【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
手術室。
無影灯の白い光が静かに術野を照らしていた。
アイは全身麻酔を終え、手術台の上で眠っている。
心電図モニターが一定のリズムで音を刻み続ける。
「全身麻酔導入完了」
「気管挿管完了しました」
「バイタルは安定しています」
麻酔科医の報告に、悠真は静かに頷いた。
手術室には助手の外科医、麻酔科医、器械出し看護師、外回り看護師が集まっている。
全員が神崎悠真の執刀を見守っていた。
「それでは始めます」
悠真は静かに両手を差し出す。
「メス」
「はい」
器械出し看護師がメスを手渡す。
悠真はアイの腹部を見つめた。
「手術開始」
その一言で、手術室の空気がさらに張り詰める。
悠真は刺創を慎重に観察した。
「傷口を拡大します」
「開創器お願いします」
「はい」
開創器が装着され、術野が徐々に広がっていく。
「吸引」
「はい」
腹腔内に溜まっていた血液を吸引していく。
吸引器の音だけが静かな手術室に響いた。
やがて視野が確保される。
悠真は一つ一つ臓器を確認していく。
胃。
肝臓。
脾臓。
膵臓。
腸管。
その視線は一瞬たりとも迷わない。
助手の医師が息を呑む。
(速い……)
(確認が異常に速い)
しかし、悠真の視線は決して雑ではない。
一つの臓器を確認するたびに、損傷の有無、出血、血流まで瞬時に判断していた。
「小腸に損傷を確認」
悠真が静かに告げる。
「幸い、主要血管への損傷はありません」
その言葉に手術室全体が少しだけ安堵する。
「輸血開始してください」
「輸血開始します」
赤い血液製剤がゆっくりとアイの体内へ送られていく。
麻酔科医がモニターを確認する。
「血圧八十六」
「まだ低いですが維持しています」
悠真は頷き、損傷した小腸へ視線を戻した。
「鉗子」
「はい」
「持針器」
「はい」
「縫合糸」
必要な器具が、一切の無駄なく悠真の手へ渡される。
悠真は損傷部位を慎重に観察した。
裂け方。
周囲の血流。
壊死の有無。
感染の危険性。
その全てを数秒で判断する。
「修復可能です」
その一言には絶対的な自信があった。
悠真は針を持つ。
一針目。
二針目。
三針目。
正確で、美しく、そして速い。
まるで一本の糸が自然に組織へ吸い込まれていくようだった。
助手の医師は思わず目を見開く。
(何だ、この縫合……)
(速すぎる)
(それなのに一切乱れていない)
器械出し看護師も見入ってしまう。
(これが神崎先生……)
(何度見ても信じられない)
悠真は無駄な動きを一切しない。
必要最小限の動きだけで、確実に損傷を修復していく。
やがて小腸の修復が終わる。
「リークテスト」
「異常ありません」
助手が報告する。
「よし」
悠真は再び腹腔内全体へ視線を向けた。
「まだ終わりません」
「他の損傷を確認します」
吸引を続けながら、一つ一つ臓器を確認していく。
「肝臓異常なし」
「胃異常なし」
「脾臓異常なし」
「膵臓異常なし」
「他の腸管にも明らかな損傷なし」
一通り確認を終えると、悠真は小さく息を吐いた。
「止血確認」
「出血点ありません」
助手が答える。
「輸血は」
麻酔科医がモニターを見る。
「血圧九十八まで回復しています」
「脈拍百四」
「徐々に安定しています」
その報告に手術室の空気が少しだけ和らいだ。
しかし悠真だけは表情を変えない。
「最後まで気を抜かないでください」
「閉腹に入ります」
「はい」
スタッフ全員の返事が重なる。
悠真は再びメスではなく持針器を手に取った。
患者を助けるまで、手術は終わらない。
その瞳には、ただ命を救うという強い意志だけが宿っていた。