魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった   作:竜刃丸

51 / 52
第43飯 「狂気の沙汰だな」

 

大土島の中心、火山の麓に着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 

黒い岩肌の斜面を、十一人で登ってきた。

 

俺とアース・ガーディアンの五人。それから炎鬼の五人。

 

昨日担架で運ばれていた壬生さんのパーティの僧侶も、普通に歩いている。顔色は悪いが、治癒班が徹夜で診てくれたらしい。

 

彼らの装備は俺がインベントリに入れていても良かったのだが、途中でモンスターに襲われてもその時渡すことはできない。だから結局全員、装備は自分で担いでいた。

 

「ここだ」

 

壬生さんが、ある岩山の裂け目、二十メートル手前で足を止めた。高さは五メートルほど。洞窟のようにぽっかりと口を開けている。

 

俺は上を見上げた。裂け目の山を越えた向こう側、黒い幹がそこから空へ伸びている。この裂け目を通っていけば間違いなく、大禍樹のところへ到着するだろう。

 

幹の根元の太さは、この距離だと端が見えないほど大きい。

 

そして岩肌には幹から伸びる根が、岩の斜面を掴んで、そこらじゅうの地面に食い込んでいた。まるで赤黒い根が、山を握りつぶすみたいだった。

 

「……あれ、ダンジョンですか」

「そうだ」

 

俺は裂け目を指差すと、壬生さんが答えた。

 

「この火山そのものが、解放型ダンジョンだ」

「火山がですか」

「そこに、あの樹が寄生している」

 

俺は幹と根を見て、言われたことを解釈してみようとした。無理だ、スケールが大きすぎる。

 

「そんなこと、あるんですか」

「わからねぇんだ」

 

答えたのは鬼頭だった。

 

「解放型のことは、まだ大してわかってねぇ。過去に四例しかない。データもほとんど残ってねぇんだ」

「はあ」

 

「わかってんのは、地上の何かがそのままダンジョンになって、そこにでかいのが住み着く。そういう事例があったってことくらいだ」

「それだけですか」

「それだけだ」

 

なんというか……これから入る場所について、誰も何も知らないというのは、かなり嫌な気分だった。

 

 

 ◇

 

 

裂け目の中には瘤がそこら中に張り巡らされていた。

 

大人の頭ほどの、褐色の球体。表面が張り詰めていててらてらと光っている。

 

岩肌に()っているというより、岩肌を()う根から直接、瘤のように膨らんでいる。

 

数はざっと見て五十以上。裂け目の入口と中の周囲を、びっしりと覆っていた。

 

「蜜瘤だ」

 

アース・ガーディアンの魔法使いの人が言った。

 

「熟すと落ちて、這って寄ってきます。限界まで膨らむと破裂して、樹液を撒く」

「樹液ですか」

「二百度を超えるそうです。防具ごと溶けます」

 

俺は瘤の一つを見た。ぱんぱんに張っている。

 

「これ、もう熟してませんか」

「熟してます」

「気をつけろ。狭間君。たぶん近づけば落ちてくる。前に一度試して、二人火傷を負った」

 

鬼頭も注意を促す。

 

「だから、遠距離から潰すしかねぇ。だが数が多すぎるんだ。一つ潰せば連鎖で全部破裂して、入口が樹液でいっぱいだ」

 

なるほど。つまり、「一度」に「全部」を、破裂させずに片付ける必要がある。

 

「……ちょっと下がっててもらえますか」

 

俺は前に出た。

 

「狭間君」

「大丈夫です。触らずに済ませます」

 

ヴィヴィアンを抜く。ロックで空間を掴んで、感覚を伸ばす。

 

裂け目の周囲、半径二十メートル。岩肌に張り付いた瘤の一つ一つを頭の中に並べる。

 

<空間掌握>——五十三個。全部の位置を把握した。

 

ディバイド(空間断絶)

 

音はしない。五十三個の瘤の付け根に、同時に線が走った。

 

ぷつん、と。瘤が根から切り離された。

 

「あ」

 

落ちる。だが破裂しない。

 

俺はロックで空間を張って、落ちてくる瘤を全部宙で受け止めた。五十三個が岩肌の前に浮かんでいる。

 

「「「「……は?」」」」

 

「……破裂しないんですか」

「衝撃を与えなければ、まだ大丈夫みたいですね」

 

そのままそっと地面に下ろした。一つも割れなかった。

 

「回収せよ! 下僕! 回収せよ!」

 

ボンっと実体化したヴィヴィが、俺の背中をばしばし叩いてくる。痛い痛い。

 

「それはデザートじゃ! 破ってはならん! そーっとじゃ! そーっと!」

「わかってる」

 

俺はインベントリを開いて五十三個をまとめて放り込んだ。

 

「よくやった下僕! 褒めて遣わす!」

「後にしろ」

 

顔を上げると十人が全員こっちを見ていた。鬼頭が額に手を当てている。

 

「……お前、あれか。何しに来たんだ」

「攻略に来ました」

 

「食材集めに来たんじゃねぇのか」

「両方です」

 

嘘はついていない。

 

 

 ◇

 

 

裂け目をくぐった。

 

隊列について、先頭は壬生さん。次に俺。後ろに残りの九人。

 

中は暗かったが、真っ暗ではない。ダンジョンになったためか、壁がぼんやりと赤く光っている。

 

正確には岩の隙間から光が漏れている。ひび割れの奥が、熾火みたいに赤い。

 

「これは根か」

「熱いな」

 

炎鬼の盾剣士が言った。たしかに暑い。じっとりと肌が湿ってくる。

 

ここは火山だ。幹に到達するほど火山が近くなる。当たり前か。

 

道は下っているようで上ってもいた。うねりながら、緩やかに奥へ続いている。

 

十分ほど歩くと、唐突に道が終わった。正確には道の先が急に開けた。

 

「——」

 

壬生さんが足を止めた。俺も止まった。全員が止まらざるを得なかった。

 

 

 ◇

 

 

でかい、空洞だった。天井が見えない。見上げると、赤い光が上へ上へと続いていて、その先が闇に溶けている。

 

壁は木だった。岩ではなく、年輪のような層が幾重にも重なって壁を作っている。

 

そしてその壁が湾曲していた。円筒だ。

 

「……幹の、中か」

 

壬生さんが呟いた。そうか。俺たちは今、大禍樹の内側にいる。

 

外から見上げた、あの二千メートルの幹。その中身が空っぽだったということだ。

 

壁のあちこちに、瘤や実のようなものが生っていた。小さいものから、大きいものまで。中には黒く硬化した殻に覆われた見覚えのある形もある。

 

熾実だ。まだ実の状態で壁に生っている。

 

「……ここで生まれるんですね」

「そのようだな」

 

「ここには来ていなかったんですか」

「——入口の裂け目に、熾実がいた」

 

壬生さんが来た道のほうを振り返った。

 

「二体だ。狭い通路に居座っていて後ろがつかえて誰も入れん。倒そうとしたが殻の防御を破れなかった」

 

昨日、俺が基地で土嚢を積んでいた頃、この人たちはあそこで熾実と睨み合っていたのか。

 

「今日はいなかったな」

 

鬼頭が言った。

 

「昨日はあそこを塞いでたのに、今日は蜜瘤だけだ」

「……移動したんじゃないですかね」

 

「移動?」

「今朝、俺が斬ったやつが基地に一体来ました」

「……」

「もう一体がどこにいるかはわかりませんが……、もしかしたら中にいるのかも」

 

そんなの誰にもわからない。

 

「索敵、頼む」

 

壬生さんが、後ろにいるアース・ガーディアンの盗賊さんに声をかけた。

 

小柄な人だ。フードを目深にかぶっていて顔がよく見えない。地面に片手をついて目を閉じた。

 

しばらくそのまま動かない。十人が黙って待っている。

 

「……上には、何もありません」

「何?」

 

「この筒、ずっと上まで続いてます。二千メートル。でも、途中から実が減って、上のほうは空です」

「じゃあ、登る意味はないのか」

「ないと思います」

 

盗賊さんが、今度は反対を指した。

 

「下です。この空洞に底があります。そこからさらに下に、空間が広がってる。……かなり深い」

 

壬生さんが眉を寄せた。

 

「どのくらいだ」

「わかりません。感覚が届く限界まで、続いてます」

 

炎鬼の魔法使いが口を開いた。

 

「下って……この山、火山ですよ」

「そうだな」

「下に行けば行くほど、マグマに近づきます」

 

そんなこと、言われるまでもない。

 

さっきから足の裏が熱い。壁のひび割れから漏れる赤い光も下へ行くほど明るくなっている。

 

俺たちは今、燃えている山の内側にいて、これからそこへ降りようとしている。

 

「狂気の沙汰だな」

 

鬼頭が吐き捨てた。

 

「ああ」

 

壬生さんも否定しなかった。

 

 

 ◇

 

 

ボンっ。

 

「下じゃ!」

 

ヴィヴィが実体化して、地面を指差した。

 

「下に、美味いヤツの匂いがするのじゃ!」

「……お前な」

「山ほどおるぞい! 下にたくさん! ずーっとしておる、いい匂いが!」

 

十人の視線が一斉にヴィヴィに向いた。そして俺に向いた。——説明が必要な空気だ。

 

「……こいつ、ヴィヴィは食えるモンスターの匂いがわかるんです」

「食えるモンスターの、ということは」

 

「はい」

「下に熾実が大量にいるということか」

「そうなりますね」

 

盗賊さんが小さくうなずいた。

 

「……ええ。数は多いです。下に、密集してます」

「集まってるってことは、守ってるものがあるんじゃないですか」

 

「……本体か」

「たぶん」

 

沈黙が落ちた。天井の見えない筒の中で十一人が黙っている。

 

やがて壬生さんが息を吐いた。

 

「行くしかないな」

「マグマの上にか?」

 

鬼頭が言った。

 

「他に案があるか」

「……ねぇよ」

 

鬼頭が刀の柄を握り直した。

 

「あの樹はあと二日で本土に根が届く。ここで引いたら次は東卿(とうきょう)だ」

 

 

 ◇

 

 

何分歩いただろう。十分、いや二十分、太い、らせん状になっている蔦を下りる。ようやくついた空洞の底は——広い。

 

さっきの空洞よりさらに広い。

 

天井が高く、ドーム状になっている。床がどこまでも続いている。まるで東卿ドームのようだ。

 

壁は見えない。赤い光がゆらゆらと動いていて、影が伸びたり縮んだりしている。

 

そして正面。奥のほうに何かがあった。

 

大きい。

 

床から生えている。木の根が絡み合ってできた巨大な塊だ。

 

その中心が、赤く光を放ちながら、脈動していた。

 

——どくん。

——どくん。

——どくん。

 

「……心臓、か?」

 

規則正しく、ゆっくりと、床を震わせながら。俺の足の裏にその振動が伝わってくる。

 

「……人?」

 

その塊の前に影が立っていた。人の形をしている。

 

だが、人ではない。

 

腕が長い。異様に長い。それが蔦のようにうねっている。

 

頭の上に、何かが咲いていた。

 

花だ。

 

影がゆっくりとこちらを向いた。

 

 

=========================

岩の裂け目と空洞のイメージはセンターオブジアース!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。