【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

63 / 69
第六十三話「公開前の噂」

 

それから十か月後、アクアとルビーは小学五年生になっていた。

 

学校生活にもすっかり慣れ、以前と変わらず勉強に励みながら、それぞれ充実した毎日を送っている。

 

そんなある日、ついに、五反田監督が手掛けた映画の公開日が正式に発表された。

 

幼い頃に離ればなれになった男女が、十五年前に交わした合言葉を頼りに再会を目指す物語。

 

公開日とあわせて、出演者やあらすじ、ポスタービジュアルも解禁される。

 

その知らせはニュースサイトや映画情報誌で大きく取り上げられた。

 

しかし、映画業界の関係者たちが注目していたのは、主演俳優や五反田監督の新作という部分だけではなかった。

 

「なあ、五反田監督の新作に出ている子役の噂、聞いたか?」

 

「聞いた」

 

「撮影に参加した人間が、みんな同じことを言ってるらしいな」

 

「子役がとにかくヤバかった、って」

 

撮影が終わってから十か月。

 

アクアとルビーの演技は、作品が公開される前から役者や制作関係者の間で噂になっていた。

 

主演俳優。

 

相手役の女優。

 

共演者。

 

撮影スタッフ。

 

映画の撮影に関わった者へ二人のことを尋ねると、誰もが口を揃えて同じように答えた。

 

「あの二人は普通じゃない」

 

「本当に子供なのか疑いたくなる」

 

「幼少期の場面だけで泣かされた」

 

「映画が公開されたら、絶対に話題になる」

 

まだ完成した作品を一般の人間は誰も見ていない。

 

予告映像すら公開されていないにもかかわらず、二人への期待は少しずつ高まっていた。

 

しかも、その噂をさらに加速させる理由があった。

 

アクアとルビーは、この十か月間、芸能活動を一切していなかったのだ。

 

映画の撮影を終えたあと、テレビ番組にも出演していない。

 

ドラマにも出ていない。

 

雑誌の取材や広告の仕事も受けていなかった。

 

映画の情報が解禁されるまで、表舞台から完全に姿を消していた。

 

「撮影現場では天才扱いされたのに、そのあと仕事をしてないらしいぞ」

 

「どういうことだ?」

 

「事務所が映画の公開まで隠してるんじゃないか?」

 

「話題作りのための戦略かもしれない」

 

「いや、五反田監督が次の作品にも呼びたがってたらしい」

 

「それを断ったって話もあるぞ」

 

情報が少ないからこそ、さまざまな憶測が広がっていく。

 

しかし、実際の理由はそれほど複雑なものではなかった。

 

二人はまだ小学五年生。

 

芸能活動よりも優先したいことが、いくつもあった。

 

アクアは医学や考古学に関する文献を読み、自分の興味を持った分野をさらに深く学んでいた。

 

ルビーも数学の勉強を続けながら、歌やダンスのレッスンを楽しんでいる。

 

もちろん学校生活も大切だ。

 

友人たちと遊ぶ時間もある。

 

二人にとって芸能活動は、人生のすべてではなかった。

 

特にアクアは、役者や芸能活動そのものに熱心なわけではない。

 

今回映画へ出演したのも、初めて映画へ出演するルビーが心配で付き添ったという理由が大きかった。

 

役者として成功したいという夢はない。

 

自分から積極的に仕事を受けたいとも思っていなかった。

 

それに、映画がまだ公開されておらず、演技を世間へ披露していない二人に、本格的な芸能の仕事が次々と舞い込むはずもなかった。

 

全国学力調査で一位になったことで知名度は上がった。

 

しかし、それは「天才小学生」としての評価であり、「天才子役」としての評価ではない。

 

その実力を知っているのは、撮影現場にいた人たちだけだった。

 

一応、五反田監督からは何度か連絡が来ていた。

 

「次のドラマに出てみないか?」

 

「二人にぴったりの役がある」

 

「短期間の撮影でもいい」

 

監督は二人の演技を高く評価しており、ぜひ別の作品にも出演してほしいと考えていた。

 

しかし、そのたびに二人の返事は変わらなかった。

 

「映画が公開されるまで待ってください」

 

アクアがそう答えると、ルビーも笑顔で頷く。

 

「私も映画を見てもらってから、次のお仕事を考えたいです」

 

五反田監督は苦笑しながら頷いた。

 

「分かった。だが、公開されたら忙しくなるぞ」

 

ルビーは不思議そうに首を傾げる。

 

「そんなにですか?」

 

「ああ」

 

「お前たちの演技を見たら、放っておく監督なんていない」

 

「特にルビー……初出演とは思えない演技だったからな」

 

「えへへ……」

 

ルビーは照れくさそうに笑う。

 

一方のアクアは、小さくため息をついた。

 

「面倒なことにならなければいいんですが……」

 

「お前はもう少し役者としての自覚を持て」

 

五反田監督が呆れたように言う。

 

「別に役者を続けるつもりはありません。ルビーがやりたいと言うから出ただけです」

 

「お兄ちゃん、それ何回言うの?」

 

ルビーが頬を膨らませる。

 

「本当のことだろ」

 

「でも撮影中はすっごく真剣だったじゃん!」

 

「やる以上は手を抜かないだけだ」

 

そんな兄妹のやり取りを見ながら、五反田監督は苦笑した。

 

本人は付き添いのつもりでも、その付き添いで見せる演技が、第一線で活躍する役者たちを驚かせるほどなのだから。

 

そして、映画の公開日が発表されたことで、これまで業界内だけに広がっていた噂が、少しずつ世間にも広がり始める。

 

「あの天才双子が映画に出るらしい」

 

「全国一位だった子たちだよね?」

 

「演技も天才らしいよ」

 

「撮影に参加した役者さんがみんな絶賛してるって」

 

まだ予告映像すら公開されていない。

 

それでも、人々の期待は日に日に大きくなっていく。

 

十か月間、静かに時を待ち続けた二人。

 

その才能が、いよいよ全国へ知られる日が近づいていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。