【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第六十五話「もう一人の天才」

 

その頃――。

 

劇団ララライ。

 

都内にある稽古場では、今日も舞台稽古が行われていた。

 

「はい、今日はここまで!」

 

演出家の声が響く。

 

「ありがとうございました!」

 

劇団員たちが一斉に頭を下げる。

 

黒川あかねも額に浮かんだ汗を拭いながら、深く一礼した。

 

「ありがとうございました」

 

「今日も良かったよ、黒川」

 

演出家が満足そうに頷く。

 

「ありがとうございます」

 

あかねは控えめに微笑んだ。

 

稽古を終え、更衣室へ向かう途中。

 

数人の劇団員が楽しそうに話している声が聞こえてきた。

 

「そういえば、五反田監督の新作映画、もうすぐ公開だよな」

 

「ああ、あれ今かなり話題らしい」

 

「主演じゃなくて子役が、だろ?」

 

「そうそう」

 

「アクアとルビーっていう双子」

 

「撮影に参加した役者全員が、『子役がヤバい』って口を揃えて言ってるらしい」

 

「子役でそこまで話題になるって珍しいよな」

 

「しかも、映画が公開されるまで芸能活動を全然してないんだろ?」

 

「余計に気になるよな」

 

その会話に、あかねは思わず歩みを止めた。

 

(アクア……)

 

(星野アクア君)

 

その名前には聞き覚えがあった。

 

全国学力調査で一位になり、一躍有名になった天才小学生。

 

そして双子の妹、星野ルビー。

 

最近は演劇や映画関係者の間で、その二人の名前を聞かない日はないほどだった。

 

「子役とは思えない」

 

「現場の空気を変えた」

 

「主演俳優ですら圧倒された」

 

「公開されたら間違いなく話題になる」

 

噂は日に日に大きくなっている。

 

しかし、不思議なことに、その二人の演技を実際に見た人はほとんどいない。

 

映画はまだ公開されていないからだ。

 

だからこそ、業界では期待ばかりが膨らんでいた。

 

(そんなにすごい演技なんだ……)

 

あかねは演技が好きだった。

 

誰よりも役を研究し、表情や仕草、話し方まで分析する。

 

舞台でも映像作品でも、優れた役者がいれば必ず研究する。

 

年齢は関係ない。

 

相手が子供でも、大人でも。

 

学べるものがあるなら吸収したい。

 

それが黒川あかねという役者だった。

 

(噂だけじゃ分からない)

 

(実際に自分の目で見たい)

 

そう思った瞬間には、答えは決まっていた。

 

映画館へ行こう。

 

話題だからではない。

 

ミーハーな気持ちでもない。

 

純粋に演技を勉強するためだ。

 

「公開日……」

 

スマートフォンを取り出し、映画の公開日を検索する。

 

画面に表示された日付を確認すると、そのままスケジュール帳へ登録した。

 

「これでよし」

 

小さく微笑む。

 

(楽しみ)

 

(どんな演技をするんだろう)

 

業界中が絶賛する子役。

 

しかも、主演ではなく幼少期を演じるだけの子役が、ここまで噂になる作品など聞いたことがない。

 

それだけでも興味を引かれた。

 

(もし噂が本当なら……)

 

(きっと何か学べる)

 

一つの表情。

 

一つの仕草。

 

一つの間。

 

演技には必ず理由がある。

 

あかねは、それを見つけることが好きだった。

 

だからこそ、この映画は絶対に観ると決めていた。

 

「黒川、何見てるの?」

 

劇団員の一人が覗き込む。

 

「五反田監督の映画の予告です」

 

「ああ、あの噂の子役か…気になる?」

 

あかねは静かに頷いた。

 

「はい!勉強になる気がするので」

 

その返事に劇団員は苦笑した。

 

「さすが黒川勉強熱心!」

 

「やっぱり見るところが違うな」

 

あかねも少し照れたように笑う。

 

「せっかくなら、一つでも多く吸収したいですから」

 

そう言ってスマートフォンをしまう。

 

その瞳には、期待の色が浮かんでいた。

 

こうして、公開前にもかかわらず、映画は少しずつ業界中の注目を集めていく。

 

かつて"天才子役"と呼ばれた有馬かな。

 

劇団ララライで演技を磨き続ける黒川あかね。

 

そして、多くの役者や監督たち。

 

まだ誰も見ていない二人の天才子役の演技を、その日を待ちわびながら楽しみにしていた。

 

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