魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
酒呑童子が倒れたことで火柱も消え、静かになった祠。ボスの間のその奥に、もう一つの祭壇があった。
山頂のものと同じ造りだ。ぼんやりと光を放ちながら存在を主張している。その中にある木の台座の上に、丸いくぼみが一つあった。
台座には山頂の祭壇と同様の碑文があった。
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神酒満ちる器を携えて祠に詣でよ
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この酒器をここに供えろということか。
俺はインベントリから酒で満ちた酒器を取り出した。なみなみと注がれた酒がゆらりと揺れる。甘い米の匂いが鼻腔をくすぐる。
器をそっとくぼみに据える。
とぷん。
酒器が淡く光った。
その光が、床に崩れ落ちた酒呑童子の亡骸へと、糸を引くように伸びていく。残されていた大刀。鎖の巻かれた、あの身の丈ほどもある大刀に、光が絡みついた。
大刀が形を変え始めた。
無骨だった刀身が、みるみる細く鋭く研ぎ澄まされていく。刃がほのかに紅く色づく。まるで内側に熾火を宿しているみたいに。柄には鬼の意匠。
やがて光が収まると、そこには一振りの美しい刀が残されていた。
「……これが、魔剣か」
地面から抜き、持ち上げる。ずしりと、しかし手に馴染む重さ。触れた瞬間、頭に情報が流れ込んできた。三度目だからもう慣れたものだ。
炎灼の魔刀、
かつて、酒呑童子を斬ったと伝わる刀。斬るものすべてを、灰塵に帰す。
「……童子切、ね」
その名の鬼をたった今、俺が倒した。そして、その鬼を斬った刀が鬼の亡骸から生まれる。なんとも皮肉な話だ。
「ほう。炎の魔剣か」
ボンっと、ヴィヴィが実体化して刀を覗き込む。
「赤いのう。うまそう……ではないな。うん、ただ赤いだけじゃ」
「食い物じゃねえよ」
ドローンは黒焦げで、配信はとっくに切れている。だから、この入手の瞬間を誰にも見られていない。今回の魔剣が増えたことも、俺とヴィヴィだけの秘密だ。
◇
童子切をインベントリに収める。三本目の魔剣。
その瞬間だった。
視界の端に、あの光景が広がった。
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☆アンロック☆
魔剣を三本入手しました。
条件を達成。スキル【
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「……お」
久しぶりだ。二本目のヤールングレイプルのときは何もなかったからな。だから今回はあるんじゃないかと若干期待していたんだが、よかった。
つーか三本でカウントされてるのかよ。
「どうした下僕。またボーッとして。おぬし今回、ボーっとしすぎじゃぞ?」
「うるさい、不可抗力だ。いや……アンロックだ。今回、来たぞ」
「なにぃ!?」
ヴィヴィが、目を輝かせて飛びついてきた。
「来たか! 今度こそ! 今度こそワープであろう! ワープと言え! ワープじゃないとわしはぁ!」
またそれか。こいつはどんだけワープが好きなんだ。いまでも十分に飯はくえてるだろうに。
流れ込んでくる情報を確かめる。
「……ゲート、だってさ」
「げーと?」
「転移門、っていうのか。……えーと」
アンロックされたスキルの情報を、頭の中で整理する。
入口と、出口。この二つの門を設置すると、その間が繋がって、行き来できるようになる。門を作るには、両手でその場所に触れる必要がある。遠くから、いきなり作ることはできない。
作れる門は、合計で三つまで。門より大きいものは、通れない。門はいつでも消せるし、繋ぎ先を変えることもできる。そして――人も、物も、なんでも通せる。
「……ふうん」
試しにやってみるか。
手ごろな岩壁に手をつく。両手でそこに触れると、空間にぐにゃりと歪みが生まれた。薄い青と水色で渦を巻くような歪みだ。
それは人が一人ようやくくぐれるくらいの、楕円形の渦の門。手を入れようとするが、入らなかった。
「出口が必要ってことか……」
少し離れた場所に移動して、もう一度、壁に触れる。二つ目の門。
すると二つの門の向こうに、それぞれ、反対側の景色が透けて見えた。入り口を覗くと、出口の向こうが見える。
試しに、小石を入り口の門に放り込む。
小石は、出口の門から、ぽとりと転がり出た。
「……お、繋がってる」
「おおー! なんじゃこれは! 面白いのう!」
ヴィヴィが、門を行ったり来たり、くぐって遊び始めた。実体があるのに、こいつも通れるのか。
「ふははははーー、ホレホレ」
「おい、ヴィヴィ、門を消すぞ」
「もちっといいじゃろ! 遊ばせるのじゃ!」
しかし、なるほど。仕組みはわかった。
だが。
「……これ、何に使うんだ?」
正直、ピンとこない。門を作って繋げるのはわかった。だがシフトで飛べば、大抵の場所には行ける。ワープじゃないから、遠くへ一瞬でってわけでもない。両手で触れて設置しないといけないし、三つまでしか作れない。
「飽きたのじゃ……、下僕よ、これはワープではないのか……」
飽きるの早いな。何の面白みもないのは事実だ。ヴィヴィがあからさまにがっかりしている。
「悪かったな、ワープじゃなくて」
まぁ使い道はそのうち見つかるだろう。とりあえず門を全部消しておく。すっと手を振ると、転移門は何事もなかったように消えた。
◇
長かった探索も、これで終わりだ。
魔剣も手に入れた。よくわからん新能力も増えた。何より――このホラーダンジョンからやっと出られる。
シフトで来た道を戻る。四層の暗い山を、そして三層、二層、一層と、逆に辿っていく。
不思議なもので、帰り道は行きほど怖くなかった。もう、この道の先に何がいるか知っている。そしてそのどれもが、俺には敵じゃないと体でわかった。あれだホラーゲーム二回目は全然怖くない理論。ホラゲやったことないけど。
……いや嘘ついた、正確にはまだちょっと怖い。屍人が物陰から出てきたときは、また普通にビクッとした。だが行きのような、足がすくむ感覚はもうなかった。
俺も少しは成長したのかもしれない。ただでは転ばない男、狭間蓮です。しかし、ホラーには……できれば二度と来たくない。
ダンジョンの出口をくぐると、外はもう夕暮れだった。
「……はー。やっと、終わった」
大きく、伸びをする。全身の強張りが、ほどけていく。長い一日だった。
『下僕よ!! 飯じゃ飯! 十郎系へ行くぞ!』
魔剣状態のヴィヴィが騒ぎ出す。最近こいつは本家ではなく十郎系インスパイアにもはまっている。俺は……最近アブラは避けてる。食いすぎると次の日が大変なんだ。
そういえば、配信が途中で切れたままだった。視聴者はあの酒呑童子との決着のところで接続がきれて、その後どうなったか気を揉んでいるだろう。
後で何か一言、ショート動画で入れておくか。ヴィヴィの十郎系シーンでもいいな。
それと――壊れたドローン。あれ、ギルドの備品なんだよな。古館さんになんて謝ろうか。はぁ、気が重い。
「いや、ヴィヴィ。もうちょっと我慢してくれ。先に桜樹町ギルドに報告に行く」
「なにぃ! 下僕よ! わしの十郎系がそこで待っておるんじゃぞ! わしの胃袋が待てぬぅ」
そう、まずは報告だ。桜樹町ギルドに調査の結果を伝えないと。襲撃犯の正体、魔族のこと。ダンジョンを、攻略したこと。
ヴィヴィをあしらいながら、俺の足取りは少し軽かった。
◇
桜樹町ギルドは夕方でも人がいた。
受付に、見知った職員の顔がある。
「木島さん、すみません。調査の件を報告しにきました」
「あぁ狭間さん、お疲れ様です。お帰りなさい。あなたなら無事に帰って——」
その時だった。
ウゥゥゥ――ッ!! ウゥゥゥ――ッ!! ウゥゥゥ――ッ!!
けたたましい警報音が、ギルド中に鳴り響いた。
天井の赤いランプが点滅する。壁の大型モニターが、一斉に緊急表示に切り替わった。
「え、え?」
何? なんだ?
「もしかして——、これは——」
木島さんを含む、職員たちが血相を変えてモニターに駆け寄る。俺もつられて画面を見上げた。
モニターに、大きく赤い文字が躍っている。
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【緊急警報】解放型ダンジョン出現
出現地域:
大型モンスターの出現を予測
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「……解放、ダンジョン?」
聞いたことのない言葉だった。ダンジョンが……、出現する?
ギルド中がざわめきに包まれる。職員が慌ただしく電話を取り、無線が飛び交う。ただごとじゃない空気がギルド全体に一気に広がった。
「大型モンスターって……」
嫌な予感がした。これまで相手にしてきたやつらとは、何か根本的に違う。そんな気がする。
『下僕! なにやら、騒がしくなってきたのう!』
ヴィヴィだけがどこか楽しそうだった。
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次回、幕間を挟んで次章にいきます!