魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
長くなったので2話に分けます。前半です。
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真宿ダンジョンから、シフトで全員まとめて脱出した。
ドラゴンパッションフルーツの木は、密林ステージのかなり奥にあった。俺がいなければ、往復するだけでも相当な時間がかかっただろう。フルバの五人も削れた大地を眼下に、空中移動には前回よりも慣れたようだった。
配信は翌日の予定だったので、ダンジョンを出たところで一旦解散になる。
「なぜ今日食べんのじゃ!」
ヴィヴィが頬を膨らませて俺に抗議する。
「明日って話だっただろ。聞いてなかったのか」
「知らん!」
今回のイレギュラーモンスター、金猿の出現はかなりの話題になったらしい。ライブ配信の同時接続数は20万人を超えていた。
八皇子ギルドの古館さんからも連絡が来ていた。状況報告のためにも近いうちに顔を出そうと思う。
採れたフルーツを少し残して手土産にするか。あの強面の受付がこのフルーツを前にどんな顔をするか少し見てみたい。
うちのチャンネル登録者数も、いつのまにか85万人になっていた。100万人まであと少しである。
採取したフルーツは全部インベントリに保存してある。インベントリの中は時間が経過しない。冷蔵庫よりも痛まないし、ドラゴンパッションフルーツなんて貴重品もある。そのため俺が預かる形にした。これなら盗まれる心配もない。
とりあえず明日のために準備をしておくか。
◇
翌日。
配信の会場はフルーツバスケットの事務所「ピーチ・エモーション」の自社ビルを使わせてもらうことになっている。
真宿の駅前に着いたとき、周囲からの視線をなんとなく感じた。
登録者数が85万人になってくると、俺を知っている人もそこそこ出てくるらしい。ふいに声をかけられることも稀にある。
「あのー、探索者のRENさん、でしょうか」
「あ、ああ」
「わぁ、配信よく見てます。あの! これからも頑張ってください!」
「ありがとう」
ボンっ。
「おうおう、応援ご苦労なのじゃ」
おい、勝手に出てくるな。
「キャー! ヴィヴィアンちゃん!!」
ヴィヴィが見知らぬ視聴者とワイワイやり始めた。まずい。待ち合わせに遅れる。俺は強制的にヴィヴィを引っ張ってその場を離れた。
◇
ピーチ・エモーションのビルは一階がエントランスになっていた。受付を済ませ一条さんを待つ。
「はぁ、はぁ。おいヴィヴィ、勝手に出てくるんじゃない」
「下僕! サービスじゃ、サービス! 固いこと言うでない!」
「あ、狭間さん、来られたんですね」
マネージャーの一条さんが、二階から降りてきた。
「一条さん、すみません。遅くなって……ちょっと駅で絡まれまして」
「ふふ、遅れてないですから大丈夫ですよ。もう狭間さんも有名人ですもんね」
「気軽に街を歩けなくなりました」
「次からは、帽子とかで隠して移動するのをお勧めしますよ」
「そうします……」
「よし、さぁ飯じゃ!」
「ヴィヴィアン様、準備はもうできてますよ。さあ、行きましょう」
◇
フルーツバスケットの五人はすでに揃っていた。
撮影場所はキッチンが併設されたレクリエーションルームでの撮影だ。ただの配信じゃなくカメラスタッフまでいる。撮影の本気度がうかがえた。
まずは、挨拶から。
「こんにちはー! フルーツバスケットでーす! 今回は! 短剣ニキこと、RENさんとのコラボ、二日目です!」
「RENです。今日もよろしく。前回はいろいろと大変なところを見せてしまったな。今日は先日採ったフルーツを使って、料理配信をやろうと思う」
>待ってた
>短剣ニキの料理きたああ
>昨日の金猿やばかったな
>今日は平和そうで安心した
>フルバとのコラボ二日目!
「じゃあ、採ったフルーツを見ていこう」
インベントリから、採取したフルーツを取り出して、机に並べる。
まずは、ドラゴンパッションフルーツ。
これは事前に相談して、今回の配信で使うことにした。小ぶりとはいえ、小玉スイカほどの大きさはある。
取り出した瞬間、黒い実の見た目からは想像もできない、豊潤な香りが部屋いっぱいに満ちた。
「……これはすごいですね」
「ああ。大きくはないが、時価数億円の代物だ」
>数億!?
>さらっと数億円出すな
>香りが画面越しに伝わってきそう
>スイカサイズの数億円
「どうやって処理しましょうか」
「正直、俺もあまり自信がない。誰か、下処理ができる人はいないか」
「でしたら、藍ちゃんはどうでしょう」
柿山さんが龍梅さんを指名した。
「えっ、私……ですか」
まったく想定していなかったらしく、本人は目を丸くしている。
「ええ。藍ちゃん、メンバーの中でも一番、刃物の扱いが上手いんです。ご実家が剣術道場で、小さい頃からお料理も含めて、こういうのは得意だとか」
「なるほど……。すまない龍梅さん、お願いできるか」
「……はい。やってみます」
龍梅さんは手際よく皮を切り取り果実部を取り出した。きれいに切り分けた状態にしてくれる。
「ありがとう。すごくいい手際だ。慣れてるのがわかる。料理はよくやるのか」
「はい。食べるのも好きなんですが、作る方が好きで……。いつも狭間さんの配信を見て、勉強させてもらっています」
「いや、俺なんて貧乏料理しかやらないから、あんまり参考にしないでくれ。恥ずかしいからな……」
「おおー! おぬし、きれいに切れとるの! 下僕より上手いんじゃないか! よし、今日からおぬしもわしの下僕じゃ! うまい飯をたんと作れ!」
「はわわ、ヴィヴィアン様からの下僕認定……!? なんて、羨ましい……!」
一条さんが、隅ではわわと震えていた。見なかったことにしよう。
>侍っ娘、料理上手いの尊い
>下僕の椅子争奪戦
>一条さん情緒どうした
>ヴィヴィアンちゃんの下僕、狭き門で草
「せっかくだ。ドラゴンパッションフルーツ、食べてみるか。小さいと言っても、これだけあれば全員分は切り分けられる。ここにいる全員で味わってみよう」
スタッフも合わせて一切れずつ配る。
全員で口に運んだ。
「「「「「「おおおおお!」」」」」」
見た目からは想像もつかない、あふれるジューシーさ。炭酸みたいに、口の中がシュワシュワと弾ける。
しかも、一切れ食べただけなのに。心なしか、体に力が湧いた気がした。気のせいだろうか。
「……これは、すごいな」
「はい。これは確かに、億はいくかもしれません」
>全員の顔が幸せそう
>一口で数百万円か
>味の暴力
>スタッフまで試食とか役得
>うらやましすぎる
>参加したい
◇
フルーツの下処理を全員で分担した。
龍梅さんが主導して、柿山さんと梨路さんが山積みのフルーツを捌く。桃瀬さん、栗花落さんは、俺と一緒に他の料理の準備だ。
ヴィヴィ? あいつは見るだけだ。いや、見るというより、食べるだけだ。下処理の終わったフルーツを、片っ端からつまみ食いしている。
「おいヴィヴィ、つまみ食いしすぎるな。料理に使う分がなくなるだろ」
「なにぃ! 下僕よ、固いことを言うな! ケチケチするでないぞ!」
「狭間様、こんなにあるんですもの。ヴィヴィアン様にはこちらを取り分けておいて、料理はあちらの分を使いましょう」
桃瀬さんが、にこやかに助け舟を出す。
「……仕方がない。ヴィヴィ、これからもっとうまいのを作るから、ほどほどにしとけよ」
「早くするんじゃぞ!」
「うふふ。そういえば狭間様、今日はどういうお料理を作りますの?」
「ああ。今日はいくつか焼き料理と、デザートを作ろうと思う。必要な具材は、もう一条さんに連絡して準備してもらってる」
「はい、狭間さん。ちゃんとご用意できていますよ」
「ありがとうございます。作るのは三つ、考えてる」
机に並んだ、三種のフルーツを示す。
「まずはこの黄色いブドウ。リンゴに近い風味だから、ソースにする。豚肉と玉ねぎを一緒に煮込んで、煮豚にしよう。酸味と酵素が豚肉を柔らかくして、フルーティーな旨味を引き出してくれるはずだ」
「次に、この赤いメロン。オレンジみたいな、さわやかな酸味がある。ブドウの方が肉料理だから、こっちは付け合わせのサラダにしようか」
「最後に、七色のバナナ。見た目に反して、食感はシャキッとしてる。梨みたいな、くどくない甘さだ。これはジャムソースにして、デザートに使う。せっかくだから、赤いメロンも一部ジャムソースにしよう」
「とてもおいしそう……。デザートは、何にしますの?」
「最近暑くなってきたからな。かき氷にしようと思う」
>かき氷!
>この季節に最高
>ダンジョン産のフルーツでかき氷とか贅沢!
「ただのかき氷じゃない。一層目の氷の上に練乳と果実をそのまま入れて、上から氷を再度コーティング。その上に、作ったトロトロのジャムソースをかける。酸味の効いた赤メロンソースと、さわやかな甘さの七色バナナソース。好みの味を作って、みんなで食べよう」
「「「「「…………」」」」」
五人が、しんと黙り込んだ。
「え……どうした?」
「「「「「狭間さん!!! 天才です!!!」」」」」
「お……おう」
>キター
>聞いてるだけで腹減る
>かき氷のコーティングとかいう発想
コソコソと五人が何か話している。
「や、やば……。ダンジョン産のフルーツから、ここまでのレシピが出てくるなんて。マジで何者ですか」
柿山さんが引きつった顔で呟く。
「一家に一台、狭間様ですわ……。聞いただけで、私、涎が止まりませんの」
桃瀬さんはうっとりしている。
「正直言って、私たち全然役に立ってなくて、いる必要ある……? 女子力ってなに? って感じなんだけど」
梨路さんが遠い目をした。
「狭間さん、戦闘だけじゃなくて料理もいけるって、すごいよね……」
栗花落さんがしみじみと頷く。
「料理のレパートリーが広すぎる……。これはもう、師匠と呼ぶしかありません」
龍梅さんに至っては俺を拝み始めた。おい、やめてくれ。
>フルバが完全に餌付けされてる
>師匠呼び頂きました
>女子力の敗北
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「「「ヒエッ、なに……この音」」」
低い地鳴りのような音に、前衛三人が身を寄せ合う。
「おい下僕!」
「なんだ」
「腹が減って、たまらんのじゃ!」
「お前の腹の音かよ」
>金猿より恐ろしい腹の音
>ヴィヴィアンちゃんのお腹が本日のラスボス
>はよ作ってやれ
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次回、調理&試食、そして新たなダンジョンへ……