【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
図書館を出ると、外はすっかり夕焼けに染まっていた。
「それじゃあ、私たちは帰ります!」
アイが笑顔でそう言うと、ふと何かを思い付いたように悠真を見た。
「あっ、そうだ!」
「先生も夜ご飯食べてく?」
「忙しくなかったらだけど!」
その一言に、悠真は思わず立ち止まった。
「……いや、駄目でしょう」
「え?」
アイはきょとんとした顔をする。
悠真は額へ手を当て、大きくため息をついた。
「アイさん」
「あなた、自分の立場を分かっていますか?」
「今や日本トップクラスの芸能人と言っても過言ではないでしょう」
「そんな方が、一般人である私を自宅へ招くなんて駄目です」
「しかも住所まで教えることになりますよ」
「防犯上、絶対に軽く考えてはいけません」
医師としてではなく、一人の大人としての忠告だった。
しかし、アイは全く気にした様子もなく笑う。
「うーん」
「先生ならいいかなって♪」
「軽っ!」
悠真は思わず小声でツッコんだ。
「相変わらずですね」
「少しは大物芸能人としての自覚を持ってください」
「えー」
アイは頬を膨らませる。
「いいじゃん」
「ルビーもアクアも、もっと先生と話したいことあるでしょ?」
そう言って二人を見る。
ルビーはすぐに手を挙げた。
「ある!」
「私も先生ともっとお話ししたい!」
「来てほしいかも!」
悠真は苦笑しながら視線をアクアへ向ける。
「アクア君は?」
アクアは少しだけ考えたあと、静かに答えた。
「先生には、お世話になりました」
「俺たち家族の恩人です」
「それに先生なら、家のことを誰かに言いふらすような人じゃないと思っています」
その言葉には、迷いがなかった。
悠真は三人の顔を順番に見つめる。
そして、小さく息を吐いた。
「……まったく」
「この家族は」
三人とも期待に満ちた目でこちらを見ている。
その視線に負けた悠真は、肩をすくめながら笑った。
「分かりました」
「今日だけですよ」
「お邪魔させていただきます」
「やったー!」
ルビーが小さく飛び跳ねる。
アイも満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、先生!」
悠真はすぐに真面目な表情へ戻る。
「ですが、一つだけ約束してください」
「今日のことは誰にも話さないでください」
「もちろん、齋藤社長にもです」
アイは胸を張って頷く。
「大丈夫!」
「絶対に言わないよ!」
「私、嘘得意だから」
そう言って、いたずらっぽく笑う。
その言葉を聞いた悠真は少しだけ首を傾げた。
「……嘘は、もう必要なくなったんじゃないんですか?」
六年前、アイは確かに「本当の愛」を見つけた。
悠真はそう思っていた。
しかし、アイは静かに空を見上げ、小さく微笑む。
「ううん」
「嘘はね」
「時には必要だよ」
その笑顔はどこか優しかった。
「本当の愛を手に入れても、決して嘘はなくならない」
「人を守るための嘘もある」
「誰かを安心させるための嘘もある」
少しだけ間を置き、アイは続ける。
「でもね」
「自分だけの本当の愛があれば、他は全部嘘でもいいの」
その言葉に、悠真は何も返せなかった。
それは、アイだからこそ辿り着いた答えなのだろう。
「……そうですか」
悠真は小さく微笑み、頷いた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
こうして、神崎悠真は初めて、星野家の扉をくぐることになった。