魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜 作:竜刃丸
「……え?」
剣士の子が目を丸くした。
俺がコンロを組み立て、炭を並べその上に網を乗せていく。それを五人が呆然と見ていた。俺は気にせずにクーラーボックスから、下味をつけた肉やら野菜やらを次々と取り出していく。
「あ、あの……何を……?」
「バーベキューだよ。ちょうどやろうと思ってたところでな」
「い、今から、ですか!? ここで!?」
「ああ。こいつがな、腹が減ってるんだ」
俺は腰の短剣を指さした。まあ、俺も減ってるんだが。
炭に火を入れるとぱちぱちと爆ぜて、じきに白い煙が立ちのぼった。網が熱を持ったところで、俺は下味済みの肉をどんと乗せる。
じゅうううっ。
小気味いい音とともに香ばしい匂いが辺りに広がっていった。
命の危機から救われた直後の緊迫の余韻。そこへのんきに漂う焼肉の匂い。五人の探索者は状況についていけないのか、ぽかんとした顔で固まっている。
……のだが。
「……いい、匂い」
一人だけ反応した子がいた。
さっきまで魔力切れでへたり込んでいた、桃瀬聖と呼ばれていた僧侶の子。その子がふらふらと顔を上げて鼻をひくつかせている。青ざめていた頬にほんのり赤みが差してきた。
「聖ちゃん!?」
「だって……すごく、いい匂いがしてますの……。お肉の、焼ける……」
ふむ、どうやらこの子は、相当な食いしん坊らしい。魔力切れでぐったりしていたくせに、肉の匂いで息を吹き返しかけている。
腰の短剣がぼんっと光った。
「うむ、そこの娘! いい嗅覚をしておるな! フハハハ!」
ヴィヴィが実体化して現れた。腕を組んで僧侶の子を見上げて、うんうんと頷いている。
「うまいものの匂いを嗅ぎ分けるのは、才能じゃ。よいぞ、お主。見どころがある」
「え、えっと……あなた様は……?」
「わしはヴィヴィアン。この下僕の主人じゃ。……して、腹は減っておるか?」
「……お腹、空いてます。すごく」
「よし! ならば食え! 遠慮はいらん!」
いやいや、なんでお前偉そうなんだよ。それ俺の肉なんだけどな。
——まあいい。たくさんあるし、もともとそのつもりだったし、みんなで食べても美味しいのは変わりない。
「あんたらも食うか? 見ての通り量はある。それにこいつの話だと、飯を食えば魔力も多少回復するという。休憩がてらどうぞ」
俺がそう言うと、剣士の子たちは顔を見合わせた。まだ、状況を飲み込めていない様子だったが――やがて、僧侶の子が我慢できなくなったように、ふらりと網の前に進み出た。
「……いただき、ます」
そうして焼けた肉を一切れ、口に運んだ瞬間。
「……っ、おいし……!」
その一言で空気が変わった。
◇
結局、五人ともバーベキューに加わった。
網の上では色とりどりの具材が、いい音を立てて焼けていく。
今日の肉は三種類。周回で狩ったメガガルーダとガルーダの鳥肉。この前のボア鍋で余ったボアのバラ肉。それに近くのスーパーで適当に見繕った牛肉。
野菜は、玉ねぎ、ピーマン、なす、とうもろこし、しいたけ。定番どころを、ひと通り。
じゅうじゅうと脂を滴らせながら、肉の表面がこんがりと色づいていく。仕込んでおいた甘辛いタレを刷毛で塗ると焦げたタレの香ばしい匂いがぶわりと立ちのぼった。
玉ねぎはふちが飴色になるまで。とうもろこしは粒がぷっくりとふくらんで、醤油を垂らせばたまらない匂いがする。
「……っ、これ、なんのお肉ですの!?」
真っ先にかぶりついた僧侶の子が目を見開いた。
「それはメガガルーダだな。昨日狩ったやつ」
「メガガルーダ!? そ、それってこのダンジョンのボスですわよね……! わたし、初めて食べましたわ……! んん、締まった歯ごたえで、噛むほどに旨みが……! こっちのは……脂が甘くておいしい!」
「そっちはボアだ。猪な」
「ボアも初めてですわ! なんて贅沢な……! バーベキュー、おいひい……!」
ふふ、口調が崩れている。上品なお嬢様の面影は、肉の前ではどこかへ消えてしまったらしい。
「ほれ、そこの娘ども! 遠慮せず食うんじゃ! いくらでもあるぞ!」
ヴィヴィが菜箸を振り回して、豪快に肉を配っていく。まるで自分が主催者みたいな顔だ。
「うむ、外で食うのも、乙じゃのう! 特にこの開けた場所でな! ……それにこの肉、わしが育てた自慢の肉じゃぞ!」
「育ててないだろ。狩ったの俺だし、焼いてるのも俺だぞ」
「細かいことを言うでない! さあ、どんどん食え!」
人の肉でいい顔をするな。まったく。
とはいえ五人はすっかり打ち解けて食べていた。さっきまで命の危機に瀕して青い顔をしていた子たちとは思えないな。
「聖、あんた……さっきまで魔力切れで倒れてたよね!?」
盗賊の子、栗花落吟が、呆れた声を上げる。僧侶の子は、両手に串を持ったまま、けろりとした顔で言った。
「回復しましたの。……お肉で」
「肉で回復すな!」
いや、あながち間違いじゃない。ヴィヴィ曰く、飯を食えば魔力も戻るらしいからな。とはいえこの食いっぷりは明らかに回復の範疇を超えているが。
僧侶の子とヴィヴィは、いつのまにか肉の取り合いを始めていた。
「むっ、そのメガガルーダ、わしが狙っておったのじゃ!」
「お先に失礼しますわ! お肉は、早い者勝ちですの!」
「ぬぬぬ、やりおる……! だが、次のは渡さんぞ!」
おお、ヴィヴィの食い意地と張り合ってる。魔王剣とアイドル。一切れの肉をめぐって火花を散らしていた。珍しい取り合わせだな。
「……あの、狭間さんは、食べないんですか?」
魔法使いの柿山藤里が、遠慮がちに聞いてきた。
見れば俺の手元には、まだ一切れも肉が来ていない。焼いた先から片っ端からあの二人が攫っていくからだ。
「……焼いてる俺が一番食えてないな、これ」
哀愁が漂った。
「わ、私の分、どうぞ!」
「気にすんな。まだ焼くから」
俺は追加の肉を網に乗せた。焼き係の宿命だ。
「あ、そうだ。これも飲めよ、ほら」
俺はインベントリから水筒を取り出して皆にカップに注いでやった。淡い黄色の自家製レモネードだ。
「わあ……いただきます。……っ、このレモネード、おいしー!」
剣士の子、梨路梨花が一口飲んで声を上げた。
「さっぱりしてて……! 甘くて、酸っぱくて……! 焼肉に、すごく合います!」
「動いた後ってわけじゃないけどダンジョンでもこういうのイケるだろ」
「ダンジョンで、こんな美味しいもの食べられるなんて……! ダンジョンで食べるの、幸せ……」
「バーベキュー、サイコーですわ!」
僧侶の子が串とレモネードを両手に高らかに宣言した。もう完全にピクニック気分だな。ついさっき死にかけたことなどすっかり忘れているらしい。
まあ元気になったならいいことだ。
俺は配信のドローンに、ちらりと目をやった。コメントがすごいことになっている。
>は? 短剣ニキとフルーツバスケットのコラボ?
>何が起きてるんだ
>救出シーン鳥肌立った
>空から降ってきて群れ一掃とか映画かよ
>ヴィヴィアンちゃんと聖ちゃんの大食い対決すこ
>俺ら完全に無視されてて草
>これ両方の配信で流れてるやつだ
>奇跡のコラボ配信じゃん
◇
俺も肉を堪能しながら、彼女たちの話を聞いた。名前を聞くとフルーツバスケットだという。
「フルーツバスケット……ああ。アイドルの」
「ご存じなんですか!?」
剣士の子が目を輝かせた。
「まあ名前だけな。ニュースで見た。渋家に挑戦するとかいう」
「そうなんです! 事務所の企画で……でも、まさかあんな群れに襲われるなんて……」
「ああ、あれは運が悪かったな」
聞けば探索者としては、そこそこにランクが高いらしい。アイドル活動の合間に、ダンジョンに潜っていて実力はある。飛行系の30匹以上の群れなんていうイレギュラー、どのパーティも難しいだろう。運が悪かったとしか言いようがない。
「あの、ところで……ご馳走していただいて今更なんですが……」
魔法使いの子が、遠慮がちに口を開いた。
「助けてくださった方の、お名前を、伺っても……? その、さっきの、すごい力……」
「ああ、名乗ってなかったな。狭間蓮。まあ、配信者なんかもやってる」
「配信者……? まさか、その短剣と、女の子……」
魔法使いの子の顔が、みるみる青ざめ――いや、赤くなっていった。
「も、もしかして、た、短剣ニキ!? 今、話題の!?」
「あー……その呼び名、定着してるのか」
「う、うそ……! あたしたち、短剣ニキさんに助けられたの!?」
五人が一斉にざわめいた。どうやら、俺の配信を知っていたらしい。
そういえばこいつらも探索者。しかも配信するアイドルだ。同業みたいなものか。
「あ、あの! わたしたちも、今、配信してて……! あっ!?」
「あー、すまん。こっちも配信してたの言うの忘れてた」
剣士の子が慌てたように、自分たちの傍らに浮かんでいた小型のドローンを指さした。
>お、やっと気づいた
>ど、どういう事だ……、推しが男と絡んでる……
>生きてて良かったーー
>短剣ニキありがとう!!
>うぇーーん、藤里ちゃんが生きてて良かったよー
>マジで間一髪だった
>冷や汗かいたわ
「配信中だったの、忘れてた……」
「本当忘れてたよ……ごめん、みんな」
剣士の子と侍の子、龍梅藍が、配信中だったことを今更思い出して落ち込んでいる。
「ずっと回してたのか、それ」
「は、はい……! 救出のところから、全部……」
……なるほど。つまりさっきの救出もこのバーベキューも、あっちの配信とこっちの配信に全部流れていたわけだ。
>短剣ニキと推しがイチャイチャしてる……
>これがNTRか……
>マジで短剣ニキ強くてビビった
>つーかなんでバーベキューしてんの?
>そのお肉マジで美味そー
>くそ……腹減ってきた
>そういうのはいくないとおもいます!
俺は自分のドローンの方をちらりと見た。コメントがすごい勢いで流れている。
>おれはいったい何を見せられてるんだ……
>バーベキューうまそー
>ヴィヴィちゃんと聖の絡みがとおとい
>回復役が肉で回復してて草
>平和すぎる、さっきまで死闘だったよな?
向こうの配信も、似たような騒ぎになっているらしい。剣士の子のドローンの方から、通知音がひっきりなしに鳴っていた。
「す、すごい……コメントが、追いつかない……」
「まあ、予期せぬコラボってやつだな」
狙ったわけじゃないが、こうなってしまったものは仕方ない。飯を食わせて休ませてそれで解散すればいい。俺はそう思っていた。
――のだが。
肉をあらかた食い尽くし、僧侶の子がようやく満足げに腹をさすった頃。
俺はコンロの火を落として立ち上がった。
「さて。腹も膨れたし、俺はそろそろ行くわ。ボスを倒さなきゃならないんでな」
「ボス……メガガルーダ、ですか?」
梨花が、身を乗り出した。
「ああ。毎日狩りに来てるんだ。ちょっと探し物があってな」
その瞬間。
五人の目がきらりと光った――ような気がした。
「あ、あの!」
梨花が、勢いよく立ち上がった。
「わたしたちもついて行っちゃ、だめですか!?」
「……は?」
「短剣ニキさんの戦い、生で見てみたくて! さっきの、すごすぎて……! あんな戦い、絶対、他じゃ見られないですし……!」
「そうです! ぜ、絶対、配信的にも……その、貴重で……!」
藤里まで、目を輝かせて食い下がってくる。なるほど。こいつらも配信者だ。「短剣ニキとのコラボでボス戦」なんて、数字が跳ねるのは間違いない。欲が出たか。
まあ、気持ちは分かる。
俺は少し考えた。危ないっちゃ危ないが……メガガルーダはもう六回倒した相手だ。手の内は分かっている。こいつらを守りながらでも、問題なく倒せる。
それに――正直に言えば俺にとっても悪い話じゃない。
フルーツバスケットとのコラボ配信。これだけ話題になっているんだ。ボス戦まで一緒に流せば、俺のチャンネルの数字も跳ね上がるだろう。
数字が伸びれば収益も増える。それはつまり飯代の足しにもなるということだ。
……うん。断る理由がないな。
「いいぞ。ただし条件がある」
「な、なんでしょう!?」
「戦いには、絶対に手を出すな。離れた場所で、隠れて見てること。危なくなったら守るが、あの図体を相手に、五人まとめて守り続けるのはさすがにきつい。いいな?」
「は、はいっ! 見てるだけにします! 絶対、邪魔しません!」
五人が、声を揃えて頷いた。
やれやれ。一人で気楽にやってたはずが、いつの間にか大所帯だ。
『ふふん。下僕、人気者じゃのう』
「うるさい。お前が飯を食わせるからだろ」
『よいではないか。にぎやかで。……そこの聖とやらも、なかなか見どころがあるしのう』
ヴィヴィが隣で満足そうにしている。……こいつ、あの食いしん坊の子を気に入ったな。
「よし。じゃあ行くぞ。頂上のボスステージまで案内する。……足元、気をつけろよ」
俺は歩きたくないのでシフトで浮くが、できるだけ高度を落とした。そして彼女たちのペースに合わせながら頂上を目指すことにした。
――さて。今日こそ出るといいんだがな。
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◇FRUITS BASKET(フルーツバスケット)
概要:歌って踊るアイドルでありながら、探索者としても活動する五人組。全員19歳。
苗字に果物の名を持つのがグループ名の由来。パーティランクはB(中堅上位)。
前衛1 剣士 梨路梨花(なしじ りか)
天才肌でなんでもこなす。生徒会長タイプのリーダー格。
前衛2 侍 龍梅藍(りゅうめ あい)
実家が剣術道場。生真面目で一本気。
中衛 盗賊 栗花落吟(つゆり しのぶ)
元陸上選手。俊足を活かした立ち回りが得意。
中衛 魔法使い 柿山藤里(かきやま とおり)
学校の首席。パーティの司令塔(リーダー)。
後衛 僧侶 桃瀬聖(ももせ ひじり)
回復役。料理と食べることが大好きな食いしん坊。
キャッチコピー:「果実のように、五つの個性! FRUITS BASKET、参上!」