【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
救急車が都立大学病院へ到着すると同時に、後部ドアが勢いよく開かれた。
「患者到着!」
「腹部刺創!」
「神崎先生同乗です!」
その一言で、救急搬入口の空気が一変する。
待機していた医師や看護師たちが一斉に動き出した。
「救急治療室へ!」
「急げ!」
アイはストレッチャーごと救急治療室へ運び込まれた。
室内では看護師たちが次々とモニターを装着し、救急医が状態を確認する。
「血圧八十五!」
「脈拍百三十五!」
「酸素飽和度九十二!」
「酸素投与開始!」
「ルート二本確保します!」
「採血急いでください!」
治療室は一気に慌ただしくなった。
その頃――
悠真は更衣室へ駆け込み、休日に着ていた私服を素早く脱ぐ。
休日だったため、シャツにジーンズというラフな格好だった。
しかし今は、休日を過ごしていた青年ではない。
命を救う外科医だった。
慣れた手つきで手術着へ着替え、キャップを被る。
マスクを装着し、消毒すると、そのまま救急治療室へ向かう。
自動ドアが開く。
「神崎先生!」
担当看護師がすぐに駆け寄った。
「お待ちしていました」
悠真は真っ直ぐアイのもとへ向かう。
「バイタルは」
「血圧八十二」
「脈拍百三十八」
「酸素投与中です」
「輸液開始済みですが、血圧が下がっています」
悠真は無言で傷口を確認する。
腹部の刺創。
出血は圧迫されているものの、腹腔内出血は避けられない。
顔色も急速に悪くなっていた。
瞳孔。
呼吸。
脈。
わずか数秒で全身状態を確認する。
そして静かに口を開いた。
「緊急開腹します」
その一言で、治療室の空気がさらに引き締まる。
「手術室三番を確保」
「麻酔科へ連絡」
「輸血の準備」
「クロスマッチ開始してください」
「はい!」
看護師たちが一斉に動き出す。
悠真はアイへ近付き、優しく声を掛けた。
「聞こえますか」
「私は神崎です」
「これから手術をします」
「必ず助けます」
アイはゆっくりと目を開ける。
「先生……」
「子ども……たち……」
悠真は優しく微笑んだ。
「安心してください」
「アクア君もルビーちゃんも無事です」
「あとで必ず会えます」
アイは小さく頷き、再び目を閉じた。
悠真は看護師へ視線を向ける。
「手術まで何分ですか」
「五分で準備できます」
「分かりました」
悠真は深く息を吸う。
(絶対に助ける)
(ここで死なせるわけにはいかない)
一方その頃――
星野家では、ルビーが涙を流しながら震えていた。
「ママ……」
「ママぁ……」
アクアは妹を優しく抱き寄せる。
「大丈夫」
「先生が助けてくれる」
「でも……」
「ママ、血がいっぱいだったよ……」
ルビーは涙を止められない。
アクアも本当は不安だった。
医者だった頃の知識があるからこそ、あの傷の危険性が分かる。
それでも、悠真の言葉だけは信じられた。
『お母さんは私が必ず助ける』
あの言葉に、一切の迷いはなかった。
アクアは悠真から受け取った名刺を取り出す。
『都立大学病院 外科
神崎 悠真』
その名前を見つめると、不思議と希望が湧いてくる。
アクアはスマートフォンを取り出し、斎藤社長へ電話を掛けた。
数回の呼び出し音の後、電話が繋がる。
「もしもし、斎藤社長ですか」
『アクア?』
「母さんが刺されました」
その一言で、電話の向こうは静まり返った。
『……何だって?』
アクアはできるだけ冷静に事情を説明する。
「家に来た男に刺されました」
「今は都立大学病院です」
「隣に住んでいる神崎先生という外科医の先生が応急処置をして、そのまま担当してくれています」
「今から緊急手術になります」
『分かった!』
『今すぐ病院へ向かう!』
『アクアはルビーと一緒に家で待っていてくれ!』
電話が切れる。
アクアはスマートフォンを握りしめた。
そして、悠真から受け取った名刺を胸ポケットへしまう。
(神崎悠真……)
(あなたに、母さんを託します)
病院では、いよいよアイが手術室へ搬送されようとしていた。