魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
「じゃあ作っていくか」
「といっても、結構な数のフルーツですね。時間がかかっちゃいそうです」
柿山さんが山積みの果実を見て眉を下げた。
「一応、考えがある」
俺は常日頃から考えている。この空間操作をいろいろなことに応用できないか。これはその一つだ。
「すまんな。ちょっと武器出すわ」
「え……?」
>何する気だ短剣ニキ
>キッチンに似つかわしくないアイテムの予感
>まさか料理に使うのか
>やめろ、嫌な予感しかしない
風魔槍ゲイボルグを取り出す。フルバの面々とスタッフがぎょっとするのがわかった。まあ、振り回すわけじゃないから許してくれ。
テーブルの上に突き立てずにそっと置く。そして合掌。
「空間掌握、無辺刃獄
「あらあら……」
「浮いて、る」
「うっそだろ――」
「みなさん、食材には触らないでくださいね」
桃瀬さんもスタッフも、口をあんぐり開けて撮影している。テーブルの上、空間操作で球状に
ロックで固定しているから外に飛ぶ心配はないが、念のため触られないように注意する。
>ヤバ
>なんだこれ……何が起こってるんだ
>まじで意味がわからん
>スキルを料理に使ってる?
>え、ダンジョン外でもスキル使えるの?
>使えるぞ
>そういう問題じゃない
あらかたの具材を切り終えて、空間操作を止めた。
浮いていた食材がふわりとテーブルに降りる。フルーツも肉も、各料理に最適な形へ切り分けられていた。ソースに使う赤いメロンと七色のバナナは、なめらかなペースト状になってボウルに収まっている。
「どうだ。これで時短になったろう」
ふふん。昨日の夜、ちょっとだけ練習したんだぜ。俺の圧倒的料理スキルにひれ伏せ。
「下僕よ、ドヤ顔はいいからはよ飯つくれ」
「くっ」
正論だった。
他の面々も、ようやく再起動し始める。
「ま、まぁ狭間さんですからね……」
「スキルって、こういう使い方もできるんだ」
「さすが師匠です!」
>師匠呼び定着してて草
>ヴィヴィアンちゃんのツッコミが的確
>料理スキル(魔法)
◇
気を取り直して料理を進める。
まずは煮豚。
熱したフライパンで豚のかたまり肉に焼き色をつける。じゅうっと脂が跳ね、香ばしい匂いが立ちのぼる。そこへ黄色いブドウをすりつぶしたソースと、玉ねぎ、調味料を加えて煮込んでいく。
ぐつぐつと鍋が鳴り始めると、フルーティーな甘い香りと肉の匂いが混ざり合った。ブドウの酵素が効いているのか、肉の色つやがみるみる艶やかになっていく。
>匂いだけで白米三杯いける
>画面から匂いを送ってくれ
>ブドウで煮豚とか思いつかんわ
次にサラダ。
赤いメロンを一口大に切り葉野菜と合わせる。オレンジのような酸味を活かして、軽く塩とオイルで和えるだけ。煮豚の濃さを受け止める、さっぱりした付け合わせだ。彩りも鮮やかで赤い果肉が緑によく映える。
そして本命のかき氷。
一層目に練乳と果実を敷き、その上から氷を削ってコーティングする。さらにその上へ、とろとろに煮詰めたジャムソースをかけていく。
赤メロンのソースは、鮮やかなルビー色。七色バナナのソースは、淡く光を透かすような色合いだ。削りたての氷に垂らすと、つうっと染み込んで、白い雪原に色が広がっていく。
「「「「「わぁ……!」」」」」
>美しい
>これは優勝
>かき氷にジャムソースの二段構えとか反則
>夏が来た
>サマー!!
◇
料理が全部出そろった。
「よし。じゃあみんなで食べるか」
その一言で全員が席についた。ヴィヴィは、とっくに箸を構えている。はやいな、おい。
「いただきます!」
まずは煮豚。龍梅さんが恐る恐る一切れ口に運んだ。
「……っ、やわらか……! お肉が、ほろっとほどけます……! このソース、甘いのに、お肉にすごく合って……!」
「だろう。ブドウの酸味が、脂をさっぱりさせてくれるんだ」
「はぐっ、はぐっ……うまいのじゃ! 下僕、おかわり!」
「まだ全員行き渡ってないだろ。落ち着け」
梨路さんはサラダをつまんで目を丸くした。
「え、なにこのメロン、フルーツなのにサラダに合う……。酸っぱさがちょうどいい」
「煮豚が濃いからな。箸休めにちょうどいいだろ」
そして、かき氷。桃瀬さんがスプーンを入れた瞬間。
「んん――っ! ……なんですの、これ。氷なのに、果実がぎゅっと詰まってて……ソースが、とろける……!」
うっとりと、頬に手を当てている。お嬢様が完全に崩れていた。
「二種類のソース、混ぜてもうまいぞ」
「はわわ、そんな禁断の……やりますわ」
>フルバが幸せそうで俺も幸せ
>桃瀬さんのお嬢様仮面が剥がれてる
>むしろキメ顔
>ヴィヴィアンちゃんもう何杯目だ
>飯テロ配信の本領発揮
栗花落さんと柿山さんも、口いっぱいに頬張っては顔を見合わせて笑っている。カメラの前だってことをみんな忘れているみたいだ。
ヴィヴィはと言えば、煮豚とかき氷を交互にひたすら口へ運び続けている。
「しあわせじゃ……この世の楽園はここにあったのじゃ……」
「そりゃよかったな」
でも煮豚とかき氷の食べ合わせは最悪だと思うぞ。やめないと思うから止めないが。
こうしてフルーツバスケットとのコラボ配信はつつがなく終わった。数字も大きく伸びたらしい。まあ何よりみんなうまそうに食ってくれた。それで十分だ。
◇
「とまぁ、こんな感じでコラボは終わりましたね」
「……ちょっと見ないうちに、楽しそうなことしてますねぇ」
配信の三日後。俺は八皇子ギルドを訪れ、古館さんと個別ブースで向き合っていた。真宿ダンジョンの状況報告と、今後の活動の相談のためだ。
「あ、そうだ。これ、その時に採れたフルーツのおすそ分けです。よかったらギルドの皆さんで」
「おや、ありがとうございます。いやー、現役を引退してから、こういうものにとんと縁がなくなっちゃって。ありがたくいただきます」
『ありがたく思うんじゃぞ! わしの分を分けてやるのじゃからな!』
「おいヴィヴィ、黙ってろ。うちの分は別で確保してある」
「ははは。ヴィヴィアンさん、ありがとうございます」
『うむ。殊勝なのはよいことじゃ』
古館さんがフルーツを脇へ置いて表情を引き締めた。
「それで真宿ダンジョンの件ですが。金猿……フルーツモンキーの変異体は、ギルドでも把握していないモンスターでした。狭間さんの見立て通り、完全なイレギュラーです」
「やっぱり、そうなんですね」
「ドラゴンパッションフルーツの方も、担当ギルドから報告が上がっています。……これが少々厄介でして」
俺は心配ごとを一つ抱えていた。配信であの果実を流してしまった。数億円と知られた以上、それを狙う無茶な探索者が出てくるんじゃないか。それを事前に古館さんへ相談していた。
「担当ギルドが高ランクの探索者に依頼して、密林の奥地を再調査しました。木は無事に見つかったそうです。あれだけ荒れた周囲も、問題なく元に戻っていたと」
「ドラゴンパッションフルーツは、実はどうでした」
「一つも、成っていなかったそうです」
「一つも?」
「ええ。数日調査を続けても、実は一切見当たらない。おそらく実がなるには特定の時期か、何らかの条件が要る。詳しいことは不明、というのがギルドの見立てです」
つまり、今あの木に行っても実は手に入らない。
「そもそもあの木は、密林の奥深くにあります。そこへ至るには、トレントやフルーツモンキーを退けて密林を踏破しないといけない。高ランクの探索者でなければ到達できません。狭間さんが懸念されたような事態は、まず起こらないでしょう」
「そうですか。それならいいんですが」
杞憂であればそれでいい。俺だってまさかコラボ配信中に数億円の実にお目にかかるとは思わなかった。
「どちらにせよ、ギルドは真宿ダンジョンの出入りをしばらく注意して管理するそうです」
「それがいいと思います」
あんな高価なものが自由に採れるとわかれば、馬鹿な探索者が出てくるのも時間の問題だ。管理するに越したことはない。
「それと古館さん。これが金猿を倒した時にドロップした魔剣です」
インベントリから、雷光の金籠手ヤールングレイプルをテーブルに載せた。
「これが……。ふむ、雷属性の魔力を帯びていますね」
「わかるんですか」
「これでも現役時代は、魔法剣士タイプでしたから。魔法スキルは一通り持っているんですよ」
きらりとメガネを光らせて、古館さんがにやりと笑う。元A級の凄みがこういうときに顔を出す。
「しかしこれもギルドが把握していないタイプの魔剣です。新発見ですよ。お手柄です、狭間さん」
「やっぱり、そうなんですね。以前見せていただいた資料に真宿ダンジョンの記載はなかったので」
『こやつはハズレじゃ! 下僕が持っても、なーんにも起きんかった!』
「バっ……変なことを言うんじゃない! ヴィヴィ、黙ってろって」
「? ハズレとは。雷属性のスキルが発現すると思うのですが」
「え、ええ! それはあったんですよ。ただこいつ、炎属性がよかったみたいで、ヘソを曲げてまして」
危ない。アンロックの件はまだ誰にも言えない。
「はは、なるほど。とにかく、新種のモンスターの発見と、ダンジョン新領域への到達。この二件で、狭間さんとフルーツバスケットの皆さんに報奨金が出ます」
「ええっ、そうなんですか」
「後日また連絡しますので、受け取りに来てください」
新しい実績、か。こうやって積み重ねていけばいずれAランクに手が届く。配信の登録者も増えたし今回はいいことずくめだったな。
◇
「ところで狭間さん、次はどのダンジョンへ?」
「まだ決めてないですが……」
「でしたらここはどうでしょう。実は折り入って相談があります」
古館さんが、一枚の資料を広げた。
「
「ええ。最近、ここで少々奇妙なことが起きていまして」
桜樹町は神那川の海沿いの町だ。横浜にも近い。日本固有のモンスターが出現する階層攻略型のダンジョンで遺物も多く出る。そういう意味でも有名かつ探索者に人気の場所だ。
「奇妙なこと、というと」
「そのダンジョンで活動している探索者が何者かに襲われる。そういう事案が続いています」
「モンスターに、では?」
「それが違うんです。命までは取られていない。急に襲われて気絶させられ、装備と報酬だけを奪われている」
「……それは確かに奇妙ですね」
モンスターに襲われたならまず命はない。装備だけ奪って見逃すなんて芸当はしない。
「これはギルドからの依頼です。モンスター討伐や素材とは別に依頼達成の報酬が出ます」
「話はわかりましたが……正直、俺じゃなくてもいいのでは」
ソロの俺が対応する案件とは思えない。もっと適したパーティが他にいるだろう。
「いえ。あなたは思っている以上に適任なんです。攻撃、防御、地形への対応力。素材の収集力。近年の探索者では群を抜いています」
「そ、そうですか」
「今回の真宿の実績も近々加味されるでしょう。私個人としてもあなたの活躍をとても楽しみにしているんですよ」
急にべた褒めされてどうにも据わりが悪い。素直に喜べない。
「それに、狭間さんの目的にも沿うダンジョンかと。……ありますよ、魔剣」
「……」
そうなんだよなぁ。魔剣。
桜樹町ダンジョンは最終ボスが魔剣を落とす。ある条件は必要だが、それを満たせば必ずドロップする。これまでのギルド調査で、ほぼ確定しているらしい。
野望のための魔剣がある。行かない理由がない。……はずなのにどうにも気が進まない。理由は別にあった。
『下僕。魔剣があるんじゃろう。ならば行かねば! わしの野望(メシ)のために!』
仕方がない。行くしかないか。
「……どうしました?」
古館さんが訝しげに首をかしげた。うう、答えづらい。
「いえ、ちょっと……苦手なんです」
「え? 何がですか」
「妖怪が」
そう。桜樹町ダンジョンは、国内に数か所しかない、妖怪が出る
俺、ホラー苦手なんだよ。
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次回、幕間を挟んでから、桜樹町ダンジョン(ホラー)を攻略です!
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カクヨムで先行配信しています。
先が気になる方はそちらもご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115