【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
その日の夕方。
幼稚園をあとにした壱護とミヤコは、そのまま星野家へ向かった。
インターホンを押すと、しばらくして玄関のドアが開く。
「社長! ミヤコさん!」
アイが笑顔で二人を迎えた。
「二人そろってどうしたの?」
「ちょっと話がある」
壱護は苦笑しながら靴を脱ぐ。
リビングへ案内されると、アイはお茶を用意した。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
ミヤコはお茶を一口飲む。
アイは二人の表情を見て首を傾げた。
「何かあった?」
壱護はアイを見つめる。
「まず確認なんだが」
「お前、アクアとルビーに何か言い忘れてないか?」
「え?」
アイはきょとんとした。
「言い忘れたこと?」
「うん」
「何だろ……」
腕を組み、一生懸命考える。
しかし思い当たらない。
「分かんない」
壱護は額に手を当てた。
「やっぱり忘れてたか」
「え?」
「『外では普通の子どもらしくしろ』って言うのを忘れただろ」
「……あ」
アイの表情が固まる。
次の瞬間。
「あぁーーーっ!」
頭を抱えた。
「忘れてたーー!」
ミヤコは呆れたようにため息をつく。
「やっぱりね」
「家で大学数学や中学数学をやる分には誰も文句は言わないわ」
「でも幼稚園は別よ」
「ご、ごめん……」
アイはしゅんと肩を落とした。
「二人とも賢いから、そのうち言おうと思ってたんだけど……」
「その『そのうち』が遅かったんだ」
壱護が苦笑する。
「結果、幼稚園でアクアは芥川龍之介を読んでた」
「えぇ!?」
「ルビーは中学数学を解いてた」
「えぇぇ!?」
「しかも園児たちに勉強を教え始めた」
「うそでしょ!?」
アイは思わず立ち上がった。
「その結果」
ミヤコが続ける。
「クラス全員がひらがなを書けるようになって、簡単な算数や漢字まで覚えちゃったの」
「…………」
アイは口をぱくぱくさせる。
言葉が出ない。
「幼稚園の先生たちもびっくりしてたわ」
「『特別な教育でもしてるんですか』って保護者から問い合わせまで来てるらしいし」
「うぅ……」
アイはソファへ座り込み、頭を抱えた。
「私のせいだ……」
壱護は苦笑しながら頷く。
「まあ、原因は間違いなくお前だな」
「うぅぅ……」
「二人に一言言っておけば防げた話だからな」
「ごめんなさい……」
まるで怒られた子どものように小さくなるアイ。
その姿を見て、ミヤコは思わず笑ってしまった。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ」
「ちゃんと二人には話してきたから」
「え?」
「幼稚園では普通に過ごすこと」
「勉強は家でやること」
「二人ともちゃんと納得してたわ」
アイはほっと胸を撫で下ろした。
「そっか……」
「怒られてなかった?」
壱護は笑う。
「いや」
「むしろ俺たちを見た瞬間、二人とも萎縮してた」
「特にルビーなんか『怒ってる?』って半泣きだったぞ」
その様子を想像したアイは思わず苦笑した。
「ルビーらしいなぁ」
「アクアも全部自分の責任だって言ってた」
その言葉を聞いたアイの表情が少し柔らかくなる。
「アクア……」
「ルビーを庇おうとしてたんだな」
「でもルビーも『お兄ちゃんは悪くない』って言って、お互いに自分が悪いって言い合ってたぞ」
「ふふっ」
アイは思わず笑みを浮かべた。
「本当に優しい兄妹だね」
壱護とミヤコも微笑む。
「そこは俺たちも安心した」
「ただな、アイ」
壱護は少し真面目な表情になる。
「これからは忘れるな」
「普通の子どもとして過ごさせることも、大事な教育だ」
アイは姿勢を正し、深く頷いた。
「うん」
「今度はちゃんと二人に伝える」
「もう同じ失敗はしない」
その返事を聞き、壱護とミヤコはようやく安心したように笑うのだった。