魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
さて、コメントをどう返すか。
ざっと見た感じ、一番多いのはさっきのシルラスとカジンについてだ。だが正直、これは俺もそこまでわからん。初めて会ったやつらだ。何者かと聞かれても視聴者と俺で知ってることに大差はない。
俺が言えるとすれば……現場にいた肌感くらいか。
あの幻影は本物だった。頭では幻だとわかっていても炎は熱く、プレッシャーを感じていた。そして俺の、忘れたはずの昔の記憶を無理やり引きずり出された。
もしヴィヴィがいなかったら正気を保てず、魔剣を奪われていたかもしれない。そう思い返すと今さらのように寒気がした。
「ありがとうございます。いろいろ聞かれてるんですけど、ここ、ダンジョンの中なんで。飛んで移動しながら話しましょうか」
>そういやそうだった
>のんびり喋ってる場合じゃない
>いろいろ聞きたいけどダンジョンの中はやっぱ危険だよな
>飛ぶ!?
>お、初見か?
>まぁゆっくりしていけよ
自分とヴィヴィをロックの膜で包み、シフトで空中へ浮かび上がる。
ふと思った。なんで俺はこの山のステージを、馬鹿正直に歩いて移動してたんだ。飛べばよかったんだよ最初から。
……たぶん恐怖で視野が極端に狭くなってたんだろうな。暗くて怖くて頭が回っていなかった。けれどもシルラスを撃退して少しだけ冷静さが戻ってきた気がする。本来の頭の使い方を、思い出してきた感じだ。
山の木々の上を滑るように進む。この高さなら下草に潜む妖怪も届かない。烏天狗みたいな飛ぶ妖怪もこの層にはいないし、思ったより快適だった。
◇
「下僕! 食い物ないか!」
ヴィヴィが俺の肩でせっつく。移動に飽きたらしい。最近、飛ぶことに慣れてきたせいで、最初の感動がすっかり消えてやがる。
「……ほら。これ食べてていいぞ」
インベントリからポテチミックスを取り出して渡す。
「おおー! ポテチミックス、関西しょうゆ味! 香ばしくて、やみつきなんじゃ!」
袋を開けてポリポリとやり始めた。
「さて、何から答えますかね」
>あいつら何者?
>その雷の籠手!
>魔族と魔王について!
>魔王剣ってなに!
「シルラスとカジンと名乗っていたあの二人については、俺もよく知りません。皆さんと、知ってることは同じです。ただ」
これは、言っておくべきだろう。
「あいつらはこの桜樹町ダンジョンで、探索者を襲って装備や所持金を奪っていたみたいです。実は言ってなかったんですが……俺は今回、ギルドからこの桜樹町ダンジョンの襲撃事件の調査を依頼されてました。その過程であいつらに遭遇したんです」
>つまり最近ウワサの探索者被害、犯人あいつらか
>そんな事件があったのか……
>ダンジョンで装備を奪われるとか、死に直結するぞ
>やってること洒落にならん
>つーか短剣ニキ、そんな調査請けてたんだ
「調査を請けた理由は、いろいろあるんですけど……些細なことなんで割愛します」
魔剣目当てだった、なんて言えるわけがない。
「とにかく今回のことで調査は一旦終了です。ギルドには報告する予定です」
それにしても、あいつらの魔法は厄介だった。何度も幻に惑わされた。まともに戦えば俺の攻撃は当たりもしない。ヴィヴィがいたからなんとかなったが、ソロだったらどうなっていたか。……考えたくもない。
「次に、あいつらを撃退した、この籠手」
両手の金籠手をカメラに見せる。
「名前は、ヤールングレイプル。雷の魔剣です」
>キターー!
>新武器!!
>かっけぇぇえええぇ
>雷属性はロマン
>ニキ、どこで手に入れたんや
>見るたびに魔剣が増えてる男
>これで何本目?
「入手については……詳しくは言えないですけど。拾いました。三本目の魔剣です」
>出たーー! 拾った!!
>あからさまな隠し事で草
>魔剣ってそんな簡単に拾えるものなの?
>いや普通は高ランクしか持ってないんだが
>三本目とかおかしいだろ
「……はは。まあ、拾ったんですよ、本当に」
我ながら、苦しい言い訳だった。
◇
お、頂上が見えてきた。
大きな一本杉が天へ向かって伸びている。その根元に祭壇があった。一層から三層で見たのと同じようにぼんやりと光を放っている。まるで俺を誘っているみたいだ。
「ヴィヴィのことも聞かれてますけど……ヴィヴィは魔王剣って自分で言ってますが、俺もよく知りません。魔族、魔王、異世界。これも全部初耳です」
こんなところか。俺から説明できることなんて、たかが知れている。
確かに、コメントの言う通り、これらはとてつもなく重要なことなのかもしれない。魔王だの、魔族だの、異世界だの。放っておいていい話とは思えない。
だがそれを考えるのは今じゃない。ここは油断のならないダンジョンの中だ。まずは目の前のことに集中する。
>ううむ、確かにこれ以上ニキに聞いても意味ないか
>知らないんじゃ答えようがないしね
>でも、もうちょっと聞いときたい
>おいお前ら、ここダンジョンだぞ、お喋りする場所じゃない
>死んだら二度と聞けなくなるしな
「そろそろ祭壇です。ボスのところへ行くのに、必要なアイテムがあるみたいなんで」
俺とヴィヴィは、祭壇の前に降り立った。
頂上の周りには、何体か妖怪がうろついていた。幸いここは見通しがいい。どこから来るか丸見えだ。
「ショック」
まとめて蹴散らす。そしてロックで周囲の空間を固めて他の妖怪が近寄れないようにした。
ふふ。見えないところから驚かしてこない妖怪なんて怖くもない。俺が怖いのは暗くて見えなくていつ来るかわからないやつだ。こうして全部見えていればどうってことはない。
頂上からは、山のふもとまで見渡せた。周囲は、山と谷。どこまでも暗い闇が広がっている。
祭壇に目を戻す。
中央に酒器がひとつ。覗き込むと空だった。底に埃が溜まっているだけだ。その手前に石造りの四角い台座。上に木のお盆が置かれている。盆の中央には丸いくぼみが三つ。ちょうど何かを収めるための形だ。
「なーんじゃ、ここは」
ヴィヴィが台座に刻まれた碑文をじろじろ眺めている。俺も覗き込んだ。
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これ大江の山なり
いにしへ鬼あり 名を酒呑童子といふ
夜な夜な麓の里を荒らし 源の頼光に追はれて此処に逃れ入る
鬼 祠に棲みつきしより 魑魅魍魎 草の如く湧きて絶ゆることなし
鬼にまみえんと欲する者 神酒みちたる器をたづさへて祠に詣づべし
碑の下なる折敷に曲玉を据ゑなば 器おのづから満ち 玉うつさば失せん
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古い言葉だがなんとか読める。
夜な夜な里を荒らした鬼、酒呑童子。追われてこの山に逃げ込み、祠に棲みついた。それ以来、魑魅魍魎が草のように湧いて、絶えることがない。
このダンジョンに妖怪が満ちているのはこいつのせい、というわけか。ギルドでも言われていた通り、ダンジョンボスだろう。これから相手にする鬼の格を思うと、少し身が引き締まる。
「これは……勾玉を、ここに置くのか。そう書いてあるように見えるな」
碑文の後半。折敷に曲玉を据えれば器が満ちる。玉を移せば失せる。
>おれ、難しいことわかんない
>分析班ーーー! 仕事だぞーーー
>ふむ……わからん
>だめだ、コメントは力になれん。頑張れニキ
俺はインベントリから三つの勾玉を取り出した。青みがかったなめらかな石。ひんやりして手ざわりがいい。ちょうど手のひらに乗るくらいの大きさだ。
くぼみにそっと一つずつ置いていく。
かちり。かちり。かちり。
石が収まる音がやけに大きく響いた。
しん、と静まり返る。何も起きない。
……失敗か? そう思った次の瞬間。
とぷ……。
空だったはずの酒器の底に透明な液体が湧いた。
何もない底からじわりと染み出して、みるみる嵩を増していく。俺は思わず一歩下がった。ホラーダンジョンでいきなり何かが湧き出すのは心臓に悪い。
液体はなみなみと器を満たして止まった。
>は?
>今、なんか出たぞ
>水?
>いや酒だろ、碑文にそう書いてある
>バイ〇ハザー〇のギミックみたいだな
>どこから湧いてんだよ
ふわりと甘い匂いが立ちのぼった。米の匂いだ。まぎれもなく酒だった。
「うおおおっ! なんか出た! なんか出たのじゃ、下僕!」
「そうだな」
「なんじゃこれは! うまそうな匂いがするぞ! 酒か!」
「飲むなよ」
「ちょっとくらい、いいじゃろ!」
言い終わる前にもう手が伸びていた。俺はヴィヴィの襟首を掴んで、酒器から引き剥がす。
「これは、ボスに必要なやつだ。飲むな」
「けちー!」
とりあえずこれが要るらしい。インベントリにそっと収める。勾玉は……碑文の通りなら移せば酒が消える。置いていくか。
ボッ。
酒器を収めた瞬間、山のふもとで、明かりが灯った。ぽつんと一点。まるでそこへ来いと言うように。
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いにしへ鬼あり 名を酒呑童子といふ
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碑文の一節が頭をよぎる。
「……どうやら、あそこに酒呑童子がいるらしいな」
いろいろあったダンジョンだが。ようやくボスとご対面か。
◇
一方、その頃。
「カジンーーー! なぜ、魔王剣を奪ってこなかったーー!!」
「いや、シルラス様を助けたの、俺っすからね。逆に、感謝してほしいっすよ」
「ぬおーーー! 我が五百年の悲願がーーーー!」
「それよりシルラス様。魔族とか、俺たちの計画とか、全部ばらしちゃってよかったんすか? 生配信でしたよ」
「……!!? なんだとーーーー!!!」
大荒れであった。