【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それからしばらくして...
手術を終えたアイは、集中治療室へ移された。
悠真の指示のもと、医師や看護師が慎重にベッドを運び、各種モニターや点滴を確認しながら病室へ入っていく。
術後とはいえ、まだ麻酔が完全には覚めていない。
しばらくは集中治療室で経過を観察する必要があった。
病室の外。
ガラス越しに、斎藤、ミヤコ、アクア、ルビーの四人が静かに中を見つめていた。
アイはベッドの上で穏やかに眠っている。
規則正しく上下する胸。
モニターには安定した心拍数が映し出され、一定のリズムで電子音が鳴っていた。
点滴や心電図のコードこそ付いているものの、その表情は驚くほど穏やかだった。
まるで大きな仕事を終え、安心して眠っているだけのようにも見える。
手術直後とは思えないほど、その寝顔は美しかった。
苦しそうな様子もない。
眉間に皺も寄っていない。
気持ちよさそうに眠るその姿は、いつものアイそのものだった。
ルビーはガラスにそっと手を添える。
「ママ……」
その声は小さく震えていた。
「寝てるだけ……だよね」
アクアは静かに頷く。
「ああ」
「麻酔がまだ残ってるだけだ」
「そのうち目を覚ます」
そう言いながらも、自分自身に言い聞かせているようだった。
さっきまで命の危機に瀕していた母親が、こうして穏やかに眠っている。
その姿を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が少しずつほどけていく。
斎藤も胸を撫で下ろした。
「本当に……助かったんだな」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
その言葉を聞いたミヤコは、安心したように大きく息を吐いた。
「よかった……」
涙を浮かべながら笑顔になる。
しかし、その次の瞬間だった。
ふらり、と身体が揺れる。
「ミヤコ!」
斎藤が慌てて手を伸ばす。
だが間に合わず、ミヤコはその場に膝から崩れ落ちた。
「大丈夫ですか!」
近くにいた看護師とスタッフがすぐに駆け寄る。
「意識はありますか?」
「はい……」
ミヤコは小さく返事をしたものの、力が入らない。
ちょうどその時、集中治療室から出てきた悠真がその様子に気付いた。
「少し失礼します」
悠真はしゃがみ込み、ミヤコの手首に触れて脈を確認する。
続いて血圧計を装着し、数値を確認した。
「……なるほど」
悠真は安心したように微笑む。
「心配はいりません」
「極度の緊張状態が続いていましたからね」
「アイさんの無事を確認して安心したことで、一時的に血圧が下がったのでしょう」
斎藤がほっと息をつく。
「大事ではないんですね?」
「ええ」
悠真は頷いた。
「少し休めば回復します」
「今日はかなり無理をされていますから」
悠真は近くの看護師へ視線を向ける。
「空いている病室がありますね」
「そこで少し休んでいただきましょう」
「分かりました」
看護師が車椅子を準備する。
ミヤコは申し訳なさそうに笑った。
「すみません……」
「私まで迷惑をかけちゃって……」
悠真は首を横に振る。
「迷惑ではありません」
「今日一日、ずっと気を張っていたんです」
「身体が『もう休んでいい』と教えてくれただけですよ」
その優しい言葉に、ミヤコは少しだけ表情を和らげた。
看護師に付き添われ、空いている病室へ向かっていく。
斎藤はその後ろ姿を見送り、小さく息を吐いた。
再び静寂が訪れる。
ガラス越しには、穏やかに眠るアイの姿。
アクアは腕を組みながら、その姿をじっと見つめていた。
ルビーも兄の隣に立ち、小さな両手を胸の前で握り締めている。
二人とも、一度もアイから目を逸らさなかった。
今まで当たり前に隣にいてくれた母親。
失うかもしれないと初めて思い知らされた。
だからこそ、その寝顔を目に焼き付けるように見つめ続ける。
静かな集中治療室。
穏やかな寝息を立てるアイ。
その姿を見ながら、アクアとルビーはただ静かに、母が目を覚ますその時を待ち続けていた。