【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第七話「祈る者たち」

 

その頃――

 

都立大学病院。

 

一台の車が病院の正面玄関へ急停車した。

 

運転席から飛び出したのは、斎藤壱護。

 

助手席からはミヤコも慌てて降りる。

 

二人は走るように病院の中へ入り、受付へ向かった。

 

「すみません!」

 

「救急搬送された星野アイさんは!」

 

受付の事務員は落ち着いた様子で二人を見つめた。

 

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

「斎藤です!」

 

「星野アイの所属事務所社長です」

 

事務員は端末を確認すると、すぐに頷いた。

 

「斎藤様ですね」

 

「神崎先生より申し送りを受けております」

 

「神崎先生が?」

 

斎藤は思わず聞き返した。

 

「はい」

 

事務員は静かに説明を始める。

 

「神崎先生から、『アクア君という男の子、もしくは斎藤社長という方が後ほど必ず来られると思います。お二人が来られたら受付で止めず、そのまま手術室前までご案内してください』と指示を受けております」

 

斎藤とミヤコは顔を見合わせた。

 

まだ一度も会ったことのない医師。

 

それにもかかわらず、自分たちが来ることを見越して受付へ指示を残していた。

 

正確には、アクアが自分へ連絡し、自分たちが病院へ駆け付けることまで読んでいたのだ。

 

「ここまで先を読んでいたのか……」

 

斎藤は小さく呟く。

 

事務員は続けた。

 

「現在は神崎先生が緊急手術を執刀しております」

 

「こちらへどうぞ」

 

二人は事務員の案内で病院の長い廊下を歩いていく。

 

病院特有の静けさが、かえって二人の不安を大きくしていた。

 

ミヤコは恐る恐る尋ねる。

 

「アイは……」

 

「助かるんでしょうか」

 

事務員は少し困った表情を浮かべた。

 

「申し訳ございません。病状についてはお答えできません」

 

「ただ、神崎先生をはじめ、スタッフ一同全力で治療にあたっております」

 

その言葉だけが今の支えだった。

 

やがて赤いランプが灯る扉の前へ到着する。

 

『手術中』

 

その表示が、現実の重さを突きつけていた。

 

「こちらになります」

 

事務員は一礼した。

 

「神崎先生から、こちらでお待ちいただくよう伺っております」

 

そう言い残し、その場を離れていく。

 

斎藤は静かにソファーへ腰を下ろした。

 

ミヤコも隣へ座る。

 

二人とも言葉が出ない。

 

手術室の扉を見つめることしかできなかった。

 

「神崎先生……」

 

斎藤は小さく呟く。

 

「お願いします」

 

「アイを助けてください」

 

ミヤコは両手を強く握り締め、涙をこらえながら祈り続ける。

 

静かな廊下には時計の秒針だけが響いていた。

 

 

 

それから約三十分後――。

 

廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。

 

斎藤が顔を上げる。

 

そこには息を切らせながら歩いてくるアクアと、涙で目を真っ赤にしたルビーの姿があった。

 

「アクア!」

 

斎藤は立ち上がる。

 

「お前……」

 

「家で待ってろと言っただろ!」

 

思わず声を荒げる。

 

アクアは真っ直ぐ斎藤を見つめ返した。

 

「待っていられるわけないだろ」

 

静かな声だった。

 

しかし、その一言には強い感情が込められていた。

 

「母さんが生死をさまよってるんだ」

 

「家でじっと待ってろなんて無理だ」

 

斎藤は何か言い返そうと口を開く。

 

しかし、言葉が出なかった。

 

目の前にいるのは、まだ幼い子どもだ。

 

それでも、母親を心配する気持ちは誰よりも強い。

 

自分だって同じ立場なら、きっと病院へ来ていた。

 

「……悪かった」

 

斎藤は小さく息を吐き、アクアの肩へそっと手を置いた。

 

「来てくれてよかった」

 

アクアは何も言わず、赤く灯る『手術中』のランプを見つめる。

 

一方、ルビーはもう限界だった。

 

「ママぁ……」

 

「ママに会いたいよぉ……」

 

涙が止まらない。

 

ミヤコはすぐにルビーの前へしゃがみ込んだ。

 

「ルビーちゃん」

 

「大丈夫だから」

 

「神崎先生が頑張ってくれてるよ」

 

優しく頭を撫でる。

 

ルビーはしゃくり上げながらミヤコへ抱き付いた。

 

ミヤコはその小さな身体を優しく抱き締める。

 

「一緒に待とうね」

 

「きっとママは帰ってくるから」

 

ルビーを手術室前のソファーへ座らせ、自分も隣へ腰を下ろした。

 

ルビーは何度も手術室の扉を見つめながら、小さな手をぎゅっと握り締める。

 

アクアも斎藤の隣へ座る。

 

誰も話さなかった。

 

ただ、赤く灯り続ける『手術中』のランプだけを見つめ、それぞれが同じ願いを胸に祈り続けていた。

 

――どうか、助かってほしい。

 

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