魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜   作:竜刃丸

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第1飯 プロローグ

 

「狭間、それ全部持てよ。お前、それしか能がねえんだから」

 

パーティリーダーの高座(こうざ)が、あごで床の荷物をしゃくった。

 

俺は黙って転がった魔石に手を伸ばす。他にもドロップした素材。予備の武器、回復薬の箱、全部まとめて俺のスキルに収めた。

 

〈インベントリ小〉。物を三畳分のスペースの異空間にしまえる。

 

「便利だよなあ、お前の収納。荷物持ちにはぴったりだ」

「アハハハ、リーダーひっどぉーい」

 

メンバーがつられて笑う。けれども俺は笑わなかった。口に出して言い返しもしない。

 

言い返したところで何も変わらないし、——口に出したらクビだ。そうすると明日から飯が食えなくなる。

 

心の中ではとっくに言い返していた。はいはい、便利な物入れですよ。お前らの財布より役に立ってると思うがな。

 

狭間蓮(はざまれん)、二十四歳。探索者。

 

俺のスキルは【空間魔法EX】。名前だけは大層だが、使えるのは三畳ぶんの収納だけ。戦う力は無い。

 

他の能力は全部「条件未達」でうんともすんとも言わない。EXという肩書きだけ立派な中身のない紙袋。それが俺の探索者としての値打ちだった。

 

夢はあった。いつか金を貯めて世界中のうまいものを食う。飯は唯一の拠り所だ。少しでも食費を浮かして自炊する。

 

いつか、いつか美味いものを、もういらないというほどたくさん食べてやると思っていた。

 

大学卒業後も就職活動が振るわず、滑り込んだこのパーティ。甘い夢を見ながらひたすら生きていた。

 

——その夢が終わったのは、その日のダンジョン探索だった。

 

八皇子(はちおうじ)ダンジョン、12層。高座たちには少し背伸びの階層だった。

 

奥へ進みすぎた。その結果、通路の向こうから雪崩れ込んできたのは、数十匹の魔物の群れ。モンスタートレイン。遭遇したら逃げるしかない暴走現象だ。

 

「――走れッ!!」

 

全員が踵を返す。俺も走ろうとした。だが両手は全員分の荷物で塞がっている。足がもつれた。前を行く背中が、遠ざかっていく。

 

「高座さんっ、待って――」

 

高座が振り返った。引き返してくる。助けてくれる、とほんの一瞬そう思った。

 

高座の手は俺の肩をつかみ――俺を群れの方へ突き飛ばした。

 

「荷物持ちが! 囮くらいにはなれや!」

 

その一言だけが、やけにはっきり耳に残った。

 

俺は荷物を放り出して転がるように逃げた。狭い裂け目に飛び込んで、擦り傷だらけで奥へ奥へ。ガリガリの体がこの時だけ役に立った。

 

気づけば群れの音は遠く、俺は地図にもない深い場所に、一人きりで座り込んでいた。

 

「……はは」

 

乾いた笑いが漏れる。荷物持ち。囮。それが俺の価値だったのか。世界中のうまいものを食う夢? 笑わせる。他人の荷物すら最後まで持てなかった男が。

 

このまま誰にも知られず野垂れ死ぬ。そう思ったとき。

 

 

 

 

視界の隅で、何かが光った。

 

行き止まりの先、ぽっかり開いた小さな空間に石の祭壇があった。埃ひとつなく、まるで誰かに守られてきたような場所。

 

その中央に一本の短剣が突き立っているのが見えた。

 

黒い刀身。赤い筋が血管みたいに走り、柄には目玉のような宝石。漏れ出る赤い光が、俺を誘っているようだった。

 

目が離せなかった。ふらりと立ち上がり、導かれるように近づく。震える手を伸ばす。指が柄に触れそうになる、その寸前。

 

『おい。なんじゃなんじゃお前さん。ほれ、わしを取ってみんか?』

 

俺は動きを止めた。

 

……い、今、しゃべったか?

 

伸ばしかけた手を止めて短剣を凝視する。黒い刀身。赤い筋。柄の目玉みたいな宝石が、ぎょろりと動いて、こっちを見た気がした。

 

「しゃべった……よな?」

『しゃべっておる。何を今さら。ほれ、はよう抜かんか。わしを待たせるでない』

 

高めの、生意気な少女の声だった。だが目の前にあるのはどう見ても短剣だ。しゃべる短剣。極限状態の幻聴か? しかし幻聴にしては口が悪すぎる。

 

『おうおう、なんじゃその辛気くさい顔は。せっかく可憐なわしが声をかけてやったというのに』

「可憐……。いや、剣だろお前」

 

『剣じゃが可憐じゃ。文句あるか、あぁん?』

 

文句しかなかった。すごいドスを利かせてくるんだが、声が少女だから全く怖くない。

 

「……なあ。お前、何なんだ」

『よくぞ聞いた』

 

剣がやけに得意げに言った。

 

『わしは魔王剣ヴィヴィアン。かつて世界を震わせた魔王の体、それが魔剣化した者じゃ! ……どうじゃ! すごいじゃろう。崇めてよいぞ!』

「魔王剣……、魔剣じゃなくて?」

 

『そんなちゃちなものと一緒にするな! わしは世界に七振りしかない魔王剣の、その中でも最も高貴でスーパーでゴージャスな心臓が魔剣になったものぞ! だからわしを取るんじゃ! ほれ! ホレ!』

 

なんかすごい必死だな。ちょっとからかいたくなってきた。

 

「あー、どうしよっかな。取れって言われると取りたくなくなってきたなー」

『!? と、取るといいことあるぞ! まずカッコいい! わしの見た目は魔剣の中では豪華な意匠じゃ!』

 

カッコいいって草。小学生かよ。

 

「うーん、見た目だけ? それだけだと……ちょっとなー」

 

『ぐぬぬ……。そ、そうじゃ。わしを持つと魔力が無限となる! お前さん、ずいぶん貧相な魔力しか持っておらんからのぅ。かわいそうになってきたのじゃ! 特別に! わしが力を貸してやろう! 大サービスじゃ!』

 

新手の押し売り営業みたいなことを言い始めた。貧相は余計だ。しかし魔力が無限、それは聞き捨てならない。

 

「どういうことだ、無限ってあの無限か?」

『阿呆かおぬし。他に何がある。魔力はどれだけ使ってもなくならん。スーパーワンダホーな能力じゃ!』

 

無限の魔力。

 

俺のスキルは【空間魔法EX】。使えるのは〈インベントリ小〉だけ。他は全部「条件未達」で沈黙している。もし魔力が無限になったら、その「条件」とやらが変わるんじゃないか。

 

……いや都合が良すぎるか。死にかけで拾った怪しい剣が、そんな。

 

『なんじゃ、疑っておるな? その顔は疑っておる顔じゃ!』

「疑うだろ、普通」

 

『ならば試せばよい! 減るものでもない! さぁ取るんじゃ!』

「お前、俺を呪ったりしないだろうな」

 

『そんなことせん! さぁ! さぁ!』

 

必死すぎる剣のせいで、緊張がどこかに行ってしまった。まぁいいか。どうせここにいたら死ぬんだ。これも一興。

 

短剣の柄を握る。

 

『あ、わしを使うなら、条件がある!』

「条件? 今更なんだ? 命ならやらんぞ」

 

『そんなものいらん! わしにうまいものを食わせろ!』

 

……は?

 

『わし、長い間ここにおったせいで、ずうっと腹が減っておるのじゃ! 何でも良いからとにかくうまいものが食いたいのじゃ! お前さんが力を得たら、その分わしに飯を食わせよ。それが条件じゃ!』

「世界を震わせた魔王の剣の望みが……飯を食いたいのか?」

 

『飯は大事じゃ! 何を言うておる』

 

「剣がどうやって飯を食べるんだ」

『それは後じゃ!』

 

要求が、飯。世界征服でも俺の命でもなく、飯。こいつ、本当に世界を震わせたのか? 震わせたのは胃袋じゃないのか?

 

だが、条件が「飯を食わせろ」だけならまぁいい。誰かを殺せとか、そういう物騒な話じゃないなら問題ない。

 

「……分かった。飯くらい、いくらでも食わせてやるよ。だから」

『おお、話が早いのう! よし、契約成立。お主、これから一生わしの下僕な! ほれ、抜ーけ! 抜ーけ!』

 

下僕呼ばわりかよ。気の抜ける応援を背に、俺は柄を握りしめ、思い切り引き抜いた。

 

ドクン。

 

手のひらから、熱いくらいの何かが流れ込んでくる。空っぽだった器が、みるみる満ちていく。満ちて、満ちて、あふれて、それでも止まらない。体の奥がぐわりと熱くなった。

 

視界の端に、見慣れない文字が浮かんだ。

 

―――――――――――――――――――――――

 ☆アンロック☆

 魔力量が一定値(10000)を超過しました。

 条件を達成。スキル【空間操作】が解放されます。

―――――――――――――――――――――――

 

「……は?」

 

頭の中にいきなり知識が流れ込んできた。目に見える範囲の空間を、切る。揺らす。固定する。

 

今まで一度も開かなかった扉が、音もなく開いていく感覚。

 

『!? ククク、どうじゃ。これが無限の魔力じゃ』

「うわ……なんだ……、これ」

 

一瞬の頭痛に足元がふらつく。だがわかる。今なら使える。()()()()だ。

 

試しに足元の小石に意識を向けた。どうすればいいかが不思議とわかる。両手を目の前で叩いた。

 

パン。

 

周囲の空間がぐにゃりと歪む。石が震えて――砕けた。

 

「……はは」

 

鳥肌が立った。

 

これが――力。ずっと欲しかった戦う力だ。EXの名前だけ抱えて荷物持ちをやってきた俺が、初めて手にした俺の力。

 

死にかけの底で俺は笑っていた。

 

『なかなか変わった力をしておるでの……。じゃが、感動するのはあとじゃ、下僕』

 

魔剣の声が水を差した。

 

「少しくらい余韻を感じてもいいだろ。まったく生意気な魔剣様だ」

 

だが不思議とさっきまでの絶望は消えていた。荷物持ちの狭間蓮は、あの群れの中に置いてきた。ここから帰るのは無限の魔力を持った、別の何かだ。

 

俺は立ち上がる。ここから始まる。

 

『ここがどこかも分からんのじゃろ? そろそろここを出んと、腹が減って死ぬぞ。わしが』

 

「お前が死ぬのかよ」

 

 

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 竜刃丸といいます。

 新作です。

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