魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった   作:竜刃丸

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第31飯 「いやなもん思い出させやがって!」

 

――あれ。

 

ここはどこだ。

 

どこかの山の中。木々が鬱蒼と茂って暗い。

 

そうだ。俺は狭間蓮。小学四年生だ。父さんと母さんを探しに来たんだった。

 

二人とも帰りが遅いから家を出て……あれ。

 

なんで、俺は山の中にいるんだ。

 

「父さんー。母さんー。どこだよー」

 

声が山の中に響く。誰もいない、答えない。なんだか夢の中みたいに足が重い。

 

暗くて。静かで。どこにも出口がなくて。

 

 

 ……。

 

 

場面が切り替わる。

 

どこかの家。俺は高校生になったばかり。

 

「先生! 父さんと母さんが、ダンジョンスタンピードに巻き込まれたって、本当ですか!」

「落ち着いてくれ、蓮くん。今、現地に確認しているところだ」

「そんな悠長な! 父さんと母さんは、無事なんですか!」

 

俺は神崎先生の胸ぐらに掴みかかっていた。先生は何も言わず、ただ俺の手をそっと握った。

 

 

 ……。

 

 

また場面が変わる。

 

黒い服。線香の匂い。

 

「…………」

「蓮くん。大丈夫かい」

「……先生。ここに、父さんと母さんの遺体はないんだ。ダンジョンに飲み込まれてしまって」

 

俺は……、俺は家族みんなで一緒にいたかっただけなんだ。なんでこんな。

 

「君さえよければうちに来ないか。湊も喜ぶ」

 

 

 ◇

 

 

『……い』

 

『……ぉい』

 

『……僕』

 

『……下!』

 

『おきろ、下僕――!!』

 

「――ッ!!」

 

目が覚めた。

 

周囲が紫色の(もや)に覆われていた。一メートル先も見えない。どうやら俺はずっとその場に突っ立っていたらしい。

 

『下僕! 起きたか!』

 

ヴィヴィが腰の鞘から、俺を揺さぶるように強い大声で叫んでいる。

 

「なんだこれ。どうなってる。周りが全然見えないぞ」

『知らぬ! 歩いておったら、いきなり周囲に靄が立ち込めて、こうなったのじゃ! わしにも周りが見えん!』

「どういうことだよ……」

 

>周囲が紫でなんも見えない

>どうなってんのこれ

>短剣ニキさっきから固まってた

>急に立ち止まって動かなくなったよな

 

『下僕はボーッと突っ立って、わしの声も聞いておらんかった! なにをやっとったんじゃ! 腹でも減ったのか!』

「お前と一緒にするな! ……いや、よくわからん。なんか昔の夢みたいなのを見てた気がする」

 

『寝とったんか!』

「寝てない!」

 

……妙な感じだった。すごく嫌な夢を見ていた気がする。忘れかけていた昔のことをだ。

 

けれども思い出そうとすると、頭にもやがかかって、うまく像を結ばない。

 

『とにかく、どうにかせんと先に進めんぞ!』

 

ヴィヴィの声で我に返る。そうだ。今は探索中だった。

 

この靄。多分、何かのモンスターの攻撃だ。しかしどうする? 周りが見えないんじゃどうしようもない。

 

「ちぃっ! もう起きたのか!」

 

背後から声がした。

 

聞き慣れない、低い声。人の声。

 

考えるより先に体が動いた。

 

「南無三!」

 

背後へバーストを放つ。見えないから当てずっぽうだが、やらないよりましだ。

 

ゴウッ。

 

「ぐあっ!」

 

手応えがあった。ドサドサっと何かをはじき飛ばしたみたいな音がした。

 

同時に紫の靄がすうっと晴れていった。俺は何が来てもいいようにヴィヴィを構えて警戒した。

 

靄が完全に晴れた。

 

そこに倒れていたのは。

 

青い肌をした誰かだった。白目を剥いて伸びている。

 

「……だれだ、これ」

 

尖った長い耳。青みがかった肌。明らかに人間じゃない。

 

妖怪かと思ったが、このダンジョンにこんなのいるのか。これまで見てきた妖怪とも少し違う雰囲気だ。モンスターなのか、人なのか。

 

「……ヴィヴィ、こいつ何かわかるか」

『うーむ……なんじゃろう。なんか、見たようなことがある見た目じゃが……』

 

ヴィヴィは思い出せそうで思い出せないらしい。

 

状況的にこいつが俺を襲ったはたしかだろう。しかしわからん、何故だ? 二人でうんうん唸っていると、青い誰かがぴくりと動き、俺たちを見上げた。

 

そいつは俺の顔を見て――はっと目を見開き、飛び起きた。

 

「はっ、狭間蓮――!!」

「え、なんで名前」

 

「どういうことだ……なぜ貴様がここに……?」

 

よくわからんがそいつは少し動揺しているようにも見える。

 

「………………そうか、そういうことか……、やはり私は天才か……、くっくっく、はーーーはっはっはっは!」

 

ビクッ。なんだなんだ。いきなり笑い出したからびっくりした。

 

膝を叩いて天を仰いで大笑いしている。笑いすぎだろ。何がそんなに面白いんだ。

 

「……なんだこいつ」

 

引く。普通に引く。

 

 

 ◇

 

 

「……なんなんだ、お前は」

 

怪しい、怪しすぎる。というかちょっと気持ち悪い。俺が問いかけると青いのは、芝居がかった仕草で両手を広げた。

 

「ふっふっふ、ここであったが百年目。我が名は異世界より来たりし、魔王様のしもべよ!」

「魔王……だと」

 

「くはは、そうだ! 我は魔王軍筆頭補佐、幻影のシルラス!」

 

異世界、そして魔王軍……。聞き捨てならない単語がいきなり出てきた。

 

「お前——、俺に、さっき何をした」

 

「くくく。なに、ちょっとした過去のトラウマを、いじくっただけよ。どうだった? 過去の、辛い記憶は」

 

――こいつだ。

 

さっきのあの夢。忘れたかった記憶を、無理やり引きずり出したのは、こいつの仕業か。

 

「くそっ。いやなもん、思い出させやがって!」

「はーはっはっは! 効いたようだな!」

 

さっきから笑ってばかり、俺を馬鹿にしているのか。腹の底が熱くなる。だが頭の隅では妙に冷えていた。異世界と魔王軍。こいつは何か知っている。聞き出す必要がある。

 

「しかし妙だな。普通はさっきのネガティブマインドを食らえば気絶するはずなんだが……」

 

ブツブツと独り言をつぶやくシルラスという青い肌の人物。

 

「どういうことだ……、何のために、こんなことをする」

「ん……? 俺が、その質問に答える義務は、あるのか? はーはっはっは!」

 

……まあ、そう来るか。素直に喋るわけ――

 

「いいだろう。教えてやる」

 

喋るのかよ。

 

「冥途の土産だ、狭間蓮! 我らは魔族!! 異世界より来たりし魔王の尖兵! 我々は魔王軍の復活を計画している。そして今回! 魔剣を手に入れるため! このダンジョンに来たのだ!」

 

「……な、なんだってー」(棒読み)

 

なんかこいつ、急にぺらぺら喋り出したぞ。よしこの調子だ。

 

「貴様にしたように! 探索者どもに幻影を見せ、気絶させ、持ち物を奪ったはこの私だ!」

 

こいつが最近事件を起こしていた犯人なのか!

 

「……なんて、ひどいことおー」(棒読み)

 

「はっはっは! 痛快だったぞ! 幻影に恐れおののき、気を失う阿呆どもを見るのは! 我が計画は、完璧なのだ!」

 

「……お、恐ろしい計画だー」(棒読み)

 

>悪役が自分から手の内明かすの様式美すぎる

>こいつペラペラ喋りすぎだろ

>短剣ニキの相槌が完全に棒読みで草

>つかこのダンジョンに魔剣あんの?

>魔王軍? どういうことだ?

>急に話がでかくなってきた

>青い人間、こんなのこのダンジョンにいたか?

 

「そして今度は、貴様をおびき寄せることに成功した!」

 

いやさっきの反応から、偶然だろ、それ。

 

「なぜ、魔剣を狙う」

 

「異世界へ帰るためよ! そして――貴様の腰にある、その魔王剣が、我らの悲願には必要なのだ!」

 

魔王剣。こいつはヴィヴィのことをそう呼ぶ。つまり魔王剣を知っている。

 

「貴様はなぜかすぐに目を覚ましたようだが。もう一度、幻影にかかってもらおう。そして――」

 

シルラスが両手に魔力を溜めた。

 

「その魔剣を、よこせぇぇ――!!」

 

 

 ◇

 

 

シルラスが襲いかかってきた。

 

途端、視界が歪む。

 

シルラスの姿がぶれた。一人が、二人に。二人が、四人に。俺を取り囲むように、同じ姿がいくつも現れる。

 

「くっくっく、どれが本物かわかるまい」

「幻……!」

 

どれが本物だ。四方から、シルラスが嗤う。声も、いたるところから聞こえる。どこから攻撃が来るのか、まるでわからない。

 

>囲まれてる

>どれが本体だよ

>卑怯くさい戦い方

>魔王剣って何?ヴィヴィアンちゃんは魔剣じゃないの?

 

一体にバーストを放つ。すり抜けた。幻だ。

 

別の二体にむけてショック。これも消えない。当たらない。

 

「ちっ……」

「ほれほれ、あたらんなぁ。貴様ごときの攻撃、私にはそよ風よ。そらもっとあおがんか? ん?」

 

くっそ、あおりがうまい。イラつく。

 

ディバイドなら、幻ごと空間を斬る。だが、それは避けたい。こいつには、聞くことが山ほどある。本物にディバイドが当たったら真っ二つだ。殺すわけにはいかない。

 

「さぁ、魔王剣をよこしてもらおうかぁ……、ぬぅん」

 

やばい、幻影が近づいてきている。どうすればいい。

 

見えない。どれが本物かわからない。囲まれている。

 

――どこかで、同じ状況があったな。

 

金猿だ。速すぎて目で追えず決定打がなかった、あの時。俺はどうした。

 

全方位。逃げ場をなくした攻撃。

 

だが今回は殺しちゃいけない。ディバイドは使えない。そうだ、なら――

 

インベントリから金色の籠手を引き抜いた。雷光の金籠手、ヤールングレイプル。両手に装備する。

 

「そういや、こいつの検証、まだだったな。ちょうどいい」

 

籠手にヴィヴィアンが供給する無限の魔力を送る。雷の魔力が満ちる。

 

「これは痺れるぜ」

 

電気の放電にブレイクを重ねる。高周波。地に流れて周囲に広がる。雷は俺の味方だ。パチパチと指先で紫色の火花が散った。

 

「試してやる。新技だ」

 

地面をたたき割るように金籠手で強く殴る。すると俺を中心に、紫電の光の束が蜘蛛の巣状に拡散した。

 

周囲五十メートル。逃げ場はない。幻だろうが、本物だろうがそこにいるなら感電する。

 

「放電――ヴァーリー!」

 

バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ――ッ!!

 

雷が放射状に走った。

 

「あばばばばばばばばばばばっ!!」

 

囲んでいた幻影が一斉にかき消えた。そしてたった一つ、感電して痙攣する本物のシルラスが残った。

 

「効いたな」

 

>なんか出たあああ

>新技かっこよすぎ

>雷であぶり出したのか

>短剣ニキ強すぎる

>何だその無茶苦茶かっこいい装備は!

>ニキ武器増やしすぎ

 

「わ、私は……まけ、負けん……!」

 

シルラスが痙攣しながらも、吠えた。

 

「その魔王剣の入手は……我が魔王軍にとって……魔族にとっての、悲願なのだ! 必ず……元の世界に、帰るのだ……!」

 

そして白目を剥いて崩れ落ちた。今度こそ完全に気を失ったらしい。

 

静かになった。

 

 

 ◇

 

 

ぼんっ。ヴィヴィが実体化してシルラスに近づく。

 

「……なあ、ヴィヴィ」

「なんじゃ」

 

「魔王軍ってなんだ」

 

ずっと引っかかっていた。こいつはヴィヴィを魔王剣と呼んだ。魔王軍の悲願だと言った。ヴィヴィはいったい何なんだ。

 

ヴィヴィが倒れたシルラスを、じっと見下ろす。青い肌。尖った耳。その顔をしばらく見つめて。

 

「――思い出したのじゃ!」

 

ぽん、と手を打った。

 

「こやつ、魔族じゃ! そういえば、魔王も、魔族じゃったのう!」

 

「……は?」

 

今、こいつ、何て言った。

 

「魔王も、魔族……? おい、待て。それって……」

 

嫌な予感がした。とてつもなく、でかい何かに足を突っ込んだ気がする。

 

そして気が付いた――この時の映像は、しっかりと。

 

全国に、生配信されていたのであった。

 

>今の聞いた?

>魔族?魔王?

>ヴィヴィアンちゃん、魔王の関係者ってこと?

>とんでもない配信に立ち会ってる気がする

>これもう国家案件だろ

 

 

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突如現れたシルラスによって、

とてつもない事実が全国に明らかにされてしまいました!!!

 

そして、ここまでお読み頂き誠に有難うございます。

少しでも「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら

★やレビュー、感想等いただけると、今後の更新の大きな励みになります!

よろしくお願いします。

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