タルミナ秘文録《ゼルダの伝説 時のプレリュード》   作:北条 ゆう(いすわーる)

11 / 11
《第一〇話:スタルキッド》

 何日もの間、ルスタは迷いの森を彷徨(さまよ)い続けた。

 夜が明けては霧の深淵に挑み、日が暮れては迷いの森近郊の宿屋で不安な夜を明かす。

 何度も何度も、体に刻み込まれた《我が家への道》をなぞった。

 しかし、どれほど必死に慎重に歩を進めても、行き着く先はいつも見覚えのない森の開けた場所か、あるいは最初に足を踏み入れた迷いの森の入り口。

 

「はは……なんだよ、これ……」

 

 ルスタは草地にへたり込んだ。衣服についた土汚れ。

 乾いた声でルスタは呟く。

 宿場町へ帰る長期休みの期限が迫ってきていた。

 ルスタは懐から笛を取り出した。指先が、リンクが丹念に削ってくれた木肌の温もりを捉える。

 ルスタはそっと唇を当て、ひとつの旋律を紡ぎ出した。

 それはどこか哀愁を帯びた、けれど芯の強い、素朴なメロディだった。

 《リンクの歌》。

 リンクが『歌作ってみたんだ』と、少し恥ずかしそうに口笛で教えてくれたオリジナル曲。

 

『ルスタ、外の世界で寂しくなったら、この曲を吹いてよ。僕がどこにいても、すぐルスタのことを見つけられるようにさ』

 

 リンクの、弟のあの優しい笑顔が、脳裏に鮮やかに蘇る。ルスタは溢れそうになる涙を堪(こら)え、祈りを込めて、兄弟へと届くように笛を吹き続けた。

 風が彼の紡ぐ音色を拾い上げ、鬱蒼とした森へと広がっていく。

 

「――いい曲だな」

 

 最後の長い音が霧の彼方へ溶けていった、その時だった。

 突然、頭上から、からからと乾いた鈴の鳴るような声が降ってきた。

 ルスタが驚いて顔を上げると、そこには奇妙な生き物が、太い枝に腰掛けて細い足をぶらぶらと揺らしていた。

 枯れた木の皮を継ぎ接ぎしたような肉体。大きなオレンジ色の帽子。その奥で、ランタンのように光る一対の瞳。

 

「君は……?」

 

「俺はスタルキッド。この森の住人さ」

 

 スタルキッドはひらりと梢から飛び降りると、ルスタの目の前に着地した。

 

「お前が吹いていたその曲、すごく良い」

 

 ルスタの胸に、一筋の希望が宿る。

 

「ねえ、スタルキッド。君はこの森の住人なんだろ? だったら……コキリの森への帰り方を知らない? 僕はあそこの住人なんだけど、なぜか帰れなくなっちゃったんだ」

 

 必死に、縋(すが)り付くようなルスタの問いかけに、スタルキッドはしばし沈黙し、ルスタをじっと見つめる。一五歳のそれへと成長した身体を。

 

「知らない。そんな場所、聞いたこともない」

 

 そして、小さく首を横に振った。

 

「そう、か……」

 

 ルスタは肩を落とした。やはりコキリの森へ戻る術はないのだろうか。

 

「なぁ、それよりもっと曲を吹いてよ!」

 

 落胆するルスタ。一方のスタルキッドはルスタの笛を指差し、無邪気に笑った。

 

「俺、お前の笛の音が気に入ったんだ」

 

 スタルキッドはステップを踏むように、その場でくるくると回り始めた。

 

「……うん、いいよ」

 

 その純粋な誘いに、ルスタの凍りついていた心が、ほんの少しだけ融かされていく。

 

「一緒に遊ぼう!」

 

 ルスタは再び笛を構え、リンクの歌を奏でた。スタルキッドはその音色に合わせてステップを踏む。

 夕暮れが訪れ、森の影が引き延ばされる頃、ルスタはスタルキッドに手を振って別れを告げた。

 

「また来るよ、スタルキッド」

 

「うん、またな。その時は、また曲を聴かせてくれ」

 

 スタルキッドの視線を背中に受けながら、ルスタは森の入り口へと、宿場町へと向かって歩き出していった。




・あとがき

 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです。
 それでは、またお会い出来ることを願って。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。