【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
手術開始から約三時間。
手術室には静かな緊張感が漂っていた。
悠真は最後の縫合を終えると、傷口を丁寧に確認する。
「出血なし」
助手の医師も確認する。
「止血良好です」
悠真はもう一度、腹腔内全体を慎重に観察した。
修復した小腸。
周囲の組織。
腹腔内に新たな出血はない。
輸血の効果もあり、アイの顔色も少しずつ戻ってきていた。
麻酔科医がモニターへ目を向ける。
「血圧百十五」
「脈拍八十四」
「バイタル安定しています」
悠真は小さく頷く。
悠真は一層一層丁寧に腹壁を閉じていく。
筋膜。
皮下組織。
そして皮膚。
どの工程も正確で、無駄な動きは一切ない。
最後の一針を終えると、悠真は静かに息を吐いた。
「閉腹終了」
手術室のスタッフ全員がモニターへ目を向ける。
血圧は安定。
脈拍も正常域まで回復している。
麻酔科医が微笑んだ。
「状態は良好です」
「このまま術後管理へ移行できます」
悠真は眠っているアイの顔を見つめた。
穏やかな寝息を立てるその姿を確認すると、小さく微笑む。
「お疲れ様」
誰にも聞こえないほど静かな声だった。
「よく頑張りました」
そう呟くと、アイの掛け布をそっと整える。
その様子を見ていた助手の医師や看護師たちは、思わず表情を和らげた。
世界最高峰の外科医と呼ばれる男。
その姿は冷静で厳格な医師ではなく、一人の患者を心から気遣う医師そのものだった。
悠真は再びスタッフへ向き直る。
「手術終了」
その一言で、張り詰めていた手術室の空気が少しだけ和らいだ。
助手の医師が笑みを浮かべる。
「先生、お疲れ様でした」
看護師たちも安堵したように頭を下げる。
「ありがとうございました」
悠真は軽く頷くと、手袋を外し、手術室を後にした。
廊下へ出る。
手術室前では、赤く灯っていた『手術中』のランプを見つめながら、斎藤、ミヤコ、アクア、ルビーの四人が静かに待っていた。
扉が開く音に気付き、四人は同時に立ち上がる。
「先生!」
斎藤が真っ先に駆け寄る。
「アイは!」
「アイは無事なんですか!」
ミヤコも涙を浮かべながら悠真を見つめる。
アクアは息を呑み、ルビーは不安そうに悠真の顔を見上げていた。
悠真はゆっくりとマスクを外す。
そして四人へ優しく微笑んだ。
「安心してください」
一瞬の静寂が流れる。
続いて悠真は穏やかな口調で告げた。
「手術は成功です」
「損傷していた臓器は無事修復できました」
「出血も止まり、血圧も正常値まで戻っています」
「命に別状はありません」
「これからは集中治療室で経過を見ながら、自然に傷口が回復するのを待つだけです」
その言葉を聞いた瞬間だった。
ミヤコはその場で涙を流した。
「よかった……」
「本当に……よかった……」
ルビーも涙を流しながら笑顔になる。
「ママ助かったの?」
悠真はルビーの顔の位置までしゃがみ込み優しく頷く。
「助かりましたよ」
「もう大丈夫です」
ルビーはその場で泣き崩れ、ミヤコが優しく抱き締める。
斎藤も深く頭を下げた。
「神崎先生……」
「本当に、本当にありがとうございました」
悠真は首を横に振る。
「私は医者です」
「患者さんを助けるのが仕事ですから」
その言葉に、斎藤は再び深く頭を下げた。
一方、アクアだけは黙って悠真を見つめていた。
(本当に助けた……)
(あの状態から……)
前世で医師だった自分だからこそ分かる。
あの傷から患者を救うことが、どれほど難しいか。
目の前の男は間違いなく世界最高峰の外科医だった。
悠真はそんなアクアに気付き、小さく微笑む。
「約束しましたから」
「お母さんは、ちゃんと助けましたよ」
その一言に、アクアはゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとうございました」
その声には、心からの感謝が込められていた。