【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
救急車のサイレンが静かなマンションに響き渡る。
間もなく救急隊が到着し、隊員たちはストレッチャーと医療資器材を持ってアイのもとへ駆け寄った。
「傷病者一名!」
「腹部刺創!」
「バイタル確認!」
隊員の一人がアイへ近付こうとした、その時だった。
「待ってください」
落ち着いた声が響く。
悠真だった。
「私は都立大学病院外科の神崎悠真です」
そう言って医師免許証を提示する。
「受傷直後から圧迫止血を継続しています。現在も意識はありますが、出血量はかなり多いです」
隊長が医師免許証を見る。
その瞬間、表情が変わった。
「神崎先生……?」
隣にいた若い救急隊員も目を見開く。
「えっ……あの神崎先生ですか?」
周囲の隊員たちにも一瞬緊張が走る。
神崎悠真。
その名前は救急隊の間でも広く知られていた。
どれほど重傷な患者でも諦めず、幾度となく命を救ってきた天才外科医。
救急隊の間では、
「あの先生のところへ搬送できれば助かる可能性が上がる」
そう言われるほどの存在だった。
隊長はすぐに姿勢を正した。
「失礼しました、神崎先生」
「現場の指揮をお願いします」
悠真は小さく頷く。
「ありがとうございます」
すぐにアイの状態を確認しながら指示を飛ばす。
「圧迫止血は絶対に緩めないでください」
「ショック状態へ移行する可能性があります」
「酸素投与開始」
「静脈路を一本、できれば二本確保」
「血圧と脈拍を継続測定してください」
「了解!」
隊員たちは迷いなく動き始めた。
その様子を見ていたアクアは驚きを隠せない。
(救急隊が……先生の指示を待っている)
(しかも、名前を聞いただけで態度が変わった)
(この人……一体どれだけ有名なんだ)
アイが慎重にストレッチャーへ乗せられる。
悠真は隊長へ向き直った。
「搬送先ですが、都立大学病院へお願いします」
「先生の勤務先ですね」
「はい」
「私が執刀します」
その言葉に若い救急隊員が思わず息を呑んだ。
「神崎先生ご自身が……」
悠真は静かに頷く。
「この患者さんは一刻を争います」
「搬送先を検討している時間はありません」
「私が一番状態を把握しています」
隊長はすぐに無線を取った。
「搬送先、都立大学病院」
「神崎先生同乗」
『受け入れ準備開始』
病院から即座に返答が返ってくる。
隊長は頷いた。
「先生、同乗をお願いします」
「ありがとうございます」
悠真は救急隊に付いて行こうとしたところで、アクアへ振り返った。
「君」
アクアが顔を上げる。
「お母さんは必ず助ける」
「だから落ち着いて聞いてほしい」
アクアは力強く頷く。
「はい」
悠真は胸ポケットから名刺を取り出した。
『都立大学病院 外科
神崎 悠真』
そう書かれている。
「これを持って病院へ来てくれ」
「受付でこの名刺を見せれば、私のところまで案内してもらえる」
アクアは両手で名刺を受け取った。
「でも……ルビーが……」
悠真はリビングの方を見る。
ルビーは涙を浮かべ、不安そうに立ち尽くしていた。
まだ状況を理解できていない。
「まずはルビーちゃんを落ち着かせてあげてくれ」
「君がお兄ちゃんなんだろう」
「君がしっかりしていれば、あの子も安心できる」
アクアは静かにルビーを見つめる。
そして悠真へ向き直った。
「……必ず行きます」
悠真は優しく微笑む。
「待っている」
「そして約束する」
「お母さんは私が必ず助ける」
その言葉に迷いは一切なかった。
アクアは悠真の目を見つめる。
(この人なら……)
(本当に助けられるかもしれない)
下に降り、救急車に乗り、ドアが閉まる。
サイレンが鳴り響き、車は勢いよく走り出した。
車内では隊員が報告する。
「血圧九十!」
「脈拍百三十!」
「先生!」
悠真はすぐにアイの状態を確認した。
「圧迫維持」
「輸液全開」
「酸素流量を上げてください」
「了解!」
車内は張り詰めた空気に包まれる。
悠真はアイへ声を掛け続けた。
「聞こえますか」
「眠らないでください」
「もう少しで病院です」
アイは薄く目を開いた。
「子ども……たち……」
悠真は優しく頷く。
「大丈夫です」
「アクア君もルビーちゃんも無事です」
「あとから病院へ来ます」
「だから安心してください」
アイはかすかに笑みを浮かべた。
「よかった……」
その表情を見た悠真は心の中で強く誓う。
(必ず助ける)
(この人は絶対に死なせない)
無線が鳴る。
『まもなく都立大学病院に到着します』
悠真は静かに息を吐いた。
ここから先は、自分の領域。
世界最高峰の外科医として、命を救う戦いが始まる。