魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜 作:竜刃丸
「――アニヒレイト」
放った塊は、まっすぐにメガガルーダへと向かう。
超高密度に圧縮した空間の振動の塊。回転を帯びているのか螺旋の余波を描き、周囲のテンペストを巻き込みながら嵐へと突き進んだ。
あれだけ荒れ狂っていた無数の竜巻が、塊の余波にかき消されるように霧散していった。
アニヒレイトの放つ超振動が周囲の風を根こそぎ薙ぎ払っていく。真空の刃も渦巻く乱流も、その一撃の前では無力な紙切れ同然だった。展開されていたテンペストが糸の切れた凧みたいに、一斉に霧散していく。
そして塊は。
テンペストを指揮するために静止していたメガガルーダへと――到達した。
「ギ、ャ――」
紫黒の巨躯に大きな穴が空いた。胸の中央をきれいに撃ち抜く。
咆哮は最後まで続かなかった。支えを失ったように、メガガルーダの体がぐらりと傾く。紫黒の巨体が、どうっ、と地響きを立てて、頂上の台地に沈んだ。
荒れ狂っていた台地に、静けさが戻ってきた。
討伐——、完了だ。
「……ふう」
俺は宙に浮いたまま小さく息を吐いた。
いやー疲れた。魔力は別に供給源があるから問題じゃないんだ。でもアニヒレイトはやっぱり疲れる。溜めに集中がいるし制御を乱すと暴発する。
だから乱発できる技じゃない。けれども——今回は後ろの子達を巻き込まないためにこいつを使うしかなかった。
◇
「……す、すごい……」
岩陰の方から呆然とした声が聞こえた。
フルーツバスケットの五人が、腰を抜かしたように座り込んでこっちを見ている。
無理もない。メガガルーダのテンペストは無数のサイクロンを放つ上位風魔法だ。さぞ恐ろしかったに違いない。
「終わったぞ。もう出てきていい」
『フハハハハ!! 下僕にかかればこんなものよ! こけおどしのつむじ風などどうという事ではないぞ!』
俺が声をかけると、五人はおそるおそる岩陰から顔を出してきた。
「あ、あの……今のなんですか……? あの光る、球みたいなの……」
ん? 気にしてたのはテンペストのことじゃないのか? 剣士の梨花が震える声で聞いてくる。
「あー……まあ、必殺技みたいなもんだ。あんまり使わないんだけどな。時間かかるし」
さらっと流しておく。ちょっとカッコつけてポーズとっちゃったし、あんまり詳しく説明を求められたら恥ずかしい。触れないで。
と――その時だった。
「下僕! 下僕っっ! 見よ、あれを!」
腰の短剣が勢いよく実体化した。ヴィヴィが頂上のメガガルーダの死体をびしっと指さしている。
「なんだよ、いま勝利の余韻にひたって騒々しい」
「そんなの後じゃ! あれじゃ! 気配がする! ずっと来そうな気がしておったが……あれじゃ!」
ヴィヴィの視線を追う。
メガガルーダの亡骸のそばに――何かが落ちていた。淡く光を放っているのが見えた。
◇
「悪い、今日の配信はこれでおしまいです。みなさん今日はありがとうございました。では〜」
>え?
>どした、どした?
>いきなりだな
>いや迫力ヤバすぎだった
>おつー
>え、なんで切るの
>いいところなのに
>なんかあった?
>短剣ニキ?
>おつかれ〜
ちょっと急だったが、配信を切った。アイドル達にも言っておかねば。
「すまん、みんな悪いがそこで待機してくれるか? ちょっと危ないからそこでまっててくれ」
「え? はい、わかりました……どうしました?」
「ちょっとな、配信では映せないものがあったから」
「おい下僕! はよせい!」
そう言って五人には岩場の所で待機してもらった。ヴィヴィが急かすので俺は早足でメガガルーダに近づいて、落ちていたものを拾い上げる。
それは槍だった。
俺の背丈ほどの長さの一本の槍。穂先は、うっすらと緑がかって、まるで薄い刃のような形をしている。持ち手は深緑の意匠で石突の先には羽毛をあしらった様なヒラヒラが付いている。柄をにぎるひんやりとした感触とともに、かすかに風が渦巻くような気配が伝わってきた。
「これは——」
「魔剣じゃ!」
ヴィヴィが興奮した様子で叫んだ。
「間違いない! 魔王剣じゃないが魔剣の気配じゃ! ようやく出おったか! 七日も通った甲斐があったのう!」
これが魔剣。ずっと探していたものか——。メガガルーダを来る日も来る日も狩り続けてようやく手に入れた一本だ。
握った瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。
風属性の魔剣、風魔槍ゲイボルグ。振るえば刃の風――カマイタチを生み出せる。そして。
「……お? なんかアンロックされた」
―――――――――――――――――――――――
☆アンロック☆
魔剣を一本入手しました。
条件を達成。スキル【インベントリ中】が解放されます。
―――――――――――――――――――――――
俺の視界にヴィヴィを手に入れた時と同じアンロック画面が浮かんだ。
「なにぃ! ワープか! ワープなのか! ワープと言え!」
「違うかったわ」
「なん……じゃと……」
「インベントリが広がった」
魔剣を手にしたことで俺のスキルの封じられていた部分が一つ解放された。魔王剣じゃなくてもアンロックされるのか。これはいい情報だ。
インベントリの容量が目に見えて拡張されている。三畳から五十メートル四方か、なるほど。かなり大きくなったな。
これでインベントリがかなり応用が効く様になった。大は小を兼ねる。素材もたくさん入るし
「はー、つっかえ」
「おい、これだけでも結構すごいぞ」
「はぁ期待させといてそりゃないわい、わしむっちゃ楽しみにしとったんだが!?」
「こういうこともあるだろ」
ヴィヴィがへそを曲げている。
「つーか魔剣っていっても槍なのかよ」
「さぁ? 知らんわ」
「やる気なさすぎだろ、どれだけショックだったんだよ」
「はぁ……、わしの新鮮チーズピッツァ、特濃ソースお好み焼きはいつになったら……」
目に見えてしょんぼりしてるヴィヴィ。意気消沈しすぎて草なんだが。
仕方ない、元気を出させてやるか。
「なぁヴィヴィ」
「……つーん」
「インベントリが増えたのはいいことだぞ」
「……ふーん」
「たくさん素材入る様になったし、たくさん持てる」
「……ほーん」
「つまりたくさん食材が入るってことだぞ、ヴィヴィ」
ピクっ。
「さっきフルーツバスケットの子らともコラボできたし視聴者はきっと増えてるぞ、金になるぞ」
ピクっ、ピクっ。
「今日は帰ったらまたうまい飯作ってやるからさ、元気出せよ、ホラ」
「……今日はあっさりしたものがいい……」
「わかったわかった」
ちょっと機嫌を持ち直して剣に戻っていった。やれやれ。
しかし風の魔剣か——属性攻撃が使えるようになったのは大きいかもな。空間魔法は無属性だからな。属性の手数が増えるのは、素直にありがたい。
◇
さて、理由を話すために、フルーツバスケットのところに戻る。その前に——、
「なぁ、理由を話したいんだが、そちらの配信、止めてもらえないか。今のはちょっと映すとまずいものでな」
「え? あ、はい……」
梨花が、慌てて自分たちのドローンを操作して配信を止めた。
配信が止まったことを確認し、俺はインベントリから風魔槍ゲイボルグを取り出した。
僧侶の子が槍を見つめながら遠慮がちに聞いてきた。
「あの……狭間様。それは何なのですか?」
「これは魔剣だ」
「まけん……?」
五人がきょとんとした顔をした。魔剣という言葉自体は知っていても、実物を見るのは初めてなんだろう。
「魔剣ってのは、ダンジョンのボスがたまに落とす特別な武器だ。パラメータが上がったり属性攻撃が使えたりする。……で、多分だけど、これがどこで手に入るかってのはギルドが機密にしてる」
「機密……」
「ああ。いろいろと理由はあるんだと思う。むちゃなボス挑戦をさせないように……とか。そういう理由で配信で『渋家ダンジョンのボスが魔剣を落とす』なんて広めるとちょっとまずいんだ。だから止めてもらった」
俺が説明すると、藤里が真剣な顔で頷いた。
「なるほど……だから配信を。分かりました」
「わたしたちも他言しませんわ。命を助けていただいた恩人ですし」
聖がきっぱりと言ってくれた。他の四人も揃って頷く。物分かりがよくて助かるな。
「ありがとな。じゃあそういうことで」
俺はゲイボルグをインベントリに収納した。広くなったインベントリは容量を気にしないからなかなか快適だ。
◇
「さて。それじゃ下山するか。……みんな歩いて降りるのは大変だろう。送ってやる」
「え? 送るって……」
「こうやってな」
俺は、シフトを発動した。自分と、それから――五人ぶんの足場を、空間で作り出す。ふわりと、六人の体が、宙に浮いた。
「ひゃあっ!?」
「う、浮いてる!?」
五人が、一斉に悲鳴を上げた。まあ、そうなるよな。
「暴れるなよ。落ちはしないから」
そのままゆっくりと山を下っていく。眼下に渋家ダンジョンの岩山が流れていく。あそこは助けた場所か。今は空から見下ろしている。五人とも最初は怖がっていたが、じきに景色に見とれ始めた。
「……すごい。きれい……」
聖がぽつりと呟いた。
ダンジョンのゲートまであっという間だった。
◇
ゲートを出て、地上に戻る。
「あの、狭間さん!」
別れ際、魔法使いの子が意を決したように口を開いた。
「もし、よかったら……その、わたしたちと、またコラボしてもらえませんか! 今日みたいに、一緒に配信を……!」
ああ、やっぱり来たか。まあ、あれだけ一緒に映れば、そういう話にもなる。
悪い話じゃない。フルーツバスケットは人気アイドルだ。コラボすれば、俺のチャンネルの数字も伸びる。数字が伸びれば、収益も増える。飯代の足しになる。
「いいぞ。ただし、条件がある」
「じょ、条件?」
「派手なダンジョン攻略とか、そういうのは期待するな。俺がやるのは――飯だ。飯配信だったら、いくらでも付き合う」
五人が顔を見合わせた。飯と聞いて、聖がぱっと顔を輝かせた。
「飯配信……! いいですわ! ぜひ! わたし、狭間様のお料理、もっと食べてみたいです!」
「はは、ヴィヴィと同じだな」
『メシー、クワセロー』
お、ヴィヴィのやつ、生きてたか。しかし、聖の食い意地は筋金入りらしい。まあ話が早くて助かる。
「じゃあ、連絡先だけ交換しておくか。何か企画があったら、連絡してくれ」
スマホを取り出して連絡先を交換する。
「ありがとうございます! また連絡します! 今日は、本当に……本当に、ありがとうございました!」
五人が、深々と頭を下げた。
「気にすんな。じゃあ、またな」
俺は軽く手を振ってその場を後にした。
◇
ギルドによって、清算して、家に帰る頃にはすっかり日が暮れていた。
ギルドでは色違いメガガルーダでちょっと騒動になったが今日は疲れたといってすぐに逃げてきた。
色違いのボス、アニヒレイト、アイドルの救出。めちゃくちゃ濃い一日だった。
「腹減ったな……」
『減ったのう』
バーベキューをあれだけ食ったはずなのに。まあ俺もヴィヴィも燃費が悪いんだろう。
とはいえ今日はもう凝ったものを作る気力はない。こいつの言う通りあっさりしたもので締めたい気分だ。
「よし。今日はこれでいくか」
俺は炊いておいた白飯を茶碗によそった。そこに今日狩ったガルーダの肉を――こんがり焼いて、細かくほぐしたやつをたっぷりと散らす。刻み海苔と、わさびを少々。仕上げに、熱い緑茶を、さらさらと回しかける。
鶏肉ぶっかけ茶漬け、ガルーダ肉まぶし。
「できたぞ。……ほら」
『おおっ』
湯気の立つ茶碗を、ヴィヴィの前に置く。焼いたガルーダの香ばしい匂いと、緑茶の香りが、ふわりと混じり合った。
ヴィヴィがさっそくかき込む。
「……っ、うまーっ! さらさらいけるのじゃ! 焼いた鳥が香ばしくて、出汁が染みて……! わさびが、つーんとして……! バーベキューでたらふく食うたのに、これはまた、別腹じゃ!」
「だろ。疲れた時は、これに限る」
俺も一口。
さらさらの茶漬けが疲れた体にすっと染み込んでいく。香ばしいガルーダの肉と、わさびの刺激、緑茶のほろ苦さ。濃いものを食べた後のこの軽さがちょうどいい。
うまい。……ああ今日も一日が終わるな。
食べ終えてひと息ついたところで、俺はスマホを手に取った。
……お。
ニュースサイトのトップに、見慣れた顔が並んでいた。
『【速報】人気アイドル探索者「FRUITS BASKET」、渋家ダンジョンで遭難の危機――謎の探索者「短剣ニキ」が救出、劇的コラボに視聴者騒然』
そして、その隣に。
『空を飛ぶ探索者、実在した? 渋家ダンジョンRTA! 短剣ニキの秘密に迫る!』
……ああ。派手にやりすぎたか。
『下僕、有名になったのう』
「まぁ半分くらい狙ってやってるがな」
俺はため息をついてスマホを置いた。
さて、魔剣も一本手に入った。狙ったものではなかったが、それなりにメリットもあった。飯もうまかった。それで十分だ。
明日は何を食おうか。
そんなことを考えながら、俺はその日を終えた。
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◇ダンジョンスタンピード
概要:ダンジョンの魔力が許容量を超え、
内部のモンスターが外へあふれ出す現象。
歴史:ダンジョン出現当時はこのメカニズムが解明されておらず、
各地でたびたびスタンピードが発生し、甚大な被害をもたらした。
現在:モンスターを継続的に狩り続けることで、
ダンジョンの魔力量を一定値以下に保つ体制が確立された。
これにより、スタンピードは起こりづらくなっている。
備考:探索者がダンジョンに潜り、モンスターを狩ることには、
稼ぎや素材採取だけでなく、街を守るという公的な意味もある。
キャッチコピー:「日々の探索が、明日の平和を守る。」