そ、そんなわけ……
アプリを落としタスクキル。
もう一度見守りカメラのアプリを起動。
特にエラーを吐くこともなく普通に立ち上がったアプリ。
映し出されるリビング。
__同じだ。
画面に映るのは俺と蒼依の姿だけ。
そこにこの女の姿はない。
目の前にいるはずなのに、カメラ越しにはどこにも。
つーっと、冷や汗が背筋を伝う。
マジックか何か。
あの服には光学迷彩かなにかが掛かってて、映らないだけ。
そう考えれば何もおかしな事は
……
いや、そんなわけないか。
どんな超技術だよって話で、そもそも顔やら足やら素肌晒してるし。
光学シールド?
いよいよ持ってリアリティもクソもない。
オカルトもSFもファンタジーで非現実的な事に変わりはないのだ。
この状況。
まだ、オカルトの方が信憑性が高い。
ってことは、だ。
「どうしたのお兄ちゃん?」
蒼依が俺の顔を覗き込むようにして言った。
さっきまでどこかゆるい雰囲気流れてたもんな、それが急に青ざめればそうなる。
いや、ストーカーがいるのにゆるい空気流れてんのもどうかと思うが。
しかし、本当にそれどころじゃない。
ストーカーどころじゃ……
本物かもしれないと思った今、余計なことはいえない。
「あー、メリーさんって呼んでもいいですか?」
俺の言葉にこくりと頷く女、もといメリーさん。
横で首を傾げる蒼依。
敵意は感じない。
刺激しなければセーフか?
蒼依が無事な時点で、言うほど危険でもないのかもしれん。
いや、楽観視は禁物か。
都市伝説の話の流れからすれば、恨みがあるのは捨てた相手に対して。
今回の場合は、俺……
しかし、さっきから話さないな。
俺に電話かけてきたし。
話を聞く限り、蒼依にも色々相談してたらしいが。
まぁ、いい。
こいつはおそらく本物のメリーさんで、さっきのメリーさんからの電話は蒼依のイタズラではなくガチだった。
それはいいのだが、
「怒らせるつもりはないのですが、ひとつ聞いてもいいですか?」
こくりと頷くメリーさん。
余計なことを言うべきではないと思いつつ。
でも、これを避けるわけにはいかない。
俺が彼女を捨てたと勘違いされたままではどんな目に遭うか、分かったもんじゃないから。
「あなたみたいな人形を捨てた覚えはないっていうか、そもそも持ってた覚えもないといいますか」
どこか悲しそうな顔をするメリーさん。
そんな顔をされるとこっちが悪いことをしてるかのような気分になる。
人形? と首を傾げる蒼依は構ってると話が進まないんで一旦放置。
「なんで捨てられたと思ったのか、それも俺に捨てられたと思ったのか、教えて欲しいです」
都市伝説のメリーさんの電話。
あの話は女の子が人形を捨てるところから始まる。
が、俺にはその心当たりがない。
彼女が本物だとするなら、俺に捨てられたと勘違いした理由があるはず。
それを解決できれば。
メリーさんの電話で女の子がどうなったのか知らないが、その末路を回避できるはず。
蒼依の様子を見るに、少なくともこのメリーさんは誰彼構わずってタイプの怪異ではない訳だし。
誤解さえ解ければ万事解決って寸法よ。
俺の言葉に少し考えるように首を傾げたメリーさんは、何かを差し出してきた。
「……え?」
数ページの薄い冊子。
それは、何かの取扱説明書のようだった。
骨格仕様
非貫通式
リアル
据え置き型
高級TPE
本物質感
見覚えのある、そして普段は見ないような言葉が並ぶ。
嫌な予感。
そういえば、メリーさん蒼依に「俺とは体だけの関係だった」とかなんとか言ってたんだっけ。
なるほどな。
それが、文字通りの意味だったと。
「マジか……」
記憶がフラッシュバックする。
通販サイトを眺めていて、ふと目に入った拍子に欲に負けてカートに入れてしまったあの日。
受け取って、せっかく買ったんだからと開封したあの日。
バイト代を全部突っ込んだんだから仕舞いっぱなしは勿体無いとローションをたらしたあの日。
なるほど、確かに俺の人形だ。
それは認める。
が、
「いや! 捨ててはないぞ!?」
そう、捨てた覚えはない。
黒歴史ではあるがそれでも思い出が詰まってるし。
結構高かったし。
なにより、普通の人形とかでさえ捨てにくいのにこの人形を捨てられるわけ無いだろ?
メリーさんが蒼依の袖を引っ張る。
耳元に顔を近づける。
「えっと、“私のことを遠ざけて1ヶ月以上会ってくれなかったから捨てられたと思った”だって。お兄ちゃん、それで捨ててないは無理があると思うよ? それに、やっぱり知ってる人だったんじゃん!」
「うるさい」
「え、えぇ……」
蒼依の戯言は置いておくとして。
なるほど。
蒼依が大学生になって、この一人暮らしの家に頻繁に来るようになったから。
さすがにこれが見つかるのはまずいと段ボールに封印して実家の倉庫に置いてきたのだ。
それで捨てられたかと思ったのか。
「勘違いだ。あそこは俺の実家だから、別に捨てたわけじゃない」
目に涙を浮かべるメリーさん。
頭にハテナを浮かべる蒼依。
確かに一人暮らしになってから買ったし、メリーさんはあそこが実家だと知らなかったのだろう。
勘違いしても仕方ない。
説明しなかった俺が悪い、……わけなくね?
意思が宿ってるとは思わないじゃん。
勢いで買ったあれがメリーさんになるとは思わないじゃん。
俺は悪くないよな?
うん。
悪くない、はず。
とりあえず、このメリーさんは実は捨てられてないことも発覚してもはや都市伝説のメリーさんでもなくなった訳だし。
いつまでも蒼依を置いてけぼりにするのも可哀想だ。
「蒼依、ちょっとこれを見てくれ」
「ん? なになに」
蒼依にスマホの画面を見せる。
俺と蒼依しか写っていない、リビングの映像。
「……え?」
カメラに向かって手を振ってみたり、部屋の端から端まで歩いてみたり、メリーさんの肩をつついてみたり。
ラグこそそれなりにあるが、それがリアルタイムでこの部屋を映してる映像だと理解した様子。
「あなたって幽霊だったの?」