そのうち言おうと思ってたんだけど……」

 

「その『そのうち』が遅かったんだ」

 

壱護が苦笑する。

 

「結果、幼稚園でアクアは芥川龍之介を読んでた」

 

「えぇ!?」

 

「ルビーは中学数学を解いてた」

 

「えぇぇ!?」

 

「しかも園児たちに勉強を教え始めた」

 

「うそでしょ!?」

 

アイは思わず立ち上がった。

 

「その結果」

 

ミヤコが続ける。

 

「クラス全員がひらがなを書けるようになって、簡単な算数や漢字まで覚えちゃったの」

 

「…………」

 

アイは口をぱくぱくさせる。

 

言葉が出ない。

 

「幼稚園の先生たちもびっくりしてたわ」

 

「『特別な教育でもしてるんですか』って保護者から問い合わせまで来てるらしいし」

 

「うぅ……」

 

アイはソファへ座り込み、頭を抱えた。

 

「私のせいだ……」

 

壱護は苦笑しながら頷く。

 

「まあ、原因は間違いなくお前だな」

 

「うぅぅ……」

 

「二人に一言言っておけば防げた話だからな」

 

「ごめんなさい……」

 

まるで怒られた子どものように小さくなるアイ。

 

その姿を見て、ミヤコは思わず笑ってしまった。

 

「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ」

 

「ちゃんと二人には話してきたから」

 

「え?」

 

「幼稚園では普通に過ごすこと」

 

「勉強は家でやること」

 

「二人ともちゃんと納得してたわ」

 

アイはほっと胸を撫で下ろした。

 

「そっか……」

 

「怒られてなかった?」

 

壱護は笑う。

 

「いや」

 

「むしろ俺たちを見た瞬間、二人とも萎縮してた」

 

「特にルビーなんか『怒ってる?』って半泣きだったぞ」

 

その様子を想像したアイは思わず苦笑した。

 

「ルビーらしいなぁ」

 

「アクアも全部自分の責任だって言ってた」

 

その言葉を聞いたアイの表情が少し柔らかくなる。

 

「アクア……」

 

「ルビーを庇おうとしてたんだな」

 

「でもルビーも『お兄ちゃんは悪くない』って言って、お互いに自分が悪いって言い合ってたぞ」

 

「ふふっ」

 

アイは思わず笑みを浮かべた。

 

「本当に優しい兄妹だね」

 

壱護とミヤコも微笑む。

 

「そこは俺たちも安心した」

 

「ただな、アイ」

 

壱護は少し真面目な表情になる。

 

「これからは忘れるな」

 

「普通の子どもとして過ごさせることも、大事な教育だ」

 

アイは姿勢を正し、深く頷いた。

 

「うん」

 

「今度はちゃんと二人に伝える」

 

「もう同じ失敗はしない」

 

その返事を聞き、壱護とミヤコはようやく安心したように笑うのだった。

 

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