タルミナ秘文録《ゼルダの伝説 時のプレリュード》 作:北条 ゆう(いすわーる)
タルミナの男たちが命を
ハイラル王国の情報網。それは遥か天空より地上を見下ろすことのできる圧倒的な《制空権》。避難民たちの隠密行動は最初から手のひらの上で転がされる
タルミナ避難民が街を出て、数日後の昼下がり。
都市国家タルミナから南西のゲルド渓谷へと続く亡命ルート。
それは《ウッドフォールの森》。後に《迷いの森》と呼ばれることになる、深く
「皆さん、ここで一度休憩し、昼食を――」
避難民を先導する警護隊長が、乾いた喉を震わせながら一団にそう声をかけようとした、その瞬間――
――キェェェェェェァァァァァッ!!
突如、雲を突き抜けて、
見上げるルスタの瞳に映ったのは、太陽の光を
すなわち、《ロフトバード騎兵》であった。
「な、なんだ、あの鳥は……! うわああああっ!?」
逃避行の疲れから生じたわずかな安堵は、一瞬にして絶望へと塗り替えられた。
空を埋め尽くす巨鳥の背には、鋼鉄の鎧に身を包んだハイリアの騎士たち。
怪鳥共々、騎士団は冷徹な眼光を放ちながら次々と急降下してくる。彼らにとって、地上で泥にまみれる短耳の民など、天罰を与えるべき野蛮な異教徒に過ぎない。
――ドォォォン!!
上空から容赦なく投下された爆弾が地表で
悲鳴、怒号、そして肉が焦げるおぞましい臭いが、一瞬にして美しいタルミナ平原を地獄へと変えていく。
「ルスタ、離れちゃ駄目! 私の手を握って!!」
母親は叫び、ルスタを
だが、この凄惨な
ある程度の数の警備兵や避難民たちが血の海に沈んだところで、ロフトバード騎兵たちはにわかに動きを変え、逃げ惑う生存者たちを包囲するように
「武器を捨てろ! 這いつくばれ、未開の
高貴な白銀の鎧をまとったハイラル騎士の隊長が、血に濡れた剣を突きつけながら、傲慢な声を響かせる。
彼らの真の狙いは、この場で全員を殺すことではない。生き残った女子供を《
我が子の泣き叫ぶ声を聞かせて戦意を挫き、誇り高き都市を無血開城させるための、冷酷極まりない軍事戦略であった。
「お、お母さん……怖いよ、お母さん……!」
ルスタは血にまみれ、母親の胸に顔を埋め、ガタガタと震えながら
周囲では、泣き叫ぶ子供たちが母親の腕から引き剥がされ、
神に選ばれし民の、圧倒的な暴力。
タルミナの未来は、文字通り踏みにじられようとしている。
勝敗は決した。そう誰もが確信し、ハイラル騎士たちが冷酷な笑みを浮かべている、そんな時だった。
突如として、ウッドフォールの深い原生林から、陽光さえも遮るほどの濃密な何かが溢れ出してきた。
森の木々が生き物のように不気味に蠢き、湿った風が、
「――何だ? 何が来る!」
ロフトバードを降り、地上で避難民を追い詰めていたハイラル騎士の一人が、本能的にその何かを察し、恐怖で声を裏返した。
霧の向こうから、その何かが現れた。
ハイラルの洗練された軍隊とは根底から異なる、この世の理を外れた《森の軍勢》。
カタカタと不吉な骨の鳴る音を響かせ、漆黒の大剣を構えた不死身の《骸骨戦士スタルフォス》の群れ。
その背後からは、まだ子供の輪郭を残しながらも、木の皮で継ぎはぎしたような体を持つ怪異《小鬼スタルキッド》たちが、不気味な笑い声を
さらに、その異形たちに混じり草原を駆けるのは、一五歳ほどの、人間の子供の姿をしたコキリ族の若者たちだった。彼らは童顔に似合わぬ冷徹な眼光を宿し、森の魔導が込められた刃を躊躇なく突き出す。
そしてなにより戦場の空気を一瞬にして凍らせたのは、天空から舞い降りた四人の美女たち。《ウッドフォール神殿》の《神官四姉妹》であった。森の聖なる神殿の守護者たち。
彼女たちが手にしたカンテラから放たれるのは、ハイラルの鋼鉄の鎧などものともしない、強力な魔法の炎。
炎は金属をも発火させ、騎士たちをロフトバード共々次々と焼死させていく。
「異教の化け物どもめ!!
ハイラル聖天騎士隊長は勇ましく叫んだが――
王国軍は大混乱の
大空という絶対的優位を奪われ、地上に降りていたロフトバード騎兵たちは、狭い森の入り口でその機動力を完全に封じられ、森の軍勢の
未だ天空に残る巨大な鳥たちは四姉妹の呪火に狂い恐怖し、主である騎士たちを振り落とさんばかりに暴走を始める。
「ぎゃああああっ! 悪魔だ、森の悪魔が出たぞ!」
「退け! 一旦、この場を離れろ! 退却!!」
さきほどまで傲慢に民を踏みにじっていた神の民の軍勢は、今や見る影もなく潰走していた。誇り高き白銀の鎧は土と鮮血にまみれ、森の軍勢による一方的な
圧倒的な蹂躙の果てに、避難民を襲撃したハイラル軍はほぼ全滅へと追い込まれた。
わずかに生き残った数名の騎士たちだけが、恐怖に顔を青白く染め、狂ったロフトバードを何とかいなし、その背にしがみついて、命からがら
静寂が、再び戦場へと戻る。
大地には無数の死体と、激しい戦闘の余韻で立ち上る黒煙だけが残されていた。
息を潜めていたルスタが母親の胸の中から恐る恐る顔を上げると、そこには血に濡れた剣を杖代わりに地面について立つ、コキリ族の少年の姿があった。
・あとがき
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それでは、またお会い出来ることを願って。