【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それから数日後、悠真の病院では、アイの定期診察が行われていた。
診察室。
悠真はカルテを確認しながら優しく声を掛ける。
「体調はいかがですか?」
「はい!」
アイは笑顔で頷く。
「傷も全然痛くないです!」
「それは良かったです」
悠真は傷口を確認する。
「順調ですね」
「このままいけば、もう心配はいりません」
「ありがとうございます!」
診察も終わりに差しかかった、その時だった。
「あっ、そうだ!」
アイが何かを思い出したように声を上げる。
「先生、聞いてください!」
「はい?」
悠真は首を傾げた。
アイは待ってましたと言わんばかりに話し始める。
「実はこの前、幼稚園で大変なことがあったんです!」
「幼稚園でですか?」
「そうなんです!」
アイは苦笑しながら、これまでの出来事を一から話し始めた。
アクアが幼稚園へ芥川龍之介の小説を持って行って読んでいたこと。
ルビーが中学数学の問題を解いていたこと。
園児たちに文字や算数を教え始めたこと。
その結果、クラス全員がひらがなを書けるようになり、簡単な算数や漢字まで覚えてしまったこと。
そして、保護者代理として壱護とミヤコが幼稚園へ呼び出されたこと。
最後には、自分が「外では普通の子どもらしくしてね」と伝え忘れていたことまで、包み隠さず話した。
「――ということがあったんです!」
話し終えたアイは照れ笑いを浮かべる。
悠真は一瞬きょとんとしたあと、思わず笑ってしまった。
「ふふっ」
「それは……幼稚園としては困りますね」
「ですよねぇ……」
アイも苦笑するしかない。
「社長にも結構怒られちゃいました」
「まあ、その気持ちは分かります」
悠真は笑みを浮かべながら頷いた。
「幼稚園は勉強を競う場所ではありませんから」
「友達と遊んだり、集団生活を学ぶことも大切です」
「はい」
アイは素直に頷く。
「今度からはちゃんと言います」
「その方が良いですね」
悠真は穏やかに微笑んだ。
しかし、その一方で心の中では別のことを考えていた。
(いやいや……)
(二人とも、もう少し隠した方がいいだろ)
思わず心の中でツッコミを入れる。
幼稚園で芥川龍之介を読む四歳児。
中学数学を解く四歳児。
その上、園児たちへ授業まで始める。
(そりゃ先生も保護者も驚く)
悠真は苦笑を堪えきれなかった。
「でも」
悠真は改めてアイを見る。
「二人とも根は優しいんですね」
「え?」
「自分が目立ちたかったわけではなく、友達に教えてあげたかっただけなんでしょう」
その言葉に、アイは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんです!」
「アクアもルビーも、本当に優しい子なんですよ」
「ええ」
悠真も優しく頷く。
「そこは、アイさんの育て方が良かったんだと思います」
その言葉に、アイは少し照れくさそうに笑う。
「えへへ」
「そうだったら嬉しいな」
診察室には穏やかな空気が流れていた。
悠真はカルテを閉じると、最後に一言だけ付け加える。
「次は……幼稚園では普通に過ごせるといいですね」
「はい!」
アイは元気よく返事をすると、笑顔で診察室をあとにした。
その後ろ姿を見送りながら、悠真はもう一度だけ心の中で呟く。
(本当に、賑やかな家族だな)