(この場をどうしたものか、気まずい雰囲気が流れる)
ピロンという音と共に、リンからの通信が繋がる。
「先生、少しお時間…よろしいでしょうか?」
どうも動揺を隠しきれない様子である。
「回復されたサンクトゥムから、連邦生徒会長の置き土産が出力されました」
綺麗なグラデーションのシャーレのエンブレムが印刷された封筒を、リンが持っている。
「そこに、狐坂ワカモはいますか?」
「……いるんですね…」
リンから、頭が痛そうな雰囲気が出る。
「これは、連邦生徒会長と貴女が結んだ契約書と、それに付随する処理済み書類数々です」
「狐坂ワカモ、貴女、これの存在を知っていましたね?」
ワカモは、付けていた狐面を側頭部にずらしながら答える。
「ええ、知っていますとも」
「作ってしまえば、連邦生徒会長本人ですら破ることが出来ない、連邦生徒会長の任に就いた者のみが作成を許されるオーパーツの契約書」
「連邦生徒会長が個人の裁量で揮える中で、最強の矛にして盾」
「彼女本人から説明を受けましたもの、もちろん知っていますとも」
「彼女と私の直筆のサインと血判にて結ばれたその契約の証人は、キヴォトスそのもの」
ワカモの爛爛とした瞳から、炎染みた光が零れてるように見える。
「連邦生徒会長代行様は、このワカモに何を問いたいので?」
「…会長との契約に縛られていることの確認はとれたので、いまはそれだけで良しとします」
リンの視線が、先生の方を向く。
「先生、お手数ですが、シャーレの代表として、狐坂ワカモを連れて、連邦生徒会へ来てください」
「…会長が何を考えていたのか、わかりませんが、この契約には、先生のサインと血判も、本日中の狐坂ワカモ立ち合いの元で必要となっています」
「行われなかったら何が起こるのか、失踪した会長しか知りません。なるべく早く来てください」
リンからの通信が切れる。
(何が起こっているのかわからず、困惑が解消されなかった生徒達と再開の約束を結んで、この場は解散した)
問題の契約は、細かい条項が多いが、大まかには
・連邦生徒会長の権限と責任において、狐坂ワカモを初代シャーレの先生個人の秘書兼護衛として雇用する
・契約書は連邦生徒会長と狐坂ワカモとの間での口頭誓約を担保する
・狐坂ワカモは誓約における制約の範囲内での自己裁量での行動を許される
・計上される功が罪を上回れば一部制約が解除され、下回れば下回る程有効になる制約が増える
・契約におけるペナルティを負うのは、連邦生徒会長と狐坂ワカモであり、契約の詳細を知ることが可能なのは、両名のみである
・サインと血判は記載したものの存命を証明し、全サインと血判の消滅により、ただちに契約の効力を消失し、契約書はただの書類となる
・狐坂ワカモの功は終始奉仕として扱い、罪は狐坂ワカモに課され、罰は連邦生徒会長と狐坂ワカモ両名の過失として、比で分けられ清算される
ものであるようだ。
責任を負う者としてキヴォトスを訪れた私が、最初に結ぶ契約が、己にはその責任を負う権利がないことを認めるものだというのは
皮肉なようにも感じる
これが例外だとしても、こういう契約があるということ自体を、軽すぎず重すぎず気を付けねばならないなと
少し残ってた油断染みた甘えが絞られ、気が引き締まったような感じがした。