最強の魔剣、拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった〜荷物持ち扱いで捨てられた俺、無限の魔力でダンジョン無双を始めます〜 作:竜刃丸
翌朝。俺はスマホを睨みながら、パンをかじっていた。
『新Dチューバー"短剣ニキ"とは何者か 謎の"魔剣"に専門家も困惑』
昨日の配信は一晩で完全に祭りになっていた。再生数はまだ伸び続けているし、まとめ記事まで作られている。
俺の名前より先に「短剣ニキ」の呼び名が定着しつつあるのがなんとも言えない。
「短剣ニキって、なんだよ」
「よいではないか。世間から下僕と呼ばれるよりマシじゃろうて。わしから下僕と呼ばれておればよいのじゃ」
「お前に呼ばれる分にはもう諦めてるが、日本中から下僕呼ばわりされるのは勘弁だ」
向かいでは、実体化したヴィヴィが俺の食パンを勝手に三枚重ねてかじっている。朝から食う量じゃない。
記事を読み進めていくと、俺が持っている「魔剣」についての解説が始まっていた。
曰く、魔剣とは希少な遺物であり、特殊な力を持った武器の総称である。曰く、入手方法は明らかにされていない……とか何とか記事にはそう書いてある。
「……なあ、ヴィヴィ。結局、お前って何なんだ?」
「わし? わしはヴィヴィアンじゃ」
「そうじゃなくて。魔剣ってのは何なんだ。どうしてダンジョンにある。誰が作った。お前は前に自分は魔王剣だとか言ってたよな。あれは普通の魔剣と何が違うんだ」
ヴィヴィは口をもぐもぐさせながら、面倒くさそうに天井を見た。
「うーん……知らん」
「知らんのかよ」
「わしは大まかなことしか覚えておらん。長く剣をやりすぎたのじゃ。頭がぼんやりしておる」
こいつ、都合の悪いことは全部それで済ませる気だな。
だが追及しようとしたところで、ヴィヴィが食パンを飲み込み、目を輝かせて身を乗り出した。
「そんなことより、下僕! 今日の晩飯はどうする!」
「話をそらすなよ」
「そらしておらん。腹が減ったのじゃ。……で、今日はどこに食いに行く? わしは、そうじゃな、昨日の肉が忘れられん。またあの店に――」
「行かない」
俺はスマホを置いて、真顔で言った。
「行かないぞ。絶対に」
◇
「なぜじゃ! 金は入ったのじゃろう!」
「入ったよ。入ったけどな」
俺は電卓を叩いて、この数日の外食費を計算してみせた。画面に並んだ数字を見て、さすがのヴィヴィも黙る。
「昨日のステーキ、いくらだと思ってる。特上を十枚だぞ。俺の一ヶ月の食費が、一晩で消し飛んだんだ」
「うぐ」
「配信で稼げるようになったのは確かだ。でもな、この調子で外食を続けたら、いくら稼いでも追いつかない。お前の胃袋は青天井なんだよ」
ヴィヴィが、ぐぬぬ、と唸る。だが、まだ諦めていない顔だ。ここからが本題だった。
「だから、提案がある。……家で作る」
「は? 作る?」
「自炊だよ。当たり前の話だが外食は高い。同じ金で、家で作れば――」
俺は、一拍置いて、はっきりと言った。
「三倍は食える」
ヴィヴィの動きが、ぴたりと止まった。
「……なんじゃと?」
「外で一枚のステーキを食う金で、家なら三枚分の肉が買える。つまり、同じ金で三倍食える。単純な話だ」
「三……倍……」
ヴィヴィの赤い目が、みるみる見開かれていく。震える手が、俺のシャツの裾を掴んだ。
「下僕。それは、まことか。まことに、三倍食えるのか」
「まことだ」
「なぜ、それを早く言わん!! 今すぐじゃ! 今すぐ作れ!」
現金な奴だ。健康のためだの栄養バランスだの言っても絶対に聞かないだろうが、「量が増える」の一言で即落ちする。分かりやすくて助かる。
もっとも、俺にも狙いはあった。家で作るなら、俺が量も内容もコントロールできる。毎日ラーメン全マシで血管を殺されるよりは、はるかにマシだ。
「そうと決まれば、材料を調達しに行くぞ」
「うむ! 店じゃな! 買い物じゃな!」
「いや」
俺は、腰の短剣――ヴィヴィの本体を、ぽんと叩いた。
「ダンジョンだ」
◇
『――はい、というわけで、本日の配信を始めます。今日は、ダンジョンで食材を調達してきます』
八皇子ダンジョン、地下三階。ドローンカメラを起動して、俺は宣言した。
本日の配信タイトルは『ボア狩り配信 食材猪肉を捧げよ』
>は?
>今なんて?
>食材?
>ダンジョン配信じゃないの?
>ボアをただの猪肉扱いして草
>待って、チャンネル名「魔剣メシ」だったな……
>まさか本当にメシの話だったのか
>そういうことだったのか(困惑)
「そういうことです。この辺のダンジョンには、食える魔物が結構いる。特にボア系はうまい。市場に出回ると高いんですが――自分で獲れば、タダなので」
>理屈は分かるが発想がおかしい
>ダンジョンをスーパーだと思ってる男
>食材調達のためにダンジョン潜るやついる?
>短剣ニキ、生活感がすごい
『下僕! そっちじゃ! 匂いがする!』
腰の短剣がいきなり騒ぎ出し実体化した。ヴィヴィだ。
「匂い?」
「ボアの匂いじゃ。脂ののったやつが、あっちに三頭。いや四頭。ついでにその奥、キノコの群生地があるぞ。良いキノコじゃ」
「なんで分かるんだよ」
「わしを誰だと思っておる」
……いや、本当に何なんだこいつ。剣なのに鼻が利くのか。
>剣が食材を探知してる
>ヴィヴィアンちゃんの特殊能力が食料探知
>魔剣の無駄遣い
>いや有能では?
ヴィヴィの指さす通りに進むと、本当にいた。三メートルはある猪型の魔物――ボアが四頭、通路の奥で餌を漁っている。体高は俺の胸ほど。突進を食らえば、普通の探索者なら体中の骨が折れる。
「バースト」
俺は軽く手を打った。空間が弾け、四頭がまとめて崩れ落ちる。血も出さず、肉も傷つけず、衝撃だけで仕留めた。食材にするなら、こっちのほうが都合がいい。
「うひょひょひょ」
>ヴィヴィちゃんうひょってても可愛い
>処理が雑すぎる
>ボア四頭を一撃
>スーパーで肉買うテンションで狩るな
>A5ランクの狩りだ
インベントリに、四頭まとめて収納する。入れすぎるとインベントリ小はすぐに一杯になる。コレくらいでいい。続いてキノコの群生地へ。
「待て。そっちの赤いのは食うな。三日転げ回るぞ」
「毒か」
「毒じゃ。……その隣の、傘の裏が白いやつを獲れ。それは良い出汁が出る。あとは、そこの株になっとるやつも。それは香りがよい」
言われるままに採取していく。こいつ、食材の目利きに関してだけは、驚くほど的確だった。食への執念だけは本物だな。
「それと、そこに生えとる草。それも獲れ」
「草?」
「"食欲の薬草"じゃ。香りが強うて、食欲が増す。鍋に入れると化けるぞ」
……食欲が増す薬草。
こいつに食わせたら、どうなるんだ。一瞬、正気に返りかけたが――ヴィヴィが「はよう獲れ」とうるさいので、俺は諦めて摘み取った。
>毒草とかわかるのか
>ヴィヴィちゃん有能
>フツーに流されてるが食欲が増す薬草ってなんだ
>それ下さい
>ダンジョン産の草って食えるのか
>こりゃ映像解析班が捗るな
◇
「ではまた後で配信します」
ダンジョンを出て、俺はいったん配信を切り、ギルドへ寄った。
獲物のうち、食用にする肉以外――ほぼ無傷のボアの牙や毛皮、魔石――は、まとめて換金する。強面の職員が山と積まれた素材を見て、目を丸くしていた。
「……ボア四頭分ですか。ソロで?」
「ええ。ついでですけどね」
「ついで……」
素材代はそれなりの額になった。今日の狩りは、これだけで元が取れている。ふむ……こんどはキャンプ用品でも買っておくか。
肉とキノコと薬草はそのまま受け取り、インベントリの中に入れた。
◇
『――というわけで、帰ってきました。ここからは調理パートです』
自宅の狭いキッチン。俺はカメラを固定して、袖をまくった。
>ダンジョン配信から突然の料理配信
>このチャンネル、ジャンルが迷子
>魔剣メシ、看板に偽りなしだった
「今日はボア鍋を作ります。猪鍋ですね。味噌仕立てで」
まな板に、ボアのバラ肉を並べる。薄切りにした断面は、鮮やかな赤身に、真っ白な脂がきれいに層をなしていた。市場に出ればいい値がつく代物だ。
生姜を薄く切って、肉に軽くもみ込む。猪肉は臭みが出やすいから、この下処理が要る。十分ほど置いておく。
その間に、野菜を切っていく。白菜、長ねぎ、ごぼう、にんじん。ごぼうはささがきにして水にさらす。豆腐は一口大。ダンジョン産のキノコは、手で粗くほぐす。
>手際よすぎる
>綺麗な肉色だなー
>短剣ニキいくつなん
>普通に料理できるのが羨ましい
>ごぼうささがきしてる Dチューバーを見たことがない
>この人、ちゃんと生活してるな
うるさい。一人暮らしが長いんだよ。外食する金がなかったから、作るしかなかっただけだ。
昆布だしを鍋に張り、火にかける。煮立ったら、みりん、酒、砂糖、醤油。そして味噌を、半分だけ溶き入れる。
ごぼうとにんじんを先に入れて、じっくり煮る。ごぼうの香りがだしに移って、これが猪肉と最高に合う。
そして――肉を、一枚ずつ広げながら、鍋へ落としていく。
じゅわ、と。
薄い脂の層が、だしの熱にふれて、透き通っていく。白かった脂が、とろりと溶けて、鍋のふちに金色の輪を作った。
>おい
>おい
>おい
>ボア肉ヤバすぎ
>おいやめろ
>今何時だと思ってる
>23時に見るもんじゃなかった
白菜の芯、長ねぎ、キノコ、豆腐を加えて、煮込む。キノコから旨みが出てきたところで、残りの味噌を溶き入れて、味を調える。
湯気が、狭い部屋いっぱいに立ちのぼる。味噌と、脂と、ごぼうの香りが混ざって、キッチンを満たしていく。
腰の短剣が、さっきから、ずっと震えていた。
『……下僕』
「まだだ」
『……下僕よ』
「まだだって」
『もう待てぬ!!』
ボンッ、と音がして、ヴィヴィが実体化した。そのまま鍋に突撃しようとするのを、俺は襟首を掴んで止める。
「待て。まだ青菜が入ってない」
「そんなもの要らん! 肉! 肉じゃ!」
「入れる。座れ」
>呼ばれて飛び出てヴィヴィアンちゃん
>猫掴みされててかわゆす
>見てるだけでも腹減る
最後に、白菜の葉と、春菊と、例の"食欲の薬草"をさっと加える。薬草が熱に触れた瞬間、爽やかで、それでいて食欲をかき立てる強い香りが、ぶわりと立ちのぼった。
……なるほど。これは確かに、まずい。腹が減る。
「いただきます」
「うおおおおお!!」
ヴィヴィが、鍋に飛びついた。
>食った
>やめろ
>湯気だけで飯が食える
>ヴィヴィアンちゃんの食いっぷりが気持ちいい
>猪肉ってこんなうまそうなのか
>モンスターの肉うまそうとか思ってしまった俺は終わりだ
俺も、一口。
脂が甘い。味噌のコクと、生姜の切れと、ごぼうの香りが、猪の風味を余すことなく受け止めている。噛むほどに肉の旨みが出て、それをだしが追いかけてくる。
……うまい。
外食で食う、飾り立てられた料理とは違う。もっと素朴で、もっと直接的な、腹の底から満たされる味だった。
向かいでは、ヴィヴィが箸も使わずに、ひたすら肉を口に運んでいる。頬を膨らませ、目を細めて、心の底から幸せそうに。
……こいつ、こんな顔もするのか。
「うまい……うまいぞ、下僕! これは、これは……! 店のより、うまい!」
「そうか」
「うむ! おかわり!」
「まだ一杯目を食べ終えてから言え」
結局、鍋は二つ空になった。
そして最後に――残っただしに、うどんを入れる。猪の脂と、キノコの旨みが溶け込んだ味噌だしを吸ったうどんは、もはや反則だった。
>〆までやるのかよ
>完全に飯テロチャンネル
>ダンジョン配信どこ行った
>もういい、これでいい
>明日猪肉買いに行く
>短剣ニキの飯、毎週見たい
「うまい! うまいのじゃー!」
「ヴィヴィがひたすら食べ続ける配信になるので今日ここまでにしておきます。ではではー」
食事もそこそこに挨拶をして配信を切った。正直延々とヴィヴィが食べてる光景しか写すものがない。
配信を切ったころには、深夜を回っていた。
ヴィヴィは、腹を抱えて畳に転がり、幸せそうに唸っている。食欲の薬草のせいで、いつもの倍は食っていた。自業自得だ。
「うー……下僕。今日のは、よかった……」
「そりゃどうも」
「明日も作れ」
「材料がないだろ。また獲りに行かないと」
「ならば獲りに行くぞ! 毎日じゃ」
こいつ本気で言ってる。まあ、外食よりははるかに安い。ドロップと素材で金にもなるし配信も出来る。俺の血管も、少しは長生きしそうだ。
畳に転がったまま、ヴィヴィがふと呟いた。
「……のう、下僕」
「なんだ」
「わしがおれば……、もっとうまいものが食える」
「今でも十分食ってるだろ」
ヴィヴィは答えなかった。眠そうな目で天井を見ている。
「もっと……じゃ。お前さんが、もっと強くなればな……」
そう言うと、こいつはそのまま寝息を立て始めた。寝言か……。
食い散らかした鍋を片付けながら、俺は昼間のニュースを思い出していた。
ヴィヴィは自分のことをよく知らないと言った。
それは本当なのか。
まだ何かある。そんな気がしてならなかった。
そして、俺のスキルは――本当にこれで全部なのか?
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
蓮君とヴィヴィちゃんのダンジョン冒険が始まりました。
いろいろとチートでズルしつつも地道に冒険していきます。
そんな物語を今後もお楽しみください。
少しでも「続きが気になる」「この二人、面白そう」と思っていただけましたら、
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