【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第四十四話「初めての訪問」

 

図書館を出ると、外はすっかり夕焼けに染まっていた。

 

「それじゃあ、私たちは帰ります!」

 

アイが笑顔でそう言うと、ふと何かを思い付いたように悠真を見た。

 

「あっ、そうだ!」

 

「先生も夜ご飯食べてく?」

 

「忙しくなかったらだけど!」

 

その一言に、悠真は思わず立ち止まった。

 

「……いや、駄目でしょう」

 

「え?」

 

アイはきょとんとした顔をする。

 

悠真は額へ手を当て、大きくため息をついた。

 

「アイさん」

 

「あなた、自分の立場を分かっていますか?」

 

「今や日本トップクラスの芸能人と言っても過言ではないでしょう」

 

「そんな方が、一般人である私を自宅へ招くなんて駄目です」

 

「しかも住所まで教えることになりますよ」

 

「防犯上、絶対に軽く考えてはいけません」

 

医師としてではなく、一人の大人としての忠告だった。

 

しかし、アイは全く気にした様子もなく笑う。

 

「うーん」

 

「先生ならいいかなって♪」

 

「軽っ!」

 

悠真は思わず小声でツッコんだ。

 

「相変わらずですね」

 

「少しは大物芸能人としての自覚を持ってください」

 

「えー」

 

アイは頬を膨らませる。

 

「いいじゃん」

 

「ルビーもアクアも、もっと先生と話したいことあるでしょ?」

 

そう言って二人を見る。

 

ルビーはすぐに手を挙げた。

 

「ある!」

 

「私も先生ともっとお話ししたい!」

 

「来てほしいかも!」

 

悠真は苦笑しながら視線をアクアへ向ける。

 

「アクア君は?」

 

アクアは少しだけ考えたあと、静かに答えた。

 

「先生には、お世話になりました」

 

「俺たち家族の恩人です」

 

「それに先生なら、家のことを誰かに言いふらすような人じゃないと思っています」

 

その言葉には、迷いがなかった。

 

悠真は三人の顔を順番に見つめる。

 

そして、小さく息を吐いた。

 

「……まったく」

 

「この家族は」

 

三人とも期待に満ちた目でこちらを見ている。

 

その視線に負けた悠真は、肩をすくめながら笑った。

 

「分かりました」

 

「今日だけですよ」

 

「お邪魔させていただきます」

 

「やったー!」

 

ルビーが小さく飛び跳ねる。

 

アイも満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、先生!」

 

悠真はすぐに真面目な表情へ戻る。

 

「ですが、一つだけ約束してください」

 

「今日のことは誰にも話さないでください」

 

「もちろん、齋藤社長にもです」

 

アイは胸を張って頷く。

 

「大丈夫!」

 

「絶対に言わないよ!」

 

「私、嘘得意だから」

 

そう言って、いたずらっぽく笑う。

 

その言葉を聞いた悠真は少しだけ首を傾げた。

 

「……嘘は、もう必要なくなったんじゃないんですか?」

 

六年前、アイは確かに「本当の愛」を見つけた。

 

悠真はそう思っていた。

 

しかし、アイは静かに空を見上げ、小さく微笑む。

 

「ううん」

 

「嘘はね」

 

「時には必要だよ」

 

その笑顔はどこか優しかった。

 

「本当の愛を手に入れても、決して嘘はなくならない」

 

「人を守るための嘘もある」

 

「誰かを安心させるための嘘もある」

 

少しだけ間を置き、アイは続ける。

 

「でもね」

 

「自分だけの本当の愛があれば、他は全部嘘でもいいの」

 

その言葉に、悠真は何も返せなかった。

 

それは、アイだからこそ辿り着いた答えなのだろう。

 

「……そうですか」

 

悠真は小さく微笑み、頷いた。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

 

こうして、神崎悠真は初めて、星野家の扉をくぐることになった。

 

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