「……なぜそんなことに」
頭が痛い。
俺に捨てられたと騒いで影響受けたって、なに?
え、そんな簡単に動き出すもんなの?
付喪神とかそういう概念は知ってる。
けどさ、もっとこう何十年も大事にしてて魂が宿るみたいな感じかと思ってのだが。
俺が置いてきた品々、例えばちょっとエッチなフィギアとかが都市伝説の人体模型よろしく歩き回ってると。
確かに大切にはしていた。
安いもんじゃないしね。
でも、やってたことといえば棚に飾ってたまに埃を払ってたぐらい。
メリーさんが自我を持つのはまだわかる。
その特性上、普通の人形以上に関わっていたから。
でも、他は違くね?
まぁ、そうは言っても実際に動いてしまってるものは仕方ないのだろうが。
にしてもアレが実家付近で好き勝手に、か。
ちょっと、想像しただけで寒気が……
逃避したい。
何もかも忘れて、明日からもこれまでと変わらない社畜ライフを送りたい。
が、それは悪手だろうな。
メリーさんが俺に捨てられたと騒いで影響受けたってことは、おそらく俺が置いてきた品以外は無関係。
俺と無関係なものまで暴れ出してパンデミックよろしく大騒ぎって心配はしなくてもいいのかもしれないが。
そこが逆にやばい。
つまり、分かる人が見たら分かるってことだろ?
誰が元凶か。
いや、ある意味素晴らしい光景ではある気はするけどさ。
アニメやら同人キャラがリアルに動くってのは。
でも、それを見られると思うと。
しかも実家。
親やら近所の人にやら、昔から俺のことを知ってる人達に。
……考えただけで身震いする。
「“お兄ちゃんが悪い”ってメリーさんが」
「は?」
俺のせいだと?
そう言われても、心当たりないが。
本当にただ飾ってただけで。
「“みんなの前で私とするからこうなる”……え、どういうこと?」
ま、まずい。
する? と不思議そうに蒼依が首を傾げる。
メリーさんは蒼依が話についていけてないことを理解したのだろう。
懐から何かを取り出す。
取説は俺が持ってるし、そう直接的な証拠は……
派手なピンク色のパッケージ。
それ、外箱では?
「……」
メリーさんに渡された品を見つめ沈黙する蒼依。
「お兄ちゃんも男だもんね」
「うっさい!」
バレた。
それも、盛大に。
「にしても、ラブドールがメリーさんって」
「悪いか?」
「あれ? でも、パッケージのイラストと今のメリーさんの服違くない?」
「……」
「もしかして、別で服買ったの?」
視線が痛い。
なんかメリーさんの正体が割れたついでに余計なものまでバレたんだが。
自分でも頬が熱を持ってるのが分かる。
やばい。
普通に恥ずい。
メリーさんも、デリカシーというのをらないのだろうか?
個人情報だろ!
「ほら、メリーさんも“ごめんなさい”だって」
だから、ごめんじゃないんだよ。
まぁ、バレてしまったものは仕方がない。
バレたってかバラされた気がするが。
ともかく他にもあるのだ。
流石に、そういう人形は一体しか持ってなかったけど。
ちょっとエッチなフィギアとか。
実家付近で動かれるのは困る。
「とりあえず帰れ」
「なんで、いつもは泊めてくれるのに。それにこんな面白いことになってて帰すなんて酷くない?」
「面白くない! 俺は今すぐ実家行かないと……」
「置いてくなんて酷い、僕も行く!」
蒼依を帰して今すぐにでも実家に行きたいのだが。
ついてくると聞かない。
「明日も学校だろ」
「それでいうならお兄ちゃんも仕事じゃん」
確かに、仕事だ。
でも緊急事態である。
このままでは俺の黒歴史が拡散してしまう。
今まで有給1日も使ってないんだ。
こんな非常時ぐらい許されるだろ?
「明日のは切っても大丈夫な授業だから、お願い」
どうしてもついてくるつもりらしい。
ま、そりゃ気になるか。
逆の立場だとして。
俺もこれをほっぽり出して学校へ行く気にはならないな。
……しゃーない
「どうしてもダメ?」
「単位落とすなよ?」
「やった!」
別にいいか。
邪魔しようって訳じゃないだろうし。
それに、問答してる時間が惜しい。
「お兄ちゃん、早くいこう!」
なんなら、急かす側に回った蒼依。
「せめて着替えろ、その格好で行く気か?」
「あ、3分待って」
俺のぶかぶかのシャツを彼シャツみたいに着こなして、ミニのワンピースのようなシルエット。
部屋着ならともかく、外でこの格好はことである。
俺の実家。
蒼依の地元でもあるからね。
流石にそこまで羞恥心を捨ててる訳ではないらしい。
メリーさんが自分を指差す。
「あ、お兄ちゃん。メリーさんも行きたいって」
蒼依はともかくとして。
コイツを連れてくのは面倒ごとになる気しかしない。
「”責任取る“って言ってるよ」
「……」
責任って。
まぁ、そりゃ取れるもんなら取って欲しいが。
「いや、ダメだ」
コイツのせいで目覚めたんだろ?
絶対ダメだろ。
ゲームなんかならともかく、俺の黒歴史拡散がかかってるのだ。
連れて行きたくない。
「お兄ちゃんのケチ」
「いいから行くぞ」
ジーパンにTシャツというラフな格好に着替えた蒼依。
共に家を出る。
外は真っ暗。
当然だ、深夜なのだから。
終電はない。
こっか実家までタクシー、ちょっと高いか?
でも、黒歴史が……
「メリーさんが”私に任せて“って」
え?
俺が返事をする前に、蒼依に手を取られる。
もう片方の手でメリーさんとも手を繋いでいた。
一瞬視界が真っ白になり。
次の瞬間、見覚えのある景色に変わっていた。
「……何これ」
俺の漏れた声にドヤ顔のメリーさん。
蒼依の耳元に顔を寄せ、
「なになに? “メリーさんたるもの、これぐらいの事はできて当然です”だって!」