魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった   作:竜刃丸

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第18飯 ル・コパン・クレープ(後編)

 

「探索者協会が把握している、魔剣の入手できるダンジョンの情報。それを教えてください」

 

古館さんがふっと息を漏らした。苦笑とも感嘆ともつかない表情だった。

 

「……やっぱりそう来ましたか」

 

「駄目ですか?」

「いや」

 

古館さんは姿勢を正して俺に向き合った。そしていつもより静かな声で聞いてきた。

 

「……一つだけ確認させてください。狭間さん。あなた本気で魔剣を集めるつもりなんですね」

 

その目には受付としての事務的な色ではなく、もっと個人的な俺を気にかけるような響きがあった。

 

高座パーティで荷物持ちだった頃の俺を知っている人だ。魔剣を集めると言い出したから、何を考えているのか気になるんだろう。

 

俺は少し間を置いてから答えた。

 

「ええ。それが俺の第一目的です」

「……理由を聞いても?」

 

どうしようか……そこは少し迷った。

 

上手い飯を食いたいからです! なんて馬鹿正直には答えられんな。古館さんの顔がまじめすぎて怖い。

 

ふざけた返答は許さん! みたいな雰囲気が出てる。

 

どう伝えるべきか。魔王剣。魔王剣を手に入れることで解放される俺のスキル【空間魔法EX】。

 

全部を話すのはまだ早い気がする。というか話したところで信じてもらえるかも怪しいし。うーん、誰かが魔王剣を持ってたり、似たような事例があったら話しやすいんだが。

 

「……本命はもっと特別な一本なんです。多分ただの魔剣じゃなくて。正体は知らないんですが、それを探してます」

 

全部は話さず少しだけ話すことにした。

 

「特別な一本ですか」

「ええ。ただそれがどこにあるのか、手がかりがまるでないんです」

 

実際にノープランだしな。

 

「だからまずは普通の魔剣を追ってみようかと。そのうちたどり着けるかもしれないんで」

 

魔剣を集めても俺のスキルは解放される。だから魔王剣を探すついでに魔剣を集める。これが現状一番いい方針だ。

 

古館さんはしばらく俺の顔を見ていたけど、それ以上は詮索してこなかった。

 

「……分かりました。事情はあるみたいですね。深くは聞きません」

 

お、助かる。そういうところが、この人だ。踏み込みすぎない感じがありがたい。

 

「あなたはまだAランクには至っていない。本来なら開示できる情報じゃありません。ですが――機密を守る、その約束を守ってくれるなら。特例としてギルドが把握している、魔剣のドロップダンジョンの情報をお伝えします」

「本当ですか」

 

「ええ。ただし制限があります」

 

古館さんが、釘を刺した。

 

「関東統括本部の所属ギルドが把握しているのは、東本州の分だけです。それ以外の地域は管轄が違います。そちらの情報が欲しければ、また別途交渉が必要になります」

「東本州だけでも十分ですよ。当てがなかったんで」

 

むしろ御の字だ。本州の半分が埋まるのは大きい。

 

「それと」

 

古館さんが続けた。

 

「他の地域のギルドとの橋渡しが必要になったら、私が間に立ちます。できる限りのことは協力しますよ」

「……助かります」

 

正直意外だった。ただの口止めかと思ったら、探索の後押しまでしてくれるとは。

 

「ああそれと。狭間さん、あなたをBランクに認定します」

「え、本当ですか。というかCランクは?」

 

「はい、この前の渋家ダンジョンでの功績が認められました。おめでとうございます。飛び級です」

「おお、Bランクになったってことは……」

 

「はい、今より多くの優遇措置が受けられます」

「すみません、何があるんでしたっけ」

 

「覚えていないんですか?」

「いやー恥ずかしながら全然聞いてませんでした」

 

「……はぁ、説明しますね」

 

「まず探索者ランクについて。E~Cはそこまで多くの恩恵があるわけではありません、移動費用に割引、指定装備店で購入優遇、それくらいです」

「結構大きいと思うのですが」

「あなたの場合、すでに移動費用は掛からないじゃないですか。あと装備も追加で必要ない」

 

把握されている。この人、俺の配信しっかり見てるんだな。内心苦笑しながら話の続きを聞く。

 

「Bランク以上。多くの公的施設の利用が優遇・減免。ダンジョン関連の立入制限区域に、申請なしでの入場許可。企業スポンサーやクランからの勧誘対象になる。——等があります」

 

「公的施設の利用が優遇・減免される……」

「はい、このランクからは国内を移動するパーティも多く、宿泊施設等ではメリットになるでしょう」

「たしかに……」

 

「Aランク以上についてはまたランクが上がってからにしましょう。狭間さんならそう遠くありません」

 

「いや……こうやって見ると俺もすごくなったもんだ」

「ありえませんよ、ソロ登録後、二か月でBランクだなんて」

 

「これも古館さんのフォローのおかげですよ」

「純粋にあなたの実績への評価ですよ」

 

 

 ◇

 

 

古館さんが、デスクの引き出しから、一冊のファイルを取り出した。

 

「情報はこちらにまとめてあります。東本州でこれまでにギルドが魔剣のドロップを確認した、ダンジョンの一覧です。ボスの種類、出現階層、確認された魔剣の属性――分かる範囲で記載してあります」

 

ファイルを開くとダンジョン名と細かいデータが並んでいた。思ったよりしっかりした資料だ。これがAランク以上にしか開示されない機密ってわけか。ふむふむ……。

 

「持ち出しは厳禁です。内容はこの場で頭に入れてください。写真も駄目ですよ」

「わかりました」

 

俺はファイルに目を通した。

 

いくつかのダンジョン名とその特徴。ざっと見ただけでも、行き先の候補が一気に増えた。今まで、次はどこへ行こうかと、当てもなく悩んでいたのが、嘘みたいだ。

 

……にしても。

協会の上層部が俺みたいなソロ登録二ヶ月の新人一人に、わざわざこんな交渉を持ちかけてくる。Aランクの機密を特例で開示してまで。ずいぶんと大げさじゃないか。

 

俺なんて飯を配信してるだけのただの探索者だ。

 

「……なんか協会も大ごとにしますね。俺一人に」

 

思わずそう漏らした。

 

古館さんは一瞬何か言いかけて――やめた。

 

「……それだけあなたの実力が異常ということです。このままでは機密が公になりかねませんから」

 

言葉を濁された気がした。だが俺は深く考えなかった。

 

 

 ◇

 

 

「良かった。正直、次、どこのダンジョンに行こうか迷ってたんですよ」

 

俺は思わず本音を漏らした。

 

「ふっかけてみるもんですね」

「はは。あなたも逞しくなりましたね」

 

俺は資料を返却した。

 

「では、また何かあれば声をかけてください」

 

古館さんがそう締めくくり戻っていった。

 

さて情報は手に入れた。魔剣のドロップダンジョン。東本州の分だけとはいえ、これで当面の行き先には困らない。

 

帰るか……思いがけず収穫の多い一日だった。

 

『下僕、約束忘れるでないぞ』

 

――そういえばクレープを三個、約束していたな。

 

 

 ◇

 

 

「ほほーー、これじゃこれじゃー!」

 

ギルドを出てさっきのクレープ屋「ル・コパン・クレープ」まで戻る。

 

剣の中のヴィヴィはずっと大人しくしていた。約束をしっかり覚えていたんだろう。飯のことに関してだけは健気なもんだ。

 

「下僕っ! 待っておったぞ! さあ、約束のクレープじゃ! 三個じゃ!」

 

「わかってるよ。好きなの選べ」

 

ヴィヴィは、ガラスケースに張り付いて、真剣な顔で見本を睨んだ。飯を選ぶときのこいつはいつも以上に真剣だ。

 

「うひひひひ……これも、これも、うまそうじゃ……! じゅる……迷う……! 迷うぞぉぉ! 全部食べたいのじゃ……!」

 

「三個までな」

 

さんざん悩んだ末、ヴィヴィは三つ選んだ。

 

一つ目。生クリームと、イチゴを、たっぷり巻いたやつ。

 

ヴィヴィが、かぶりつく。

 

「あまーーーーーーーい! ――んっ! んまーーーーーーい」

 

「つ、冷たくて、あまーい! 生クリームが、ふわっふわで、口の中でとろけるのじゃ! イチゴの、甘酸っぱさが、また合う……! なんじゃこれ、なんじゃこれー!」

 

八重歯を光らせて幸せそうに頬を押さえている。

 

二つ目。チョコレートを、これでもかとかけて、バナナを乗せたやつ。

 

「こっちは、濃いのじゃ! チョコが、こっくりしておって、バナナの、ねっとりした甘さと……はぁ甘いは、正義じゃ……!」

 

三つ目。プリンが、丸ごと一個乗った、ボリュームのあるやつ。

 

「な……、なん……じゃと……」

 

ヴィヴィががたがたと震えている。

 

「ぷ、プリンが、まるごと……! ずるいのじゃ、こんなの……、うまいに決まっておる……! ほれ、下僕も見よ! このカラメルの、ほろ苦さ! 生地の、もちもち! すべてが、渾然一体となって……! はぁ、はぁ、幸せじゃぁ……」

 

こいつ、大げさすぎる……。クレープ三個で、ここまで幸せになれるのか。

 

「うまいか」

「うまい! うますぎるのじゃ! 下僕、お前は、良い下僕じゃ! 約束を、守る、良い下僕じゃぁ!」

 

クリームを口の端につけたまま、ヴィヴィが俺を全力で褒めてくる。まあ、機嫌がいいのはいいことだ。

 

俺は近くのベンチに腰かけて、ヴィヴィの様子をのんびり眺めていた。

 

穏やかな午後だった。

 

 

 ◇

 

 

ヴィヴィが、三個目のクレープと格闘しているその時だった。

 

「……ん? もしかして」

 

背後から声がした。

 

「蓮くんじゃないか?」

 

俺の名前を呼ぶ声。俺をそんな風に呼ぶ人はそんなに多くない。俺は振り返りこちらに声をかけた人物を確かめた。

 

「やっぱり蓮くんか。久しぶりだなあ。元気にしていたか」

「……神崎、先生?」

 

茶色のスーツにチェックの入ったシャツ。資料が入ってそうな重たい鞄を持った身長190センチくらいの大柄な男性。

 

思いがけない再会だった。

 

 

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探索者 認定ランク

 各ランクは、討伐実績・ダンジョン攻略実績・貢献度をギルド(協会)が審査して認定する。

 Fランク。登録すれば誰でも。駆け出し。講習を受けて登録した段階。

 Eランク。単独で低難易度ダンジョンを踏破、または一定数の魔物討伐実績。一人前として認められる最初の段階。

 Dランク。中難易度ダンジョンの攻略実績、またはボス討伐経験。

 Cランク。複数の中難易度ダンジョン踏破、安定した稼ぎと実績。専業として食べていける層。元パーティの高座がここ。

 Bランク。高難易度ダンジョンの攻略、または難関ボスの討伐。フルーツバスケットがここ(パーティランク)。プロとして名の通る層。蓮がここ

 Aランク。極めて高難易度のダンジョン攻略、災害級に近い事態への対応実績。ここから魔剣の入手情報が開示される。少数精鋭。

 Sランク。国家・国際的な災害級ダンジョンの解決、あるいは歴史に残る偉業。国際探索者協会の直属。世界に一握り。

 

 

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