魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力でダンジョン無双〜   作:竜刃丸

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第9飯 特製レモネード

 

頂上は開けた岩の台地になっていた。

 

周囲を見下ろせる、渋家ダンジョンのてっぺん。その中央に――そいつはいた。

 

「でかいな」

 

思わずつぶやいた。

 

巨大な鷲だった。全身は褐色の羽毛に覆われ、頭部だけが白い。鋭く曲がった黄色いくちばしは、俺の背丈ほどもある。広げた翼は、ゆうに十メートルを超えていた。

 

こいつが渋家ダンジョンのボス。メガガルーダ。

 

「ギィエエエエッ!」

 

俺の姿を認めるなり、メガガルーダが咆哮した。大きく翼をはためかせて宙へと舞い上がる。

 

途端、突風が巻き起こった。

 

「うおっ……と」

 

叩きつけるような風圧。羽ばたき一つでこれだけの風を起こすのか。地上にいたら、まともに立っていられないだろう。

 

だがあいにく、俺は地上にいない。

 

シフトで、風に逆らって高度を保つ。空中で相対する。空を飛ぶボスには、こっちも空で相手をするのが道理だ。

 

「さっき飛べるようになったばっかりだけど……ちょうどいい。練習台になってもらうぞ」

 

メガガルーダが、翼を大きく振り下ろした。

 

「ギエッ!」

 

風の刃だ。空気が渦を巻いて、鋭い刃となって飛んでくる。何本も、何本も。風属性の魔物ってわけか。

 

「――ロック」

 

俺は自分の前の空間を固定した。

 

見えない壁が風の刃を受け止める。かん高い音を立てて刃が砕け散った。空間が固定されていれば、風だろうが衝撃だろうがそこで止まる。

 

「風か。悪いけど俺の前じゃ止まるんだよ、それ」

 

>なんか壁で防いでる

>空中で止まって防御してるのシュールすぎる

>すさまじい空中戦

>ぜったいにこんな戦い他の配信では見られん

>メガガルーダが手も足も出てない

 

とはいえ、まだ慣れない。空中で防御しながら反撃するのは、思ったより難しい。シフトで位置を保ちつつ、ロックで防いで、さらに攻撃も――と、同時にいくつも空間を操作していると、たまに姿勢が乱れる。

 

「っと……危ね」

 

メガガルーダが横合いから突っ込んできた。慌ててシフトで身をかわす。ぶわりと風が巻き起こり、体がぐらつく。

 

だがそれも数合まで。

 

やっているうちに、また体が覚えていく。位置取り、防御、回避。三つを同時に、意識せずこなせるようになる。空中の動きが、どんどん滑らかになっていく。

 

「……うん。もう、大丈夫だ」

 

さっきまでの危なっかしさが、嘘みたいに消えた。空中は、もう俺の庭だ。

 

メガガルーダが、業を煮やしたように、渾身の一撃を放ってきた。全身の羽毛を逆立て、周囲の風をすべて集める。台風のような、巨大な風の渦。風魔法サイクロン。

 

それを見て俺は静かに息を吸った。

 

「派手だな。でも、もう終わりだ」

 

シフトで、一気にメガガルーダの正面まで肉薄する。風の渦が来る、その内側へ。ふところに潜り込む。

 

そして掌を突き出した。

 

「ショック」

 

一点じゃない。面で広範囲をまとめて揺らす。こいつ大きいからバーストじゃ範囲が足りない。

 

ドオンッ、と。

 

空間そのものが、爆ぜた。

 

メガガルーダの巨体が、内側からの衝撃に貫かれる。集めていた風が霧散し、褐色の巨躯が、びくんと痙攣した。

 

「ギ……ェ……」

 

力なく鳴いて、メガガルーダは翼の羽ばたきを止め、ゆっくりと頂上の台地へと墜ちていった。

眼下の台地では、ドンッッと地響きを立てて動かなくなった。

 

討伐、完了だ。

 

>は?

>今の一瞬で終わった

>ボス戦3分もかかってない

>さっき飛べるようになった人とは思えない

>短剣ニキこわい

 

 

 ◇

 

 

「やったのじゃ! 下僕、やったのう!」

 

ボンッ、と短剣が光って、ヴィヴィが実体化した。ぴょんぴょん飛び跳ねて、はしゃいでいる。

 

「で、で、魔剣は!? 魔剣はどうじゃ!?」

 

そう。今日の目的は、これだ。メガガルーダを倒して、魔剣を手に入れる。

 

俺は、メガガルーダの死体に歩み寄った。素材が残るのは、いつも通り。だが――肝心の、魔剣は。

 

「……ないな」

「ない!?」

「ああ。ドロップしてない。素材だけだ」

「そ、そんなーーーっ!」

 

ヴィヴィが、その場にへなへなと崩れ落ちた。世界の終わりみたいな顔をしている。

 

「あれだけ苦労して登って……いや、途中から飛んだが……とにかく倒したのに! 魔剣が出ぬとは、どういうことじゃ!」

「まあ、そういうもんだろ。魔剣は確率でドロップするって話だしな。一回で出るとは限らない」

 

ヴィヴィのコンパスも、はっきりとは反応していなかった。「なんかある気がする」程度。つまり、出るかどうかは、運次第ってことだ。

 

「ということは……?」

「ああ。何回か、周回するしかないな」

「しゅ、周回……また、あの山を……」

「飛べるから、登るのは楽だぞ。ボスもこの調子なら、一撃だ」

 

ヴィヴィが、がっくりと肩を落とす。が、すぐに何かを思いついたように、顔を上げた。

 

「……のう、下僕。この鳥、うまいのか?」

「ん? ああ、鳥型の魔物は、だいたい食えると思うぞ。こいつも、いい肉が取れそうだな」

「なら! 周回するたびに、この鳥が食えるということか!?」

 

現金なやつだ。魔剣が出なかった絶望は、もうどこかへ行っている。

 

「そうだな。……よし。今日は、こいつの肉で焼き鳥でもするか」

「やきとり! やるのじゃ! 絶対やるのじゃ!」

 

決まりだ。魔剣は空振りだったが、うまい肉は手に入った。それはそれで、悪くない。

 

 

 ◇

 

 

「――と、その前に。ちょっと休憩な」

 

さすがに疲れた。山を登って、飛ぶ練習をして、ボスと戦って。いくらチートとはいえ、体力は使う。喉もからからだ。

 

俺は、インベントリから水筒を出した。今日のために、特別に用意してきたやつだ。

 

「なんじゃ、それは」

 

「レモネード。自家製だ」

 

ガラス製の水筒から淡い黄色の液体がカップへと注がれる。俺のインベントリでは時間が経過しない。家で冷やした状態で持ってきたため、よく冷えている。

 

ガラス瓶にスライスしたレモン、はちみつ、砂糖を加えてかき混ぜる。

砂糖が解け始めると果汁が出てくるのでそのまま涼しい場所で置いておく。それから少しの塩を加えて、果汁が瓶の半分くらいになったら冷蔵庫にいれて冷やしてシロップの完成だ。今日はこれに水で割ったものを持ってきた。

 

運動した後には、これが一番だ。レモンのクエン酸は、疲れを取るのにいいと聞く。汗をかいたぶんの塩分も、一緒に補える。山歩きと空中戦で疲れ切った体には、理にかなった一杯だ。

 

「ほれ」

 

カップを渡すと、ヴィヴィが一口、飲んだ。

 

「……っ! すっぱ甘い! しかし…………これがいい!!」

 

「レモンだからな」

 

「うまいのじゃ! 疲れた体に、染み渡るようじゃ……! 甘くて、酸っぱくて、冷たくて……!」

 

俺も一口飲む。

 

キン、と冷えたレモネードが、喉を滑り落ちていく。レモンの酸味が、火照った体にしみた。はちみつのやさしい甘さと、ほんの少しの塩気。汗をかいた後だからこそ、この塩味がうまい。疲れがすうっと引いていくようだった。

 

「……ふう。うまいな」

 

>レモネードうまそう

>飯テロならぬ飲みテロ

>くそう、鍋もできて、サンドイッチもできて、レモネードもある、完璧じゃねーか!!

>ボス倒した後に自家製レモネードで一服とか優雅すぎる

>かつてここまで余裕しゃくしゃくの探索者がいただろうか、いやいない

>塩入れるのわかってるな

>ヴィヴィアンちゃんまた幸せそう

 

頂上から吹き上げる風が、火照った頬に心地いい。眼下には、さっき苦労して登った岩山が、どこまでも広がっている。

 

「さて」

 

俺は、残りを飲み干して、立ち上がった。

 

「素材を換金して、ギルドに報告だ。それから――焼き鳥だな」

「やきとり!」

「今日の配信はここまでにします。みなさんお付き合いいただきありがとうございました。多分当分はここを探索していきまーす。ではではー」

「下僕どもーまたなのじゃー」

 

ヴィヴィが元気よく拳を突き上げた。

 

>おつ

>おつ

>おつかれー

>まさか本当にボス討伐までやるとは思わんかった

>ん? なんでここをまた探索するん?

>おつー

>次の飯テロまで全力待機してます

>腹減ったー

>焼き鳥食いてー

>次回も期待ー

 

 

 ◇

 

 

渋家ギルドに戻って、メガガルーダ討伐を報告すると、フロアがざわついた。

 

「メ、メガガルーダを……単独で!?」

 

受付の田中さんが、目を丸くしている。眼鏡の奥の瞳が、まん丸だ。

 

「はい。素材、買い取りお願いできますか」

 

剥ぎ取り部屋で、俺が素材を差し出すと、田中さんはそれを見てさらに絶句した。

 

「……これ、ほとんど無傷じゃないですか。ボス素材が、こんなにきれいな状態で……信じられません。傷一つで、価値が大きく変わるのに……」

「まあ、あんまり斬ったり潰したりしない倒し方なので」

 

空間ごと揺らして討伐しているから、外傷がほとんど残らない。ショックは体の内側に衝撃を通す。心臓と脳周辺を特に強めに通している。だから素材はきれいなままだ。前にボアを狩ったときも、同じことで驚かれたな。

 

「高額査定になります。……本当に、すごい方なんですね」

 

田中さんは、感心したように、そう言った。

 

初めてここに来たときの、あの値踏みするような目はもうどこにもない。

余談だが、この日を境に、田中さんは俺が窓口に行くと、率先して対応してくれるようになった。手続きは早いし、こちらの要望も的確に汲んでくれる。仕事のできる人だ。おかげで俺のギルド通いはずいぶん楽になった。

 

買い取り金額は、なかなかの額になった。

 

「じゃあ次も来ますんで、またよろしくお願いします」

「はい! いつでもどうぞ!」

 

田中さんに見送られて、俺はギルドを後にした。

 

さて。帰ったら、焼き鳥だ。

 

メガガルーダの肉が、どんな味なのか。楽しみにしているやつが、腰のところで、そわそわしているのが伝わってくる。

今度の周回ではバーベキューセットでも用意するか……。

 

 




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 カクヨムで先行で2話分配信しています。
 先が気になる方はそちらもご覧ください。

 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115

 
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