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──嫌だ。
その一言だけが、私……小日向未来の心を埋め尽くしていた。
「未来は、帰る場所がある」
目の前で笑う少女は自分の親友である知る立花響で、とは違う世界を生きてきたもう一人の立花響だった。
その笑顔を、未来は知っている。誰かを守ると決めた時にだけ見せる、覚悟を隠した笑顔。
「だから──」
「待って!」
手を伸ばせば届くはずだった。あと少し……あと指先が数センチ届けば。
「響!」
私の叫びは虚しく……光は響の身体を包み込む。
「えっ……?」
響は、光の粒となって消えた。
「響ッ!!」
未来の叫びは、何も掴めない空間へ吸い込まれていく。残ったのは、冷たい静寂だけだった。
「……どうして」
膝から力が抜ける。
「どうして、私なの……」
消えるなら不幸を乗り越えた響じゃなくて自分なべきだった。助けられる価値があったのは自分ではない。なのに。
「響ぃ……」
手を見つめる。さっきまで繋いでいた温もりは、もうない。
「ごめん……」
助けてもらった。また何もできなかった。またあの日も……ライブの日も。
「どうして……こんなことに……」
響は自分を庇った。響は傷付いた。響は皆から責められた。
そして今まさに理不尽な光に包まれて消えた。
「嫌……」
涙が止まらない。
「もう嫌だよ……」
誰かが何かを言っている。それでも何も聞こえない。
未来の視界は白く染まっていく。
(響……お願い帰ってきて)
『こんな世界……壊れてしまえば良いよね?』
(もうどうなっていい。だから──)
その瞬間……世界が、砕けた。
◇
……鳥の声がする。
朝日がカーテンの隙間から差し込む。ゆっくりと瞼を開くと見慣れた天井と見慣れた部屋が広がっている。
「……え」
身体を起こす。机。本棚。制服。その全部昔のままだ。
「夢……?」
違う。
「あれは夢なんかじゃない」
涙で濡れた頬が、それを否定していた。震える手でカレンダーを見る。
その日付を見た瞬間私の呼吸が止まる。
「今日は。──ツヴァイウィングのライブ当日」
私達の運命が狂ったまさにその日。私がこれから盛岡に行って……それで響と離別する。
「そんな……」
あり得ない。あの日だ。すべてが始まった日だ。たまらず私はテレビを点ける。
『本日開催されるツヴァイウィングライブ──』
聞き慣れたニュースキャスターの声。思わず私はリモコンを落とした。
【ガタリ】……と床に乾いた音が響く。
「戻って……きた……?」
理解できない。けれど一つだけ確かなことがあった。
「まだ、響は生きている。まだ、あの日は始まっていない」
私は震える足で立ち上がり、制服を抱き締めた。
「今度は……」
涙が一筋、頬を伝う。
「今度は絶対に……」
脳裏に浮かぶのは、最後まで笑っていたもう一人の響。
『お願い……また私と過ごしてくれたら……』
「お願いなんて、されたくなかったよ……。お願いじゃなくても……一緒にいたかったよぉ」
私は嗚咽を漏らしながら首を振る。
「私は……。私はもう……」
誰も失いたくない。ライブの日も。あの日の悲劇も。
「響が傷付く未来なんて変えられるなら変えたい」。
そして──**理由も分からないまま、響が目の前から消えてしまう、あの絶望だけは。**
※※※
未来に識らない記憶が流れている時間とほぼ同時刻に1人の少女が息を絶え絶えにして足を引き摺りながら歩いていた。
「この……場所は……そう……」
少女にとっては懐かしく……そして希望と絶望が同居する場所だった。
「あの娘は……辿り着いたのかしら……」
動く度に滴る血を気にする余裕もなく少女は歩き続ける。そして次第に彼女の音と光が失われていく。
「お前! そこで何をして……ッ!」
会場入りをしていた天羽奏が彼女を発見するが彼女は奏への反応を示さない。その理由は残酷だった。
「……誰かそこにいる……そうなのね? でもごめんなさい……既に目と耳がうまく……効かないの……」
「おいしっかりしろ! 死ぬなよ!」
感じた気配だけを頼りに少女は言葉を振り絞る。
「シェンショウジン……そのギアと装者を……」
「おいしっかりしろ! 目を開けろ翼ぁ!」
少女……風鳴翼は意識を手放した。しかし奏の目の前にいる翼は
「とにかく医務室だ! すぐに手当てを!」
奏はそのツバサ(異性界の翼)を背負うと駆け出した。
※※※
「奏……どこにいっ…………ッ!」
「急いで手当てをしてくれ! 酷い状態なんだ!」
戻らない奏を心配したこの世界の風鳴翼はその背の人物を見て驚愕する。
「状況や事情は分からない! でもまだ助けられる!」
二課の職員総出でツバサの処置を始める。しかし状況は混乱をしていた。
「翼さんが……2人……? 彼女は何者なのでしょうか?」
「分からない……会場の傍で倒れてた」
「……そうか」
司令である風鳴弦十郎もこの状況に混乱していた。しかしツバサが意識を取り戻せなければ状況が進展しないと判断し話題を切り替える。
「トラブルはあったが我々の目的を果たす。分かってるな?」
「はい!」
※※※
運命の歯車が回り始めようとしていた。しかし小日向未来は知らない。
この世界には、"響が消える未来"など存在しないことを。
だからこそ彼女は、来るはずのないその瞬間に、誰よりも怯えながら未来へと歩き始めるのだった。
最初の世界はXDUで舞台になった【陰り裂く閃光】世界であり、あの世界を滅ぼしたのは闇落ちした未来さんです。そして奏とあった翼さんはあの世界の翼さんです。
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