かめはめ×ハンター 作:波動待ち
翌朝、宿を出たときには、町の店もまだ半分ほどしか開いていなかった。
通りには朝食を買いに来た人や、荷車へ商品を積み込んでいる商人の姿がちらほら見える程度で、昨日の昼間に歩いたときよりずっと静かだ。
ビスケは昨日のうちに必要な物を揃えていたらしく、普段より少し大きな鞄を肩に掛けている。俺も旅の荷物と石を詰めた鞄を背負い、朝は何か食べておけと言われたので、パンを齧りながら、町の北側へ向かった。
「目的地まではどれくらいかかります?」
「二時間くらい。走ればもう少し早いかもね」
「じゃあ走りますか」
「山を歩くのはそれなりにしんどいわよ、体力は残しておきなさいな」
却下されたので普通に歩く。
しばらくは荷車が通れるほどの道が続いていたが、山へ近づくにつれて両側から木々が迫り、やがて二人で並んで歩くには狭くなった。その脇を浅い川が流れていて、澄んだ水の下には大小の石がいくらでも転がっている。
まだ目的地ではないらしいが、ビスケは途中で川原へ下りた。
足元から石を一つ拾い、手の中で転がして戻す。今度は白っぽい石を拾い、泥を擦り落としてから小さなルーペを取り出した。
俺も近くにあった灰色の石を拾う。
「これとかどうです?」
「違うわね」
「まだちゃんと見てないですよね?」
「見るまでもないもの」
即答だった。
「写真には結構似てません?」
「色しか見てないでしょ、あんた」
言われて手の中を見る。
灰色で、一部に少し透明感もある。昨日見た灰脈石と大して変わらないように思えるのだが、ビスケはもう興味を失って先へ歩いていた。
「ほかに何を見るんです?」
「昨日の写真、灰色のところしか見てなかったの?」
思い返してみれば、原石の周りには白っぽい部分が残っていて、小さな黒い粒も混じっていた気がする。
そのことを口にすると、ビスケは今度こそ振り返った。
「石がどんなところから出てきたのか探るなら、周りにくっついてたものも手掛かりになるでしょ」
それだけ言うと、手にしていた石をハンマーで軽く割った。
表面の汚れた色とは違う白い断面が現れ、そこへ細かな黒い粒が散っている。
ビスケはしばらく眺めてから、その石を鞄の横へ入れた。
それからは同じようなことをしばらく繰り返した。
俺も何個か拾ってみたものの、大半はビスケのところへ持っていく前に外れだと分かるようになった。
それでも一度だけ、白い母岩の中へ薄い灰色の筋が通った石を拾ったときは、ビスケが受け取った。
ルーペで見たあと、そのまま返される。
「試してみなさい」
灰色の部分へ指を当て、ほんの少しオーラを流す。
反応はなかった。
石を地面へ戻そうとしたところで、ビスケが俺の手から取り上げた。
今度は石ではなく、川原の向こうにある岩壁へ目を向けている。
「どうしたんです?」
「これ、ここから出た石じゃなさそうね」
「分かるんですか?」
石を裏返し、割れている面を俺へ向けられた。
「ほら」
「……何が?」
「でしょうね」
ひどい。
ビスケはそのまま川原を横切り、近くの岩壁へ向かった。表面の泥を払って一か所だけ小さく欠き、さっきの石と並べる。
こうして見ると、確かに違った。
色はどちらも白っぽいが、岩壁から取った方は粒が細かく、黒いものもほとんど混じっていない。俺が拾った石には小さな黒い粒がいくつも入っていた。
「川の上から流れてきたか、あっちの斜面から落ちたか、動物が運んできたのか……」
ビスケは俺が拾った石を川原の端へ置き、そのまま上流へ歩き始めた。
俺も後を追いながら、さっきの岩壁と足元に転がっている石を交互に見る。
川上へ進むにつれ、石には角の残ったものが増えてきた。ビスケも川の中ばかり見なくなり、脇の岩壁へ近づいたり、斜面から崩れてきた石を割ったりしている。
途中、俺にはさっきと大して変わらなく見える場所を素通りしたかと思えば、何もなさそうなところで急にしゃがみ込むこともあった。
やはりプロの仕事だ。何をしているのか、正直全くわからない。
ただ、灰脈石そのものだけ探しているわけではなさそうだった。
草に半分埋もれた古い掘削跡を見つけたのは、それから一時間ほど経った頃だった。
岩壁の一部が人の手で削られており、奥には浅い穴が残っている。入口の上には大きなひびが走り、周囲には掘り出された石が山になっていた。
「中は見ないんですか?」
「入らないわよ。こんなところで生き埋めになりたくないもの」
「ビスケなら崩れても普通に出てきそうですけど」
「あたしを何だと思ってるのよ」
岩とか平気で破壊しそうだし多分出てくると思う。
ビスケは坑道へ入る代わりに、外に捨てられている石を調べ始めた。何個か割り、気になるものだけ脇へ置いていく。
俺もその横で探した。
川原より似た石が多い。
途中で拾った一つはかなり写真に近く、ビスケも少し長く見ていたが、オーラを流してみても何も起きなかった。
その後は俺も黙って石の山を漁った。
最初の頃ほどビスケのところに持っていく数は多くない。自信があるものだけ何個か脇へ置き、最後にまとめて見てもらったが、結局全部外れだった。
午前中いっぱい使って川と採掘跡を調べても、灰脈石は一つも出てこない。
昼を過ぎたところで、ビスケが地図へ小さく印をつける。
「ここは外れね」
「結構探したのに」
「一か所目で見つかると思ってたの?」
「ちょっとは」
「甘いわねえ」
そのまま次の場所を確認し始めた。
俺は平らな岩に座り、母さんから持たされた保存食を鞄から取り出した。缶詰や硬いパンなんかがまだ結構残っている。
「ビスケも食べます?」
「何それ」
「家から持たされたやつです」
鞄の中を見せると、ビスケが地図から顔を上げた。
「ずいぶん入ってるわね」
「二日分らしいですよ」
「八歳の子供に持たせる量じゃないでしょ」
「俺もそう思います……」
言いながら食べていたら、思ったより減ったことに驚いた。
やはり母は偉大ということだろうか。
◇
二つ目の候補地は、そこからさらに山の奥だった。
街道へ戻らず、細い獣道を使って山沿いに進む。
森の中も針葉樹と広葉樹が生えて、鬱蒼としてきた。地面に積もった落ち葉の下に石や木の根が隠れるようになった。
しばらくして細い沢へ出ると、ビスケは流れに沿って上っていく。
沢底の石をいくつか拾っていたが、途中から流れを外れ、斜面へ移った。少し見てまた沢へ戻る。
その辺りから、大きな足跡が目につくようになった。
泥の上へ残ったそれは、俺の手を広げても収まらないほど大きい。
近くの木には深い爪痕が残り、別の場所では地面ごと掘り返されて太い根が剥き出しになっていた。
「何かいます?」
「そうみたいね」
ビスケは足跡の横へしゃがみ込み、泥を眺めている。
少し先の枝には灰褐色の毛も引っかかっていた。
「岩掘り熊かしら。この辺にもいるのね」
「熊?」
「クマみたいな魔獣よ。前脚と爪が大きくて、斜面や岩場を掘って巣を作るの」
周囲の光景を見ると、名前の通りの魔獣なんだと実感する。細かい石はもちろん、大きな岩までも掘り返されて辺りに散らばっていた。
「危ないですか?」
「近づかなきゃ向こうから追い回してくるような種類じゃないわ。巣のそばなら別だけど」
ビスケは立ち上がった。
「一応、気をつけなさい」
「分かりました」
その後もしばらく爪痕や掘り返された場所が続いたが、ビスケは戻る様子を見せることはなかった。
沢は次第に細くなり、足跡もいつの間にか見えなくなっていた。
斜面を回り込んだところで、前を歩いていたビスケが足を止める。
ほぼ同時に左の藪が大きく揺れた。
太い枝が折れ、灰褐色の大きな身体が木々の間から飛び出す。
四つ足のままでも俺の胸より高い。
肩から前脚にかけて異様に太く、そこから伸びた爪は十数センチはありそうだった。
岩掘り熊はこちらを見ると、低く唸った。
「レイ」
後ろからビスケの声が聞こえる。
俺は鞄を肩から落とした。
岩掘り熊が地面を蹴る。
真正面から突っ込んできた。
身体一つ分だけ横へずれ、すれ違うところへ右拳を合わせる。
額の横へ入った。殴った瞬間、あまりの硬さに、逆に腕が痺れる。
「硬っ!」
岩掘り熊は頭を振り、そのまま前脚を地面へ突いて身体を回した。
長い爪が横なぎに飛んでくる。
上体を引いて外したものの、先端が袖を引き裂く。
そのまま、反対の前脚が俺の方に向かってきた。
回避は間に合わず、咄嗟に左腕にオーラを集めガードしたものの、足のオーラが足りてなく、太い前脚そのものに押されて身体が浮いた。
地面を転がり、背中から木にぶつかる。
「痛っ……!」
起き上がったときには、もう次の攻撃が来ていた。
今度は頭を狙わず、斜め前へ抜けながら脇腹に拳をぶち込む。
岩掘り熊の身体が大きく揺れた。
そのまま後ろへ回ろうとしたところで、後ろ脚が跳ね上がる。
咄嗟に腕で受けたが、また数歩よろけた。
「蹴るのかよ……」
少し離れた場所にビスケがいるが、手を出す気配はなさそうだ。
岩掘り熊が向き直るのを待ち、今度はこちらから距離を詰めた。
前脚が上がったので一度足を止め、爪が前を通り過ぎたところへ入る。腹に右拳を叩き込むと巨体が沈み、振り払うように動いた肩へ押されながらも足は残った。
もう一度来る前に脇腹へ左を入れる。それに対抗するように、岩掘り熊が頭を振り下ろして、顎が目の前へ落ちてきた。
対して俺は、右拳にオーラを集め、そのまま踏み込み、下から拳を叩き込む。
頭が大きく跳ね上がり、岩掘り熊の巨体が横へ倒れた。
地面が揺れる。すぐには近づかず、少し離れて様子を見ることにした。
岩掘り熊はしばらく倒れていたが、やがて前脚を動かし、ゆっくり身体を起こした。
「まだ来るのか……?」
もう一度構える。
岩掘り熊は低く唸りながら俺を見ていたものの、今度は近づいてこなかった。
何歩か後ろへ下がったあと、身体の向きを変えて森の奥へ走っていく。
枝の折れる音が遠ざかり、完全に聞こえなくなってから腕を下ろした。
ビスケが近づいてくる。
「腕見せなさい」
「これくらい大丈夫ですよ」
「いいから」
裂けた袖をめくられる。
爪が掠めた部分から血は出ていたが、傷は浅い。
「最初から頭殴る必要あった?」
「効くと思ったんですよ」
「硬かったでしょ」
「めちゃくちゃ」
「後ろ脚も気をつけなさい。最後の一発は悪くなかったわよ」
それだけ言うと、ビスケはもう俺から視線を外していた。
さっき岩掘り熊が飛び出してきた藪の奥を見ている。
「血を拭いて消毒だけしておきなさい」
鞄から布を出して傷へ巻いている間に、ビスケは藪に入っていった。
「どこ行くんです?」
「ちょっと見たいものがあるの」
鞄を拾って追いかける。
◇
藪の向こうには、斜面を大きく掘り返した跡があった。
岩掘り熊の巣らしい。
入口は高さ二メートル近くあり、その周囲には掻き出された土と石が何メートルにもわたって積もっている。岩肌にも爪痕が残り、場所によってはかなり深く削れていた。
ビスケは巣穴へ近づかず、外に積もっている石の前へしゃがんだ。
いくつか手に取っているうち、急に動きが止まる。
「レイ、昨日渡した写真を出して」
「俺の鞄でしたっけ?」
「あんたに持たせたでしょ」
探して渡すと、ビスケは写真と手にした石を並べた。
白っぽい岩に黒い粒が混じり、表面の一部は赤茶色に変わっている。
朝から見てきた中でもかなり近い。
「似てますね」
「でしょ」
もう一つ拾い、端をハンマーで欠く。
ビスケは断面を見たあと、巣穴の奥には入らず斜面を見上げた。
「中じゃないんですか?」
「何で熊の巣に入るのよ」
「ここ掘って出したなら、中にありそうですけど」
「この石、見た感じ上から崩れてきた可能性の方が高いわ」
巣の上には急な斜面が続いていた。
所々に岩が露出し、土が崩れた跡もある。
ビスケは巣の位置を地図へ書き込むと、脇を流れる細い沢へ向かった。
沢へ入ってからしばらくは、ほとんど止まらなかった。
時々しゃがんで石を拾うものの、少し見ればすぐ戻す。俺に渡されたものも二つほどあったが、どちらも反応しなかった。
上流へ進むにつれて、白っぽかった沢底に黒い石が混じり始めた。
さらに進むと、黒い石の方が多くなってきた。そこで、ビスケが足を止める。
その場の石を一つ拾い、少し下にあったものと見比べる。次に沢の両側の斜面を見回したあと、何も言わず来た道を戻り始めた。
「戻るんです?」
「こっちは違うわ」
「何が――」
「先に行くわよ」
聞く前に歩いていく。
追いかけていると、ビスケは岩掘り熊の巣まで戻らず、その少し手前で沢から出た。
今度は急な斜面を横へ進む。
鞄からさっき見つけた石を取り出して、足元に転がるものと時々見比べていた。
十数分ほど進んだところで一度立ち止まり、近くの岩へ手を触れる。
少し欠いて中を見たが、すぐ手を離した。
また歩く。
斜面の途中には土が大きく崩れた場所があり、その下へ石が溜まっていた。ビスケはそこでも何個か確認したが、しばらくすると元の高さまで戻っていく。
「結構行ったり来たりしますね」
「嫌なら先に帰っていいわよ」
「そういう意味じゃないです」
前を歩くビスケは返事をしなかった。
少しして、また沢へ出た。
さっきとは別の細い流れだった。
ビスケは水へ入らず、川岸に転がっている石を見ていく。しばらくそこで探してから、急に顔を上げた。
来た方向へ戻り、今度は少し上の斜面へ入る。
「今度は何かあったんです?」
「あとで。今は石見てなさい」
「はい」
何を見つけたのか分からないまま、言われた通り足元へ目を戻した。
この辺りまで来ると、岩掘り熊の巣で見つけた石と似たものが時々混じっている。
いくつか拾ってオーラを流してみたが、反応はない。
ビスケは横から一度見ただけで、先へ歩いていった。
◇
午後もかなり回った頃には、石入りの鞄が朝より重く感じるようになっていた。
背中をぶつけたところも、身体を捻るたび少し痛む。
ビスケは相変わらずで、地図を見ながら斜面を行ったり来たりしていた。
「元気ですね……」
「何か言った?」
「何でもないです……」
聞こえていた気がする。
少しして、小さな採掘跡をもう一つ見つけた。
午前中の場所よりずっと狭く、岩壁へ数メートル削り込んだだけで、入口もほとんど崩れている。
ビスケは周囲の石をいくつか見ただけで切り上げた。
「もういいんです?」
「ここは違うわ」
それ以上説明せず、さっさと尾根の方へ歩いていく。
俺もついていった。
山の反対側に回ると、斜面には大きな岩が目立つようになった。
土が崩れ、岩の断面が剥き出しになっている場所も多い。
ビスケの歩く速度が少し落ちた。
近くの岩へ寄って苔を剥がし、表面を欠く。何も言わず次へ移る。
俺も周囲を探しながらついていき、一個だけかなり近そうな石を見つけたが、オーラを流しても光らなかった。
「惜しい石ばっかでなかなか見つかりませんね」
「珍しい石探してるんだから当たり前でしょ?」
そう言われると何も返せない。
さらに斜面を回り込んでいく。
日もだいぶ傾いてきた。ビスケが先へ進んでいる間、俺は少し下にあった崩れた場所へ目を向けた。
大小の岩が積もっている。
その中に、一つだけ気になるものがあった。
手のひらより少し大きく、白っぽい部分には黒い粒がいくつか混じっている。端へ伸びた灰色の筋には土がこびりついていた。
拾い上げて、泥を袖で落とす。
灰色の部分へ指を当てた。
オーラを流す。
何も起きない。
「違うか」
戻そうとして、もう少しだけ土を落とした。
下から出てきた灰色は、さっきまでの石より少し透明感がある。
もう一度指を当てる。
細い光が、石の中を一瞬だけ走った。
「……え?」
すぐに消えた。
石を傾け、日の反射じゃないことを確かめるために、もう一度オーラを流した。すると今度ははっきり見えた。
灰色の筋の内側へ、ごく細い光が伸びる。
「ビスケ!」
思ったより大きな声が出た。
少し離れた場所にいたビスケが振り返り、俺の手元を見る。
すぐこっちへ来た。
「どこで拾ったの?」
「あそこです。崩れてるところ」
「貸して」
石を渡す。
ビスケが指先からオーラを流すと、灰色の筋の奥に細い光が走った。
昨日、端末で見た写真と同じだった。
「……灰脈石?」
「そうね」
ビスケは角度を変えながらしばらく石を確かめたあと、俺が拾った場所へ向かった。
そこから先は、さっきまでよりビスケの動きが速かった。
崩れた石をどかし、似た母岩を拾っては断面を見る。
俺も横から探していると、少し離れたところで小さな破片を見つけた。
オーラを流す。
今度も光った。
「こっちにもありました!」
ビスケは二つの灰脈石を並べ、割れた面をしばらく見比べると、今度は斜面の上へ視線を向けた。
「上ね」
「分かるんです?」
「少なくとも、ここで砕けた感じじゃないわ」
地図を出して現在地を確認し、岩掘り熊の巣があった位置と何かを見比べる。
指で斜面をなぞったあと、そのまま上り始めた。
「さっき戻ったのって、沢の石が変わったから?」
「それもあるわね」
「ほかにも?」
「まあいくつか理由はあるわ」
質問はそこで切られた。
ビスケは途中にある露出した岩を何か所か確認しながら上っていく。灰脈石の破片を見つけた場所から真っ直ぐ進んでいるわけでもなく、少し右へ寄ったかと思えば斜面を横切って戻ることもあった。
俺も周囲の石を見ながらついていったが、すぐに鉱脈が見つかるわけではない。
「もっと下だったりしません?」
「それなら戻るだけよ」
「結構適当ですね」
「山の中に答えが書いてある看板でも立ってると思ってる?」
「それは思ってないですけど」
「なら歩きなさい」
言われなくても歩いている。
二十分ほど進んだところで、ビスケが足元の石を一つ拾った。
ハンマーで割り、断面を見る。
そのまま来た道を少し戻ると、今度は斜面を横切るように進み始めた。
さっきから何度も方向が変わるせいで、自分が山のどちら側を向いているのか分からなくなってきた。
ビスケは迷っているようには見えない。
地図を見る回数もむしろ減っている。
疲れが溜まっているせいで、急な場所では何度か足元が滑った。木へ手をついて踏みとどまり、少し遅れて追いつく。
「レイ、そっちの岩見て」
指された先に、半分だけ土から出た大きな岩があった。
苔を剥がしてみると白っぽい部分と黒い粒が見えたので、少し期待したが灰色の筋はない。
念のため欠けた部分へオーラを流しても何も起きなかった。
「ないです」
「じゃ、もう少し上」
また進む。
木々の間から岩壁が見えたのは、それからしばらく経ってからだった。
高さは三メートルほどで、下には崩れた土が積もり、壁の半分は苔や蔓に隠れている。
ビスケが近づき、表面を手で払った。
白っぽい岩の中を、灰色の筋が斜めに走っている。
太さは指二本分ほどしかない。
ビスケはその筋を目で追い、少し上の苔も剥がした。そこにも灰色が続いている。
ハンマーで表面をほんの少し欠くと、中から半透明の灰色が出てきた。それを見てビスケの手が止まる。
「……見つけた」
指先を大岩に当てた。
オーラが流れる。灰色の筋を、細い光が静かに走っていく。
一本だった光は途中で二つへ分かれ、その片方はさらに細く枝を伸ばしながら岩の奥へ潜り込んだ。少し離れた場所にも光が現れ、そこからまた別の脈へ繋がっていく。
日が傾き始めた森の中では、その光だけがはっきり見えた。
「おお……」
ビスケはしばらく手を離さず、光がどこへ続いているのか追うように岩壁へ視線を動かしていた。
やがてオーラを止め、少し上の筋にも短く流して反応を確かめる。
ビスケの口元が少し緩んだ。
「レイ、その辺踏まないで。崩れてる石もあとで見るから」
「はい」
さっきまで乗っていた場所から足を退ける。
ビスケは鞄から地図と紙を取り出し、現在地を書き込み始めた。途中で何度か岩壁を見上げ、灰色の筋がどの方向へ伸びているか確かめている。
「結構ありそうです?」
「まだ何とも言えないわね。明るいうちに場所だけ押さえて、続きは明日」
「岩掘り熊が掘ってた場所も調べるんです?」
「もちろん。その辺も見たいしね」
地図を畳んだあと、ビスケは岩壁をもう一度確かめてから手を離した。
「さ、暗くなる前に戻るわよ」
「はい」
鞄を背負っていると、ビスケはさっき俺が拾った灰脈石を布で包んでいた。
いつも石を入れているところとは別に、小さな箱を取り出して中へ収める。
蓋を閉じる前に、もう一度だけ石を見る。
「ビスケ」
「何?」
「やっぱり結構嬉しい?」
「置いてくわよ」
「聞いただけじゃないですか!?」
返事はなく、ビスケは箱を鞄の奥へしまうと、そのまま斜面を下り始めた。
俺も少し遅れてあとを追った。
ストーンハンターとしての仕事なんかは完全捏造してます。もしかしたら違和感などあるかもしれませんがご容赦くださいませ……
今回は特に書くことがない……
文字数について
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長すぎる
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ちょうどいい
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少ない
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特に気にしてない