蒼依の言葉に首を横に振るメリーさん。
自認幽霊ではいらしい。
まぁ確かに、幽霊ってのは違うか。
いや、具体的にメリーさんと幽霊がどう違ってそこにどれぐらいの差があるのかと聞かれても困るのだが……
違うことは違うのだろう。
「幽霊ってよりは呪いの人形? みたいな」
「?」
俺の言葉にクエスチョンマークを浮かべる蒼依。
ただでさえ、カメラに目の前の女の子が映らないという怪奇現象に出くわしてるのに。
そんな細かい話をされても困るよな。
オカルトはオカルトである。
ただ、本人? 本人形? のメリーさんにそこをごっちゃにして機嫌を損ねられても困るので。
メリーさんが首を振るなら違うってことで納得してもらうしかない。
「蒼依はメリーさんの電話って知ってるか?」
「一応、聞いたことぐらいは」
「大体1時間ぐらい前かな、残業中に電話かかってきて……」
蒼依にこれまでの経緯を軽く説明した。
「つまり、幽霊ではなくメリーさんだと」
「そゆこと」
理解してくれたらしい。
この子が人形ねぇと、またメリーさんの肩をつんつんしている。
流れでこの状況になっているが、相手は本物の怪異。
正直もうちょっと気を遣って貰いたいのだが。
初対面の印象が俺に捨てられて泣いてる可哀想な女の子だったせいか、やたら距離が近い。
現状、メリーさんも嫌がってはなさそうなのでまぁいいが。
はたから見ててヒヤヒヤする。
「メリーさんの電話って事は、お兄ちゃんこの娘のこと捨てちゃったの?」
「いや、捨てたっていうか実家に置いてきたっていうか」
「……ふーん。というか、こんな可愛い人形持ってたんだね」
メリーさんと俺を見比べつつ、そんなことを言う蒼依。
まぁ、そりゃそうか。
俺にこんな可愛い人形は似合わないだろう。
自分でもそう思うし。
蒼依から見てもそうらしい。
今のメリーさんをみたらの話だが。
元の、そういう人形だと思えばお似合いである。
しかし、それを口にしたら余計名誉が傷つけられる気がするのでこの評価は甘んじて受け入れることとする。
「にしても、気づかなかったの酷くない? 捨てた覚えないとか見覚えないとか言ってたじゃん」
「いや、めっちゃ変わってるから。蒼依が俺の立場でも絶対気づかないって」
「そうかな? 人形が動いてる時点でイメージ変わるってのは想像つくけど、さすがに分かりそうな気が」
責めるような視線を向ける蒼依。
女の子を捨てたのは誤解、人形も実家に置いてきただけで捨ててはない、それは分かったけどだとしても早く気づけよとのこと。
「メリーさんになったって事は大切にしてた人形なんでしょ?」
「まぁ、一応」
そりゃ、ナカヨシしてたからな。
普通の女の子以上にその人形を大事にしていたとは思う。
なのに気づかなかった理由?
「まず、メリーさんになる前と大きさが全然違う」
「確かにこんなでっかい人形あんまり売ってないし、高いもんね」
「後、四肢とかなかったし」
「え?」
「なんなら首から上もついてなかった」
「……??」
目をぱちぱちする蒼依。
そう、デカいのは高いのだ。
平気で数十万コース。
俺にそんな金はないし、そもそも等身大のそういう人形を買う勇気もなかった。
結果、買えたのは手足も頭もないシリコン体。
それでも結構高かったけどね?
それに通販で買ったやっすい地雷系の服を被せて楽しんでいたのだ。
ってか、改めて見ると服も結構違うな。
今のメリーさんの服はちょっと高そうだし、あのうっすいペラペラの生地とは別物である。
「そんな人形ある?」
俺の説明を聞き疑問に思う蒼依。
確かに、普通の人形にしてはあり得ない仕様である。
「あ、もしかしてデッサンドールってやつ?」
「……ま、そんな感じ」
「にしても四肢と頭がないのはおかしい気がするけど」
「まぁまぁ」
デッサンドールってのは、絵を描くときにイメージしやすいよう実際動かしてポーズ取らせられるアレだ。
顔やら細かい造形のない、のっぺりとした人形である。
さすがに手足と頭はついてるが。
ここはゴリ押し。
そういう人形だってことは機密である。
「そういうもの?」
「そうそう、そういうもの」
とりあえず、これで一件落着かな?
まさか蒼依のイタズラ電話だと思ったものの犯人が本物のメリーさんだとは思わなかったけど。
メリーさんも捨てられた訳じゃないって分かって落ち着いてくれただろうし。
メリーさんの電話で女の子がどうなったにせよ、俺が同じ末路を辿ることもないだろう。
ひと段落ついたところで。
さっきから疑問に思ってたことをメリーさんに尋ねる。
「あのー、なんで喋んないの?」
そう、ずっと疑問だった。
俺には普通に電話してきてたし、蒼依にはずっと相談してたっぽいし。
なのに、帰宅してメリーさんに鉢合わせてからずっとメリーさんの声をきいていない。
俺の言葉にメリーさんはしばらくあわあわした後。
蒼依の耳元に顔を近づけて、
「えっと、“人形が喋るなんて変だから”だって」
「今更かよ! 電話してきたじゃん!」
「なになに? “メリーさんなら電話するのは自然だから”だって」
「……」
なんだコイツ?
人形が喋るのはおかしいとかなんとか言って、蒼依と喋るのはいいのか。
よく分からん。
が、怪異を問い詰めても仕方ないか。
こいつ自体が矛盾の塊みたいな存在なのだ。
寝よ寝よ、明日も仕事だ。
今日は追加の仕事もあったのに早く帰ってきちゃったし、その分早めに出社しないとだな。
「あ、お兄ちゃん待って。メリーさんから一つ謝りたいことがあるみたいで」
「?」
もじもじと、どこか話しづらそうにするメリーさん。
電話のことなら、確かに迷惑ではあったが終わった話だ。
別にそんな改まって言われなくても……
「なになに“私が捨てられたってパニック起こしたから、他の子たちも影響受けちゃったみたいで……”だって」
え?
蒼依がうちに来るからとダンボールに入れてまとめて置いてきた品々。
一人暮らしする際に置いていったオタグッズ。
全体的に肌色多めなあれこれが頭をよぎる。
影響を受けた、とは?
まさか……
まさか?
メリーさんみたいなことになって好き勝手動いてるなんてことは、
「まぁまぁ、そんな怖い顔しないでよお兄ちゃん。メリーさんも“ごめんなさい”って言ってるし」
ぺこりと頭を下げるメリーさん。
……いや、ごめんなさいじゃないが!?
今更ながら、前話の内容が少し唐突だった気がしてきました。
この話を前に持っていった方が分かりやすいですかね?