魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 作:竜刃丸
内政補佐官・
机の上には一枚の資料がある。プリントアウトされた、ある配信の記録だ。青い肌の男。魔王軍。異世界への帰還。そして――魔王剣。
すべてが一介の探索者の配信で、白日の下に晒された。
玉城は受話器を取った。何度もかけているため、番号は頭に入っている。探索者協会、地動弥勒。この件を任せられるとすれば、あの男しかいない。
数コールで、相手が出た。
「……夜分にすまない。内政補佐官の玉城だ」
『これはこれは。こんな時間に、玉城補佐官から直々にとは。穏やかな話ではなさそうですな』
「察しがいいな。……単刀直入に言う。例の桜樹町の配信を見たか」
『ええ。何度も』
「あれを政府としてどう扱うべきか。頭を抱えている」
玉城は資料の一点を指で叩いた。
「配信一本。証拠としてはそれだけだ。だが、桜樹町ギルドではここ最近、探索者が装備を奪われる被害が相次いでいた。配信の男――シルラスと名乗ったあれが、犯人だとすれば辻褄は合う。実害は確かにある」
『配信の内容と現場の被害。二つが繋がったということですかな』
「そういうことだ」
玉城は一度、言葉を切った。ここからが本題だ。
「気がかりなのは、二つ。一つは、いまだに原因不明の五十年前のダンジョン出現。あの魔族が何かを知っているかもしれん。もう一つは――魔王の、復活だ」
『魔王剣を集めれば、魔王が甦る。配信で、あの男はそう口走っていましたな』
「ああ。もし本当に魔族が魔王とやらを復活させたら。どうなるか想像もつかん。想像したくもない」
受話器の向こうで、地動が静かに息を吐くのがわかった。
「だが動くには、証拠が足りん。配信だけで国民に公表すれば、いたずらにパニックを煽るだけだ。かといって放置もできん」
『それで、水面下で、ということですかな』
「察しが早くて助かる。協会に内々で頼みたい。魔族について調べてほしい。何者で、どこに、どれだけいるのか。……表には出せん案件だ」
しばしの、沈黙。
『……承知しました。引き受けましょう』
「恩に着る」
『ただし、玉城さん。先に言っておきます。これは、相当に厄介ですぞ』
その声には、実務家の静かな重みがあった。
「わかっている。……頼んだ」
玉城は受話器を置いた。窓の外はまだ暗い。夜明けは遠かった。
◇
電話を切った
厄介、と口にしたのは、ただの謙遜ではない。この件は、本当に手立てが乏しい。これは事実であった。
まず魔王剣。あれについては正直、地動はさほど
問題は魔族だった。
こちらは明確な脅威だ。すでに複数の探索者が被害に遭っている。
配信で晒された、シルラスとカジンの魔法。あれを分析すればやつらがどう身を隠しているかも、ある程度は察しがつく。幻影魔法で人間に化ける。そういうことである。
だが――だからこそ、打つ手がない。
やつらは人間の姿で社会に紛れている。隣人かもしれない。すれ違う通行人かもしれない。見た目では、まったく判別がつかない。捕らえようにも、誰が魔族なのかわからないのだ。
配信で青い肌の素顔は全国に流れた。だがそれが何になる。やつらは普段その顔を隠している。素顔を晒すのは、よほどのときだけだ。素顔の手配書があっても、化けている限り意味をなさない。
「……見つけようが、ないな」
思わず独りごちた。
一瞬、あの狭間蓮が頭をよぎった。魔族を撃退した一人の探索者。彼とあの魔王剣ならあるいは。
だが、すぐに考え直す。
蓮のパートナー――ヴィヴィアンが、シルラスを魔族と見破ったのは特別な力ではない。青い肌と尖った耳。あの素顔を見たからだ。つまり、人間に化けた魔族の前では蓮とて他の誰とも変わらない。見破れはしない。彼は魔族には切り札にはなり得ない。
まさに厄介な案件だった。
もっとも、と地動は思う。その狭間蓮という男自体は心配していない。
魔剣を集めているという事実は把握している。だが、それが脅威だとは思っていなかった。八皇子の古館。渋家の田中。桜樹町の木島。現場の職員たちから上がってくる報告はどれも一致している。あの男は善良だ。
それに配信を見ればわかる。稼いだ金でうまいものを食い、あの生意気な相棒を食わせ、時に人を助ける。魔剣を悪事に使う気配など微塵もない。ただ、規格外に強い、お人好しの探索者。それが地動の見立てだった。
「強い分には、結構。むしろ、今は」
魔族という、見えない敵。それを思えば力ある善良な探索者はいてくれた方がいい。
地動は目を閉じた。さて、どこから手をつけたものか。乏しい手札で見えない敵をどう炙り出すか。長い夜になりそうだった。
◇
【緊急】桜樹町の短剣ニキ配信、やばすぎる件【魔族?】
1:名無しの探索者
見たやつおる?
短剣ニキの配信に青い肌のおっさん出てきて
魔王軍とか異世界とか言い出したんだが
2:名無しの探索者
見た見た
途中で配信ぶつ切りになったよな
あの後どうなったんだよ
3:名無しの探索者
ヴィヴィアンちゃんが「魔王剣」とか言われてて草
えっ、あの子そんな設定だったの?
4:名無しの探索者
設定ちゃうやろ
マジのやつやろあれ
5:名無しの探索者
落ち着け
とりあえず情報整理するぞ
・青いおっさん=シルラス(魔族)
・魔王軍が復活を計画
・魔王剣を集めてる
・ヴィヴィアンちゃん=魔王剣
・短剣ニキが撃退
6:名無しの探索者
>>5
有能
つまり短剣ニキ、魔族と戦って勝ったってコト!?
7:名無しの探索者
いやいや、そもそも魔族って何だよ
ファンタジーの見すぎちゃう?
8:名無しの探索者
>>7
現実にダンジョンとモンスターがある時点で
今さら魔族が一匹二匹増えても驚かんわ
9:名無しの探索者
ヴィヴィアンちゃん実は黒幕説
かわいい顔して魔王を復活させる気なのでは?
10:名無しの探索者
>>9
ないない
あの子、飯のことしか考えてないから
11:名無しの探索者
>>10
確かに
魔王復活より今日の晩飯って感じだもんな
12:名無しの探索者
それより青いおっさん
「五百年の悲願」とか言ってなかった?
13:名無しの探索者
>>12
言ってた言ってた
五百年って、そんな昔からいたのか魔族?
気になるんだよな、その五百年の悲願ってやつ
14:名無しの探索者
>>13
確かにちょっと引っかかるな
五百年、何をそんなに悲願してんだ
15:名無しの探索者
おまえら考察するの好きだな
そんなん短剣ニキ本人もわかってないぞ多分
16:名無しの探索者
>>15
それはそう
17:名無しの探索者
つーか金色の籠手なんだよ
また新しい魔剣入手してたよな
何本持ってんだあの人
18:名無しの探索者
三本目とか言ってた気がする
拾ったらしいぞ(笑)
19:名無しの探索者
>>18
また拾ったのかよ
どんな引きしてんだ
20:名無しの探索者
なんだかんだ言って
結局みんな次の配信待ってるんだろ?
21:名無しの探索者
>>20
当たり前だろ
はよ続き見せろニキ
22:名無しの探索者
魔族だろうが魔王だろうが
飯テロは続けてくれよな短剣ニキ
……こうして的外れな議論は続いていった。