あなたは、
輪廻転生を、
信じますか?
『…炭治郎!こっちこっち!!…』
『本日午前2時ごろ、東京都〇〇区那田蜘蛛山で、身元不明の遺体が発見されました。遺体は損壊されており、一部見つかっておりません。警察は事件として捜査し…』
「物騒な事件だな…」
赤みがかった髪をもつ少年、竈門炭治郎は他人事のように呟いた。
4月。入学のシーズンだ。
彼は今年から高校生であり、家から少し離れた私立産屋敷学園高校に通う。今日はその入学式である。
産屋敷学園は東京23区のはずれにある巨大な敷地を持つ総合教育機関、とされている。小学校から大学まで備えられているが、生徒は学業はもちろんスポーツや芸術などに秀でた人材を集めている。
彼は中学校までは公立に行っていたが、幼い頃から続けていた剣道で都大会で優勝。通っていた道場の師範に勧められて産屋敷学園へ進学することにした。
「お兄ちゃん、最近物騒だから気をつけてね。事件があったところと学校は結構近いみたいだし。」
「大丈夫だよ禰豆子。明るいうちに帰るから。」
そう言って炭治郎は家を出た。
「ギィヤァァァァァ!!猪!?」
「ハハハ!!驚いたか紋逸!!」
「善逸に、伊之助はそれ猪の被り物?」
家を出るなり道端で騒いでいるのは炭治郎の家の近所に住む幼馴染の2人で、ビビりな方が我妻善逸、猪の被り物を被って脅かしている方が嘴平伊之助である。
2人とも炭治郎と同じ道場に通っており、同じくこの春から産屋敷学園へ通うこととなっている。
「2人とも朝から何してるのさ。そんな騒いで…」
「だって伊之助が後ろからこんな被りもん被って出てくるんだもん!しょうがないじゃないか!」
「伊之助はなんだい、その猪の被り物は…」
「見ろ!これ本物の猪の毛皮でできてるんだぜ!昨日家の中整理してたら出てきた!」
伊之助は母親と共に祖母の家で暮らしている。昔ながらの日本家屋には蔵があるから、そこから出てきたのだろう。
「何も持ってこなくたっていいじゃないか…今日から学校始まるんだよ。」
「そうだけどよ、なんだか見つけた途端愛着わいてよぉ、持ってきちまった。」
そう言ってもう一度猪を被ると、なるほど確かにどこかしっくりきてしまう。もはや既視感があるくらいだ。
「うーん、確かに伊之助にあってるけどいくらなんでもこんなの被ってたら不審者だよ…。しまっておきなよ。」
「確かに伊之助は野生児みたいだもんな。チビの時、『俺は山の王になる』みたいなこと言ってたもんな。」
「おい!恥ずい話すんな!」
眠いと相場が決まっている学園長の入学式の祝辞を3人揃って寝てやり過ごしたあと、3人は人混みの中である人物を見つけた。
「あ!冨岡さんだ!おーい冨岡さーん!!」
「炭治郎、善逸、伊之助。入学おめでとう。ついに3人を教えることになるとはな…感慨深い。」
冨岡義勇。3人の通う道場の師範代であり、産屋敷学園の体育教師でもある。
「さっき冨岡さん生徒指導だって発表されてましたね。」
「ああ、3年目なのに選ばれて少し驚いた。しかしやれと言われた以上お前たちにもしっかりやっていくぞ。手始めに善逸、金髪は校則違反だ。染めてこい。」
「これ地毛ですけどぉ!?知ってて言ってるでしょぉ!!」
善逸の髪は日本人に似つかわしくない金髪である。なんでも幼い頃雷に打たれてこんな風になってしまったらしい。普通そんなことになったら即死だと思うがなぜか生き残っている。不思議だ。
「フッ、わかってるわかってる。冗談だ。大体この学校は校則が厳しくない。そんなケチくさいことは言わん。」
「あの人、表情筋かてぇから冗談かどうかぜんぜんわかんねぇんだよ…。」
「楽しめよ」と呟き離れていく義勇の背を見つめながら、心底安心したという顔の善逸であった。
「ふう、トイレ全然見つからなかった…。」
善逸は1人用を足しに2人から離れた。
その刹那だった。
グォゴゴゴォ、グッチャア
気味の悪い音が善逸の耳に届いた。
善逸は生まれつき耳がいい。
そのため遠く離れた場所の音や、生物の息づく音まで聞こえる。
しかし、これほど気味の悪い音は聞いたことがなかった。
「い、い、いったい、な、なんだっていうんだよ…」
気味が悪い、怖い、逃げたい。そんな感情が押し寄せつつも、何故かその足は自然と音の方へ向かっていた。否、本能的に向かわなくてはならない気がしたのだ。
「ひ、ヒイイイイ怖いよぉぉ!!」
音はグラウンドから聞こえるようだった。
恐る恐るグラウンドに出ると…
「ウギィィヤァァァァァ!!!!」
「善逸の声!」「あの汚ねえ高音だ!」
「この声は…善逸か?見に行ってみるか…。」
炭治郎、伊之助、そして義勇が声のもとへ駆けつけると、そこには異様としか言えない光景が広がっていた。
雷が鳴り響き、今にも土砂降りになりそうな空の下、善逸は、『何か』に追われていた。
それはまるで、
「「「鬼…」」」
そう。鬼という言葉がぴったりとあてはまるような気がした。
「あ!たんじろー!いのすけー!義勇さーん!たーすけてー!!」
泣き叫びながら善逸は猛スピードでこちらへ走ってくる。それに応じて鬼もこちらをめがけて移動してくる。
鬼に向かい合ってみると、その異常さがはっきりとわかる。
一応人型をとってはいるが、身長は3メートルを超えており、異様に手足が長い。肌の色は重い空の色も相まってドス黒い赤色が際立っている。そして、顔の上には禍々しい形の角が生えている。
(なんだこの匂い…血生臭いというか、ドブ臭いというか…)
善逸と違い鼻がよくきく炭治郎は異様な匂いを感じ取っていた。
「ねぇぇ!!助け、グハァッ!」
いくら足の速い善逸とはいえ、手足の長い鬼にはすぐに追いつかれてしまい、振り上げられた手によって吹っ飛ばされてしまった。
炭治郎達の目の前に転がる善逸。
「善逸!大丈夫か!」
「くっ…痛い…」
無理もない。
常人は普通数メートルも飛ばされたら良くて大怪我、運悪ければ死んでしまうだろう。たいした怪我がなさそうなのは幸運としか言いようがない。
そうする間に鬼は目の前に迫っていた。
(このままじゃ逃げても捕まるに決まってる。どうする…どうする炭治郎!!)
「炭治郎!これを!」
不意に後ろからどこかで聞いたような、懐かしい少女の声が、匂いが、した。それと同時に思い切り何かが自分の方へ投げられる気配がした。
慌てて振り返って受け取ると
「刀…」
藁にも縋る思いで柄を握り、抜いてみる。
抜くと同時に、刀は金属本来の色から見る間に美しい黒色へと変化する。
そして、同時に炭治郎の脳内にイメージが流れ込む。
仲が良かった家族。
鬼に殺された家族。
生き残った自分と鬼にされた禰 豆子。
鱗滝さんとの過酷な修行の日々。
最終選別を乗り越え始めて手にした自分の刀。
出会った仲間の善逸と伊之助。
失った大切な人たち。
憎き仇、鬼舞辻無惨。
みんなで勝ち取った平穏。
鬼殺隊、竈門炭治郎。
炭治郎は刀をきつく握りしめると100年ぶりの呼吸音を響かせた。
ゴォォォォォォ!!
「ヒノカミ神楽・炎舞!」
伸びゆく鬼の腕を一瞬のうちに両断した。
「「「炭治郎!!」」」
燃え盛る炎を前に鬼に切りかかる炭治郎。
「あいつ…」
それだけで十分だった。
「禰豆子ちゃん…じいちゃん…」「アオイ…」「錆兎…胡蝶…」
次々に記憶が思い出される。
「みんなも、これを!!」
さっき炭治郎に日輪刀を投げてよこした少女がなんとか辿り着くとともに抱えていた刀を残りの3人にも渡した。
「お願い!これで…」
「わかってる!あいつをぶっ倒しゃいいんだろ!」
「や、や、やるしかない…」
「ああ、いける!」
カァァァァァァ!
シィィィィィィ!
ヒュゥゥゥゥゥ!
「獣の呼吸!弐の牙!切り裂き!!」
「雷の呼吸壱の型・霹靂一閃六連」
「水の呼吸参の型・流流舞い!」
迫り来る攻撃を一気に削ったあと、
「いっけぇ!炭治郎!」「首をとれ!」
覚醒した3人を驚きの目で見るとともに、炭治郎は刀を構え直した。
「ヒノカミ神楽・円舞一閃!」
切り返して繰り出した一閃は正確に鬼の首を捉え、振り抜いた。
言葉にできないような断末魔の後鬼の体はボロボロと灰のように崩れていった。
「やっ、やった…」
そういうや否や、刀を握った4人は次々と倒れ込んだ。
「みんな!炭治郎!しっかり!」
すごく懐かしく、愛しい声が炭治郎の耳元で響き、
「カナヲ…」
という言葉とともに意識を手放した。
[newpage]
「…ん、うーん…。ここは…?」
戦いの後気を失った炭治郎は、電灯のついた病室みたいなところで目を覚ました。
「そっか、俺鬼と戦って、それから気を失って…」
どこか蝶屋敷を思い出すような懐かしく清潔感のある空間でぼんやりとした頭の中を整理すると、不意に自分の寝ているベッドの中に気配を感じた。
なんだろう、と確認する間もなく「それ」は炭治郎の体にしがみついてきた。
「ん!?!?」
恐る恐る掛け布団をめくってみると
「カナヲ…。こんなところで何をしてるの?」
その気配は何故か炭治郎のベッドに潜り込んでいた栗花落カナヲであった。そして全く起きる気配がない。
「カナヲ…久しぶりだね。」
そう言って優しく頭を撫でる。
前世では同期であり、大事な仲間であり、そして最愛の人であった。
「前世ではあまり長い間一緒にいれなかったからなぁ。」
戦いの中で痣を発現した炭治郎は25歳までの命と定められてしまった。そんな中でも炭治郎と添い遂げると決めてくれたカナヲ。
「思い返せば何度もカナヲのこと夢に見てた気がする。ずっとまた会えること、夢見てたんだな…。」
「うーん。つい寝ちゃった…。あ!炭治郎!目を覚ましたのね!」
やっとこさ目を覚ましたカナヲは現在の状況を理解するのに5秒ほどかかった。
「ぅあっ!こ、これはその…ごめん炭治郎!!」
慌てて炭治郎のベットから降りる。
「いいよ全然。久しぶり、カナヲ。」
「う、うん…。」
恥ずかしさのあまり俯く。
「刀届けてくれたのカナヲでしょ?ありがとう。」
「い、いや全然…。それより体は大丈夫!?3日も目を覚まさなくて。」
「まさかその間ずっと起きてたとかじゃないよね?」
「そ、そのまさかです…。」
「ダメじゃないか寝なきゃ!俺のベッド使っていいから寝てよ!」
「ダメだよ炭治郎!足痛めてるんだから!」
頑として休もうとしないカナヲに、痺れを切らした炭治郎はあることを思いつく。
「じゃあ、カナヲ、おいで。」
「え、!?」
「一緒のベッド使えばいいんでしょう?」
「あ、いや、あ、その、じゃ、じゃあ…」
なんだかんだ言いつつ顔を真っ赤にしながらもう一度炭治郎のベッドに潜り込む。
「ひゃっ!」
潜り込んだ途端、後ろからそっとカナヲを抱きしめる。
「カナヲ、また会えて本当に嬉しい。」
「わ、私もそ、そうだよ…。会いたかった。」
「ずっと夢に出てきてた。ずっと会いたかったよ。」
「!炭治郎も!?私も夢にずっと炭治郎が出てきてて…ずっと気になってて…。」
「もしよければさ、もう一度、カナヲに恋、してもいい?」
「も、もちろん。前世でも、今も、未来でも炭治郎が好きだよ!」
「おーう!権八郎!見舞いに来てやったぞ!」
「伊之助うるさいよ!炭治郎まだ寝てるかもだろ!」
突如激しく扉を開けて訪れるかまぼこ隊。
「あ」「お!」「きゃっ!」
「「「…」」」
「おぃぃ!!いいご身分ですねぇ炭治郎くーん!?なーにイチャイチャイチャイチャしてんだこのやろー!!キー!!くやしー!!」
「いや、その、これはそのちがくて…」
「なぁにが違うんだばかやろー!こんの…」
「コラーっ!病室で騒がない!!」
殴りかかろうとする善逸を止めたのは、
「アオイさん!」
「炭治郎さんも起きて早々にカナヲとイチャイチャしないでください!カナヲは一刻も早く寝なさい!そして善逸さんと伊之助さんはまだ治りかけだから大人しくしててください!」
一通り追い払ったあと、アオイは一通の手紙を渡してきた。
「こちら、お館様からです。目を覚ましたら一通り目を通してほしいとのことです。」
「お館さま!?お館様も生まれ変わっていらっしゃって…!?」
「まあ詳しくは中をご覧になってください。」
そして去り際になって、
「あ、そうそう。炭治郎さんに一つだけお願いが…」
「はい?」
「カナヲをお願いしますね。」
「は!はい!ってどこから見てたんですかアオイさん!!」
炭治郎の顔を真っ赤にさせてから静かに出ていった。
しばし唖然とした後、気を取り直して御館様からの手紙を開く。
中にはいつしか見たような几帳面かつ流麗な字が並んでいた。
『炭治郎へ
突然このような手紙を渡すことになってすまないね。
この前は君たちで鬼を倒してくれて本当にありがとう。
なぜこの世にまた鬼が出てきたのか、理由はまだわかっていない。
それでも、また以前のように人が鬼に襲われている。
勝手な願いではあるかもしれない。でも、お願いをせざるを得ない。
また、鬼殺隊として戦ってくれないだろうか?
もしこの願いに応えてくれるなら、君が動けるようになり次第柱合会議を開くから、それに出て欲しい。
柱合会議といっても記憶が戻った子はまだ少ないから、とりあえず全員で集まることが目的だ。
どうか、よろしくお願いします。
産屋敷耀哉』
「お館様…当然じゃないですか…」
~次回へ続く~