タルミナ秘文録《ゼルダの伝説 時のプレリュード》 作:北条 ゆう(いすわーる)
『次はきっと、コキリの森に帰れるはずだ』
そう自分に言い聞かせ、流れる歳月。
宿場町で働き、まとまった休みができるたびに、ルスタは迷いの森へと足を運んだが、あの優しき緑の揺り籠は、かつてのように彼を迎え入れてはくれなかった。
いつしか『霧の向こうからリンクたちの声が聞こえるかもしれない』という淡い期待は、諦めへと変わっていった。
ルスタはあの日以来、迷いの森で出くわすスタルキッドと交流することだけを期待するようになっていた。
森の開けた場所でリンクの歌を吹く。すると、あのスタルキッドがひょっこりと姿を現す。
「ルスタ、お前、また大きくなった?」
「そうかな?」
リンクが作ってくれた笛を吹き、スタルキッドと笑い合う。
それでも、ルスタの肉体は時の刻みと共に、着実に《大人》の階段を上り続けていく。
ルスタが一八の歳を迎えた、ある冬の日。
その年の冬はとりわけ寒く、迷いの森へと続く街道には霜の降り、枯れ葉が白く凍りついていた。
迷いの森に到着したルスタ。彼は凍える手で、懐からすっかり
肩幅は広がり、声も低くなった。
「……ふぅ」
白く息を吐き出し、ルスタは唇を笛に当てた。
冷たい空気の中に、リンクの歌が響き渡る。切なくも、温かい旋律。
この曲を吹けばすぐに、あの小さな友達が乾いた笑い声をあげて、やってくるはずだった。
「スタルキッド?」
しかし、最後の音が冬の風にさらわれ消えても、頭上の梢は静まり返ったままだった。寒風が木々を揺らし、葉が擦れ合っている。
ルスタは唇を笛から離し、周囲を見回した。
いつもなら、曲の途中で待ちきれずに飛び出してくるはずだ。場所を変えてもう一度、今度は高めの音で強く吹いてみる。
だが、誰も来ない。
「おーい! スタルキッド! いるんだろ? 出てきてくれよ!」
声を限りに叫んだ。
だが返ってくるのは、沈黙だけだった。
焦燥感に駆られるルスタ。
「うっ……!」
唐突に《強烈な圧》が、ルスタを襲った。
森の空気が、まるで意志を持ったかのように重くなった。息が詰まり、激しい頭痛が襲ってくる。
それだけではない。鬱蒼と茂る木々の隙間から無数の瞳が、自分を《異物》として
その場を離れ、森の入り口へと引き返す。
少し楽になった。
「嘘だ……」
それはさながら、ルスタを森の外へと押し返そうとしているかのよう……
一八歳。それは、この森においてまぎれもなく《大人》と見なされる年齢だった。
子供は受け入る――だが大人を追い返すか、あるいは始末する。
それが迷いの森。
これまで《まだ大人ではない》として見逃されていたルスタ。
だが成長しきった彼の肉体を、森の結界はついに《排除すべき侵入者》と認識したのだ。
「嘘だろ……」
その拒絶の波は、かつてルスタを慕ってくれたスタルキッドにさえ、彼の存在を
ルスタは涙を流しながら、結界の壁に体当たりするように進もうとした。しかし、進めば進むほど四肢は硬直し、視界が歪んでいく。
『このまま進めば正気を失い、死んで《骨の化け物:スタルフォス》になってしまう』
本能がそう警告していた。
ガタガタと震える手。ルスタは地面に座り込んだ。
深い霧。
その向こうにはあるのはコキリの森、リンク、チャット、そしてスタルキッド。
故郷から自分の存在を完全に遮断されたことを、一八歳の青年はついに理解する。
懐にある笛の温もりだけを残して……
心は凍え、虚しく冷え切っていった。
・あとがき
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