【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それから二か月後……ついに映画公開初日を迎えた。
都内の大型映画館では、公開初日を記念した舞台挨拶付き上映が行われることになっていた。
今回は映画を上映したあとに、主演俳優や主要キャスト、五反田監督、そして子役として出演したアクアとルビーが登壇する予定になっている。
そのため、この上映回には映画関係者や役者たちが数多く集まっていた。
もちろん、お目当ては主演俳優だけではない。
「本当にそんなにすごい子役なのか?」
「業界中が騒いでるから気になってな」
「今日でようやく答え合わせだ」
「映画を見れば分かる」
そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。
一方、有馬かなも映画館へ足を運んでいた。
もちろん、舞台挨拶付き上映を予約して。
(久しぶりに会えるんだ……)
映画も楽しみだった。
しかし、それ以上にアクアの姿を見られることが嬉しかった。
映画を見て、そのあと舞台挨拶で直接会える。
そんなことを考えるだけで、自然と胸が高鳴る。
席番号を確認しながら歩き、自分の席へ腰を下ろした。
「よし」
かなは小さく息を吐く。
すると、その隣の席へ一人の少女がやって来た。
「すみません」
その声に、かなは何気なく顔を向ける。
「……え?」
相手も同じように目を丸くした。
「えっ?」
数秒間、お互いに固まる。
そして次の瞬間、
「なんであんたがここに居るのよ!」
かなが思わず声を上げた。
周囲の観客が一斉に振り向く。
少女――黒川あかねは慌てて人差し指を口元へ当てた。
「しーっ!」
「かなちゃん、静かに!」
「あ……」
かなは慌てて口を押さえ、座り直す。
「ご、ごめん……」
あかねは苦笑しながら隣へ座った。
「びっくりしたぁ」
「かなちゃんも見に来たんだ」
「そりゃ来るわよ」
かなは腕を組む。
「話題になってる映画だし……」
少しだけ視線を逸らす。
「アクアも出るし」
「ふふっ」
あかねが意味ありげに笑う。
「やっぱりアクア君が目的なんだ」
「ち、違うわよ!」
「映画よ!映画!」
「もちろん映画もだけど!」
慌てて言い直すかなを見て、あかねはクスッと笑う。
「かなちゃんらしいね」
しばらくすると、あかねが何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、かなちゃんって昔アクア君と共演してたよね」
「え?」
かなは驚いたように振り返る。
「なんでそんなの覚えてるのよ!何年前の話だと思ってるの!相変わらず気色悪いわね!」
「えぇ……」
あかねは少し困ったように笑う。
「子役同士の演技がすごく印象に残ってたから、それに、かなちゃんが出演してた作品は結構見てたし…だから自然と覚えてただけなんだけど……」
「それが気色悪いって言ってるの!」
かなは呆れたようにため息をつく。
「ほんと、あんたの記憶力どうなってるのよ」
「ありがとう!褒められた」
「褒めてない!」
二人のやり取りに、近くの観客が思わず笑いをこぼす。
やがて場内の照明がゆっくりと落ち始めた。
『まもなく上映を開始いたします』
アナウンスが流れる。
かなとあかねは自然と前を向いた。
(やっと見られる)
かなは胸を高鳴らせる。
アクアはどんな演技を見せてくれるのか。
そして、業界中が絶賛するルビーの演技とはどれほどのものなのか。
(噂が本当か、この目で確かめよう)
あかねも静かに息を整える。
二人とも期待するものは少し違う。
かなは、かつて共演したアクアの成長した姿を。
あかねは、一人の役者として噂の演技を。
そして――
映画館全体が静寂に包まれる中、スクリーンに最初の映像が映し出された。