その時またまた歴史が動いた。   作:dwwyakata@2024

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ラインハルトの邪魔者が皇帝も含めて全部いなくなった帝国。

ではラインハルトが一気に天下を取れるか。

それは残念ながらノーです。

ちなみに本作は、アスターテ会戦が起きる前に帝国が爆発四散した状況を想定しています。故に発生時ラインハルトはまだ上級大将であり、元帥として帝国宇宙艦隊の半数九個艦隊を指揮下に入れていません。






1、帝国大乱

帝国宇宙軍上級大将であるラインハルトは、姉アンネローゼの入院の手配を済ませると、忙しい日々を送っていた。

 

いくつかの戦役に参加する予定が、全て凍結された。

 

それもまあ当然だろう。

 

そもそもとして皇帝が死んだのだ。

 

しかも、である。

 

連絡があったが、同盟でも首脳部が一網打尽に消えたという話がある。毎年戦争ばかりしていた両陣営は、それどころではなくなった。

 

ラインハルトとしてみたら、どのような手を使ってでもぶち殺してやろうと思っていた皇帝が、勝手に死んだのは色々腑に落ちないが。

 

それでも、好機は好機である。

 

一日だけ頭を整理させるために部屋をうろうろしたりキルヒアイスや他の士官とともに組み手をしたり。

 

それで一旦は頭を冷やすと、動き出していた。

 

文字通り蜂の巣をつついたような騒ぎの中、ラインハルトは即座に軍の掌握を開始したのである。

 

かろうじて宇宙艦隊をまとめていたミュッケンベルガー元帥も、この事態には色々と思うところがあるらしく。

 

宇宙軍には動かないように厳命。

 

これに対して、各地の貴族が治安維持を理由に出動を求めてきていたが、それも拒否していた。

 

ミュッケンベルガー元帥はラインハルトから見て、どうにか合格点のラインにいる指揮官であり。

 

無能ではないが、求めるほどの者でもない。

 

その元帥府に出向いたラインハルトは、提案をしたのだった。

 

それはロイエンタール、ミッターマイヤーをはじめとする、ラインハルトが目をつけていた若き俊英達を部下にするものだった。

 

いずれもが、軍では必ずしも厚遇はされていない。

 

全員大貴族ではないからである。

 

お世辞にもまともとは言いがたい帝国軍では、平民出身の士官は、大貴族出身の下士官よりも発言権がなかったりする。

 

ラインハルトが抜擢しようとしているミッターマイヤーは現在少将だが、大貴族出身の佐官が文句を言った場合。彼らに強制は難しく、作戦行動に支障を出しているそうである。

 

「これらの指揮官を部下に入れたい?」

 

「は。 これから帝国の混乱は加速しましょう。 小官がこれより精鋭を募り、各地での争乱を鎮めて参ります」

 

「却下」

 

「……理由を聞かせていただきたく」

 

ミュッケンベルガーは言う。

 

そなたの考えは見え透いていると。

 

「ともかくこれ以上事態をややこしくするな。 しばらくはおとなしくしていてほしい」

 

「おとなしくも何も、これから帝国は大乱に落ちます。 皇位継承者が後ろ盾のない女性二人と、まだ幼児の男子のみ。 しかも後ろ盾になり得る大貴族はあらかたこの間の爆弾テロにて命を落としています」

 

「分かっておる。 だが、貴官に任せたら、この帝国を乗っ取られてしまうわ。 この私でも、それくらいは分からないと思うか?」

 

沈黙が流れる。

 

周囲が真っ青になって困惑する中。

 

ミュッケンベルガーは言う。

 

「ともかく、誰かしらの大貴族と手でも組んで、後ろ盾にするのだな。 貴官だけに任せていたら、とんでもない事になりかねん」

 

「分かりました。 良きように」

 

「……」

 

そのままラインハルトは元帥府を後にする。

 

側に着いているキルヒアイスに、愚痴をこぼしていた。

 

「あの場で殺しておくべきだったかもしれないな」

 

「無茶を言ってはいけません。 確かにあの場の人員程度なら、私とラインハルト様だけで全員を倒すことも可能であったでしょうが、その後がどうなるか見当もつきません」

 

「そうだな。 それにしても頭が固いだけだと思っていたが、ミュッケンベルガーもなかなか洞察が出来ているではないか」

 

「元々閨閥でもないのに元帥にまで昇進した人物です。 大貴族といってもかなり下の方だと聞きます。 その評価は伊達ではなかったと言うことですね」

 

ともかく、何人かの大貴族と会う。

 

マリーンドルフ家の温厚そうな……温厚なだけの伯爵は、まあ話していて味方にはなりそうだったが。

 

別に力にはならないだろう。

 

娘がとんでもない切れ者だと聞くが、まあそれは会ってみないとなんとも言えない。

 

何人かの貴族と面会しているうちに、ついに大物が来た。

 

リヒテンラーデ侯。

 

宰相をしており、前皇帝の盟友として若い頃から面識があった人物だ。

 

今ではすっかり陰険そうな老人に化けているが。

 

実のところは、若い頃はそれなりに美男子であったらしい。まあ誰しも、年を取ると変わるのである。

 

リヒテンラーデ侯はいう。

 

「貴官を帝国元帥として、ミュッケンベルガー元帥の後釜に据えたい」

 

「はあ。 しかしそれにふさわしい大功がありませんが」

 

「ミュッケンベルガー元帥がすっかり嫌気がさしているようでな。 それと断絶した名家を継いでくれないか」

 

至れり尽くせりだが。

 

こんな古狸が、こんな条件を出してくるには理由がある。

 

オフィスで、ラインハルトは腹の探り合いを行う。

 

「それで小官に何をお求めで」

 

「帝国の体制を維持するには、ヨーゼフ殿下に強力な後ろ盾が必要だ。 軍でも声望が高い貴官をどこかしらの名家を相続させて大貴族とし、それで軍事面の後ろ盾となってもらう。 私が政治面での後ろ盾となる。 それでどうにか当座はしのぐしかないだろう」

 

「小官には良いことしかありませんな」

 

「何が言いたい」

 

リヒテンラーデの年老いた顔に影が差す。

 

今までにない大混乱にある帝国だ。

 

此奴がどうにか収束させたいと考えているのは分かっている。

 

だが、それはそれとして。

 

ラインハルトみたいな危険人物に軍権を与えるのが、悪手だというのもわかりきっている筈なのだ。

 

「条件が一つ。 元帥府を設立した後は、私が選抜した士官達を麾下に入れる事を許可していただきたく」

 

「分かった。 その代わり、事は一秒を争う。 ヨーゼフ殿下を即位させたら、必ず力を貸すように」

 

「了解しました」

 

「……」

 

リヒテンラーデがラインハルトのオフィスから帰る。

 

ラインハルトは舌打ちすると、キルヒアイスに指示。

 

あれの監視をしろと。

 

キルヒアイスも、即座にラインハルトに心酔している部下達をまとめて監視部隊を編成。こうして両者は、手を組んだ端から、火花を散らし始めていたのだった。

 

 

 

ヨーゼフ帝が即位すると同時に、ラインハルトは帝国元帥となった。ミュッケンベルガー元帥は最後まで反対していたようだが、リヒテンラーデが元帥府を訪れると、無言で元帥を退いたようである。

 

何を言ったのかは分からないが。

 

多分何かしらの弱みでも握られていたのだろう。

 

ラインハルトは其処で、早速前々から目をつけていた部下達を集め始めたが。それはそれとして、宇宙艦隊の集まりは著しく悪かった。

 

帝国の正式宇宙艦隊は18個。このほかに、各地の大貴族が抱える私兵や、前線であるイゼルローン要塞などに駐屯する兵がいる。いずれにしても戦力的には合計で40万隻ほどになるが、これを一度に動かすのは極めて困難だ。

 

ラインハルトが求めたのは、正式18個艦隊の半数ほどでも指揮下に、というものだったが。

 

いわゆる帝国三元帥。

 

ミュッケンベルガー元帥は退役したとして、残りのエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥が頑強に抵抗。

 

九個艦隊を麾下に入れたいと思っていたラインハルトのところには、四個艦隊だけが残ったのだった。

 

ラインハルトとしては、これはリヒテンラーデの仕事だろうと思ったのだが。

 

リヒテンラーデは言う。

 

「貴官がいう大功がないが故な。 まずはこれで実績を上げてほしい」

 

「四個艦隊の大軍であればだいたいのことはなせますが」

 

「そうであろうな。 ではまず、首都星オーディンと主要航路の安全確保をしてほしい。 帝国の混乱は既に始まっている。 各地で独立をもくろむ大貴族がいる。 それを掣肘しておきたいのでな」

 

「……分かりました」

 

ともかくだ。

 

四個艦隊を、ラインハルトの直衛、キルヒアイス。それから以前から部下にほしいと考えていたミッターマイヤー、ロイエンタールのそれぞれで指揮する態勢を整える。それに伴って、ミッターマイヤーとロイエンタールは中将に昇進。どちらも艦隊司令官としてふさわしい地位に昇った。

 

また同時に、少将だったキルヒアイスを上級大将に昇進。

 

いきなり上級大将とはと、意見を述べる者もいたのだが。ラインハルトは一蹴。

 

そしてこの四個艦隊をもって、首都星オーディンの周辺航路の安全確保に乗り出していた。

 

陸戦部隊は憲兵隊から抜擢したケスラーという人物が指揮して、オーディンの治安を確保。

 

更にラインハルトは主要航路を抑え、荷物をまとめてオーディンから逃れようとしていた大貴族を多数捕縛していた。

 

理由などどうでもいい。

 

リヒテンラーデが勝手にでっち上げてくれる。

 

その過程で少なからず交戦が発生したが、いずれにも完勝。まずは、このくらいであろうか。

 

オーディンが平穏を取り戻したのはひと月ほど後。

 

治安の迅速な回復にリヒテンラーデは満足したようだが、問題はまだある。

 

ブラウンシュバイク公の甥であり、以前からラインハルトを目の敵にしていたフレーゲル男爵等を中心とした貴族達が、反乱の兆候を見せ始めているのである。

 

まとまりは皆無だが、各地に散らばっているそれらを鎮圧するのは極めて難しい。

 

しかも秩序が皆無なので、首都星オーディンに仕掛けてくる可能性も否定できないのだ。

 

此処で、やっと更にリヒテンラーデが二個艦隊をラインハルトに渡した。

 

「手続きが必要だから」とか抜かして、散々渋っているのは面倒くさいことこの上ない話だ。

 

それに、である。

 

リヒテンラーデが王宮の親衛隊の一部を抱き込み始めている事は、既にキルヒアイスからもラインハルトは報告を受けていた。

 

「そうなると私はオーディンを離れるわけにはいかんな。 皇帝などどうでもいいが、姉上の身が心配だ」

 

「確かに状況が悪うございますね。 これで誰かしらまとめ役の大貴族がいれば、撃破はむしろ容易だったかも知れませんが」

 

「そうだな……」

 

幸いにもと言うべきか、

 

一番大貴族側についたら面倒だった帝国の驍将、メルカッツはオーディンで家族と一緒におとなしくしてくれている。

 

ラインハルトが何回か部下にならないかと誘ったが、退役まで考えている様子で、無理強いも出来ない。

 

元々寡黙で規律正しい人物で、ラインハルトとしても悪く思ったことはない。頑迷な老人だとばかり思っていたが、何度かの軍事作戦で見事な作戦手腕を見て、今では考えを変えていた。

 

優秀な相手には敬意を払う。

 

それがラインハルトの流儀だ。

 

ただし、無能であってもふさわしくない立場にいないのであれば、ラインハルトは慈しむ。

 

ラインハルトは極貧家庭の出身であり、末端の人々が何を考えているかも理解はしている。

 

ラインハルトが憎んでいるのは、能力にふさわしくない地位にしがみついている無能……今の門閥貴族などであり。

 

民衆達は、ラインハルトにとって憎悪の対象でも軽蔑の対象でもない。

 

その苛烈な能力主義は、時々部下からルドルフ帝の再来ではないのかとささやかれることもあるが。

 

民衆に対しての思想は、ルドルフと真逆であり。

 

少なくとも現時点ではそれが、ラインハルトとルドルフの差を決定的なものとしているのだった。

 

ともかく、キルヒアイスを総司令官に、ミッターマイヤーとロイエンタールを麾下に入れた三個艦隊を討伐部隊として編成。

 

リヒテンラーデが招集を掛けても無視している大貴族の討伐に向かわせる。

 

だが、大半の艦隊はオーディンで係留されたままで。一部に至っては、各地で大貴族に私物化さえされている。

 

ラインハルトは新たに「下げ渡していただいた」二個艦隊の編成を進め。若手士官の抜擢を進めながら。

 

今はともかく、盟友による貴族どもの討伐を待つしかないというまどろっこしい事をしなければならなかった。

 

ラインハルト自身が出たい位だが。

 

ここまで状況が悪いと、まだ入院中のアンネローゼを放っておけないのである。

 

ラインハルトはオーディンにて、陸戦部隊を編成しているケスラーに増員を次々に送り。

 

更に自身は残る二個艦隊の編成を済ませる。

 

この二個艦隊には、ケンプ中将とビッテンフェルト中将を当てる。

 

この二人は攻撃型の猛将だが、単独で動くのは厳しい。キルヒアイスが第一次遠征から戻ったら人員を変更して、手を分けて効率よく門閥貴族どもを駆除したいところであるのだが。

 

ともかく手元に艦隊がない。

 

まだエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥は頑強にラインハルトに対する抵抗を続けており。

 

引退してひねくれたように屋敷に閉じこもってしまったミュッケンベルガーとは真逆の、抵抗の姿勢を隠してもいなかった。

 

どちらも指揮官としての能力はどうでもいいのだが、とにかく今回は事態の進展が急で、ラインハルトとしても力尽くで軍を麾下に入れると言う訳にもいかない。

 

このため、中将級の指揮官が何人も麾下にいるのに、艦隊を任せるわけにもいかないというもどかしい状況の中にいた。

 

程なくして、勝利の報告が届く。

 

少将の階級を持っているフレーゲルらが、寄せ集めの艦隊を集めてキルヒアイスに挑み、一蹴された。

 

こちらの被害は300隻程度だったのに対して、フレーゲルらは九割近い艦隊を破壊、捕獲され。フレーゲルらも戦死した。

 

まずは大勝利だが。

 

これによって、各地の門閥貴族が一斉に恐怖から蜂起。

 

それを各地に兵を派遣して、一つずつ潰さなければならなくなったのだ。

 

しかも、近隣の門閥貴族は、案の定オーディンに仕掛けてくる可能性が生じてきている。

 

現在麾下に入れているケンプとビッテンフェルトの艦隊は、単独行動を任せても成果を出しづらい攻撃型の編成だ。

 

キルヒアイス達は即座に各地の大貴族を潰しに掛かっているが、数ヶ月は戻ってこられない。

 

リヒテンラーデに鬼のようにお電話を入れるラインハルトだが。

 

リヒテンラーデは「調整に時間が掛かっている」の一点張りで、ラインハルトを怒らせるばかりだった。

 

そうこうしているうちに、寄せ集めの艦隊がオーディンに襲来する。

 

勿論ラインハルトが直にビッテンフェルトとケンプを率いて、鎧袖一触に叩き潰したが。

 

そうすると、今度はオーディンでエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥が反乱の兆候を見せ。

 

慌てて戻り。

 

素知らぬふりをしている二人を監視しなければならないほどだった。

 

「もどかしい!」

 

キレたビッテンフェルトが、軍を用いてエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥の元帥府を制圧するべきだと主張した。

 

元ワルキューレ(帝国の宇宙戦闘艇)の撃墜王であるケンプもそれに同意したが、まだ状況的にまずい。

 

オーディンに駐屯している艦隊が一斉に牙をむいたら厄介なことになるのだ。

 

相手は烏合の衆だが、それでも数が多い。万が一を避けるためにも、慎重にならなければならないのである。

 

「元帥閣下!」

 

「どうしたビッテンフェルト中将」

 

「アンネローゼ様を、我が旗艦ケーニヒスティーゲルにお迎えいたしたく! 我が旗艦であれば、一騎当千の猛者達が集っており、もやしのような首都星の兵士など、近づくことも出来ません! そこで首都星を制圧してですな!」

 

「大変に興味深い提案だが、今は抑えよ。 私とて、旗艦ブリュンヒルトに姉上を迎えてしまいたいほどなのだ」

 

そう言うと、流石にビッテンフェルトも黙る。

 

むむむと不満そうだが。

 

此奴はなんだかんだでラインハルトには絶対忠誠を誓ってくれているので。そこは心配していない。

 

連日キルヒアイスの指揮する討伐艦隊は各地で戦果を挙げており、名のある門閥貴族が次々にお空の星に変えられているが。

 

ともかく数が多すぎる。

 

そうしている間に、やっと追加で一個艦隊がラインハルトのところに配属されたが。配属された艦隊を見て、ラインハルトは絶句していた。

 

完全に老廃兵と旧式艦艇の寄せ集めだ。

 

どうやらエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥が嫌がらせをして、各艦隊から役立たずを引き抜いて、渡してきたらしい。

 

それをリヒテンラーデは怒りもせず、右から左へ決済したというわけだ。

 

艦隊の惨状を見て、ビッテンフェルトは戦だと絶叫したが。ケンプが止めろと冷静に言う。

 

この艦隊はワーレン中将に任され、艦隊の整備と人員の再配置、再編成などが行われたが。

 

予備戦力以外にはならない。

 

ただし、予備戦力としては活用できる。

 

時間が過ぎていく中、どうにか艦隊の再編成を終えたワーレンを、キルヒアイスのところに送る。

 

それと同時に、各地で降伏したり捕虜になった兵士や艦艇が、わんさかオーディンに送り返されてきた。

 

相手がどんなザコでも、キルヒアイスが指揮をしていても。

 

これだけの連戦では、どうしても疲弊する。

 

これらの部隊を護衛、監視していたのは、いずれもがそういった疲弊した、損傷艦、傷病兵などの部隊であり。

 

ワーレンの艦隊はその代役にしかならないが。それでも代役が必要なのだ。

 

相変わらず、散発的にオーディンに大貴族の艦隊が攻めてくる。ラインハルトが迎撃する。

 

エーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥が嫌がらせをする。

 

その繰り返しが続くうちに。

 

一年が経過していた。

 

 

 

一度キルヒアイスが王都に帰還してくる。反乱を起こした大貴族の内、三割ほどを処分しての帰還だが。まだ七割が残っている。

 

膨大な捕虜を得て、ラインハルトは辟易していた。

 

とにかく仕事が忙しすぎる。

 

まだエーレンベルクとシュタインホフは嫌がらせを継続している。面倒なのは、この二人が「形式的に」「味方」であることだ。

 

現在オーディンは孤立しており、少しずつ領土を広げている状態なのだが。

 

門閥貴族にまとめ役が存在しないこともあって、まとまることも、各個撃破も、いずれもが難しい。

 

それぞれが勝手に領地に立てこもって、護衛艦隊や私兵の艦隊を用いて割拠している。貴族同士でも争いが始まっている有様だ。

 

この状況だと、流石に経済基盤となっているオーディンだけを抑えていても、どうしようもない。

 

こういう状態では、敵同然でも、これ以上味方を失うわけにはいかないのだ。

 

要所をキルヒアイスが取り返してきたが、それらにも散発的に貴族達が仕掛けてきている状態で。

 

他の貴族がけっちょんけちょんに負けたという情報が流れても、それでもなぜか謎の自信で「平民相手に負けるわけがない」とか思い込んで仕掛けてきて爆発四散する。巻き込まれる兵士達が気の毒ではあるのだが。

 

困ったことに、帝国がまとめて機能停止したため、貴族領土は却って無事で。一つずつ潰さなければならない事になったのだ。

 

幸いと言うべきか。

 

捕虜の内、ラインハルトに従う姿勢を見せる平民の兵士は多い。

 

それらを組織して、艦隊を編成。

 

ルッツ提督、ミュラー提督、メックリンガー提督等に艦隊を任せたが。この艦隊はまだまだ練度などに問題があり、即座に出すことが出来るわけではない。

 

幸いと言うべきか、キルヒアイスの活躍で、一年程度で要所は押さえることが出来た。だが、此処からすっ飛んでいく、というわけにも行かない。

 

まだまだ門閥貴族はわんさかおり。

 

それらがオーディンに散発的に仕掛けてくるから、である。

 

そこで艦隊を編成。

 

キルヒアイスとミッターマイヤー、ロイエンタールにそれぞれメックリンガー、ビッテンフェルト、ワーレン、ルッツ、それぞれの艦隊を任せる。

 

代わりにケンプはミュラーとともに、オーディンを守る。

 

地上軍はケスラーが率いて、オーディンの要所を固める。

 

だいぶこれで手駒がそろってきたが。

 

なおも問題は多く生じていた。

 

イゼルローンから急報である。

 

ラインハルトは書類仕事を終えて、アンネローゼのいる病院を訪問して。そして元帥府で、それを聞いて。

 

思わず立ち上がっていた。

 

「イゼルローンで反乱だと!?」

 

「はい。 イゼルローンに逃げ込んだ門閥貴族達が、ゼークト、シュトックハウゼン、両大将とともに反乱を起こしました。 しかも銀河帝国正当政府を名乗り始めたようです」

 

「……」

 

頭が痛い。

 

実は似たような名前で帝国正当を名乗る門閥貴族はわんさか出てきている。問題は其処ではない。

 

帝国と同盟の間にあり。

 

両者の通行を塞ぐも同然の要所であるイゼルローンでそれが起きた、ということである。

 

ゼークトもシュトックハウゼンもラインハルトは知っているが、はっきり言って大した提督ではない。

 

典型的な門閥貴族出身の提督で、「貴族としての箔がほしい」という理由で大将になっているだけの輩だ。

 

指揮能力は一応最低限はあるが、それしかない。

 

問題はイゼルローン要塞が過去に何度も同盟軍を撃退している強大な宇宙要塞であり、駐屯している正規軍艦隊だけで二万隻に達すると言うことだ。

 

つまり、いきなりとんでもない巨大軍事勢力が出現したことになる。

 

イゼルローン要塞は内部に強大な自給自足のシステムを抱えており、二万隻と五百万人程度の人員であれば、全く問題なく支え続けることが可能だ。

 

勿論指揮官がアホなので、落とす事は容易だが。

 

問題は現状、たどり着く手段がないと言うことである。

 

戻ってきたばかりのキルヒアイスに、ラインハルトは首を振った。

 

「流石に俺もこの状況では、出来る事が限られてしまうな……」

 

「ラインハルト様……」

 

「キルヒアイス、姉上と会ったらすぐに貴族どもの処理に再度向かってくれ。 今度は手を三つに分けるが、遠征艦隊の総司令官はお前だ。 皆優れた提督であるし、判断は一任する」

 

「分かりました。 必ずや、可能な限り最速での鎮圧を行います」

 

キルヒアイスの能力は、ラインハルトの分身と言うにふさわしい。

 

頷くと、ラインハルトは新しく部下になった提督達の顔を見に行く。

 

まだ人員が足りないし。

 

この中の誰が、裏切るかも分からない状態だ。

 

せめてもう少し後に皇帝が死んでくれたら。帝国宇宙艦隊の半数でも掌握できていれば、話は違ったのだが。

 

今はともかく、敗残兵と、エーレンベルクとシュタインホフが渋りながら出してくる兵士を再編成して、組織化するところからやらなければならず。

 

それらの経歴をケスラーに洗わせ。

 

ラインハルト自身も、身辺に気をつけなければならない状態だ。

 

其処まで考えて、はっと思い出す。

 

もう何年か経たないうちに、これ以上もないほど残虐にブッ殺してやると、皇帝に対してずっと思っていたのに。

 

死なれて困ったなどと、どうしてラインハルトは思ったのか。

 

ラインハルトはリアリストであろうと考えている。これはあくまで、全てを円滑に動かすために、だ。

 

そんなリアリストのラインハルトだから、皇帝に対する即座の反乱など起こさずに、機会を待っていたのだ。

 

まさかこんな形で、もう少し皇帝が長生きしてくれていればと思うことになるとは。

 

それに政敵として邪魔で仕方がなかったブラウンシュバイクとリッテンハイムが消えたことが、こんなに足を引っ張ることになるとは。

 

大きくため息をつくと、ラインハルトは従者にココアを買いにやらせた。

 

そしてクリームと砂糖をドバドバ入れて、血糖値が跳ね上がるような「とても頭が悪い甘すぎるココア」を作ると、それをどこにも誰にもぶつけようのない苛立ちとともに飲み干したのだった。







流石に此処までの事態が起きると、ラインハルトでもどうにもなりません。

有能な敵はいない代わりに、無能な味方が足を引っ張りまくるからです。

ラインハルトもこういう場合にはとてもあたまがわるい飲み物でも口にして、八つ当たりをしたくなるのです。



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