【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第九話「眠る母」

 

それからしばらくして...

 

手術を終えたアイは、集中治療室へ移された。

 

悠真の指示のもと、医師や看護師が慎重にベッドを運び、各種モニターや点滴を確認しながら病室へ入っていく。

 

術後とはいえ、まだ麻酔が完全には覚めていない。

 

しばらくは集中治療室で経過を観察する必要があった。

 

病室の外。

 

ガラス越しに、斎藤、ミヤコ、アクア、ルビーの四人が静かに中を見つめていた。

 

アイはベッドの上で穏やかに眠っている。

 

規則正しく上下する胸。

 

モニターには安定した心拍数が映し出され、一定のリズムで電子音が鳴っていた。

 

点滴や心電図のコードこそ付いているものの、その表情は驚くほど穏やかだった。

 

まるで大きな仕事を終え、安心して眠っているだけのようにも見える。

 

手術直後とは思えないほど、その寝顔は美しかった。

 

苦しそうな様子もない。

 

眉間に皺も寄っていない。

 

気持ちよさそうに眠るその姿は、いつものアイそのものだった。

 

ルビーはガラスにそっと手を添える。

 

「ママ……」

 

その声は小さく震えていた。

 

「寝てるだけ……だよね」

 

アクアは静かに頷く。

 

「ああ」

 

「麻酔がまだ残ってるだけだ」

 

「そのうち目を覚ます」

 

そう言いながらも、自分自身に言い聞かせているようだった。

 

さっきまで命の危機に瀕していた母親が、こうして穏やかに眠っている。

 

その姿を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が少しずつほどけていく。

 

斎藤も胸を撫で下ろした。

 

「本当に……助かったんだな」

 

誰に言うでもなく、小さく呟く。

 

その言葉を聞いたミヤコは、安心したように大きく息を吐いた。

 

「よかった……」

 

涙を浮かべながら笑顔になる。

 

しかし、その次の瞬間だった。

 

ふらり、と身体が揺れる。

 

「ミヤコ!」

 

斎藤が慌てて手を伸ばす。

 

だが間に合わず、ミヤコはその場に膝から崩れ落ちた。

 

「大丈夫ですか!」

 

近くにいた看護師とスタッフがすぐに駆け寄る。

 

「意識はありますか?」

 

「はい……」

 

ミヤコは小さく返事をしたものの、力が入らない。

 

ちょうどその時、集中治療室から出てきた悠真がその様子に気付いた。

 

「少し失礼します」

 

悠真はしゃがみ込み、ミヤコの手首に触れて脈を確認する。

 

続いて血圧計を装着し、数値を確認した。

 

「……なるほど」

 

悠真は安心したように微笑む。

 

「心配はいりません」

 

「極度の緊張状態が続いていましたからね」

 

「アイさんの無事を確認して安心したことで、一時的に血圧が下がったのでしょう」

 

斎藤がほっと息をつく。

 

「大事ではないんですね?」

 

「ええ」

 

悠真は頷いた。

 

「少し休めば回復します」

 

「今日はかなり無理をされていますから」

 

悠真は近くの看護師へ視線を向ける。

 

「空いている病室がありますね」

 

「そこで少し休んでいただきましょう」

 

「分かりました」

 

看護師が車椅子を準備する。

 

ミヤコは申し訳なさそうに笑った。

 

「すみません……」

 

「私まで迷惑をかけちゃって……」

 

悠真は首を横に振る。

 

「迷惑ではありません」

 

「今日一日、ずっと気を張っていたんです」

 

「身体が『もう休んでいい』と教えてくれただけですよ」

 

その優しい言葉に、ミヤコは少しだけ表情を和らげた。

 

看護師に付き添われ、空いている病室へ向かっていく。

 

斎藤はその後ろ姿を見送り、小さく息を吐いた。

 

再び静寂が訪れる。

 

ガラス越しには、穏やかに眠るアイの姿。

 

アクアは腕を組みながら、その姿をじっと見つめていた。

 

ルビーも兄の隣に立ち、小さな両手を胸の前で握り締めている。

 

二人とも、一度もアイから目を逸らさなかった。

 

今まで当たり前に隣にいてくれた母親。

 

失うかもしれないと初めて思い知らされた。

 

だからこそ、その寝顔を目に焼き付けるように見つめ続ける。

 

静かな集中治療室。

 

穏やかな寝息を立てるアイ。

 

その姿を見ながら、アクアとルビーはただ静かに、母が目を覚ますその時を待ち続けていた。

 

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