タルミナ秘文録《ゼルダの伝説 時のプレリュード》 作:北条 ゆう(いすわーる)
何日もの間、ルスタは迷いの森を
夜が明けては霧の深淵に挑み、日が暮れては迷いの森近郊の宿屋で不安な夜を明かす。
何度も何度も、体に刻み込まれた《我が家への道》をなぞった。
しかし、どれほど必死に慎重に歩を進めても、行き着く先はいつも見覚えのない森の開けた場所か、あるいは最初に足を踏み入れた迷いの森の入り口。
「はは……なんだよ、これ……」
ルスタは草地にへたり込んだ。衣服についた土汚れ。
乾いた声でルスタは呟く。
宿場町へ帰る長期休みの期限が迫ってきていた。
ルスタは懐から笛を取り出した。指先が、リンクが丹念に削ってくれた木肌の温もりを捉える。
ルスタはそっと唇を当て、ひとつの旋律を紡ぎ出した。
それはどこか哀愁を帯びた、けれど芯の強い、素朴なメロディだった。
《リンクの歌》。
リンクが『歌作ってみたんだ』と、少し恥ずかしそうに口笛で教えてくれたオリジナル曲。
『ルスタ、外の世界で寂しくなったら、この曲を吹いてよ。僕がどこにいても、すぐルスタのことを見つけられるようにさ』
リンクの、弟のあの優しい笑顔が、脳裏に鮮やかに蘇る。ルスタは溢れそうになる涙を
風が彼の紡ぐ音色を拾い上げ、鬱蒼とした森へと広がっていく。
「――いい曲だな」
最後の長い音が霧の彼方へ溶けていった、その時だった。
突然、頭上から、からからと乾いた鈴の鳴るような声が降ってきた。
ルスタが驚いて顔を上げると、そこには奇妙な生き物が、太い枝に腰掛けて細い足をぶらぶらと揺らしていた。
枯れた木の皮を継ぎ接ぎしたような肉体。大きなオレンジ色の帽子。その奥で、ランタンのように光る一対の瞳。
「君は……?」
「俺はスタルキッド。この森の住人さ」
スタルキッドはひらりと梢から飛び降りると、ルスタの目の前に着地した。
「お前が吹いていたその曲、すごく良い」
ルスタの胸に、一筋の希望が宿る。
「ねえ、スタルキッド。君はこの森の住人なんだろ? だったら……コキリの森への帰り方を知らない? 僕はあそこの住人なんだけど、なぜか帰れなくなっちゃったんだ」
必死に、
「知らない。そんな場所、聞いたこともない」
そして、小さく首を横に振った。
「そう、か……」
ルスタは肩を落とした。やはりコキリの森へ戻る術はないのだろうか。
「なぁ、それよりもっと曲を吹いてよ!」
落胆するルスタ。一方のスタルキッドはルスタの笛を指差し、無邪気に笑った。
「俺、お前の笛の音が気に入ったんだ」
スタルキッドはステップを踏むように、その場でくるくると回り始めた。
「……うん、いいよ」
その純粋な誘いに、ルスタの凍りついていた心が、ほんの少しだけ融かされていく。
「一緒に遊ぼう!」
ルスタは再び笛を構え、リンクの歌を奏でた。スタルキッドはその音色に合わせてステップを踏む。
夕暮れが訪れ、森の影が引き延ばされる頃、ルスタはスタルキッドに手を振って別れを告げた。
「また来るよ、スタルキッド」
「うん、またな。その時は、また曲を聴かせてくれ」
スタルキッドの視線を背中に受けながら、ルスタは森の入り口へと、宿場町へと向かって歩き出していった。
・あとがき
高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです。
それでは、またお会い出来ることを願って。