【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第六話「執刀」

 

手術室。

 

無影灯の白い光が静かに術野を照らしていた。

 

アイは全身麻酔を終え、手術台の上で眠っている。

 

心電図モニターが一定のリズムで音を刻み続ける。

 

「全身麻酔導入完了」

 

「気管挿管完了しました」

 

「バイタルは安定しています」

 

麻酔科医の報告に、悠真は静かに頷いた。

 

手術室には助手の外科医、麻酔科医、器械出し看護師、外回り看護師が集まっている。

 

全員が神崎悠真の執刀を見守っていた。

 

「それでは始めます」

 

悠真は静かに両手を差し出す。

 

「メス」

 

「はい」

 

器械出し看護師がメスを手渡す。

 

悠真はアイの腹部を見つめた。

 

「手術開始」

 

その一言で、手術室の空気がさらに張り詰める。

 

悠真は刺創を慎重に観察した。

 

「傷口を拡大します」

 

「開創器お願いします」

 

「はい」

 

開創器が装着され、術野が徐々に広がっていく。

 

「吸引」

 

「はい」

 

腹腔内に溜まっていた血液を吸引していく。

 

吸引器の音だけが静かな手術室に響いた。

 

やがて視野が確保される。

 

悠真は一つ一つ臓器を確認していく。

 

胃。

 

肝臓。

 

脾臓。

 

膵臓。

 

腸管。

 

その視線は一瞬たりとも迷わない。

 

助手の医師が息を呑む。

 

(速い……)

 

(確認が異常に速い)

 

しかし、悠真の視線は決して雑ではない。

 

一つの臓器を確認するたびに、損傷の有無、出血、血流まで瞬時に判断していた。

 

「小腸に損傷を確認」

 

悠真が静かに告げる。

 

「幸い、主要血管への損傷はありません」

 

その言葉に手術室全体が少しだけ安堵する。

 

「輸血開始してください」

 

「輸血開始します」

 

赤い血液製剤がゆっくりとアイの体内へ送られていく。

 

麻酔科医がモニターを確認する。

 

「血圧八十六」

 

「まだ低いですが維持しています」

 

悠真は頷き、損傷した小腸へ視線を戻した。

 

「鉗子」

 

「はい」

 

「持針器」

 

「はい」

 

「縫合糸」

 

必要な器具が、一切の無駄なく悠真の手へ渡される。

 

悠真は損傷部位を慎重に観察した。

 

裂け方。

 

周囲の血流。

 

壊死の有無。

 

感染の危険性。

 

その全てを数秒で判断する。

 

「修復可能です」

 

その一言には絶対的な自信があった。

 

悠真は針を持つ。

 

一針目。

 

二針目。

 

三針目。

 

正確で、美しく、そして速い。

 

まるで一本の糸が自然に組織へ吸い込まれていくようだった。

 

助手の医師は思わず目を見開く。

 

(何だ、この縫合……)

 

(速すぎる)

 

(それなのに一切乱れていない)

 

器械出し看護師も見入ってしまう。

 

(これが神崎先生……)

 

(何度見ても信じられない)

 

悠真は無駄な動きを一切しない。

 

必要最小限の動きだけで、確実に損傷を修復していく。

 

やがて小腸の修復が終わる。

 

「リークテスト」

 

「異常ありません」

 

助手が報告する。

 

「よし」

 

悠真は再び腹腔内全体へ視線を向けた。

 

「まだ終わりません」

 

「他の損傷を確認します」

 

吸引を続けながら、一つ一つ臓器を確認していく。

 

「肝臓異常なし」

 

「胃異常なし」

 

「脾臓異常なし」

 

「膵臓異常なし」

 

「他の腸管にも明らかな損傷なし」

 

一通り確認を終えると、悠真は小さく息を吐いた。

 

「止血確認」

 

「出血点ありません」

 

助手が答える。

 

「輸血は」

 

麻酔科医がモニターを見る。

 

「血圧九十八まで回復しています」

 

「脈拍百四」

 

「徐々に安定しています」

 

その報告に手術室の空気が少しだけ和らいだ。

 

しかし悠真だけは表情を変えない。

 

「最後まで気を抜かないでください」

 

「閉腹に入ります」

 

「はい」

 

スタッフ全員の返事が重なる。

 

悠真は再びメスではなく持針器を手に取った。

 

患者を助けるまで、手術は終わらない。

 

その瞳には、ただ命を救うという強い意志だけが宿っていた。

 

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