魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
フルーツモンキーの群れは、じきに片付いた。
フルーツバスケットの五人が汗一つかかずに掃討を終える。逃げ足の速い黄色の大型個体は密林の奥へ消えたが、深追いはしない。今日の目的はフルーツ狩りだ。
「ふう。これだけあれば十分ですね」
柿山さんがカゴを覗き込んで頷いた。色とりどりの果実が山盛りになっている。デザート配信には申し分ない量だ。
「よし。じゃあそろそろ引き上げ――」
「まて、下僕」
ヴィヴィが鼻をひくつかせた。
「なんじゃ、この匂いは……」
「匂い?」
「甘い。甘いが、ただの甘さではない。奥から、濃い魔力の匂いが流れてくるぞ。むむ……わしの腹が、勝手に鳴りおる」
ぐう、と実際に鳴った。
>ヴィヴィアンちゃんの腹の音拾ってて草
>センサーかな?
>食い意地がレーダーになってる
「ヴィヴィアン様があんなに反応するなんて」
桃瀬さんもつられて奥のほうへ目をやった。
俺には匂いなんてわからん。だが、ヴィヴィの鼻は魔力にも食い物にも異様に利く。無視できない類のやつだ。
「……ちょっと見てみるか」
「わしも行く! うまいものの気配は見逃さん!」
◇
密林は奥へ行くほど深くなった。
蔦が絡み下草が茂り、まともに歩ける道はない。日の光もほとんど差さない。
「
ひと振りで目の前の木々が吹き飛んだ。念のため距離は調整している。左右に倒れまた一本道が奥へ伸びる。
「相変わらずめちゃくちゃですね……」
栗花落さんが索敵しながら半笑いで呟く。
道の途中にもフルーツモンキーがちらほらいた。だがこちらに気づいて飛びかかってくる端から、ディバイドとバーストで倒す。
>敵が紙のように吹き飛ぶんですが
>つーかかなり奥まで行ってない
>真宿ダンジョンはあんまり人気ないからなぁ
>フルーツ取れるのわかっててもこのステージを踏破する猛者は少ない
「下僕の戦い方、雑じゃのう」
「早く済ませたいんだよ。お前が腹を鳴らすからだろ」
「わしのせいか!」
お前のせいだ。
◇
どれだけ進んだか。不意に密林が途切れた。
ぽっかりと開けた空間。その中央に一本だけ他とは明らかに違う木が立っていた。
見上げるほどに高い。幹は黒くねじれている。そして枝の先に、赤黒いトゲトゲの実がいくつも生っていた。ドラゴンフルーツをもっといびつにもっと禍々しくしたような形。
甘ったるい匂いがむわりと立ち込めている。ヴィヴィが言っていたのはこれか。
「……嘘」
桃瀬さんが立ち尽くした。顔からは血の気が引いている。
「桃瀬さん?」
「あれ……ドラゴンパッションフルーツ、ですわ」
「知ってるのか」
「はい。父に、連れられて……一度だけ、見たことがあります」
桃瀬さんの声が、少し震えていた。
「食べたものの、能力を大きく向上させる果実です。身体能力も、魔力も……ありとあらゆる力を、底上げすると言われています」
「……ほう」
「でもダンジョンでもほとんど採れなくて。市場に出ることはまずありません。もし出れば……時価、数億円になるそうです」
数億。
「なん……だと?」
思わず声が出た。数億円が、木に生っている。それも、一つや二つじゃない。
「それが、こんなに……こんなにたくさん、なっているなんて。父が見たら卒倒しますわ……」
>は? 数億?
>桁がおかしい
>短剣ニキ、それ全部採ったら人生何回分?
>落ち着け、まだ採ってない
>調べたらマジだ
落ち着け。俺もそう思う。とはいえこれは落ち着かずには――
「待って」
栗花落さんの声が鋭く割り込んだ。索敵に何かが引っ掛かったのか木の上を睨んでいる。
「この木の上……何かがいる」
◇
枝の間。葉の影。
そこに先客がいた。黄色い大型の個体。さっき逃げた黄色い大型のフルーツモンキー。
そいつはこちらを一瞥したが、もう逃げる気配を見せなかった。
なぜなら――口いっぱいに、あのトゲトゲの実を頬張っていたからだ。
「あっ」
桃瀬さんが、声を上げた。
金猿がぐしゃりと実を噛み砕く。果汁が滴る。喉を鳴らして飲み下す。
その瞬間だった。金猿の体が肥大化するように一回り膨らんだ。
黄色い毛が根元から色を変えていく。鮮やかな黄から――金へ。ぎらつく黄金色へ。体はさらに一回り、二回り大きくなり、筋肉が盛り上がる。目が雷光のように光った。
ずしん、と地面に降り立つ。木が揺れた。
>なんだコイツ
>初めてみるモンスター
>ここってボスの層だっけ?
>いや情報にないな
金色に輝く巨大な猿。ドラゴンパッションフルーツを食べた影響か、体中から雷のオーラを発している。
「金猿……ゴールドモンキー、か」
「こいつ、情報にありません」
ダンジョンの下調べ担当の栗花落さんが全員に伝える。金猿ゴールドモンキー、誰かが名付けたわけでもない。だがそうとしか呼べなかった。
「下僕!」
ヴィヴィが鋭く叫んだ。実体化した姿で金猿を指さす。
「魔力が濃くなったぞ! アレじゃ! アレの気配じゃ!」
「なに!?」
「ここにあるのか……情報にないぞ」
協会の資料に真宿ダンジョンで魔剣が出たなんて記録は一つもなかった。Cランクのフルーツ狩りのダンジョンだぞ。あるはずがない。
金猿が黄金の雷光をまといながら、ぎろりとこちらを見下ろした。
◇
金猿が動いた。
だが狙いは俺じゃなかった。
「――フルバのみんな!」
金猿は無防備に固まっていたフルバたちへまっすぐ突っ込んだ。速い。さっきまでのフルーツモンキーの比じゃない。果実の力で身体能力が跳ね上がっている。
「フォースフィールド!」
桃瀬さんがとっさに錫杖を掲げた。半透明の壁が五人を囲う。
金猿の巨体が結界に激突した。
がぎんと鈍い音。壁が大きく撓む。
「くっ……!」
止まらない。金猿は雷光のオーラを纏う両腕を振りかぶり拳を叩きつけた。
一撃。二撃。結界にひびが走る。
「桃瀬さん!」
「まだ……持ちます……!」
だが、三撃目で。
ぱりんと結界が砕けた。
金猿の拳が、無防備なフルバへ――
「――ロック」
がつん。
固定された空間が金猿の拳を受け止めた。振り下ろされた一撃が見えない壁に阻まれて大きく弾かれる。
金猿の巨体がたたらを踏んだ隙に、俺は五人の前に出た。
「あんまり調子に乗るなよ」
>間に合った
>短剣ニキ来たあああ
>やっぱこいつが本命
>ヴィヴィアンちゃんの後ろでフルーツ食ってて草
◇
「みんな、下がってろ。ここからは俺がやる」
「で、でも……!」
「いいから」
柿山さんを制して、金猿と向き合う。桃瀬さんのフォースフィールドが破られた。Bランクの彼女の結界魔法を破るにはそれ以上の力が必要だ。つまりこの金猿は少なくともBランク以上。
こいつはフルバの手には負えない。悔しいだろうがここからは俺の仕事だ。
「さてと」
ロックは半球状に全員の周囲に展開している。つまりこっちの守りは固めた。あとは削るだけだ。
「ディバイド」
空間を切る。金猿めがけて空間の断裂が走る。
ヒラリ、避けられた。
金猿は木の幹を蹴り宙へ跳んだ。断層が空を裂いて消える。
「……嘘だろ」
どうやって知覚した。空間の断裂を目で追えるはずが――
「だったらバースト。いや、ショックだ」
放つ。しかしこれも。
金猿は枝から枝へ蔦にぶら下がり、変幻自在に跳び回る。上へ、下へ、前へ、後ろへ。狙いを定めた先にはもういない。
しかも避けるだけじゃない。
がつ、がつ、と。
俺の攻撃の合間を縫って、金猿が反撃してくる。拳。蹴り。もいだ実の投擲。もちろんそのすべてがロックに阻まれる。
だが、こっちの攻撃も届かない。
金猿の移動はもう目で追うことができない。金色の残像と雷光のオーラが視界の端をちらつくだけだ。
ガン、ガン、と。ロックに攻撃が弾かれる音だけが密林に響く。
膠着だった。
ロックの内側にいればこっちは安全だ。だがこの中にいる限り金猿には手が届かない。倒しようがない。
「ど、どうしましょう……!」
柿山さんが、不安げに声を上げた。
>やば、詰んでない?
>短剣ニキでも捕まえられないのか
>速すぎて草も生えない
>全然みえんな
>これどうすんの
>ヴィヴィアンちゃんすでに果物10個目
>数えてんのかよ
コメント欄もざわついている。
……ふむ。
見えない。捕まえられない。狙っても避けられる。
なら話は簡単だ。
◇
「……わかった」
ぽつりと呟くと柿山さんが顔を上げた。
「見えないなら、全方位に攻撃すればいい」
「え……?」
「どこにいるかわからないんだろ。だったらどこにも逃げ場がないくらい攻撃を飽和させる」
「ど、どういう……」
「見てろ」
インベントリから、
穂先を下へ向け、地面にずぶりと突き立てる。
柄の中ほど碧く光る宝玉で合掌し、魔力を注ぎ込む。ごうっ、と槍が唸りを上げた。
足元から風が生まれた。
「空間領域
半径百メートルの巨大なロックで作られた領域。俺と金猿を包む見えない領域の中に、緩やかな渦が巻き始める。最初はそよ風のように。だがそれは見る間に勢いを増していく。
金猿が異変を察したらしい。俺から離れようと動き出す。
遅い。
もうこの領域からは出られない。
「
渦が爆ぜる。風が刃に変わる。
一筋じゃない。十でも、百でもない。数えきれない斬撃が、俺たちを中心とした半径百メートルの空間を埋め尽くした。
四方八方から、上から下から、逃げ場のない空間の中で無数の殺意が襲い掛かる。
どこへ行こうと果てなき刃からは逃げられない。
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各モンスターの討伐報酬が曖昧だったので具体的な報酬額に修正しました。
お暇があれば見て下さい。
ゴブリンジェネラル、ボア、メガガルーダ