【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第四十二話「図書館での再会」

 

休日の午後、悠真は都内でも有数の蔵書数を誇る図書館を訪れていた。

 

病院にも専門書は数多く揃っている。

 

しかし、今日調べたいのは少し古い医学論文や海外の文献だった。

 

病院では見つからない資料も、この図書館なら所蔵していることが多い。

 

「やはり、こちらにありましたか」

 

目的の本を見つけると、悠真は静かに席へ座り、ページをめくり始めた。

 

館内には静かな時間が流れている。

 

本をめくる音。

 

鉛筆が紙を走る音。

 

時折聞こえる足音だけが、静寂の中へ溶け込んでいた。

 

二時間ほど調べ物を終えた悠真は、借りる本を探すため医学書の棚を歩いていた。

 

その時だった。

 

「……あれ?」

 

少し離れた閲覧席に、一人の金髪の少年が座っている。

 

机いっぱいに専門書を広げ、夢中になってノートへ何かを書き込んでいた。

 

(あの子は……)

 

悠真は足を止める。

 

四歳だった頃と比べれば、身長も伸び、顔立ちも随分と大人びいている。

 

それでも見間違えることはなかった。

 

(アクア君ですね)

 

もう十歳。

 

小学四年生になっていた。

 

しかし、本人は勉強へ完全に集中しているらしく、悠真が近くまで来ても全く気付いていない。

 

(何を読んでいるのでしょう)

 

悠真は視線を机へ向ける。

 

そして、小さく目を見開いた。

 

「これは……」

 

『外科学総論』

 

『腹部外科』

 

『血管吻合』

 

『人体解剖学』

 

『麻酔管理』

 

机に並んでいるのは、どれも医学部の学生でも難しい専門書ばかりだった。

 

ノートには人体の構造が細かく描かれ、術式ごとの流れまで丁寧にまとめられている。

 

どう見ても、小学四年生が勉強する内容ではない。

 

(驚きましたね……)

 

悠真は思わず感心した。

 

すると、アクアが一冊の本を前に腕を組む。

 

「……ここは」

 

「いや、この方法だと危険か」

 

どうやら術式について考え込んでいるようだった。

 

悠真は静かに後ろへ回る。

 

足音を立てないよう慎重に近付き、アクアのノートへ目を通した。

 

「アクア君」

 

「その術式でしたら、こちらの方法の方が安全ですよ」

 

「血管を先に処理してから切除した方が、出血量も少なく済みます」

 

突然、真後ろから声がした。

 

「っ!」

 

アクアの肩が大きく跳ねる。

 

驚いて勢いよく振り返ると、一人の青年が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

 

白衣は着ていない。

 

だが、その顔を忘れるはずがない。

 

自分とルビー。

 

そして母・アイの命まで救ってくれた恩人。

 

日本最高峰とまで言われる天才外科医。

 

神崎悠真だった。

 

「……先生」

 

思わず、その言葉が漏れる。

 

悠真は優しく微笑んだ。

 

「久しぶりですね、アクア君」

 

アクアはしばらく言葉が出なかった。

 

テレビで何度も名前を聞いた人物。

 

自分が最も尊敬している医師。

 

その本人が、今、目の前にいる。

 

胸の鼓動が自然と速くなる。

 

悠真は机に広げられた本へ目を向け、少しだけ驚いたように笑った。

 

「そういえば、アクア君」

 

「前にお会いした時も医学に興味があるようでしたが……」

 

「今読んでいるのは、外科の本ばかりですね」

 

アクアは小さく頷く。

 

「はい」

 

悠真は続けて尋ねた。

 

「アクア君は、外科医を目指しているのでしょうか」

 

その質問に、アクアは少しだけ目を伏せる。

 

前世の自分は外科を諦めた産婦人科医だった。

 

だが、今の自分には新しい目標があった。

 

もう迷いはない。

 

アクアは悠真を真っ直ぐ見つめ、はっきりと答えた。

 

「はい」

 

「僕は……先生みたいな外科医になりたいです」

 

その言葉を聞いた悠真は、一瞬だけ目を丸くした。

 

そして、どこか照れくさそうに笑う。

 

「それは光栄ですね」

 

「ですが、外科医という仕事は決して楽な仕事ではありません」

 

「一つの判断が患者さんの命を左右します」

 

「何時間も手術室から出られない日もあります」

 

「それでも目指したいと思えますか」

 

悠真の問いに、アクアは一切迷うことなく頷いた。

 

「はい」

 

「僕は、その覚悟で勉強しています」

 

その真っ直ぐな瞳を見て、悠真は自然と微笑んだ。

 

十歳の子どもとは思えないほど強い覚悟が、その瞳には宿っていた。

 

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