その時またまた歴史が動いた。   作:dwwyakata@2024

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同盟がイゼルローンを奪取。これに対して帝国ではリップシュタットなど問題にもならない大内乱が発生しています。

ラインハルトは同盟にも備えなければならなくなりました。

そんなとき、接近してきたのがかの義眼の男です。





3、加速する混乱

不機嫌極まりないラインハルトのところに、オーベルシュタイン少将が来る。この間抜擢したこの参謀は、冷酷極まりない陰険な謀略で次々とオーディンにいる無能な味方を処理しているが。

 

そのやり口が残虐すぎて、キルヒアイスをはじめとする他全員から嫌われていた。

 

ラインハルトもはっきり言って嫌いだったが。

 

それでもオーベルシュタインが有能なこと。

 

更には非常に優れた知略を持っていて、忠誠心も疑う余地がないこと。

 

これを理解していたので、部下として重宝していた。

 

ラインハルトも激情に突き動かされる人間ではあったが。

 

こんな時キルヒアイスが側にいたらどう言うか。

 

実際に現在、帝国中を走り回って、門閥貴族を片っ端からしばき回ってくれている親友の理性的な言葉を思い出す度に。

 

激情を客観的な理性が押さえ込むのだった。

 

「ラインハルト閣下」

 

「どうした」

 

「エーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥が反乱を企んでいるようにございます」

 

「ほう……」

 

まあ、そんな事実はないだろう。

 

オーベルシュタインは、あくまでそれをでっち上げる方法を考えついた、ということだろう。

 

問題は、両元帥ともに元帥府を抱えている事で。

 

現在どうにかラインハルトが掌握した艦隊の他、オーディンに残っている六個正式艦隊は、二人の麾下にあると言うことだ。

 

なんとかこれを有名無実化したいところなのだが。

 

頑強に両元帥が抵抗する上に。

 

ラインハルトの軍事力強化をリヒテンラーデ公が好まない事もある。

 

奸物三人が協力して、ラインハルトを隙あれば後ろから刺そうとしており。

 

このため、ケスラー麾下の少なくない兵力を常時姉上のいる病院の護衛につけざるを得ず。

 

更には、麾下の艦隊を、オーディンから遠ざけることも出来ない状態にあるのだった。

 

ラインハルトは戦略的に勝つことを基本としていて。

 

戦略的に極めてよろしくない今の状況では、とにかく各個に撃破していくしかないと理解している。

 

オーベルシュタインは、帝都で軟禁されている故ブラウンシュバイクの娘であるエリザベートや、同じく故リッテンハイムの娘であるサビーネとの政略結婚を提案してきたほどである。

 

だがラインハルトは二人を知っていて。

 

どっちも見かけだけのオツムがアホな女なので興味はなかったし。

 

今更閨閥に加担して、それで貴族の一員として振る舞うのも馬鹿馬鹿しい。

 

手としては確かにありなのだが。

 

今はそれではないと判断していた。

 

ともかくだ。

 

邪魔なシュタインホフ元帥とエーレンベルク元帥をどうにか始末できるのなら、それに越したことはない。

 

だが陰謀に関しては、リヒテンラーデも相当なものだ。

 

良くしたもので、リヒテンラーデは最近は、ラインハルトと二人きりでの面会を避けている。

 

オーベルシュタインが現れてから、特に身の危険を感じたからかもしれない。

 

「それでどのような手段を執る」

 

「現在密偵が工作を進めておりますが、それぞれの元に、それぞれがローエングラム閣下と裏で手を結んだという情報を流しております。 既に二人とも、互いを疑い始めている兆候がございます」

 

「二人はそれなりに長い付き合いだと聞くが」

 

「勿論その通りです。 しかしながら、いくつかの不和の種がございまして」

 

そう言って、オーベルシュタインはある手帳を取り出す。

 

それはケスラーに過去預けた手帳だ。

 

昔ラインハルトは、無能な老将である(しかし先帝の若い頃からの悪友でもあった)グリンメルスハウゼンという提督の下にいたことがある。

 

この人物は自他共に認める無能者だったのだが、だがそれが故に、彼の前では多くの貴族が口をすべらせた。

 

人畜無害な老人を装いながら、グリンメルスハウゼンはそれらをずっと……貴族社会の醜聞を、手帳に残していたのである。

 

本来ラインハルトはそれを使う気はなかったのだが。

 

去年から解禁した。

 

内戦が長期化して、とにかく手段を選んでいられなくなったのだ。

 

同盟もイゼルローンを攻略して以降、どうやら国内で主戦派と反戦派がもめにもめているようだが。

 

それでも帝国側に攻め込んでくることはなく。

 

国内の整備を急速に進めているらしい。

 

あまり内戦が長引くと、長年の疲弊を立て直される可能性がある。

 

その上フェザーンの商人達はほとんどが同盟に逃げ込んだようである。これは門閥貴族達が揃いも揃って無能で強欲で。

 

かろうじて存在していた秩序が失われてからというもの、それに拍車が掛かったからである。

 

商売が成立しない上に治安が悪すぎる。

 

そうなれば。国内を再建中で内戦も起きていない同盟の方が稼ぎやすい。

 

それにフェザーンから逃げ込んできた帝国の駐留武官達から聴取は終えているのだが。どうやら同盟は内密に膨大な借金をフェザーンにしていたらしく。フェザーンがなんだかよく分からない内輪もめの末に破綻した今。その借金を合法的に踏み倒して、経済的にも一息ついているらしい。

 

逆に帝国はラインハルトとキルヒアイスに別れての内乱鎮圧を続けているが、まだ四割近くが反乱を続けていて。そのほとんどが独立国を自称している状態だ。

 

ラインハルト麾下の兵員は千二百万程度で、残りはエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥の麾下か、各地の貴族達に従っている状態。現在五百万ほどを再編成し続けているが。それも信頼性が低い。

 

とにかく麾下の提督達には、予備兵力の再編と訓練を続けさせるばかりで。

 

現状五千万を有する同盟艦隊には、これでは対応できない。

 

エーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥を黙らせて、麾下にいる戦力をどうにか奪取できれば話は変わる。

 

オーベルシュタインのやり口は気にくわないが。

 

今は兵力の確保が最優先なのだ。

 

「それでどれくらい掛かる」

 

「三ヶ月ほどかと」

 

「分かった。 ともかく、今はあの三匹の老怪の連携を崩すことだ。 出来るだけ急いでやれ」

 

「は……」

 

オーベルシュタインが行く。

 

そして、また別口から連絡。

 

ミュラー提督が訓練中の艦隊が、またまたオーディンに仕掛けてきた貴族達の艦隊を確認。

 

規模は二個艦隊ほどもいるという。

 

現在帝都にいるラインハルト麾下の艦隊は、ケンプとミュラーとラインハルトの直衛艦隊だけ。

 

今は出来るだけ帝都から動きたくない。

 

ラインハルトはケンプにも支援に行かせると、後は雑務をこなす。

 

二日ほどで、貴族達の艦隊を壊滅させたと連絡が来る。

 

まあ雑兵の集まりだ。

 

この程度は軽いだろう。

 

キルヒアイス達も、各地で確実に勝ちを重ねているが。有人惑星の制圧と、自治の付与に苦労しているらしい。

 

嫌がらせのためにリヒテンラーデの派遣した徴税吏などが横から口を挟んでくるらしく。それらを押さえ込むのに四苦八苦しているようだ。

 

リヒテンラーデも一応形では皇帝を抑えている状態。

 

まだ六個艦隊、帝都に「無傷の」「味方ではない」艦隊がいる状況だ。

 

ラインハルトも、強攻策をとれないのが厳しいところだった。

 

いっそ、キルヒアイス達を連れ戻すかと何回か考えた。

 

一度オーディンを完全に武力制圧して、それからと思ったのだが。

 

しかしながら、エーレンベルク元帥もシュタインホフ元帥も、それに供えて準備を進めており。

 

もしも力尽くでやれば、最悪オーディンは灰になる。

 

今、そうするわけにも行かない。

 

悩みは多かった。

 

三ヶ月が過ぎ。そして、成果が出る。

 

エーレンベルク元帥が、裏で手を組みたいとラインハルトに言ってきたのである。程なくして、シュタインホフ元帥も同じように言ってきた。

 

オーベルシュタインがどんな手口を使ったのかには興味はない。

 

今は、ただ。

 

これを利用して、オーディンを制圧することが大事だった。

 

 

 

またマスコミを満載した民間船がイゼルローンにやってきた。

 

現在イゼルローンは、ウランフ提督とヤンが固め。ビュコック提督が「要塞司令長官」として赴任する強力な体勢を取っている。

 

生半可な相手には負けない強力な陣容であり、常時二万隻を収容できるイゼルローンの内外に合計五万隻の艦隊が展開している状態だが。

 

それでもヤンは充分ではないと判断していて。

 

今まで同盟国内に配備していた役にも立たない防衛要塞の類を、どんどんイゼルローンにかき集めていた。

 

残りはフェザーン回廊を睨むウルヴァシーに集めており。

 

此処も周囲に軍事拠点が増やされ、次々に艦隊が集まってきている。

 

何かあっても即応できる。

 

その状態は出来てきているのだが。

 

殺気だった「記者団」が乗り込んでくると、門前払いとも行かず。ウランフ提督は前線の偵察に行ってしまい。ビュコック提督は要塞の視察に出かけてしまったので。ヤンが対応しなければならなかった。

 

いつも三人で分担して定期的に来る血の気が多いマスコミに対応しているのである。

 

同盟を代表する猛将で知られるウランフ提督が、この間帝国領に攻め込むべきですよねとかほざいた記者団に、それは小官が決めることではないと一喝。

 

ビュコック提督もあまり真面目に相手にしてくれないと言うこともあり。

 

それ以降は、記者団は明確にヤンにターゲットを絞っている。

 

しかもどこからか行動のタイムスケジュールを入手したのか、ヤンが要塞にいる時を見計らって記者団が来るので。ヤンも辟易していた。

 

ともかく記者会見をしなければならない。

 

先にレベロ議長から、とにかく対応をしてくれと、本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げられて。

 

更に減った髪の毛を見せられてしまったので。

 

ヤンもああだこうだは言えなかった。

 

レベロ議長はそれほど髪の毛が減っている方ではなかったのだが、それだけストレスが激甚だと言うことだ。

 

現在のところ、かろうじてここ二年戦争がなかったこと。

 

主戦派の議員が戦争を表だって煽らなかったこと。

 

更には憂国騎士団を代表とする好戦的な団体が黙ったこと。

 

それらもあって、かろうじて和平派が有利だが。

 

どうしても声が大きい奴は目立つし。

 

古今東西、マスコミというのは声が大きい奴にばかりすり寄る傾向がある。

 

というわけで、また記者会見である。

 

ヤンのところには、顔も覚えていない記者達が殺気だった様子でずらりと並んでいて。人間の壁を作っている薔薇の騎士連隊にも怯んでいなかった。

 

「ヤン提督! イゼルローンに駐留している艦隊の精強さ、素晴らしいですね! 帝国のどのような艦隊が来ても退けられるのではないでしょうか」

 

「それは考えにくいですね」

 

ヤンが一蹴。

 

そして丁寧に説明する。

 

「古今東西、「難攻不落」とされた要塞のほとんど全てが陥落していて、このイゼルローンとて例外ではありません。 更に問題なのは、もしも帝国の内戦が終わり、再編成が終わった場合。 このイゼルローン要塞は、戦略的価値を変える可能性があるということです」

 

「ええと、具体的にお願いできますか」

 

まあ相手は素人集団だ。

 

ヤンも咳払いすると、説明を進める。

 

元々イゼルローンには占拠を目的とした攻撃が行われてきていた。しかしながら、もしもイゼルローン要塞を必要ないと帝国側が判断した場合、どうなるか。

 

何かしらの拠点をイゼルローン回廊の外側にでも作って、其処に大兵力が駐屯するくらいならいい。

 

もっと簡単なのは。

 

この直径六十キロの人工天体を。

 

破壊してしまうことだ。

 

それを説明すると、記者達がぞっとした様子で黙り込む。

 

実のところ、この規模の小惑星程度だったら、現在の人類は充分に破壊する技術を持っている。

 

巨大な質量兵器でも勿論構わないし。

 

限定的な手段にはなるが、例えばマイクロブラックホールを投射するという戦術も存在する。

 

勿論簡単にそれらを許す気はない。

 

ただし、帝国がイゼルローン要塞を破壊するつもりで攻撃を仕掛けてきた場合には。どのような手段を執ってくるかは分からないし。

 

それを確定で防ぎきれるとは分からないのだ。

 

「幸い、現在帝国では内戦が続いています。 この内戦はローエングラム公の勝利に終わるでしょう。 先ほど、ローエングラム公が政敵であるエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥をともに排除したという情報が入ってきました。 これで恐らくローエングラム公の勝利は加速し、二年以内には終わると思われます。 我々がやるのは、その二年の間に、無駄に侵攻して戦力を削ることではありません。 今まで失った社会の損失を、少しでも回復させることです。 ガーズなどには、少年兵すら配備されているケースがあるほどなんです。 表向きには「バイト」だの「契約社員」だのの名目でね」

 

それを指摘すると、記者団は更に黙り込む。

 

軍ですら大人が一線以外に配備されているのだ。

 

他の場所の人材の枯渇がどれほどか。

 

少しでも考えれば分かるだろうに。

 

それが分からないで、それでいながら正義だ大儀だと抜かして。視聴率と発行部数を稼ぐ事しか考えていない記者達に、ヤンは正直頭に来ていた。

 

「前線は正規軍艦隊が守ります。 貴方達が今するべき事は、主戦をいたずらに煽るのではなく、二年後くらいに収まる帝国の内乱、その後あの天才ローエングラム公が圧倒的な大軍で攻め込んできた時のために、同盟の国力を再建すべく、人々が努力するように報道することではないのですか。 我々も現在は、難民の受け入れや、散発的に仕掛けてくる門閥貴族の艦隊を退けるので忙しい。 それを理解していただきたく存じます」

 

「……」

 

記者達が黙り込んだので、追い返す。

 

全員が帰った後、ヤンは大きなため息をついていた。

 

シェーンコップがコーヒーを持ってくる。

 

紅茶の方が好きなのを知っている癖に。

 

まあ、どうせ此処に紅茶があってもまずいだけだが。

 

それでも貴重な物資を無駄にするわけにもいかないので、飲む。苦いし酸味が強くて安物だ。

 

こういうのも軍の兵士の士気を下げる。

 

悪名高い後方士官のドーソン中将のように、ダストシュートを調べてじゃがいもがどれだけ無駄に捨てられていた、みたいなアホな発表をするつもりはないが。それでも、ヤンとしても無駄は避けたいのだ。

 

「お疲れ様ですな。 それにしても、記者達を黙らせた手腕、同盟の広報担当でもやっていけるのでは」

 

「勘弁してくれ。 ローエングラム公はオーディンでの政敵を排除して、これから帝国の再統一を加速させる。 私は二年といったが、それより早く済むかもしれない。 その後は帝国を再建するのに、そうだな。 多分二年くらいはかかるだろう。 ただそれは楽観で、下手をすると二年後くらいに、十万隻を超える艦隊がイゼルローン回廊に押し寄せるかも知れない。 フェザーン回廊にも同時にね」

 

「しかしそれは悲観の話です。 そううまくいかない可能性もあるのでは?」

 

「一番やらなければならないのは客観的な分析なんだが、今はとにかく情報が足りていない。 なら悲観で考えるしかないのさ」

 

「それは分かりますが」

 

デスクに戻る。

 

戻ると、要塞内の防衛強化の視察をしていたビュコック提督から、ねぎらいと、次は自分が対応するというメールが来ていた。

 

ありがたい話だが。

 

多分ウルヴァシーにもああいう記者団は来ていて、主戦派が喜びそうなインタビューに応じる提督を探しているはずだ。

 

この間サンドル=アラルコンという准将が、もろにその手の主戦派が喜びそうなインタビューをしていて。

 

それでヤンも大きなため息をついた。

 

しかも此奴は、民間人を虐殺した容疑が掛かっている札付きの問題人物で、指揮能力はあっても軍人失格である。

 

こういうのを記者団が探して徘徊していると思うと。

 

この国は大丈夫なのだろうか。

 

ハイネセンの求めた自立自活自尊の概念は既に死んでしまったのではないか。

 

そうヤンは悲しくなるのだ。

 

ほどなく「うるさい蠅」がいなくなったからか、ウランフ提督も戻ってくる。今日も考えもなしに突っ込んでくる門閥貴族の艦艇数十隻ほどを処分したらしいが、別に報告する必要もない。

 

三人で色々と打ち合わせをしておく。

 

ヤンの予定では恐らく四年で決定的に状況が変わる。

 

それまでに、どうにかローエングラム公が率いる大艦隊に対応する準備をしておかなければならない。

 

かろうじて国内では和平派が主流で。

 

主戦派が最高評議会を独占する様子はない。

 

それも今のままではどうなることか。

 

頭が痛い話だった。

 

「偵察艦隊から入電!」

 

「!」

 

「帝国正規軍艦隊を確認! 旗艦バルバロッサです!」

 

旗艦バルバロッサといえば、キルヒアイス提督。ローエングラム公の腹心が乗るものである。

 

同時に三個艦隊に達する艦隊も確認されたという。

 

にわかに緊張が走る。

 

だが、偵察艦隊からの情報だと、バルバロッサはイゼルローン回廊には目もくれず。麾下の艦隊とともに、恐らくこの辺りの支配をしている門閥貴族を討伐しに向かったらしいと連絡が来た。

 

胸をなで下ろしている場合ではない。

 

ついに最辺境である此処まで、ローエングラム公の麾下の部隊が来たと言うことである。

 

それは、門閥貴族達が追い詰められていると言うこと。

 

ローエングラム公の帝国再編が、予想より早く済む可能性が高くなったことを意味していた。

 

「これは油断出来んな。 ハイネセンに連絡して、更に防備を固めるべく、可能な限り無駄を避けるようにしてもらわねばならん」

 

「厄介な話です。 また主戦派が勢いづきますね」

 

「そうだな……。 わしのような老人が先に死ぬのが正しい社会だ。 これ以上若者を無駄死にさせたくはないものだな」

 

ビュコック提督がぼやく。

 

再編の作業をしているうちに、明らかに足腰に問題が出てきている。

 

同盟の戦歴とともにあるような人だ。

 

一兵卒から始まって、現在は大将。近いうちに元帥になるだろうとも言われている。一兵卒から元帥になることは、昔の軍隊では考えられなかったことだが。今では普通にあることだ。

 

一兵卒から将官にまで出世した人物が、現在の同盟では現役で十名以上いる。

 

「あまり無理をなさらず。 ビュコック提督に今前線を離れられては困ります」

 

「そうだな……」

 

虎のような気迫を誇る老提督も、苦笑いする。

 

あまり未来は明るいようには見えない。

 

 

 

キルヒアイスが連絡を入れてきて、不機嫌な中ラインハルトは応じた。キルヒアイスの連絡だ。

 

嬉しいはずなのに。

 

やっと邪魔だったエーレンベルク元帥とシュタインホフ元帥を引退させた。

 

だが、それと同時に、多数の兵士が、一斉にボイコットしたのである。

 

ラインハルトの麾下に結局収まったのは半数ほど。残りは故郷に帰りたいと申し出てきたのだった。

 

後で分かったのだが、両元帥とも、いずれはラインハルトに敗れる可能性が高いと見越していたらしい。

 

其処で人員を操作して、門閥貴族領に故郷がある兵士達を多数集めて、首都に配備していたそうだ。

 

それらの兵士にとっては、ラインハルトが勝とうが門閥貴族が勝とうが、どうでもいい兵士も多い。

 

故郷に帰って、家族に会いたいのである。

 

想定以上に麾下に入れる事が出来た兵士が少なくて、ラインハルトは色々苛立っていたのだが。

 

ともかく、キルヒアイスからの急報だ。でないわけにも行かなかった。

 

立体映像でキルヒアイスの連絡を受けると、流石に不機嫌も多少収まる。これで姉上もいて、一緒に姉上の作った料理でも食べられればいいのだが。

 

姉上はあの爆発事故の後遺症で、恐らくは左手が生涯不自由になり、歩くのも補助が必要となるらしい。

 

勿論キルヒアイスはそんなことは気にもしないだろう。二人が好き合っているのはラインハルトも知っているし。

 

皇帝になったら二人の結婚を祝福するつもりだが。

 

料理が食べられないのは事実で。

 

それは悲しかった。

 

「ラインハルト様。 急報です」

 

「うむ。 如何したか」

 

「こちらをご覧ください」

 

キルヒアイスが見せてきた映像は、地獄絵図だった。

 

ブラウンシュバイクの一族のなんとか言う伯爵の領土で起きた惨劇だ。貴族の支配が終わったと判断した民衆と貴族側の兵士達が激突。

 

兵士達の中からも民衆に味方する者が出て、壮絶な殺し合いになった。

 

結果としてなんとか伯爵は死んだ。

 

それは良いのだが、キルヒアイスが駆けつけた時には、壮絶な殺しあいの末に、領土は滅茶苦茶になっていたのである。

 

破壊され尽くした街。

 

泣いている子供。

 

焼けただれた死体があちこちに散らばっている。

 

戦場で様々な悲惨なものを見てきたラインハルトも、流石に青ざめていた。

 

「敗色濃厚となった貴族達の領地で、似たようなことが次々に起きているようです。 既にロイエンタール、ミッターマイヤー両提督も派遣して事態の収拾を進めていますが、物資が足りません」

 

「分かった、すぐにオーディンから送ろう」

 

「お願いいたします」

 

敬礼すると、キルヒアイスの映像が途切れる。

 

超光速通信によるものだが。

 

久々の連絡がコレか。

 

ともかく、アイゼナッハという極めて無口で、「はい」「いいえ」しか口にしないと噂の士官に補給を指示。

 

やっと帝都防衛の余裕が出来たこともある。

 

ケンプに補給艦隊を護衛させ、ピストン輸送で前線に送り出させる。

 

報告書が来る。

 

キルヒアイスからのまとめだった。

 

現在の状況だと、恐らく後一年半ほどで内乱を終わらせることが可能だ。門閥貴族達はまとまりもなく、各個撃破は容易。

 

それに対して、こちらは戦力を増している。

 

恐らくは、全土平定はそれほど難しくはない。

 

問題はその後。

 

予想以上に各地の荒廃が酷い。

 

貴族達がため込んでいた財産は、大混乱の中で相当量が失われてしまっている。中にはフェザーン商人によって買いたたかれてしまったものまであるようだ。

 

これらの財産は、ラインハルトが復興資金として当てにしていたのだが、そう簡単に事態は進まないらしい。

 

頭が痛い話だった。

 

オーディンの周辺は幸い安全も確保でき、ハラスメント攻撃をしてきていた門閥貴族はあらかた片付けた。

 

軍事的な盟友を失ったリヒテンラーデは現在おとなしくしている。ケスラーに命じて監視もつけている。

 

だが、流石に帝国を制圧するまで、皇帝に即位するつもりはない。

 

実質的な最大権力者になる云々の問題ではなく。帝国の混乱が一段落してから、というのが理由だ。

 

出来れば同盟を征服してからが好ましかったのだが。

 

実はそれも難しくなりつつある。

 

オーベルシュタインが来た。

 

「閣下。 レポートをまとめました」

 

「ああ」

 

ざっと目を通す。

 

この内乱が終わった後の帝国の状況だ。

 

門閥貴族どもがまとめていなくなることで、帝国は正常化する。それについては大変に素晴らしい。

 

問題はそれからである。

 

国内の荒廃ぶりが凄まじいのだ。

 

貴族達も内乱で資産をほとんど吐き出してしまっていて、復興資金も捻出しなければならない。

 

これから民衆の抑圧されていた権利などを解放して、味方につけるまではいい。

 

問題は、想定されるその後の軍事力だ。

 

「無理がない範囲だと、艦艇十二個艦隊……」

 

「はい。 同盟艦隊と同規模。 各地の護衛艦隊をあわせると、同盟艦隊の方が多くなるでしょうな」

 

「しかも資金的には限界か」

 

「は……」

 

帝国の人口は同盟の約倍だが、倍もいながら百五十年も互角の戦いを続けてきた。勿論初期はもっと差があった。

 

それが両国の内実を意味している。

 

同盟も近年は弱体化していたが。

 

どうにか四苦八苦しながら主戦派を押さえ込んでいる事で、国力が回復しつつある状態だ。

 

それに対して帝国はどんどん国力が落ちている。

 

勿論リヒテンラーデを排除して、ラインハルトが改革を主導して回復させるつもりだが。

 

同盟からの馬鹿げた大規模侵攻作戦でもやって自滅でもしてくれない限り、これは短期間で同盟を滅亡させるのは難しい。

 

しかも十二個艦隊の戦力には、最新鋭艦ばかりとはいかない。

 

この懐事情では、国を再建することに注力した場合。更に常備軍を減らさなければならなくなる可能性すらある。

 

レポートを読み進める。

 

帝国国内を安定させ、経済を好転させるまでに掛かる年月。

 

予想では二十年。

 

オーベルシュタインは嘘を言わない。

 

いや、ラインハルトの前で嘘を言わない、が正しいか。忠誠を誓ってくれているからこそのデータだ。

 

そしてラインハルトは知っている。

 

あのルドルフでさえ。

 

自分の身長と体重を測量の単位としようとした時。部下が出してきたデータ変更にかかる天文学的な金額が記された見積書を見て、思いとどまったという事実に。

 

ラインハルトは現実を無視するつもりはない。

 

金がなければ改革は出来ないのだ。

 

頭をかきむしりたくなるが、オーベルシュタインの前で弱みを見せるつもりはなかった。

 

「分かった。 卿は同盟の動きを監視しつつ、内戦を一刻も早く終わらせること、その後の私による改革の体制の下地を急いで準備せよ。 改革を唱える人間で能力のあるものは、経歴、元の地位に関係なく抜擢する」

 

「は……」

 

「皇帝にはなるつもりだが、世襲するつもりはない。 それについても、優秀な者が私の跡を継ぐようにするシステムを構築せよ。 立憲君主制だろうと民主制だろうといっこうにかまわん。 時間はどうせかかる。 その間に、私がいなくても帝国が回るように準備が必要だ」

 

「了解いたしました」

 

頭を下げると、オーベルシュタインが行く。

 

それからリヒテンラーデが何やら書状をよこしてきたが。

 

ラインハルトに結婚を勧めるものだった。見かけだけはいい女が三十人くらいリストアップされているが、どれもこれもオーディンでつかまったか、各地でつかまった門閥貴族の子女だ。

 

死ねと言いたいのをこらえて、全部突っ返させる。

 

そもそも辺境の制圧が終わったら、絞首台に蹴り込んでやるつもりだ。エーレンベルクとシュタインホフと一緒に散々邪魔をしてくさって。

 

挙げ句にまだ帝国を保持出来ると思っているのか。

 

ゴールデンバウム朝なんぞ門閥貴族を全部片付けたら速攻で終わりだ。地団駄を踏みたくなる。

 

どうして皇帝がさっさとくたばったのに。

 

何もかもこううまくいかないのか。

 

ぐびぐびとココアを飲み干すと、書類を片付けるラインハルト。

 

また来客だ。

 

来たのは、ヒルダという女性である。最近接触してきたマリーンドルフ家の令嬢で、門閥貴族とは思えないほど頭が良い。

 

ちなみにさっきの見合いの中にはいなかった。

 

門閥貴族の中では傍流で、要するに連中の間では「良識的」として知られても、それ以上でも以下でもなかったからである。

 

ヒルダは相談役として優れていて、ラインハルトも悪くは思っていなかった。意外な話だが、ラインハルトは女性に対して別に当たりが強いわけではない。キルヒアイスと下宿していた下宿先のおばさん達とは仲良く接していたし、姉の友人である年上の(既婚の)女貴族などとも普通に話していた。

 

ラインハルトが女を遠ざけていたのは、明らかに金と権力目当てだったり、オツムが空っぽだったりしたからである。

 

ラインハルトは相手を差別しない。能力によって相応の対応をするだけだ。能力がなくても別にそのものに過酷な対応はしない。敵意を持っている場合は容赦がないが。ただそれだけだ。

 

ヒルダは比較的良識的で、オーベルシュタインとは別方向から提案をしてくれるので、話していて助かる。

 

キルヒアイスは右腕として忙しい。

 

いにしえの帝王にも複数のブレインを置いて、それぞれの視点から意見を言わせていた者は多かった。

 

ラインハルトはそれをオーベルシュタインとヒルダにやらせているだけである。

 

いくつかの話で意見を聞いて、ラインハルトは大いに満足した。

 

いつか妻を持つのなら。

 

ヒルダのように聡明な女性が良いものだ。

 

そんな風にヒルダが帰った後、ラインハルトは思ったのだった。







原作だと門閥貴族が「まとまって挙兵した」上で消し飛びました。

しかし本作ではバラバラに挙兵した上でプチプチと潰されました。

この結果、原作とは比較にならない時間鎮圧に時間が掛かり、更には各地の貴族の財産が使い果たされてしまったのです。

原作では貴族の私有財産を全部ラインハルトが没収して改革の資金にしましたが、それが出来なくなった。

後は天才でもどうにもならない、雌伏の始まりだったのです。


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