肌に触れる太陽の光が、じりじりと熱い。
でも、それを吹き払うように吹き抜ける風が、とても心地良かった。
私はサンダルを脱いで、素足のまま波打ち際に立つ。
ひんやりとした波の満ち引きが、足首から少しずつ体温を攫っていく。
今の私には、それがたまらなく気持ちいい。
どぉん、と大きな音が響いて、青空に色とりどりの花火が咲いた。
まだ真昼間だというのに、はっきりと見える。
魔法による花火なのだろう。
あそこに集まっている、楽しげなヒカセン達が上げているに違いない。
美食家ゲゲルジュさんからの依頼の品を納品するため、私とソリさん、ベレナールさんの三人は、東ラノシアのコスタ・デル・ソルまでやってきていた。
明日から紅蓮祭が始まると聞いて、急遽リムサ・ロミンサで宿を取り、滞在を一日延ばすことにしたのだ。
グリダニアからの移動には、初めて飛空艇を使った。
揺れも少なく、あっという間に景色が切り替わっていく空の旅は、想像していたよりずっと快適だった。
一緒に乗った親子チョコボも、初めての空の旅に興奮したのか、船室の窓に張り付いてはあちこちを眺めていた。
親子は今も楽しそうに砂浜を走り、見つけた蟹や魚をつついている。
先生はパラソルの下で荷物の番してくれてる。
海水は魔導人形の身体にあまり良くないらしい。
「おーい、こっちこっち!新商品らしいぞ、これ!みんなで飲んでみよう!」
ベレナールさんが両手にドリンクを三つ抱えて、砂を蹴りながら駆け寄ってくる。
グラスの中身は、この海と空をそのまま閉じ込めたような、真っ青な色をしていた。
前世でいうところの、ブルーハワイのシロップに似た味だろうか。
そんなことを想像しながら手を伸ばそうとしたところで――ベレナールさんが、私の後ろを見たまま固まった。
「え?」
不思議に思って振り返る。
「遅くなってごめんなさい。この新しい水着、着るのがなかなか難しくて……変じゃないかしら?」
歩いてくるソリさんの姿に、私は思わず息を呑んだ。
いつもの装備からは想像もつかない、大胆な水着姿。
同性の私でさえ、見惚れてしまったくらいだ。
鎧に隠れていたから気づかなかったけれど、ソリさんって着痩せするタイプだったんだ……。
エレゼンはただでさえモデル体型の人が多い種族だけど、まさかここまで見事なプロポーションだったなんて。
「ソリさん、とても素敵です!」
ちらり、とベレナールさんの様子を窺う。
案の定、耳まで真っ赤にして、慌てて視線を逸らしながら「お、おう……綺麗だぞ」とだけ絞り出していた。
「そう? それなら良かったわ。ありがとう」
くすくすと笑うソリさん。
その何気ない微笑みですら、やけに色っぽく見えてしまう。
うーん。
ソリさんは二十代のエレゼン。
対して私は、この前誕生日を迎えて十三歳になったばかりのヒューラン。
あと十年くらい経ったら、私もあの色気に追いつけたりするんだろうか。
……いや、無理だろうな。
今の私の顔立ちは、どちらかというと可愛い系だ。
もちろんFF14基準なので、前世と比べれば圧倒的な美少女ではあるのだけれど。
でも周りも全員そうなのだ。
ヒカセンもNPCも、揃いも揃って出会う人達は美男美女ばかりだった。
ちなみに私は自前の水着を持っていなかった。
水着装備は前世のゲーム内でも、入手手段が限られている、かなり貴重なものだった。
今回はソリさんが子供の頃に着ていたという、白いワンピース型の水着を借りていた。
サイズがぴったりだったので、そこはほっとした。
向こうの砂浜では、たくさんのヒカセン達も水着や夏らしい装備で思い思いのポーズを取り、魔法で撮影しあっているのが見えた。
「そうだ、私、撮影魔法のグループポーズを覚えたんです! 私達も撮りましょう。来られなかったボルダーさんとクルトゥネさんにも、あとで見せてあげたいですし」
鞄から取り出した魔導具に魔力を通すと、空中に青く輝く結晶が浮かび上がる。
三人並んで、思い思いのポーズを取った。
しゃん、と軽い音が鳴って、光の粒が結晶に吸い込まれていく。
――来年もまた、ここに来よう。
今度はボルダーさんとクルトゥネさんも一緒に。
それに、院のみんなとも来たい。
複数人で乗れる大きな乗り物を手に入れて、イディルシャイアの外にみんなを連れ出して、こういう景色を一緒に見たい。
それも、私の中でいつの間にか大きな目標のひとつになっていた。
この二ヶ月ほど、私達は本当にたくさんのことがあった。
◇
あのタムタラの墓所(HARD)から生還した日の数日後、相談の場にて、ボルダーさんが教えてくれた。
「四人でダンジョンに潜ることが多いのは事実です。ですが、必ず四人でなければならないという決まりはありませんよ」
――そうだ。よく考えれば、ゲームでもヒカセン四人パーティーに加えて、複数のNPCが同行するダンジョンはいくつかあった。
だから二回目以降の攻略には、ボルダーさんの相棒である巴術士、クルトゥネさんが加わることになった。
クルトゥネさんは物静かで、あまり多くを語らない人だけれど、魔導書を片手に戦う姿はとても格好良くて、見ていて飽きなかった。
五人になったことで、ある程度のイレギュラーが起きても対応できる余裕が生まれた。
そして私達は、個人の訓練とパーティーとしての連携訓練、装備の見直しを、これまで以上に念入りに行うようになった。
ソリさんとベレナールさんは、グリダニアの幻術士ギルドに登録し、基礎的な風の魔法と回復魔法を習得していた。
私に回復を任せきりにしていたことを、ずっと気にしていたらしい。
でも、この短期間での習得は、正直かなり驚いた。
二人とも、向上心と才能がすごい。
私の方はというと、複数人を同時に癒す回復魔法を――まだ範囲も回復量も心許ないけれど――ようやく使えるようになった。
訓練中や、実際にダンジョンで、自分ではない誰かの怪我を治療する時に、回復魔法は上達が早い気がしている。
無詠唱による魔法の効率化も、最近の訓練メニューに入れるようにしている。
また、無詠唱の訓練に合わせて、あの墓所で偶然できてしまった魔法剣についても、少しずつ練習を重ねていた。
あの時のように、闇と光を同時に剣へ纏わせるのは、正直まだ難しい。
先生と相談しながらいろいろ試したところ、夜の洞窟のような暗い場所では闇の力が扱いやすく、日中の屋外では光や炎、風の方が纏いやすいということが分かってきた。
どうやら、その場を満たす環境エーテルの属性に合わせた方が、無理なく扱えるらしい。
こうした準備を重ねたうえで、私達が挑んだのは、ラノシアのサスタシャ浸食洞と、ザナラーンのカルン埋没寺院だった。
どちらも、パーティー連携の成果もあってか、拍子抜けするくらい順調に攻略できた。
タムタラの時のように、途中でダンジョンの様相が変わってしまうこともなかった。
あれは本当に、かなりのイレギュラーだったのだと思う。
それでも、ダンジョンにはああいうことも起こり得るのだと知ってしまった今、備えを怠るつもりは一切ない。
もうひとつ、カルン埋没寺院で私にとって大きな収穫があった。
古代の言語で記された、一冊の魔導書を手に入れたのだ。
依頼のない休みの日には、先生に手伝ってもらいながら、少しずつ解読を進めている。
クルトゥネさんと行動を共にしたことと、この魔導書を手に入れたこと。
そのふたつが重なって、私はある考えを抱くようになっていた。
まだ先生とも相談中だし、上手くいくかどうかも分からない。
マトーヤ様に許可をいただかなければいけないことでもある。
だから、今はまだ保留中だ。
でも――この先の旅を続けていくために、ソレはきっと私達の選択肢を大きく広げる1つの手段だ。
そんな風に、私はひそかに考え始めていた。
◇
ラノシアでの観光を終えてグリダニアに戻ると、双蛇党の詰所が、いつになく騒がしかった。
大勢の兵が慌ただしく行き来している。
私達も気になって駆け寄り、話を聞いた。
偽の双蛇党の制服を着た者達が、ガレマール帝国の拠点『バエサルの長城』を強襲し、大きな戦闘が起きているのだという。
また、それに呼応するように、グリダニアに近い黒衣の森の各地でも、帝国兵との小競り合いが相次いで発生しているらしい。
首謀者は、鉄仮面を名乗る、過激派アラミゴ解放軍。
その名前を聞いた瞬間、私の中で何かが繋がった。
――そうか。
――そうなんだ。
ついに、始まったんだ。
新生と蒼天、そこから続く次のフェーズ。
ガレマール帝国との戦いが、これから本格的に激化していく。
私が前世で知っている物語――紅蓮のリベレーターへと続く、これはその最初の火種だった。
アラミゴは、グリダニアからも近い。
エオルゼア諸国の中でも、とりわけ因縁の深い土地だ。
これから先、新兵である私も、ソリさんも、ベレナールさんも、いずれこの戦いに関わっていくことになるのだろう。
波打ち際で感じていた、あの穏やかな海風の心地良さが、ふと遠いもののように思えてくる。
旅の中で出会った景色や、人や、いくつもの温かさ。
それらを大切に抱えたまま、私はこれから、これまでとは違う緊張感の中へ進んでいくことになる。
戦場の炎の気配が、まだ見ぬ未来から、確かにこちらへと近づいてきていた。
次話は幕間として掲示板回となります。
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