魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜 作:竜刃丸
◇桃瀬聖(ももせ ひじり)
頂上のボスエリアは、ぽっかりと開けた岩の台地でした。
わたしたち――フルーツバスケットの五人は、狭間様に言われた通り、台地の端の岩陰に身を寄せ合って隠れていました。
「狭間様……本当に、お一人で戦うんですか?」
わたしは思わずそう呟いていました。
さっきわたしたちは、ここへ来るまでの雑魚のガルーダにすら、死にかけました。わたしは魔力切れになって、身動き一つ取れなかった。無数のガルーダが襲いかかってくる絶望感、死が目前に迫る感覚――思い出すだけでとても恐ろしかった。
そのガルーダよりも強いボスを、この御方はたった一人で相手にするというのです。
「隠れてろよ。危なくなったら守るけど、動かないでいてくれると助かる」
狭間様はまるで危険などないみたいにそう言って、台地の中央へ歩いていきました。腰には、黒い短剣――ヴィヴィアン様が一本あるだけ。
そしてそれは現れた。
「ギィエエエエエッ!」
身を震わせるような咆哮とともに、巨大な影をもって渋家ダンジョンのボス、メガガルーダが舞い降りてきた。だけど――わたしはその光景に違和感を覚えました。
「梨花さん、あれは……」
「うん……資料で見たものと、色が違う」
隣で、梨花さんも気づいていました。
事前の資料で見たメガガルーダは褐色の羽毛でした。だけど、目の前のメガガルーダは――全身が、深い紫がかった黒に染まっている。そして翼を広げると、その巨躯は通常の個体より一回り大きく見えました。
「色違いですか……上位個体ですね」
魔法使いの藤里さんが緊張した声で答えた。ダンジョンには時折イレギュラーが発生する。特にボスに限ってイレギュラーが発生した場合、大抵は通常より個体の強さが増すというのです。それがよりによって今日だなんて……。
「まずいですね。あれはたぶん、通常のよりずっと強い……」
見るだけでわかるボスの強大な魔力。まだ戦ってすらないのに背筋がぞくりと凍りました。
あの御方、大丈夫なのかしら――?
◇
結論から言えば、わたしの心配は半分だけ当たっていました。
そのボスは確かに強かった。
「ギエッ!」
紫黒のメガガルーダが翼をはためかせて宙を舞う。その速さが尋常じゃないことはすぐにわかりました。目で追うのがやっとで、わたしたちを襲ったガルーダの群れなんて、比べ物になりませんでした。
相対する狭間様は、先ほどと同様にふわりと宙に浮いています。あれはいったいどうやっているのでしょうか。翼もなく空を飛ぶ、何かの魔法でしょうか。
狭間様はメガガルーダが放つカマイタチには目もくれず、攻撃を与えようとメガガルーダに接近する。けれども、それをわかっているのかできるだけ狭間様に近づかないよう立ち回っている感じに見えます。
戦闘は次の段階に進んだようでした。メガガルーダはカマイタチを止めて、五メートルを超える翼をはためかせ竜巻を起こしました。
「サイクロン……! 連発してる!」
吟さんが叫んだ。
メガガルーダが翼を振るうたびに、真空の刃を巻き込んだ竜巻が、次々に生み出されていく。一つ、二つ、三つ。数えるだけでも五つ以上。渦巻く風が台地を削り砂塵を舞い上げる。視界が白く濁り前方が見えなくなる。
狭間様はその竜巻の合間を飛んで避けている。風の壁に視界を阻まれて、間合いを詰められないでいる。
(あの狭間様が……押されて……?)
いいえ違う。よく見れば狭間様の動きに焦りはなく、ただ相手が的確に距離を取っていて、決め手を欠いているだけ。攻めあぐねているという方が正しいのでしょう。
だけどそれも――長くは続かなかった。
紫黒のメガガルーダが業を煮やしたように高く舞い上がった。全身の羽毛を逆立て、周囲の大気をごうごうと巻き込んでいく。
「なに、あれ……!」
その魔力の高まりに身をすくめた。さっきまでの竜巻とは桁が違う。
次の瞬間。
カッッ!!
メガガルーダを中心に、無数の竜巻が――一斉に生まれた。
「テンペスト……!」
藤里さんが呆然と呟いた。
台地の空が雷雲に変わり、頂上の領域全てを竜巻で埋め尽くした。十、二十、いえ数えきれない。真空の刃をまとった風の柱が、林のように乱立して狭間様へと殺到していく。
上級風魔法。わたしたちがまともに食らったら一瞬で挽き肉だ。
渦巻く乱流の嵐の群れに立ち向かう狭間様が心配で、わたしは思わず声を上げました。
「狭間様ッッ!?」
◇
(だめ……あんなの、避けきれない――!)
岩陰から身を乗り出しかけました。
そのとき、気づきました。
狭間様が短剣をすっと腰の鞘に納めました。
そして――右手を、前に。
人差し指と親指を立てて、まるで銃を象るように。
嵐の向こうではテンペストという大技を放つメガガルーダは静止しているように思いました。翼を大きく広げ、宙の一点に静止して、ただ、魔力を注ぎ続けている。
それに狙いをつけるように、その指先に。
空気がねじれて集まってゆく。透明な薄く輪郭をもった塊が、指先で渦を巻きながら凝縮していく。それは徐々に小さな球となりみるみる膨れ上がっていった。
「……なに、あれ」
キィィィィィン。
耳を刺すような、高い音が鳴り始めた。岩陰に隠れているわたしたちのところまでその音ははっきりと届いた。
ぞわり。
全身の毛が逆立った。
――だめ。だめだ、あれは。
本能が警鐘を鳴らす。あの塊に込められているのは、とてつもない量の圧縮された力。あんなものが放たれたら――
今までいろんな魔法を見てきた。だけど
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。
周囲のものをすべて壊すような甲高く、つんざくような音。体が物理的に震えていた。
隣の梨花さんも、藍さんも、吟さんも、藤里さんも。誰もが言葉を失って、その光景に見入っていた。
竜巻の向こうで、狭間様の唇が静かに動いた。
そして――その塊が、放たれた。
◇狭間蓮
少し、時間を戻す。
正直に言うと少々手こずっていた。
色違いのメガガルーダ。素早さもパワーもいつもの個体とは段違いだった。おまけに妙に立ち回りがうまい。俺がショックを叩き込める間合いに絶対に入ってこない。ギリギリのところでカマイタチとサイクロンを放って牽制しながら常に距離を保っている。
「……あいつ、こっちの手の内、読んでるだろ」
六回も同じボスを狩っていれば、向こうも学習するのか……。いやリポップするたびに記憶が引き継がれるなんて、聞いたことはないから知らんけど。とにかくこいつは俺のショックの射程を的確に外してくる。
近づければ、どうとでもなるんだが……、その「近づく」ができないでいる。
「うーん面倒だな、サイクロンをこれだけ連発されるとな」
『おい下僕、なにを遊んでいる。ちゃっちゃとやらんか、ちゃっちゃと』
手に持つ短剣がやかましい。ちょっと黙っててくれよ。
「こいつ逃げるのうまいんだよ。近づけん」
『なら遠距離で戦えばいいじゃろう。遠くからやるんじゃ、か〇は〇波じゃ!』
「やめろ、あんなのできるわけないだろう」
サイクロンを飛んで避ける。あれに当たるとダメージはないが視界が悪くなる。
遠距離か……ディバイドで斬ってもいいが、風相手だといまいち効きが悪い。空間ごと断ち切っても風はまた別のところから吹いてくる。メガガルーダも上下左右に飛ぶからうまく当たらず決定打にならないだろう。
そして極めつけがこれだ。
「――上級風魔法テンペストか」
メガガルーダが無数の竜巻を一斉に展開した。
ボスエリアである空の台地が風の柱で埋め尽くされた。いつの間にか真っ黒な雷雲だらけだ。壮観だが、今は厄介極まりないな。俺はロックで防げば自分は守れる。だが――問題は後ろだ。
岩陰に隠れているフルーツバスケットの五人。
俺一人ならどうとでもなる。だがあの子たちを巻き込むわけにはいかない。テンペストの余波があそこまで届けば、守り切れる保証はない。ディバイドで無理やり突破すれば、ボスは倒せても拡散した風が周囲に被害を撒き散らす。
つまりこうだ。
テンペストとメガガルーダ。この両方を一度にまとめて片付ける必要がある。周りに余計な被害を出さずに。
ショックじゃ範囲が足りない。バーストは点でしか撃てない。ディバイドは風には向かない。
……となると。俺は短剣を鞘に納めた。
『お?』
メガガルーダはテンペストを維持するためにその場で静止している。
右手を銃の形に構える。動かない標的。なら
指先に空間の振動を集めていく。圧縮、狭く、狭く、限界まで。半透明の塊が、指先で膨れ上がっていく。キィン、と甲高い音が鳴った。空間そのものが悲鳴を上げているみたいだ。
この技は時間がかかる。溜めが必要で、動く相手にはまず当たらない。
だが――今は
だから——ありったけを。
握った拳のその照準を、静止したメガガルーダへとまっすぐに定める。
相手を、確実に、殲滅する一撃。
「――アニヒレイト」
俺はその塊を解き放った。
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◇ダンジョン
概要:50年前、突如として世界中に出現した謎の空間。
入口をくぐると内部には異空間が広がっており、
その内容はダンジョンごとに大きく異なる。
内部:それぞれ独自の環境・構造を持つ。
モンスターが生息し、討伐することで素材を得られるほか、
遺物・宝物など様々なものを取得できる。
魔力:ダンジョンは内部に魔力を内包している。
この魔力が許容量を超えると「オーバーフロー」が発生する。
異常個体:ごく稀に、通常とは異なる特徴を持つ「イレギュラー個体」が出現する。
通常個体とは体色が異なり、能力が大幅に強化されていることが多い。
(例:色違いのメガガルーダ)
出現は極めて低確率だが、討伐できれば希少な素材が得られる可能性がある。