魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜 作:竜刃丸
「狭間、それ全部持てよ。お前、それしか能がねえんだから」
パーティリーダーの
俺は黙って転がった魔石に手を伸ばす。他にもドロップした素材。予備の武器、回復薬の箱、全部まとめて俺のスキルに収めた。
〈インベントリ小〉。物を三畳分のスペースの異空間にしまえる。
「便利だよなあ、お前の収納。荷物持ちにはぴったりだ」
「アハハハ、リーダーひっどぉーい」
メンバーがつられて笑う。けれども俺は笑わなかった。口に出して言い返しもしない。
言い返したところで何も変わらないし、——口に出したらクビだ。そうすると明日から飯が食えなくなる。
心の中ではとっくに言い返していた。はいはい、便利な物入れですよ。お前らの財布より役に立ってると思うがな。
俺のスキルは【空間魔法EX】。名前だけは大層だが、使えるのは三畳ぶんの収納だけ。戦う力は無い。
他の能力は全部「条件未達」でうんともすんとも言わない。EXという肩書きだけ立派な中身のない紙袋。それが俺の探索者としての値打ちだった。
夢はあった。いつか金を貯めて世界中のうまいものを食う。飯は唯一の拠り所だ。少しでも食費を浮かして自炊する。
いつか、いつか美味いものを、もういらないというほどたくさん食べてやると思っていた。
大学卒業後も就職活動が振るわず、滑り込んだこのパーティ。甘い夢を見ながらひたすら生きていた。
——その夢が終わったのは、その日のダンジョン探索だった。
八皇子(はちおうじ)ダンジョン、12層。高座たちには少し背伸びの階層だった。
奥へ進みすぎた。その結果、通路の向こうから雪崩れ込んできたのは、数十匹の魔物の群れ。モンスタートレイン。遭遇したら逃げるしかない暴走現象だ。
「――走れッ!!」
全員が踵を返す。俺も走ろうとした。だが両手は全員分の荷物で塞がっている。足がもつれた。前を行く背中が、遠ざかっていく。
「高座さんっ、待って――」
高座が振り返った。引き返してくる。助けてくれる、とほんの一瞬そう思った。
高座の手は俺の肩をつかみ――俺を群れの方へ突き飛ばした。
「荷物持ちが! 囮くらいにはなれや!」
その一言だけが、やけにはっきり耳に残った。
俺は荷物を放り出して転がるように逃げた。狭い裂け目に飛び込んで、擦り傷だらけで奥へ奥へ。ガリガリの体がこの時だけ役に立った。
気づけば群れの音は遠く、俺は地図にもない深い場所に、一人きりで座り込んでいた。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。荷物持ち。囮。それが俺の価値だったのか。世界中のうまいものを食う夢? 笑わせる。他人の荷物すら最後まで持てなかった男が。
このまま誰にも知られず野垂れ死ぬ。そう思ったとき。
◇
視界の隅で、何かが光った。
行き止まりの先、ぽっかり開いた小さな空間に石の祭壇があった。埃ひとつなく、まるで誰かに守られてきたような場所。
その中央に一本の短剣が突き立っているのが見えた。
黒い刀身。赤い筋が血管みたいに走り、柄には目玉のような宝石。漏れ出る赤い光が、俺を誘っているようだった。
目が離せなかった。ふらりと立ち上がり、導かれるように近づく。震える手を伸ばす。指が柄に触れそうになる、その寸前。
『おい。なんじゃなんじゃお前さん。ほれ、わしを取ってみんか?』
俺は動きを止めた。
……い、今、しゃべったか?
伸ばしかけた手を止めて短剣を凝視する。黒い刀身。赤い筋。柄の目玉みたいな宝石が、ぎょろりと動いて、こっちを見た気がした。
「しゃべった……よな?」
『しゃべっておる。何を今さら。ほれ、はよう抜かんか。わしを待たせるでない』
高めの、生意気な少女の声だった。だが目の前にあるのはどう見ても短剣だ。しゃべる短剣。極限状態の幻聴か? しかし幻聴にしては口が悪すぎる。
『おうおう、なんじゃその辛気くさい顔は。せっかく可憐なわしが声をかけてやったというのに』
「可憐……。いや、剣だろお前」
『剣じゃが可憐じゃ。文句あるか、あぁん?』
文句しかなかった。すごいドスを利かせてくるんだが、声が少女だから全く怖くない。
「……なあ。お前、何なんだ」
『よくぞ聞いた』
剣がやけに得意げに言った。
『わしは魔王剣ヴィヴィアン。かつて世界を震わせた魔王の体、それが魔剣化した者じゃ! ……どうじゃ! すごいじゃろう。崇めてよいぞ!』
「魔王剣……、魔剣じゃなくて?」
『そんなちゃちなものと一緒にするな! わしは世界に七振りしかない魔王剣の、その中でも最も高貴でスーパーでゴージャスな心臓が魔剣になったものぞ! だからわしを取るんじゃ! ほれ! ホレ!』
なんかすごい必死だな。ちょっとからかいたくなってきた。
「あー、どうしよっかな。取れって言われると取りたくなくなってきたなー」
『!? と、取るといいことあるぞ! まずカッコいい! わしの見た目は魔剣の中では豪華な意匠じゃ!』
カッコいいって草。小学生かよ。
「うーん、見た目だけ? それだけだと……ちょっとなー」
『ぐぬぬ……。そ、そうじゃ。わしを持つと魔力が無限となる! お前さん、ずいぶん貧相な魔力しか持っておらんからのぅ。かわいそうになってきたのじゃ! 特別に! わしが力を貸してやろう! 大サービスじゃ!』
新手の押し売り営業みたいなことを言い始めた。貧相は余計だ。しかし魔力が無限、それは聞き捨てならない。
「どういうことだ、無限ってあの無限か?」
『阿呆かおぬし。他に何がある。魔力はどれだけ使ってもなくならん。スーパーワンダホーな能力じゃ!』
無限の魔力。
俺のスキルは【空間魔法EX】。使えるのは〈インベントリ小〉だけ。他は全部「条件未達」で沈黙している。もし魔力が無限になったら、その「条件」とやらが変わるんじゃないか。
……いや都合が良すぎるか。死にかけで拾った怪しい剣が、そんな。
『なんじゃ、疑っておるな? その顔は疑っておる顔じゃ!』
「疑うだろ、普通」
『ならば試せばよい! 減るものでもない! さぁ取るんじゃ!』
「お前、俺を呪ったりしないだろうな」
『そんなことせん! さぁ! さぁ!』
必死すぎる剣のせいで、緊張がどこかに行ってしまった。まぁいいか。どうせここにいたら死ぬんだ。これも一興。
短剣の柄を握る。
『あ、わしを使うなら、条件がある!』
「条件? 今更なんだ? 命ならやらんぞ」
『そんなものいらん! わしにうまいものを食わせろ!』
……は?
『わし、長い間ここにおったせいで、ずうっと腹が減っておるのじゃ! 何でも良いからとにかくうまいものが食いたいのじゃ! お前さんが力を得たら、その分わしに飯を食わせよ。それが条件じゃ!』
「世界を震わせた魔王の剣の望みが……飯を食いたいのか?」
『飯は大事じゃ! 何を言うておる』
「剣がどうやって飯を食べるんだ」
『それは後じゃ!』
要求が、飯。世界征服でも俺の命でもなく、飯。こいつ、本当に世界を震わせたのか? 震わせたのは胃袋じゃないのか?
だが、条件が「飯を食わせろ」だけならまぁいい。誰かを殺せとか、そういう物騒な話じゃないなら問題ない。
「……分かった。飯くらい、いくらでも食わせてやるよ。だから」
『おお、話が早いのう! よし、契約成立。お主、これから一生わしの下僕な! ほれ、抜ーけ! 抜ーけ!』
下僕呼ばわりかよ。気の抜ける応援を背に、俺は柄を握りしめ、思い切り引き抜いた。
ドクン。
手のひらから、熱いくらいの何かが流れ込んでくる。空っぽだった器が、みるみる満ちていく。満ちて、満ちて、あふれて、それでも止まらない。体の奥がぐわりと熱くなった。
視界の端に、見慣れない文字が浮かんだ。
―――――――――――――――――――――――
☆アンロック☆
魔力量が一定値(10000)を超過しました。
条件を達成。スキル【空間操作】が解放されます。
―――――――――――――――――――――――
「……は?」
頭の中にいきなり知識が流れ込んできた。目に見える範囲の空間を、切る。揺らす。固定する。
今まで一度も開かなかった扉が、音もなく開いていく感覚。
『!? ククク、どうじゃ。これが無限の魔力じゃ』
「うわ……なんだ……、これ」
一瞬の頭痛に足元がふらつく。だがわかる。今なら使える。
試しに足元の小石に意識を向けた。どうすればいいかが不思議とわかる。両手を目の前で叩いた。
パン。
周囲の空間がぐにゃりと歪む。石が震えて――砕けた。
「……はは」
鳥肌が立った。
これが――力。ずっと欲しかった戦う力だ。EXの名前だけ抱えて荷物持ちをやってきた俺が、初めて手にした俺の力。
死にかけの底で俺は笑っていた。
『なかなか変わった力をしておるでの……。じゃが、感動するのはあとじゃ、下僕』
魔剣の声が水を差した。
「少しくらい余韻を感じてもいいだろ。まったく生意気な魔剣様だ」
だが不思議とさっきまでの絶望は消えていた。荷物持ちの狭間蓮は、あの群れの中に置いてきた。ここから帰るのは無限の魔力を持った、別の何かだ。
俺は立ち上がる。ここから始まる。
『ここがどこかも分からんのじゃろ? そろそろここを出んと、腹が減って死ぬぞ。わしが』
「お前が死ぬのかよ」
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竜刃丸といいます。
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