タルミナ秘文録《ゼルダの伝説 時のプレリュード》 作:北条 ゆう(いすわーる)
吹き抜ける巨大な風の咆哮。
目の前に広がるのはハイラル平原。
遥か彼方の地平線まで続く緑の
「うわあ……!」
思わず歓声をあげて駆け出すルスタに、琥珀色の光を放つチャットが慌てて羽を震わせる。
「ちょっとルスタ、急に走らないでよ!」
ハイラル統一戦争終結より、およそ一〇〇年。
現在のハイラル王国は、かつての凄惨な統一戦争の血生臭さを拭い去り、穏やかな平穏と繁栄を
王国は今、安定期を迎えていた。行き交う馬車はのんびりと御者が鼻歌を歌い、街道沿いの宿場町からは美味そうな肉を焼く煙が立ち上っている。
「(でも……なんだろう)」
旅の途中でふと、違和感がルスタの胸をかすめることがあった。
賑やかな街道、すれ違う人々の活気。それらは人間社会で彼が六歳まで過ごした幼少期の記憶を微かに刺激する。
しかし、ルスタがかつて住んでいたタルミナの都市は、高度なからくり技術と重厚な石造りの時計塔がそびえ立つ、今のハイラルとは別の文明だった。
脳内に残る
「本当に子供なんだから……でもまぁ、意外と人間社会も悪くないわね」
とはいえルスタとチャットは、旅を楽しんでいた。
ルスタの懐にある、リンクから貰った木編みの笛。時折それを吹いては、チャットと他愛のない口
幸福な旅路だった。
しかし、世界がどれほど平和に
宿場町や村を訪れるたびに、人々の視線。
建国から時が経ち、混血化が進んだ現代でも、ハイラル王国には根深い階級意識が残っている。
『耳の長い者、すなわちハイリア人は、神に選ばれし高貴な民である』
選民思想。それは人々の血肉に今なお染み付いている。
「おや、ボウズ。ずいぶんと耳が丸いね。どこの流れ者だい?」
宿場で、旅路ですれ違う人々の何気ない一言。そこには明確な悪意まではなくとも《自分たちより下の階層の存在》を見るような、特有の品定めと、どこか息苦しい境界線が存在していた。
「なによ、失礼ね! 耳がどうしたっていうのよ!!」
ルスタの耳は丸い。尖っていない。それは紛れもなく、かつて滅ぼされたタルミナの民の証。
ルスタの肩口からチャットが勢いよく飛び出し、琥珀色の光を撒き散らしながら相手の鼻先を突っついた。
「わ、わっ! なんだ、この妖精!!」
「チャット、やめなよ!」
ルスタが慌ててチャットを
「ははっ、なるほど。《森の迷い子》かい」
「可愛いお供を連れてるねぇ。ほら、お腹が空いてるなら、このリンゴでもおあがり」
《優しい目》。
耳の尖っていない未開の子供であるけれど、森の神聖な妖精を連れている『ちょっと変わった、無害な存在』に対する、好奇が混ざった、ペットを愛でるような眼差しだった。
「みんな、親切だね。チャットが可愛いからかな」
「……あんたねぇ。まぁ、私が可愛いのは事実だけどさ」
チャットは羽の光を少し陰らせ、複雑そうな声で呟いた。妖精である彼女には、大人たちの視線に含まれる、うっすらとした選別と差別の臭いが分かっていたのかもしれない。
しかし、隣で純粋に世界を信じ、リンゴをかじって笑っているルスタの笑顔を前に、それ以上の言葉を続けることはしなかった。
・あとがき
switch2『ゼルダの伝説 時のオカリナ』かなりレベルアップしてそうで、楽しみですね♪
高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(^^)
それでは、またお会い出来ることを願って。