魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった   作:竜刃丸

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第24飯 フルーツ狩り(採取編)

 

「断空(だんくう)」

 

目の前の密林が、巨木も蔦も下草も、まとめて吹き飛んだ。真っ二つの木々が左右へ倒れ、ぬかるみの地面まで、綺麗な一本道が奥へと伸びていく。

 

そう言い添えておくと、別に格好つけたわけじゃないんだ。ただ、この密林をまともに進んだら日が暮れそうで、手っ取り早く道を作っただけ。それが正直な気持ちだった。

 

しかしながら、コメント欄が別の話題で埋まり始めた。

 

>てかその槍なに

>短剣ニキじゃないの? 槍持ってる

>新装備!?

>その槍どこで手に入れたの!?

>詳細希望

 

ああ、そうだったな。風魔槍ゲイボルグは配信では使ったことがなかったからこの流れになるのは当然だ。

 

うっかり「ダンジョンのボスが落とした」なんて言ったら大変なことになる。一応言い訳は考えている。

 

「ああ、これ? ……ダンジョンで拾った」

 

>情報量ゼロで草

>拾ったで済むわけないだろ

>どのダンジョンだよ

>ぜったい隠してるだろこいつ

>その詳細がしりたいんです!

 

うーん、これ以上は言えない。倒したボスが落としたので拾ったので「拾った」は正しいのだ。

 

「ふふん、わしが教えてやろう! あれは、色ち――」

「ストップ!!」

 

実体化したヴィヴィの口を、俺は慌てて塞いだ。こいつ、なにを突然言い出すんだ。機密も何もあったもんじゃない。

 

「んーっ! んーっ!」

「余計なこと言うな。……あー、失礼。今のは、なんでもない」

 

>今なんか言いかけた?

>ヴィヴィアンちゃん知ってる感じ

>気になるー!

 

「気のせいだ。……装備の入手先は、企業秘密ってことで」

 

>はいはい

>また はぐらかした

>短剣ニキの装備入手先は永遠の謎

>毎回これ

 

すまんな。こればっかりは、勘弁してくれ。

 

口を解放されたヴィヴィが、頬を膨らませた。

 

「なんじゃ下僕、水臭いのう。減るもんじゃなし、教えてやればよいではないか」

「減るんだよ、色々と。……いいから、フルーツだ。行くぞ」

「おお! フルーツ! そうじゃった!」

 

露骨だが、話が逸れて助かった。ヴィヴィに話を通すのを忘れていた。あとで言い含めておこう。

 

 

 ◇

 

 

切り開いた一本道をしばらく進む。

 

道の先が急に開けた。木々の合間から色とりどりの光が差し込んでくる。

 

「わあ……!」

 

桃瀬さんが、声を上げた。そこはフルーツの楽園だった。

 

見上げるような木々にたわわに実る色鮮やかな果実。

 

黄色のブドウのような房が幾つも垂れ下がっている。かと思えば太い枝にまるまると太ったメロンがぶらんとぶら下がっていた。

地球じゃメロンは地面に生るはずだがここじゃ木に生っている。ダンジョンってのは本当にでたらめだ。

 

赤い実、黄色い実、見たこともない、七色に光る実まである。甘い匂いがむわりとあたり一面に立ち込めていた。

 

「すごい……こんなに、いっぱい……!」

「うまそうじゃ! うまそうじゃぞ、下僕!」

 

ヴィヴィが目を輝かせて駆け出した。

 

「配信、始まってるからな。あんまり、はしゃぐなよ」

「わかっておるわ! ……で、どれから食う?」

「少しなら食べていいが、メインは集めるんだよ。真剣に料理するのは後だ」

 

 

 ◇

 

 

味見くらいはいいだろう。

 

俺は手近な黄色の房を一つもいだ。ブドウに似ているが一粒が親指ほどもある。皮をつけたまま口に放り込んでみた。

 

「……お」

 

ブドウのような見た目なのに食感はバナナ、しかしブドウのようにぷちんと弾けて果汁が溢れる。甘い。それも、ただ甘いだけじゃない。濃い。

 

舌の上で蜜みたいな甘さがじゅわっと広がった。

 

「うまいな、これ」

「わしにも! わしにもよこせ!」

 

ヴィヴィに一粒渡すと、頬張った瞬間ぴょんと跳ねた。

 

「――んまーっ! なんじゃこの濃さは! 甘い! 甘いのじゃ! ダンジョンのフルーツ、あなどれん!」

 

桃瀬さんも、隣で木にぶら下がったメロンにかじりついていた。

 

「んん~っ! こっちもすごいです! みずみずしくて、とろける甘さで……! お、おいしいですわ……!」

 

食いしん坊二人が、揃って、蕩けた顔をしている。

 

>ヴィヴィアンちゃんと聖ちゃんの食レポ助かる

>うまそう

>飯テロやめろ、深夜だぞ

>ダンジョンのフルーツ食ってみたい

 

「よし。じゃあ、本格的に採るか。カゴ、持ってきたよな」

「はい! 手分けして採りましょう!」

「オーー」

 

柿山さんの号令で、みんな思い思いに散らばってフルーツを採り始めた。

 

 

 ◇

 

 

フルーツ狩りは、順調に進んだ。

 

カゴが色とりどりの果実でみるみる埋まっていった。デザートには十分すぎる量だ。これだけあれば事務所での配信も盛り上がるだろう。

 

俺はと言えば、果実集めもそこそこに少し離れた場所でまた木をなぎ倒していた。

 

採取スペースを広げるためだ。フルーツの木が、密集しすぎていて、動きにくい。何本かまとめて片付けて開けた場所を作る。

 

そんな俺をみて、柿山さんが引き気味に声をかけてくる。

 

「……相変わらず豪快ですね」

「まぁどうせ、一日で元に戻るダンジョンだから」

 

そう。真宿(しんじゅく)ダンジョンは他のダンジョンと同様に一日で構造がリセットされる。

 

あまり無茶しすぎると、視聴者から多少は後で何か言われるかもしれんが。一応安全確認はしている。問題はないだろう。

 

と、そんなことを考えていた時だった。

 

「――みんな注意! モンスターが来る!」

 

栗花落さんの鋭い声が飛んだ。

 

 

 ◇

 

 

それまで黙々と動いていた栗花落さんが鋭い目つきで密林の奥を見据えていた。盗賊職の彼女は周囲の索敵が今回の主担当だ。

 

「反応……多数。こっちに、近づいてきてます」

「モンスターか?」

「はい。数は……多いです。群れです」

 

柿山さんの表情が、司令塔の顔でメンバーに指示を出す。

 

「みんな、配置を。……狭間さん!」

 

ん? 俺もすでに臨戦態勢だが、どうしたんだろうか。

 

「ここはCランクダンジョン、モンスターもそれほど危険ではありません。私たちに任せてもらえませんか! 私たちの戦闘、見ててください!」

 

その目には覚悟があるように見えた。

 

……ああ、そうか。前に渋家ダンジョンでモンスターに襲われたとき、フルバのみんなは俺に助けられた。悔しかったんだろう。今度は自分たちの力で名誉挽回を。そういうことだな。

 

俺がしゃしゃり出るのは無粋か。

 

「わかった。じゃあ任せる。危なくなったら助けるから。無理はするなよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 ◇

 

 

密林の奥から、それは、現れた。

 

猿だ。だがただの猿じゃない。全身が薄い黄色の毛に覆われたフルーツモンキー。体長は二〇〇~二五〇センチくらい。手にはもいだ果実を握り鋭い牙を剥いている。それが一匹や二匹じゃない。数十匹の群れが殺到してきた。

 

え、これ思っていたより多くないか? 大丈夫か?

 

「来ます! 陣形、崩さないで!」

 

柿山さんの指示が、飛ぶ。

 

そこからの、フルバの戦いは――正直、見事だった。

 

まず、桃瀬さんが後列から杖を掲げる。

 

「フォースフィールド!」

 

錫杖を掲げると、半透明の光の壁がメンバー全員を囲うように展開した。結界だ。殺到したフルーツモンキーの群れが、その壁にぶつかって弾かれる。

 

「今です!」

 

桃瀬さんが盾として敵を受け止めている、その隙に。

 

「――サイクロン!」

 

柿山さんの風魔法サイクロンがカマイタチを含む竜巻を発生させ、フルーツモンキーたちを巻き込む。サイクロンは多くのモンキーを切り刻みながら数十メートル進んで消えた。

 

「スラッシュ!!」

「――斬華(ざんか)!」

 

梨路さんと龍梅さんが飛び込んだ。剣士と侍の鋭い斬撃が弾かれた猿を次々と斬り伏せていく。無駄のない動き。

 

スラッシュは二~三体のモンキーを切り倒し、居合の構えから放たれた横薙ぎの一閃の斬華は、扇状に広がり群れの側面をまとめて薙ぎ払った。

 

「そっちに、逃がさない!」

 

栗花落さんが、俊足で回り込む。逃げようとする個体を的確に仕留めていく。速い。おそらく俊敏性上昇のバフがかかっているのか、目で追うのがやっとだ。

 

結界で受け、魔法で刈り、前衛が斬り伏せ、盗賊が追走する。五人の連携が恐ろしく噛み合っていた。フルーツモンキーの数がみるみる減っていく。

 

>すげぇ連携

>もともとBランクだもんな

>まるでお手本のような波状攻撃

 

「……すごいな」

 

俺はいつも一人で戦っているが、力任せになんでも吹き飛ばして終わりだ。

 

チームで戦うってのはこういうことかと素直に感心した。

 

「見たか下僕! ……って、わしらは何もしとらんが!」

「今日はフルバのみんなの出番だよ。俺たちは見学だ」

「まあ、食い物があるからわしはなんでもよいがの」

 

モグモグとフルーツをほおばっている。お前はそれでいいのか。

 

 

 ◇

 

 

戦いはじきに終わりが見えてきた。フルバの五人は汗一つかかずに危なげなく敵を片付けていった。

 

しかし。

 

「……あれ?」

 

栗花落さんが森の奥を見定める。

 

「一匹……変なのが、いる」

 

その視線の先。倒されたフルーツモンキーたちの後ろに一匹だけ、他とは明らかに違う個体がいた。

 

まず初めにでかい。他のフルーツモンキーの三倍はある。全身の毛はより鮮やかな黄色で、その目には他の個体にはない明らかな知性が宿っていた。

 

そいつはこちらの戦力を値踏みするように確認し、そして。

 

「あっ! 逃げる!」

 

大型の個体は身を翻すと密林の奥へと駆け去っていった。仲間を囮に使って、自分だけ逃げおおせるつもりらしい。

 

「追いますか!?」

 

梨路さんが身構える。だが大型個体の姿は既に密林の奥深くへと消えていた。

 

「……いや。深追いは危険だ。やめとこう」

 

少し気になりはするが、今日はフルーツ狩りが目的だ。放っておこう。

 

――しかし後ほど、あの大型の個体と再び相まみえることになった。

 

 




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 先が気になる方はそちらもご覧ください。

 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115
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