最強の魔剣、拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった〜荷物持ち扱いで捨てられた俺、無限の魔力でダンジョン無双を始めます〜 作:竜刃丸
「ヴィヴィ。ちょっと重要な話がある」
朝。ちゃぶ台の前で正座した俺は、目の前で唐揚げをかじる少女に切り出した。
「なんぞ? 下僕よ」
実体化したヴィヴィが、口をもぐもぐさせながら顔を上げる。金髪に赤い目、黒いフリルのワンピース。見た目は完全に子どもなのに、その食いっぷりはすでに大人三人分だ。
「金がないんだ」
「は? 何を言うておる。お前さん、魔剣を拾って強くなったんじゃろ。ダンジョンとやらで、いくらでも稼げるのではないのか」
もっともな指摘だった。だがそこに問題がある。
「あのな。俺、ギルドで『ソロで探索者やります』って宣言したよな。あれから一度も探索に行けてないんだよ」
「ほう? なぜじゃ」
「お前が! 毎日毎食! 飯屋に連れて行けってうるさいからだよ!」
この数日を思い出して、俺は頭を抱えた。
くる寿司から始まって、ビッグボール、ラーメン十郎、五左右衛門、餃子の皇帝、ジョニーパスタ、バーモヤン、またラーメン十郎、かっぽう寿司、焼き鳥鉄人、ピッツァーナ・ナポリ。朝以外は、全部外食。
それもヴィヴィが「もっと食う」「あれも食う」と際限がない。
「うむ、どれもうまかったのう。特に十郎は最高じゃった。よし、今日も十郎に行くぞ。全マシで!」
「却下だ! なにが悲しくて週に三回も十郎に行かなきゃならん。家計が死ぬ前に俺の血管が死ぬわ!」
「なんじゃ、けちくさい。……で、下僕よ。結局お前さんは何が言いたいんじゃ」
「だから! 金がないって言ってるんだよ!」
「ふっ……何を甘いことを。下僕よ、わしは金になど負けん!」
ヴィヴィが、唐揚げを片手に、ふんぞり返って言い放った。
「……いや、意味がわからん。何と戦ってるんだお前」
「わしは魔王剣ぞ。かつて世界を震わせた存在じゃ。金ごときに屈するわしではないわ。だいたい店の者に『わしを誰だと思っておる』と言えば、飯くらいタダで出すじゃろ」
「出さねえよ。通報されるわ」
ヤバいこいつ、本気で言ってる。
魔王剣だかなんだか知らないが、現代の常識が決定的に足りていない。
「いいか、ヴィヴィ。よく聞け。……この世界はな、お前が魔王であった時と全く違う。金がないと飯が食えないんだ」
俺が真剣な顔で告げると、ヴィヴィの動きがぴたりと止まった。
「……なに?」
「金がなくなったらな、ラーメンも寿司も、唐揚げも、もう食えない」
「な……!?」
あまりの衝撃に手に持つ唐揚げが、ぽとりと皿に落ちた。ヴィヴィの顔からみるみる血の気が引いていく。
「そ、それは……まことか、下僕。飯が、食えなくなると……?」
「まことだ。この数日贅沢できたのは、俺のなけなしの貯金があったからだ。この調子だとあと数日でそれも尽きる。つまり」
「飯が……食えぬ……」
ヴィヴィがわなわなと震え出した。世界を震わせた魔王剣が、飯を食えなくなる恐怖に震えている。
器の小ささがいっそ清々しい。
「だから、だ」
俺はちゃぶ台を叩いて立ち上がった。
「俺はこれを提案する。――Dチューバーに、なる」
◇
「でぃー……ちゅーばー?」
「ダンジョン配信者だ。ダンジョンの攻略を撮影して、ネットで流す。人が集まれば、再生数と投げ銭で金が入る。今、一番アツい稼ぎ方だよ」
最近、動画投稿サイトの人気に乗じてやたらと増えている。ダンジョンに潜る様子を配信して、視聴者を集める探索者たち。
もちろん配信者もピンキリだ。無名の探索者の動画は注目されず、人気配信者には数百万人の視聴者が集まる。中にはそれだけで食っている連中もいるようだ。
基本的にダンジョンに潜ること自体に大きなリスクが存在する。命をかけて素材や遺物を求める姿に、視聴者達は尊敬と畏敬の眼差しを贈るのだ。
つまりこの方法で稼ぐためには確かな実力が必要なのだ。そして俺には、それができる武器がある。無限の魔力と、空間操作。さらには——
「そして、わしがおるからな! わしが映れば、視聴者などイチコロじゃ! なにせ可憐じゃからな!」
「まあ……お前が珍しいのは、確かだな」
喋る魔剣。実体化する少女。この珍しさはおそらく配信の目玉になる。認めるのは癪だが、ヴィヴィは強力なコンテンツだ。
俺たちは手続きを行うため、さっそくギルドへ向かった。
◇
ギルドは探索者の登録や換金だけじゃなく、配信の登録から収益の管理まで、まとめて面倒を見てくれる。ダンジョン関連の役所みたいなものだ。
八皇子ギルドの例の強面の職員が対応してくれた。
「Dチューバー登録ですか。狭間さんが」
「ええ。この魔剣で配信をやろうと思って。あ、こいつ、喋るんですよ」
『うむ! わしは魔剣ヴィヴィアン!畏れよ、崇めよ!』
腰の短剣から声がして職員がぎょっと目を剥いた。さらに、ボンッ、と音を立てて、ヴィヴィが実体化する。
「しゃ、喋る……! しかも、人の姿に……!? そ、そんな魔剣、聞いたこともない……!」
「意思を持つ魔剣、みたいですね。珍しいんでしょう?」
「珍しいなんてものじゃ……。自我を保つ魔剣は稀に報告がありますがこんな事できる魔剣は初めてですよ。特殊な力を宿すとは聞きますが、それが実体化して喋るなんて……前代未聞です」
職員が額の汗を拭いながら、手続きを進めてくれた。
「……分かりました。登録しておきます。機材は、こちらでレンタルもできますよ。狭間さんには、その、こちらも先日ご迷惑をおかけしましたし……特別に、無料で」
「助かります」
話が早くて助かる。俺は機材一式を借り受けた。小型のカメラと配信用の端末。これで準備は整った。
「では、さっそく行きましょうか」
「え……行くって、どこへ」
「八皇子ダンジョンです。今から」
「い、今からですか!? その……見たところ装備は……大丈夫でしょうか」
そりゃそうだ、こっちはジーンズとTシャツ、サンダルしか履いてない。しかし——
「大丈夫だ。問題ない」
「大丈夫じゃ!」
まぁなんとかなるだろ、ヴィヴィいるし。
職員のぽかんとした顔を背に、俺たちはギルドを出た。
◇
「――あーテステス。えー、初配信です」
八皇子ダンジョン、地下一階。
俺は準備を整えて、ドローンカメラを起動した。ドローンカメラはダンジョン探索している間、俺の後ろについて撮影してくれる。予備バッテリーももらってきたから電源は心配ない。
Dチューブにアクセスし俺のアカウントに繋げている。
アカウント名、REN。
配信チャンネル名、魔剣メシ。
チャンネル名が少々キワモノっぽいが、これくらいキャッチーなのでいい。一応狙いもある。
「俺は狭間蓮。探索者ランクはF。今日から、ダンジョンチューバーとして配信することになった。よろしく」
端末の画面に、ぽつぽつとコメントが流れ始める。
>お、なんか始まった
>どーせしょうもない配信だろ
>魔剣メシってなんだよ
>新人か?
>Fランクって一番下じゃん
「で、こいつが相棒だ」
俺は短剣をカメラの前に差し出した。
『お前たち! わしの下僕にしてやろう!』
>なぬ?
>黒い短剣?
>なんか話してるように見える
>声が可愛い
>なんか光ってる?
短剣が眩い光を放ち、ヴィヴィが姿を現した。
「わしは魔剣ヴィヴィアン! 畏れろ、崇めろ、下僕どもぉ!」
フーハハハハ、ヴィヴィがカメラに向かって偉そうに声を張り上げる。
とたんに、コメントの流れが速くなった。
>女の子?
>おいおい未成年連れてきて良いのかよ
>なんか出てきた
>は? 意味不明
>かわゆす
>下僕とか
>下僕どもは草
>魔剣か
>魔剣ってなに?
>珍しいな、魔剣
>魔剣って知らんわ
「魔剣は珍しい遺物の一つだな」
Dチューバーを始めるにあたり、ヴィヴィが魔王剣であることは念の為秘密にすることにした。
魔剣は知ってる人はいるが魔王剣なんぞ聞いたこともないからだ。ややこしい話になっても困る。
「基本はダンジョン攻略を配信していく。それ以外もやるかもしれないが」
言いながら、俺は歩き出した。目的地は決めてある。地下五階。この階の階層ボス部屋だ。そこまでの道のりは高座のパーティについていた時に覚えた。
普通の探索者なら、五階まで行くのに何時間もかかる。モンスターを避け、道を選び、慎重に進む。だが――
「下僕。まどろっこしいのう。まっすぐ行くぞ。そのほうが配信映えするじゃろ」
「そうだな」
俺は、目の前の壁に短剣を向けた。
>まっすぐってどゆこと?
>何をするつもりだ
「ディバイド」
空間ごと、壁が切り取られる。ズズッドォーン、と鈍い音を立てて人ひとり分の穴が開いた。穴の先の通路がみえた。向こうへまっすぐ進む。
>は?
>今、壁抜けたよな?
>何してんの
>短剣の力?
>ダンジョンの壁って壊せないはずでは?
>どうなってんだ……
>やば……これありなんか
コメントが、明らかに困惑し始めていた。まあ、そうなるだろう。俺だって最初は信じられなかった。
「時短じゃ時短んんんー! はよ終わってメシじゃー!」
>帰れること前提で草
>ダンジョンでスキップする少女とか初めて見た
階段のある方へある程度進み、また壁。ディバイド。また進む。
壁を抜き、最短距離で階を下りていく。
>ショートカットやばすぎる
>コレ元に戻るんかな
>今なら絶賛近道あります!
>もう3階層まできた
途中でモンスターにも出会った。しかし同様にディバイド。壁と同じ扱いである。
>モンスターどもがカカシで草
>接敵して速攻ズンバラリン
>恐ろしく速すぎて俺でも見逃しちゃうね
ものの数分で、俺たちは巨大な扉の前に立っていた。地下五階、ボス部屋。
>ものの数十分で来てしまった……
>八皇子ダンジョンRTAで草
>尺余りまくってんよ
>ふんぞりかえるヴィヴィアンちゃんかわいい
「さて。ここがこの階のボス部屋だ」
「ボスじゃー! うらー! たのもー!」
扉をディバイドで斬り開ける。
中にいたのは緑色の魔物の群れだった。数十体のゴブリン。そしてその奥に、一体だけ、飛び抜けて大きい個体。
二メートルを超える巨躯に大剣を握った、ゴブリンジェネラル。
>うわでかい
>ゴブリンジェネラルじゃん
>五階ボスだ
>コレ滅多に出ないパターン
>やば、群れも多い
>短剣一本でどうすんのこれ
>逃げろ逃げろ
>装備ペラペラの新人が勝てる相手じゃない
ゴブリンジェネラルがこちらに気づいた。錆びた大剣を振り上げ雄叫びをあげる。群れが一斉にこちらへ押し寄せてくる。
「下僕。ちゃっちゃと片付けよ。片付けたら、飯じゃ」
「はいはい」
俺は腰の短剣をすっと構えて、——横に薙いだ。
「ディバイド」
視界に入る空間のすべてを切り分けた。
ずぱっ、と。
空気を裂くような音が、一度だけ響いた。
次の瞬間、ゴブリンの群れも、ジェネラルの巨躯も――斜めに、ずれた。
まるで豆腐に糸を通したみたいに。声もなく静かに崩れ落ちていく。
ボス部屋にいた、すべての魔物が、まとめて、一撃だった。
>は……
>は……
>は……
>え、今、何が
>全部一瞬で切れた?
>ボス、即死したんだけど
>なにこれ
>短剣つよすぎだろ
>CG?
俺は崩れ落ちた魔物たちを淡々とインベントリに収めていく。ジェネラルの大剣も素材になる魔石も全部。これが今日の稼ぎだ。
「うむ、大儀であった。では、飯じゃ!今日はな、ごーせいに行くぞ! 肉! ステーキ!」
「はいはい。思ったより稼いだしな。今日くらいはいいか」
俺はドローンカメラに向き直った。
「こんな感じでダンジョン探索していきます」
>短剣ニキヤバすぎ
>待て俺は何を見せられたんだ……
>メシって結局なんだ
>ヴィヴィアンちゃん可愛い
>腹ペコヴィヴィちゃんかわいすぎ
>魔剣もっと見せてー
>魔剣すげー
「目標とか今後のことはそのうち雑談配信とかやるんでそこで。でわでわー」
「下僕どもよ! 次も見にくるのじゃぞ! メシのために!」
配信を切って俺は息を吐いた。まあ、初回にしては悪くない手応えだった。
最初は数人だけの視聴者だったが、どんどん増えていったようにも見える。感覚がわからんが……まぁいって100人くらいだろ。コツコツやってかんとな。
◇
その日の夜。ステーキハウス崑崙山。
特上ステーキをたらふく食べたヴィヴィがうーうー唸っている。
「うーやばい、もう入らん……これは悪魔的じゃあ、うー」
「店員さん引いてたぞ。だれだよ、ステーキ十枚も食ったやつ」
「バカもん、メシのまえで逃げ腰になる奴がおるか。コレは強者の権利なのじゃ! うー」
確かに特上ステーキは美味かった。庶民が滅多にお目にかかれないA5ランク。俺は1枚で雰囲気もお腹もいっぱいだ。
値は張ったが、今日はDチューバーデビューの日。これくらい祝ってもよかろう。
今日のボスは滅多に出ないゴブリンジェネラル。魔石と装備ドロップも全て売り払い、ギルドの素材報酬は二十万円以上になった。全てヴィヴィの腹の中に消えたので、明日からダンジョン周り確定だが。
肉に夢中で気づかなかったが、蹲っているヴィヴィの横で、俺のスマホがずっと震えていることに気がついた。
何事かと画面を見て、俺は目を疑った。
配信のアーカイブが、爆発的に伸びていた。再生数がみるみる増えていく。感想の通知が鳴り止まない。
どう言うことだ。
なんと——俺のアーカイブが再生回数50万回を突破していた。チャンネル登録者も10万人を超えた。
「うー、おい見せろ、……くくく。見よ下僕! わしの可憐さが、世を騒がせておる! うー、さあ、これで金は入るのじゃろ? 入るのじゃな? 入ると言え、下僕! ならば――明日は、十郎じゃ! 全マシ!」
「……はいはい。苦しむほど食べるからだ。無理すんなよ」
この調子で配信と探索を両立させていく。上手くいけば金の心配はしばらく要らなくなる。
そして——ネットニュースの見出しにこうあった。
『新人Dチューバー"短剣ニキ"、五階ボスを一撃瞬殺 その正体に憶測広がる』
短剣ニキ……だと……?